4話 パーティメンバーのステータス(前編)
「なあ……」
「ん?どうした、ホクト」
頼んでた料理が粗方出揃った頃、引き続きカメリアに聞きたかったことを色々とぶつけてみた。
「俺らパーティ組んで、そろそろ1か月くらいになるじゃん?」
「……モグモグ」
「って、話しを聞く気あるのか?」
「……ゴクン、もちろんある」
「なら、ちょっとは反応してくれませんかね?」
「大丈夫だ、食べながらでもちゃんと聞いている。さ、遠慮なく話せ」
こいつは……。まあ肉大好きっ子なカメリアに食事の手を止めて話を聞けと言っても無理な話か。カメリアの聞く気のない態度は無視して続きを話す。
「……俺未だにカメリアのステータスって知らないんだけど、他の連中もそんなもんなの?」
「モグモグ……ひょんなもんひょは?」
「カメリアさん、せめて口の中に物を入れながら喋るのは止めてください。なんて言ってるのか全く分かりません」
「……ゴクン!そんなもんとは?」
咀嚼した食べ物を喉の奥に流し込んでから、改めて聞いてきた。一応会話を続けるつもりはあるようだ。
「パーティメンバー同士のステータスって、把握し合ったりはしないのか?」
「ああ……ゴクゴク……ぷはぁ!
……どうだろうな、アタイは別に気にならないけど」
「例えば、俺がカメリアのステータス見たいって言ったら、見せてくれるか?」
実はかなり気になる。俺は自分のステータスしか知らないから、自分が強いのか弱いのか全く分からない。普段自分のステータスを見て、数値が上がっていくことをニヤニヤしながら眺めるだけでも十分楽しいんだけど、やっぱり他の人との比較もしてみたい。
「アタイのステータス?……はっは~ん♪」
「な、なんだよ……」
「ホクトちゃん、残念だけどステータスにはスリーサイズは載ってないのよ?」
「そんな事知っとるわ!それより、気持ち悪い言い方するな!!!」
何を勘違いしたのか、カメリアがふざけたことを言ってくる。俺が興味あるのは、カメリアの体力とか攻撃力の値だ。スリーサイズなんて、興味無いって!……興味ないからな?
「スリーサイズじゃなけりゃ、何を見たいんだよ」
「攻撃力とか、防御力とかあるだろ。自分の値がどの程度なのかは比較しないとわかんないじゃん」
「ああ……でも、どうだろ。アタイ鬼族だから、一般の人族とは違うぞ?」
盲点だった……そうか、人族と鬼族ってステータスからして違うのか。
「そんなに違うもんなの?」
「ああ。まあ、鬼族でも個体差あるから必ずしも参考になる訳じゃないけど……。各種族で傾向はあるぞ」
各種族の傾向か、確かアサギもそんなこと言ってたな。
「例えば、アタイたち鬼族は体力と攻撃力が高い代わりに俊敏なんかは低いな。精神力も人よりは高いけど、獣人たちよりは低めだな。あと魔力はからっきしだ」
「へぇ~、種族間でもそれだけ差がでるのか。じゃあ人族の特徴ってなんだ?」
「人族に特徴はない……しいて言うなら全てが平均的って感じか?」
人族は全てが平均。種族特有の武器も無いけど逆に弱点らしい弱点もない。そういうことか……。
「でも結局は、そいつがどんな戦い方をするかで種族の中でもバラつきは出るから。ある意味、人族はどんなものにもなれるってのが武器だよな。アタイ達鬼族は、どんなに頑張っても魔法使いにはなれないんだよ」
「ああ、そういう見方もできるのか」
「……モグモグ、そうそう」
話しは終わりとばかりにカメリアが食べ始めた。いや、話し終わってないし。
「種族の特徴は解った。で、カメリアは見せてくれるのか?くれないのか?」
「……ゴクゴク……ぷはぁ!なんだよ、ホクト。そんなにアタイのステータスが見たいのか?」
「ああ、見たい」
真剣にお願いしてみる。こんなチャンスはめったにないし、そもそもパーティメンバーにならないと他の人のステータスは見れない訳だから、現時点で見れるのはカメリアだけだ。なら、頭下げてでも見てみたい。
「……そ、そんなに見つめるなよ。恥ずかしいだろ」
なのに、カメリアさんったら全然違う方向に勘違いしてます。こいつ、初めて会った時はストイックでかっこ良かったのに今では見る影もない。
「……分かったよ、そんな顔するな。見せてやるから」
俺が冗談に付き合わないことを見てとったカメリアは、溜息をついて一言呟いた。
「ステータスオープン」
すると、カメリアの顔の前に半透明の板が現れた。俺には、その半透明の板が見えてるけど、他の奴にはそれすら見えないらしい。これがパーティを組んでいるかいないかの差になるわけだ。ステータスなんて、パーティ内での財産みたいなものだ。他の奴らに情報が漏洩しないようになってないと、危なっかしくて見るのも一苦労だろう。
「ほら、もっとこっちに寄れよ」
ニコニコしながら、カメリアが詰め寄ってくる。そうでした、他人のステータスを見るって事は、当然その人と密着しないと見れない訳で……つまり、カメリアは最初っからこれが狙いだったわけだ。
「お前、変なところで狡賢いな」
「さあ、何のことだい?」
分かってて言ってくるから質が悪い。まあ、言い出した手前照れる訳にもいかずカメリアの方へ近づく。俺の腹の上で満腹になって寝ているポロンを起こさないよう細心の注意を払ってカメリアに近づく。肩が触れ合いそうな距離まで詰め寄ってステータスを覗き込もうとしたら、半透明の板が離れてしまった。
「……おい」
「ダメだぜホクト、もっとこっち寄らないと」
悪戯っ子な笑みを見せてカメリアが言う。しかも、何を思ったのか顔を近づけてきた……おいおい、近い近い。俺が緊張で動けないでいると
「ほら、肩がぶつかる位までこっち来ないと見せないぞ?」
熱い吐息が耳に当たる。ゾクゾクっとした波が背中を這いあがる。
「……」
「プッ、ホクト顔真っ赤だな」
「うるさい……」
自分でも顔が赤いのが分かる。これは決して酒のせいなんかじゃない。カメリアが近づいたことで、女性特有の甘い匂いが鼻をくすぐる。ただ、今は若干の酒臭さも混じってるが……。
「……ほら、これでいいか」
意を決して、最後に残っていた二人の距離を詰めた。肩は触れ合うどころか、俺の腕は柔らかいものにぶつかって跳ね返ってきた。
「あん♪」
「ば、変な声出すな」
「へへ、悪い悪い。ちょっと突然だったんで変な声出ちまった」
そうは言うが、カメリアは嬉しそうな表情をしている。酒で火照った頬も妙に艶がある。やばい……早くステータスを見て離れないと、取り返しがつかない所まで行きそうだ。
「ほら、近くに来たんだから見せてくれよ」
「もうホクトったら風情がないな。もっと、この瞬間を楽しもうぜ」
「俺の脳みそがショートする前に見せろ」
マジで頭の中がスパークしてる。17歳童貞には耐えられそうにありません。
「はいはい、これがアタイのステータスだ」
俺が見えるように半透明の板を操って見せてくれる。ここまで長い道のりだった、ステータス1つ見るのに汗びっしょりだ。
「さて……」
気持ちを入れ替えて、カメリアのステータスを覗いてみる。
名前:カメリア・フレイム
性別:女
年齢:23
レベル:23
職業:槍士(Lv6)
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体力 :330
精神力:180(+15)
攻撃力:298(+30)
防御力:206(+11)
敏捷 :116(+3)
知能 :8
魔力 :88
運 :25
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スキル:
槍術(Lv8)、剛力(Lv4)
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称号 :
中級冒険者(体力に中補正)
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装備 :
鬼神の朱槍(攻撃力+30、精神力+15)
手甲(防御力+8)
皮の胸当て(防御力+3)
グリーブ(敏捷+3)
職業は『槍士』か、レベルは6。結構高そうに見えて、まだまだ余力があるって事だ。これからもカメリアの槍捌きは上達するって事か。
「槍っていつから使ってんだ?」
「いつからって……物心ついた時には振ってたな」
「そんなに前か!?そりゃ、あれだけ自由自在に操れるわけだな。なによりカメリアの槍捌きは綺麗だ」
「!?……だから、いきなり褒めるなよ!……て、照れるだろ」
こいつの恥ずかしがるポイントが解らん。現在進行形で、俺の右肘は柔らかいものを押したり包まれたりしているってのに……。
体力は、さすが言うだけの事はある。鬼族特有とはいえ、俺よりも全然高い。それに攻撃力、倍とまではいかないけど、それでも俺よりも全然高いな。これならオークを一撃で倒していたのも納得だ。
「体力と攻撃力はすごいな。俺も、もうちょっと高かったらオークなんかも楽に一撃で倒せるだろうに……」
「無い物ねだりしても仕方ないだろう。アタイにはアタイの戦い方が、お前にはお前の戦い方があるんだ。やれる範囲で強くなれば良い」
「そうだな……。初めて他の人とステータスを比較したから、ちょっとナーバスになってたみたいだ」
実際カメリアのステータスを見て、俺は打ちのめされた気分だった。ダッジさんにあれだけ扱かれたのに、数値としてハッキリ差を見せつけられるとダメージがでかい。でもカメリアの言う通り、無い物ねだりしてもどうにもならない。無いものを羨むよりも、あるものを積極的に伸ばしていけばいいんだ。
「もう満足か?」
「あ、待ってくれ。もう少し見たい……」
改めてカメリアのステータスを見直す。防御力にはそこまでの差は無い。それに……
「ホクトの敏捷はすごいな!アタイの3倍以上あるじゃないか」
カメリアが俺のステータスを見て驚く。見せてもらうだけじゃ悪いから、俺のステータスもカメリアに見せている。それに比較するのに、こっちも出してた方が楽だし。
「敏捷には自信あったからな、なにせレッド・コメット先生に鍛えてもらったから」
レッド・コメット先生との修行の日々を思い出す。元気にしてるかな先生。
「誰だソレ?」
「リーザスの近くにある、森に棲んでる一角兎のユニーク個体だよ。通常の個体よりも3倍速い素早さのせいで、ほとんど目撃情報がないんだ」
「え、魔物!?なんで魔物が冒険者を鍛えるんだよ」
「何か条件があるらしいけどよく解っていないんだって。ただ、一度目を付けられるとその冒険者が森に入るだけで襲い掛かってくるんだ。俺も目を付けられて何度も襲われた、その度に捕まえようと鬼ごっこをしていたら……」
「いつの間にか師弟関係ができてたって事か?あり得んのか、そんなこと」
「良いんだよ、俺が勝手に師匠として敬っているだけなんだから。でも、俺とレッド・コメット先生との絆は誰にも馬鹿にさせないけどな」
どんなに笑われたって構わない、俺は先生に恩義があるし今更討伐なんてできる訳もない。
「さ、そんな事は良いから続きを見よう」
「あ、ああ……」
腑に落ちないって顔をしてるカメリアを無視して次を見てみる。
「知能は……まあ、お互い貶し合うほどの差でもないな」
「そこはスルーしていこう」
2人とも見て見ぬふりをして先に進む。良いんだよ、お互い納得してんだから。
「魔力は……ああ、これが鬼族が魔法使いになれないって理由か」
人族の一般人でも100が平均値なわけで。鬼族の、それも冒険者をしているカメリアの魔力が100未満って事は、これからどれだけ頑張って上げても微々たるものだってことだろう。
「アタイは気にしてないけどな、精神力はスキルとかで使うから低かったらショックだけど。別にアタイの戦い方に魔力なんて全然使わないから、そもそも鍛えてないし」
「そうだな、弱点を補うよりも得意分野を伸ばした方が良いだろうな」
「そうそう、さすがホクトは解ってんな!」
影の全くない笑顔のカメリア。本当に魔力の事は気にしていないようだった。俺も弱点を気にするよりも、自分の戦い方に合ったステータスを重点的に伸ばしていった方が、今までよりも強くなれるだろう。カメリアのステータスを見て、改めてそう思った。




