ソウルズパーティ
ソウル視点の話しになります。
「サラ右を抑えろ!俺は左をやる!」
「わかった!」
俺たちは今、大量のゾンビに囲まれている。動きは遅いが数だけは馬鹿みたいに多い……これ、100体くらいいないか?
「ここから先は通行止めだ、文句があるなら俺が相手になってやる!」
動く屍ゾンビ。単体ならそこまで強い魔物でもないが、こうも数が多いと剣を振る隙間すらない。上手く相手との間合いを測りながら、左右から襲い掛かってくるゾンビに斬りつける。ゾンビの攻撃を躱しながら、相棒の方を見る。サラは堅実な戦い方をする。敵の攻撃を盾で防ぎ、いなし、時には叩きつけて怯ませる。絶対に自分のスペースには入らせない上手い戦い方だ。今も群がるゾンビを、盾を使って上手く捌いている。
「はぁ!」
右腕から繰り出される槍の刺突。サラは盾とショートランスと呼ばれる短めの槍を使う。初めてあったとき剣じゃなくて槍を持っていたから驚いた。職業は騎士って言ってたから、てっきり盾で捌いて剣で攻撃って戦法だと思ってた。
「サラ、あまり突出するな。俺たちはここで壁になってればいいんだからな!」
「分かっている!」
押し寄せるゾンビたちを盾で弾き飛ばしている間に前に出過ぎていたサラに注意する。ホクトには勘違いされたけど、俺のパーティの司令塔は俺だ。サラもなんだかんだで熱くなり易いたちだから、注意してみていないと今みたいに前に出過ぎることが今までにも何度かあった。そしてもう1人……。
「ソウル、準備できたわ!いつでもぶっ放せるわよ!」
「わかった、俺の合図で打ってくれ。サラ、聞こえたな?」
「了解だ」
我がパーティ屈指のダメージディーラー、エリス。本当はエリスターゼって名前なんだけど、長いからエリスって呼ばれてる。ただ本人は誰にでも許してる訳じゃないみたいで、気安くエリスって呼んでキレている姿をよく見かける。
「よし、打てエリス!」
「業火となりて、全ての者を焼き尽くせ! インフェルノ!」
「サラ下がるぞ!」
「分かってる!」
俺とサラが同時に後ろに飛ぶ。俺たちに群がっていたゾンビたちは、追いかける間もなくエリスの放った魔法に飲み込まれる。インフェルノはエリスが持つ魔法の中でもずば抜けて殲滅力の高い魔法だ。足元に浮かび上がった魔法陣から炎が立ち昇る。
「ゾンビなんて、汚くて、臭くて、気持ち悪くて大っ嫌い!!!私の目の前から消えなさい!アーハッハッハ」
ゾンビの存在意義を全否定しながら高笑いしている。このエリスと言う魔法使いは確かに殲滅力が高く、パーティ屈指のダメージディーラーだが、超絶偉そうだ。仲間になったばかりの頃はいつも俺を見て、見下すようなことを平気で言っていた。
「おぉ……お前やり過ぎじゃないか?」
「何言ってるの、汚物は消毒よ!」
「……でも、まだ炎の柱が消えないんだけど……」
「……え?」
「なあ、これいつ消えんの?」
「……さあ?」
そう、いつもこうなのだ。本人は未来の大魔法使いって豪語してるけど、毎回毎回無駄に威力のある魔法をぶっ放して後は知らん顔をする。
「……ソウル、これはちょっと」
「ああ……逃げるぞ!」
俺とサラは示し合わせたように後ろを振り返り全力でその場を離れた。
「ちょ、ちょっと!?私を置いてかないでよ!」
少し遅れてエリスが追従する。
「なんでお前は毎回そうなんだ?ちょっとは制御して使えよ!」
「みみっちく制御なんてやってらんないわよ!私の魔法は常に最大最強がモットーなのよ!」
「それでいつも怒られてるんじゃないか!ちょっとは反省しろよ!」
「いやよ!」
こいつ……声をかけたときは気弱な女魔法使いってイメージだったのに、騙された。完全に詐欺だ。
「2人とも喧嘩している場合か、とにかく急いでここを離れるぞ!」
「俺はもっとか弱く、可憐で、儚い女の魔法使いが欲しい~!」
「ソウル、あんたバカ言ってると魔法の的にするわよ?」
まあいつもの事、毎回同じなわけだから俺たちも慣れたもんだ。3人仲良くその場を離れた……ゾンビがどうなったのかは、神のみぞ知る。
「ああ、疲れた……」
ゾンビたちと戦った場所から1時間くらい移動して野営の準備をした。俺は火を起こして、サラは水汲み、エリスは薪を拾いに行ってる。毎回野営の時の役割はこんなもんだ。
「あれ、絶対討伐証明も燃えちまってるよな」
すでに焚火に火はついている。後はエリスが確保してくれば朝方までは持つだろう。
「ソウル、水汲み終わったぞ」
「おお、お疲れさん」
サラが一足先に戻ってきた。ここはリーザスの町から馬車で4日ほどの場所にある。乗合馬車が通らないルートだったんで、町で馬車を借りてここまで来ている。当然馬の飼葉や水なんかも自分たちで用意する必要がある。水汲みは俺たちだけじゃなく、馬たちにも必要なものだ。
「サラは怪我してないか?」
「私か?……特には無いな」
「じゃあ今回も被害はゼロだな」
「良い事じゃないか、そんなイヤそうな顔をする結果でもないだろう?」
「結果としてゾンビたちは全滅させたけどな、討伐報酬分の上乗せはなしだ」
「いいじゃない、その程度」
エリスが戻ってきて開口一番、まったく反省した素振りもなく呟いた。
「あのな、小さい事からコツコツとやればCランクなんてあっという間だったんだよ。それを、毎回バカスカバカスカ撃ちやがって……」
「私に感謝していいわよソウル。私のお蔭で毎回被害ゼロなんだから!」
「うるせぇ!割に合わないんだよ」
エリスは自信家で、自分の魔法の威力に絶大な信頼をおいている。それに関しては俺もサラも文句はない。……ないのだが、毎回今回みたいに大は小を兼ねるとばかりに最大火力で全てを吹き飛ばす。結果として、魔物は跡形もなく消し飛ぶので素材系の依頼は受けても意味がない。
「何が不満なのよ、こんなに可愛い大魔法使い(予定)の私が仲間にいるって言うのに」
「……」
ああ、どこで道を間違えたんだろう。初めてエリスを見たときは衝撃だった。身体はあまり大きくなかったが、儚げな表情や仕草にグッときて声をかけたんだ。俺が求めていた魔法使いそのままの少女がそこにいたんだ、当然声をかけるだろう。ホクトはそんな俺を見てナンパだと馬鹿にしてたけど、れっきとしたパーティメンバーの勧誘だナンパだなんて人聞きの悪い。
「エリス。確かに今回も被害はゼロだったが、反省するべき点はあるんじゃないか?」
さすがサラ。騎士の家系で育ったお固さは生まれつきだろう。今更だけど、良く纏まってるな、このパーティ。
「反省?必要かしら?」
「より良くすることは悪い事じゃない。今に満足してしまったら、お前の言う大魔法使いになれないぞ」
「うぅ、そう言われたら返す言葉もないわ。確かに反省して、次に生かせば大魔法使いになる日も近いわね」
お、サラが上手く言い包めた。エリスが反省する機会なんて無かったから、ここはチャンスだろう。
「おう、反省会は大事だな」
「そうね!次からはもっと広範囲を焼き尽くせるように頑張るわ!」
「そこじゃねぇよ!お前どんだけ焼き尽くせば気が済むんだよ、この人間焼却炉!」
「はぁ!?誰が焼却炉よ!」
ダメだ、こいつに反省を求めたのが間違いだった……。
「……ハァ、どっと疲れたわ」
「そろそろ食事にしましょう。イライラするのはお腹が空いている証拠よ」
サラ委員長、一生ついて行きます!もう、うちのパーティはサラで持ってるようなもんだな。
「そうだな、飯にするか……」
「……」
「……」
「……で、誰が作るんだ?」
「私が作って良いなら、作るわよ?」
「「却下」」
「むぅ~!」
エリスに作らせると、どんな材料を使わせても食事と言うカテゴリを逸脱してしまう。使った材料を確認しても、なぜそんな姿形になるのか毎回疑問でならない。一度なんか見た目は普通の料理だったこともあって、気を許してしまった結果3日も寝込む羽目になった。俺たちの数少ない依頼失敗の真相だ。
「仕方ない、俺が作るか」
「いつも済まないな、私も料理ができれば……」
「まあ、人には得手不得手があるからな。サラは真面目だから、そのうちちゃんとした料理を作れるようになるさ」
「……そうか、ありがとう」
サラが優しく微笑む。
「ねえ、ソウル。なんで私には優しい言葉をかけてくれないの?」
「すまんがエリス、俺にはお前がどうやったら料理が上手くなるのか……全く解らないんだ。そもそも、そんな未来があるのかすら疑わしい」
「どういうことよ!この間作ったときは、ちゃんと綺麗にできたでしょ?」
「見た目が綺麗で中身が毒って……お前はイヌサフランか?」
「意味わかんないわよ!?」
「まだ毒々しい見た目をしていた方が、世界に優しいんだよ」
「私の料理は世界に影響無いわよ!」
「あるから言ってんだろ!」
「無いわよバカ!!!」
結局俺が夕食を作る事になったのは言わないでも分かるよな?まあ、エリスともしょっちゅう喧嘩してるけど、別に仲が悪い訳じゃない。野営の時のいち食事風景とでも思ってくれ。本当に嫌ならパーティ解散するわ。
夕食も終わり、みんななんとなくマッタリしていると……。
「私たち、これで帰ったらCランクよね?」
「そうだな、まあ思ってたよりも時間はかかったが……」
「まだそれ言うの?粘着は女の子に嫌われるわよ?」
「別にお前のせいとか思っての発言じゃない」
ちょっとは思ってるけど言わない。これもパーティを上手く統率するコツだ。そう、俺たちはリーザスに帰ればCランクに上がる。Cランクは冒険者の中じゃ比較的多い方だけど、なれずに引退する者も多い。一番多いのはDランクだ。
「これで当初約束した『願いの塔』に潜る事ができるな」
「ああ、サラは願いの塔の踏破が目標だったな」
「そうだ、だからCランクはあくまで通過点に過ぎない」
サラは俺が勧誘した時、願いの塔の踏破が目標だと言っていた。そのつもりが無いならパーティを組まないとまで言っていた彼女に、多少なりとも協力できたかな。
「……ねえソウル」
「なんだ?」
真面目な顔をしてエリスが聞いてきた。珍しいな、エリスのあんな顔。
「Cランクになったら、願いの塔に挑戦するのよね?それって、今のままのパーティでってこと?」
今のまま、つまり俺とサラとエリスの3人組でってことだろう。
「いや、Cランクになってからって思ってたけど、仲間は増やすつもりだ」
誰も踏破したことの無い願いの塔。いくら俺が腕に自信があるといっても、無理に少人数で挑む必要はないんだ。当然パーティ増員は考えていた。
「回復役はぜひ欲しいな、あと前衛にもう1人は最低欲しい。理想は前衛2、中衛2、後衛2の6人パーティだな」
「前衛と言えば、ほら……あのソウルの友達はどうなの?」
俺の友達って言うと……ああ。
「ホクトか?確かにあいつも前衛だけど、パーティに入れるつもりはない」
「それって……彼が男だから?」
「まあそれもある。だけど、ホクトとはずっと競っていたい。俺の選んだパーティと、あいつの選んだパーティのどっちが先に願いの塔を踏破するのか?それを考えるとワクワクしてくる」
「ソウルがそこまで誰かを意識しているなんて珍しいな」
「それよりも、男だからってところをスルーしたことを突っ込みなさいよ」
サラもエリスもホクトのこと知っている。以前一緒に討伐クエストを受けたからな。でも、あれくらいじゃホクトのすごさは解らないだろう。なんで俺がここまで男1人に執着しているのかも……。
「あいつは今に化けるぞ、下の方でちんたらやってるような奴じゃない。なんせ俺と引き分けた男だからな」
「それ前にも言っていたけど本当?ユニークスキル使ったソウルと引き分けるって考えられないんだけど……」
「確かに……。私は味方だから、これ以上ないほどに信頼できるが。逆に敵だったらと思うとゾッとするぞ、お前のドッペルは……」
俺のユニークスキル『ドッペルゲンガー』は質量を持った分身を作り出す。つまり、俺3人と同時に戦うようなものだ。初見では、まず回避不可能……なのに、あいつは初見で躱した上に反撃までしてきた。それも、まともに戦ったことも無いような奴がだ。あいつのすごさは戦った俺にしか解らないだろう。
「「……」」
2人ともホクトに何を思ったのか、黙り込んでしまった。
「さて、そろそろ寝ようか。交代の時に起きられないとか言われない為にもな」
「分かったわ、お休みソウル」
「お休みエリス」
「お休みソウル」
「お休みサラ」
夜番の最初はいつも俺だ。次がサラで最後がエリス。基本的にこの順番を変えることは無い。夜番の間は、町に戻ってから募集するメンバーの事でも考えるとするか。今のメンバーにどんな奴を加えれば、より強いパーティになるのか……。ああ、考えただけでもワクワクしてくる。まあ、全員女だけどな。俺は女意外とパーティを組む気は無い!絶対ハーレムパーティにしてやる。
「ホクトは今、何やってんだろうな?……早くCランクまで上がって来いよ」
すでに2人は夢の中、ポツリと漏れた独り言は誰に聞かれるでもなく闇夜に消えていった。
1章以来あまり出番の無かったソウルと、そのパーティメンバーのお話でした。
個人的に主人公に良きライバルキャラがいる話が好きなので、
ソウルには頑張ってもらいたいと思います。




