17話 エピローグ
追記:文末の・・・を……に変更しました。
「なんとかなったか……」
辺りを見渡す。動いているのは俺1人、カメリアも地面に横たわって動かない。
「カメリア!おい、生きてるか?」
「……うぅ、アタイ生きてんのか?」
良かった、無事とは言い難いけど何とか生きてる。とは言え、一刻も早く町に戻った方が良いだろう。どう見ても自力で動けるようには思えない。
「一応聞くけど、お前1人で歩ける?」
「……くぅ、鬼族はそんな柔にはできてない。大丈うぐぅ!?」
「無理するな!」
「ハァ……情けない。悪いなホクト、アタイは歩けそうにないから置いて行ってくれ。町に戻って助けを呼んできてくれると助かる」
何言ってんのコイツ?カメリアを1人、ここに残して町に戻る?無いわぁ……そんなクズみたいなことできる訳ないだろ。
「心配すんなよ、俺がおぶって行ってやるから」
「はぁ!?い、いやいいよ。アタイここで待ってるから……」
「良いから俺に任せろ。絶対お前を町まで連れてってやる!」
俺がそう断言すると、カメリアは得体の知れないものを見るような顔をした。なんだ、俺なんか変なこと言ったか?
「……男は信じられない。今までも、今回も……調子の良い事を言って最後は裏切る。……アタイは、それで今までに何度も嫌な思いをしてきた」
そうか、カメリアの頑なな男嫌いは、今までの経験からくるものだったのか。
「今回もそうだ。また信じてみようと思った矢先に……また裏切られた。アタイは、もう……男を信じられない」
「……そうか」
こればっかりは出会ったばかりの俺には理解できない。恐らく何度も何度も信じて裏切られてを繰り返してきたんだろう。カメリアと言う女は、根は良い奴だ。それを騙して手玉に取って、使い捨てにしてきたのはこの町の男の冒険者たちだ。
でも……
「それでも今は俺を信じてもらいたい。俺はカメリアを絶対に裏切らない」
「ホクト……ウグッ、ゴホッ……ガハァ!」
突然カメリアが吐血して苦しみだした。
「カメリア!?おい、大丈夫か?」
みるみるカメリアの顔色が悪くなっていく。青から白へ……ヤバイ、これは体内で出血してるんじゃないか!?
「クソッ、おいカメリア。頑張れ!絶対生きて帰るぞ!!」
俺は慌ててカメリアを担ぎ上げ、扉へ向かった。
その後は本当にしんどかった……。慌てていて忘れていたけど、俺たちこの部屋に閉じ込められていたんだった。そのことに気付いて、一瞬真っ青になったけど、モンスターハウス内の魔物が全滅したからか?扉は驚くほどあっさりと開いた。ポロンのやつ、俺が部屋から出てきたのを見て絶叫に近い鳴き声ですり寄ってきた。ゴメンな、お前にも心配かけたよな。
俺も左腕が動かせない状態だったこともあって、カメリアには申し訳ないけど朱槍は部屋の中に残してきた。いや、試したんだよ?でも、あれは無理っす。全力を入れても10cmも上がらなかった……それだけの重さなら簡単に盗めないだろうと置いていくことに決定。
ダンジョン内では気配感知を最大限に活用した。ダンジョンに入ってから結構使ってたからか、レベルが2まで上がっていた。これで更に遠くの気配も解るようになったから、一度も魔物に出会うことなく外に出ることができた。そうして何とかウドベラに戻ってきて、ノクト爺さんの病院までカメリアを連れてくることができた。
病室内は程よい温かさに満たされていた。陽の光も温かいし、まさに昼寝日和だ。あのあと、俺もぶっ倒れて昨日まで同じ病室に入院していた。一足先に退院して、宿屋に説明しに行ったりと大変だったんだよ。あと1日遅かったら、俺の荷物は捨てられるところだった。ついでにカメリアの宿をギルドで聞いて同じように説明して、今日になって着替えだけ持ってきた。
今俺の目の前にあるベッドにはカメリアが寝ている。運び込んだ当初は、死人と間違われるほどに憔悴して血の気も失っていた。ノクト爺さんの回復魔法のお蔭で一命は取り止めたけど、しばらくは絶対安静だ。
「……」
「ふぁ~あ……俺もちょっと寝るかな」
ベッドの横にある背もたれの無い椅子に座って欠伸をする。目の前には洗い立てのシーツ、ちょっと顔を埋めて寝ちゃっても仕方ないよね?
「……ホクト」
抗えない睡魔に膝を屈して、いざポカポカのベッドへダイブと言うところで、それまで寝ていたカメリアが目を覚ました。
「お、起きたか?どうだ、身体の具合は?」
俺に言われて、自分の身体を弄るカメリア。字面的にはエロいけど、別にエロいことをしている訳ではない。
「……ここは、どこだ?アタイ生きてんのか?」
「ここはウドベラにあるノクト爺さんの診療所だ。感謝しろよ?ダンジョンからここまでお前を担いで連れてきたやったんだから」
俺の言葉に信じられないようなもを見たような表情になるカメリア。確か気を失う前にもそんな表情をしていたな。
「カメリア、今までどんな目に合ったのか俺には解らない。でも言ったろ?俺が絶対に連れて帰ってやるって」
笑顔でサムズ・アップ。俺としても1つ間違えれば死ぬ危険のあった強行軍だ、カメリアからのお礼の1つも期待していいんじゃない?……なんて考えていたら
ポロッ……
唐突に、本当に唐突にカメリアの目から滴が零れた。
「カメリア!?どうした?どこか痛いのか?」
「え?」
「泣くほど、どこか痛いんだろ?」
俺に言われて、初めて自分が泣いていることに気付いたのか、そっと自分の頬を撫でるカメリア。
「……なんでアタイ泣いて……」
「待ってろ、今爺さん呼んでくる!」
カメリアにそう言って席を立とうとしたら、カメリア本人に止められた。
「ち、違う!泣いてなんていないから大丈夫!」
「いや、泣いてんだろ。どこか痛いんじゃないのか?」
「うるさい!アタイは泣いてなんかいない!」
力一杯力説するカメリアだけど、涙は止めど無く溢れてくる。その余りにも綺麗な滴に、俺も我を忘れて見入ってしまった。
「……なんだよ、何見てんだよ」
泣きながら怒るカメリアを見て、なぜか自然に笑みが零れた。ああ、やっと帰ってこれたんだなと実感できた。
「ああ!?ホクト、今アタイの顔を見て笑ったな?女の泣き顔見て笑うなんて、最低だぞお前!」
「あ、悪い悪い。顔見て笑ったんじゃなくて、元気に話してるカメリアを見て帰って来たって実感できたんだよ。そしたら自然に笑えてきた」
「ば!?バカ野郎、そんな……そんな優しい言葉をアタイにかけんなよ……」
カメリアの奴、ちょっと情緒不安定になってないか?病み上がりだし少し心配だ。
「……・て行け……」
「え?」
「今すぐここから出ていけ~~!!」
「???」
いきなり、その辺りにある物を投げつけてくるカメリア。何が何だか分からないけど、今は逃げた方が良さそうだ。
「わ、イテッ!おい、落ち着けカメリア。帰る、帰るから……物を投げるな!」
ダッシュで病室から逃げ出す。なんだよ、ちょっとは感謝の言葉をかけてくれてもいいのに。ホクトさんは褒めると伸びるタイプですよ?
「あ、お兄さんどうしたの?なんか騒がしかったけど……」
「あ、ああ。カメリアが目を覚ましたんだ。で、色々話してたんだけど突然出てけって怒られちゃって……」
「えぇ?もう、なにしたのホクトお兄さん。寝てるお姉さんに何か悪戯したんでしょ?」
「しないしない!とにかく俺帰るから、カメリアにお大事にって言っておいて」
アンちゃんに言伝をお願いして、俺は逃げるように診療所を出た。
その後はギルドに行って、3人組の行った行為についてやカメリアのことをアーネちゃんに報告したり(アーネちゃんが超サ○ヤ人のように毛を逆立てて怒ってた)、使ってしまった身の回りの物を買いに行ったりと冒険者らしくない日常を数日送っていた。
あの後、何回かカメリアの見舞いに行ったけど何故か俺に会う事は拒絶されてしまった。なんだよ、せっかく助けたんだからもう少し仲良くしても良いんじゃない?下心が全くなかったとは言えない俺としては、カメリアとの距離がまた開いてしまったことが残念で仕方ない。ノクト爺さんに休養を取れと釘を刺されていたので、この際だからゆっくりしようと決めていた。
買い物も一通り終わって、広場にある屋台で遅めの昼ご飯を食べてまったりしていると後ろから誰かに抱きつかれた。
「おわっ!?」
「ホクト~!!」
「え、カメリア!?なんだ、どうして抱きついてるの?」
「ムフフ……アタイからのお礼。どうだ、嬉しいだろ思春期の少年よ。熟れたお姉さんの魅惑のボディだぞ?」
「お、お前キャラ変わってない!?そんな媚びうるような奴じゃ無かったろ?」
後ろから首に腕を回して抱きつかれているものだから、身動きできる範囲が狭い。しかも俺の方は微妙にバランスの悪い姿勢の為、力が入らずカメリアの成すがままにされている。
「い、良いんだよ!アタイの命を助けてくれたホクトへのお礼なんだから。何がいいか色々考えたんだけど、男ってこういう事されるの好きなんだろ?」
こういう事って……ああ、防具を付けていないから背中に柔らかい感触がダイレクトに伝わる。ダンジョンから出たときに背負ってたけど、あの時はお互いに鎧を付けてたから柔らかさとか微塵も感じなかったし。
「お、気にしてるな?どうだ、嬉しいだろ……ほら、ウリウリ」
やめて、身体を密着して擦り付けてこないで!もっと筋肉質かと思っていたカメリアが思った以上に柔らかくて本当に嬉しいです!などど考えていると、顔に出ていたのかカメリアが調子に乗ってきた。
「こういうのはどうだ?ほら、フゥ~……」
「わぁ!?や、ば……バカ!み、耳はらめぇ~~~!」
日も高いうちに広場でセクシャルな行為を繰り返すバカ2人。当然周りの目は厳しく、屋台の人たちからも出ていけと怒られてしまった。
「……まったく、お前のせいで追い出されたじゃないか!」
「フフン、でも気持ちよかったんだろ?」
「気持ちよかったよ!」
素直になります。ありがとうございます!とっても気持ちよかったです!
「で、なんであんなことしたんだよ」
広場を追い出されたので、とりあえず適当にぶらつこうと言うことになり、俺とカメリアは目的地もなくブラブラと散歩をしていた。
「ん?アタイからの感謝の印」
「そりゃ嬉しいけど、カメリアってああいうこと嫌いなんだと思ってた。男嫌いだろお前」
「そりゃ、その辺にいるような奴らに同じことをしろと言われても断固拒否どころか、言い出した奴をボッコボコにしてやるよ」
「なら、俺相手でも無理しなくていいんだぞ?」
「……イヤだったか?……だったらもう止める」
途端にシュンとした表情になるカメリア。なんだか調子が狂う、この女ってこんな表情をするような奴じゃなかったはずなんだけど。
「イヤじゃない……むしろご褒美としては最高でありがとうと言いたい!」
「ははは、ホクトはスケベだな」
「そりゃカメリアみたいな美人にされたら、誰だって嬉しいと思うけどな」
「へ?アタイが美人?……い、いやいや何言ってんだよホクト。アタイ鬼族だぞ?こんなに身体もデカいしゴツいだろ?」
「デカいとかゴツいってのは人によるかもしれないけど、美人かどうかはみんな思ってんじゃないの?だから男の冒険者たちも揶揄ってきたんだろ?」
まさしく好きな子を苛めたくなるアレだ、小学生かよ!まあ、それだけじゃないんだろうけど、根底にあるのは美人のカメリアをイジって楽しんでたんだろうな。
「人間の男は嫌いだ……群れないと何もできないくせに、威勢だけはやたらとデカいし。やり方もまっすぐ向かってくるわけじゃない卑怯者の集まりだ」
「あの朱槍を振り回すカメリアに力で挑んでも興味を惹けるとは思わなかったんじゃないか?」
「なんだホクト、あいつらの肩を持つのか?」
「俺も男だからな、少しは気持ちが解る。まあ、俺は面倒くさい事はやらないけどな」
結局、ウドベラの冒険者たちはカメリアとの接し方を間違えたんだ。こいつはストレートに迫ってきた方が嬉しい口だ。変に小手先や裏技に頼るようなやり方ばかりだから不信感を抱かせちまったんだろうな。同情はしないけど……。
「ホクトはあいつらと違う!アタイが背中を預けても良いって思えた男は、お前が初めてだった」
「身に余る光栄だ。でも、俺も男だからな。下心があっての上だよ」
「だったら、さっきはなんで嫌がっていたんだ。アタイはホクトならすべてを許せたぞ?」
「え!?……あの、ちょっと聞きたいのですが……すべてとは、どの程度までOKってことですか?」
「すべてと言ったらすべてだ。アタイはお前の子を孕んでも良いと思っている」
「いやいや、それ重いよ!あの程度のことで、そこまで思いつめなくても……軽いボディタッチくらいで止めとこうよ!」
「ホクトがそれでいいなら、構わないが……アタイも年頃だしな。フフフ……」
「……な、なんだよ?」
「いつか我慢できずに襲っちまうかもな~」
うわ、目がマジだ。肉食系女子だよ……気持ちは嬉しいけど、俺はいつか自分の世界に帰るし、子供ができたって残る訳にはいかない。そんな無責任な行為はできそうにないな……少なくともしばらくは。
「昼間っから何言ってんだよ。ところで、何か用があって来たんじゃないのか?まさか、俺に抱きつく為だけに俺を探してたわけじゃないんだろ?」
「え、ああ……忘れるとこだった」
横を歩くカメリアがまじめな顔をして立ち止まった。そして俺の方を見てくる。俺も何か真面目な話だと思って、足を止める。
「……そ、その……な。じ、実は……ホクトにお願いが……あって……」
「お願い?いいよ、俺にできることなら」
「そ、そうか。……じゃ、じゃあ……」
何か緊張しているカメリア。必死に深呼吸を繰り返している。カメリアの緊張が俺にも伝わってきて、こっちまで緊張してくる。おいおい何だよ、これから何言わるんだ?
「……ほ、ホクト!」
「は、はい!」
「アタイとパーティを組んでくれ!」
「はい、よろこんで!」
「……」
「……」
「え、それだけ?」
「それだけってなんだよ!アタイ、人生で一番緊張したんだぞ」
なんだよ、何言われるのか緊張してビビった。俺としてもソロでのダンジョン攻略には無理を感じてきていたので丁度いい。しかも、カメリアの実力はお墨付きだ。その辺にいる奴を人数合わせで見繕うよりも、よっぽどありがたい。
「いや、こっちとしても願ってもない提案だからさ」
「良いのか!?そんな簡単に決めて……」
「簡単にじゃないよ。ダンジョンの、あの隠し部屋でもう駄目だ、もう無理って何度も思ったけどカメリアが助けてくれたから、俺は今もここにいる。カメリアは俺にばっかり感謝してるけど、俺だってカメリアには感謝してもしきれないよ」
すると、カメリアの表情がクシャっと歪んだ。あ、このパターンは……。
「ホクト~~!アタイこれからも頑張るから、ずっと一緒にがんばろ~~!!」
「お、おう。分かったから、抱きつくなカメリア!」
正面から抱きつかれ、顔が柔らかいものに包まれる。それでも新しい仲間が増えたことを喜ぼうとしている俺の脳内メーカーはエロいことで埋め尽くされていた。
これにて3章は終了となります。
新章を始める前に、いくつか挿話を挟む事になると思います。
これからもよろしくお願いします。




