9話 リベンジ
翌日、俺達は改めて願いの塔に挑戦した。昨日はダッジさんに散々扱かれて、気付いたら宿の自分の部屋で寝落ちしてたせいで、アサギたちとはまともに会話をすることもできなかった。なので、朝顔を合わせたときに一通りの事を話し合った。
「俺がマテラさんと調べた内容だと、こんな所かな……」
「そう……監視する個体がいるって言うのは、新しい情報ね。それを見つけることができれば、立ち回り次第では何とかなるかも……」
アサギが俺の持ち返った情報を精査する。この辺りは完全に、アサギにお任せだ。カメリアなんか、最初から会話に参加する事すら放棄している。お前もちょっとは頭を使えよ。俺よりも知能値高いだろ!
「あと有益なのは、音に弱いって事ね。大きな音で動きを止めて、私の広範囲殲滅魔法で一網打尽……って言うのがセオリーかな」
目の前で、集まった情報をもとに戦略を考えるアサギ。こうなると、独り言が多くなって俺達の声が耳まで届かなくなる。俺としても、できれば手伝いたいとは思うけど、俺に出来る事なんてほとんどない。こんな事なら、日本にいるときに戦略シミュレーションゲームでもやっておけばよかった。もっぱら野球ゲームとアクションゲームしかやってなかったからな。ああいうのは、頭を空っぽにしてできるから良くやっていた。
「……うん、なんとかできそう」
「で、アサギ。お前の方はどうだったんだ?」
「えっ?……ああ、探索者ギルドでは主に願いの塔の内部についての情報が多かったわ。各階層ごとに出てくる魔物の種類と分布図。あと2階に行くためのゲートの場所とかね。魔物単体の情報は、多分冒険者ギルドの方が多いと思うわ」
「じゃあ、俺が冒険者ギルドに行ったことは無駄じゃ無かったんだ」
「もちろん!ホクトくんが持ち返った情報は、どれも凄く重要なものばかりよ。ホクトくんはちゃんと役に立ってるから、そんなに心配しなくても大丈夫よ。そこでボーっと何も考えてない人よりか、よっぽどマシ」
アサギとカメリアは、仲が悪くは無い……と言うか、仲が良いからズバズバとものを言い合う事が多い。だから、今みたいに聞く人によっては暴言にしか聞こえないような事も、平気で言い合っていたりする。
「へえへえ、すいませんね。でもよ……アタイはそもそも、頭を使うためにパーティに入ったわけじゃねえ。それなのに、それを要求するってのはどうなんだ?」
「……なんですって?」
「……なんだよ」
ああ、始まった。恒例行事みたいなものだけど、美人2人が睨み合ってる構図って言うのは、とかく目を引きやすい。この宿の常連なんかは、俺と一緒で毎度の事なので静観しているけど、一見さんはオロオロと……またはニヤニヤとアサギとカメリアのやり取りを眺めている。今日は、これから願いの塔にリベンジなんだから、こんなところで時間を潰すのは勿体無い。そろそろ止めるか……。
「おら、2人とも!そろそろ行くぞ」
「「……はーい」」
俺が言えば、あっさりと従ってくれるんだから、最初からやるなよと言いたい。とにかく、こうして情報を精査した俺達は、改めて願いの塔に挑戦することにした。
「よし、今日こそは依頼を成功させるぞ。そのために、お前に来てもらったんだ。よろしくなポロン」
「わん!」
昨日宿に戻ったら、裏庭に寝そべっていたポロンが、俺が返ったのにも拘らず近づいて来なかった。様子がおかしいと思って頭を撫でたら、それを振り払うかのように顔を背けた。その瞬間の俺の狼狽えようと言ったら……まあ、結果から言えばポロンは拗ねていた。せっかく一緒に探索者試験を受けに行ったのに、いざ願いの塔に行くと言うのに自分を置いて行った事に臍を曲げていたようだ。それからは、何とかポロンの機嫌を取ろうと、あの手この手で懐柔。最後には平謝りで、何とか機嫌を直してくれた。
「ホクトくんの情報だと、デビルディアの100匹の群れは滅多に遭遇しないみたいだけど、気を付けて行動する事に変わりはないわ。慎重に行きましょう」
「おう」
先頭にポロンと俺、後ろにアサギとカメリアの順で願いの塔の門を潜る。一瞬の暗転、そして広がる世界。俺達は戻って来た!
「ってカッコ付けても、まだ入り口なんだけどな……」
「あん?どうしたホクト」
「いや、何でもない」
さて、仕事の時間だ。今日も昨日と同じ依頼をアサギはギルドから受けてきた。つまり、また森に向かう訳だけど……。
「昨日置き去りにした荷物とか、残ってたりしないかな?」
「さすがに無いんじゃない?まあ、あったらラッキーよね」
そんな事を話しながら、昨日野草を採取した森へ向かう。先頭はポロン、その後ろに俺、カメリア、アサギの順で並んでいる。昨日と違って、今日はポロンがいるから感知性能は段違いだ。俺もスキルを伸ばすために、常に気配感知を発動しているけど、倍以上ポロンの感覚の方が優れている。
「今日は、お前が頼りだからな。頼むぜ、ポロン」
「わふっ」
嬉しそうに鳴くポロン。そのまましばらく進むと、昨日荷物を放り出した辺りまで来た。だけど、当然そこに俺達の荷物はない。
「ちっ、やっぱり無くなってんな」
「仕方ないわよ。毛皮と野草は残念だけど、また今日も頑張りましょう」
塔に飲み込まれたのか、それとも別の探索者が持っていったのか。少し残念な気分になりつつ、気持ちを切り替えて森を目指す。さらに30分ほどで、昨日森に入った地点まで戻って来た。
「とりあえず、昨日と同じように手分けするか?」
「ええ、そうしましょう。ポロンはホクトくんと一緒ね」
「わんわん!」
アサギは、ポロンの頭を一撫でして指示を出す。ポロンは『わかった!』とばかりに鳴いて、俺の横まで歩いてきた。その仕草が可愛かったので、身体を撫で回してやる。
「わふっ、わふぅ……」
とっても気持ち良さそうに舌を出すポロン。いかん、これは一度嵌ると抜け出せない罠だ。勝手に動く左手を強引にポロンの身体から引き剥がす。
「わふぅ……クゥ~ン」
『もう終わり?』と縋る様な目で見つめてくるポロン。だから、その目を止めろ。ポロンには帰ったらやってやると伝えて、なんとか事なきを得た。ポロンが参入するのは有難いけど、仕事に集中できないのが玉に瑕だ。いや、俺が自制すればいい話なんだけどな……。
「アタイは、昨日と同じところに行くわ。まだ草も結構生えてたしな」
「私もそうするわ。ホクトくんは?」
「俺もそうしようと思ってる。じゃあ、取れても取れなくても1時間くらいしたら、一度ここで合流しよう」
そう言って、各々採取に向かう。俺も昨日見つけた、沢山の草花が自生しているポイントに歩き出した。しばらく下を注意しながら、同時に気配感知に注意して進む。ポロンもアサギから採取する野草を見せられていたので、一緒に探してくれるみたいだ。
「そうか、よくよく考えればポロンは鼻が良いんだ。こういう採取系の仕事は得意なんじゃないか?」
「わん!」
嬉しそうに一声鳴く。どうやら自信がありそうだ。後は、ポロンが戦力になれば問題なしなんだけど……。スタンピードの時は、多くの魔物からハンナちゃんたちを守ってたみたいだから、ひょっとしたら願いの塔にいる魔物相手でも渡り合えるんじゃないだろうか。
「わんわん!」
俺が思考に耽っていると、ポロンが俺を呼ぶ声が聞こえた。そこに行ってみると、なんと昨日よりも多い麻痺草や眠り草、ポーションの元になる薬草が密集して生えていた。これは、所謂穴場って奴なんじゃないか?
「これだけあれば、昨日の失敗を帳消しにした上、更にプラスが見込めるかも……。でかしたポロン!」
ポロンの頭をグリグリと撫でる。少々荒い撫で方だったけど、俺の気持ちが伝わったのかポロンは嬉しそうに尻尾をブンブン振り回している。さすがに、ポロンに採取を任せる訳にもいかないので、俺が目につくものから順に採取していく。
「ポロン、俺たち以外の反応があったら一声鳴け。アサギやカメリアだったら2回、顔見知りだったら3回だ」
ポロンにそう伝えると、ウンウンと頷く。可愛いんだけど、そこは鳴いても良いんだぞポロン。
どれくらい時間が経ったか、俺が持つ袋の中には数えるのが馬鹿らしいほどの、各種野草が入っていた。昨日の分なんてとんでもない。これは1週間分くらいはありそうだ。俺はホクホクで、ポロンにアサギたちと合流することを伝え、元の場所まで戻って来た。そこには、まだ誰も戻ってきていない。仕方ないかと、その場に腰を下ろして休憩することにした。ポロンは、自然と俺の膝の上に頭を乗せて休んでいる。
この世界、持ち運びできる時計は無いから、今何時くらいなのかは解らない。俺も採取に気を取られてて時間を気にしてなかったけど、多分まだ1時間は経っていなさそうだ。
そうこうしているうちにカメリアが戻り、最後にアサギが戻って来た。アサギは、俺の袋の中身を見て驚いていたけど、これでミッション完了だ。少し早いけど、塔を出るかと思った矢先、ポロンが反応した。
「わん!」
ある方向を向いて一声鳴く。1回、つまり敵が近づいてきたと言う事だ。さて、どんな魔物が近づいてきているのか……。




