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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
9章 仲間を探そう
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8話 リーダーと言う名のプレッシャー

「まずは、何について調べたいのか教えてもらえるかしら?」


「そうですね、願いの塔の中でデビルディアという魔物の群れに襲われました。その時の群れの規模は100匹以上でした。アサギからは、攻撃的で群れに近づく全てに襲い掛かる凶暴性があると……」


「デビルディアですか……それでしたら、確かこの棚に」


そう言って、マテラさんは資料室の棚からある本を手に取り戻って来た。その本には『動物系魔物図鑑』と表紙に書かれていた。


「それは、魔物の情報が載ってるんですか?」


「そうよ、これはその中でも動物から派生した魔物だけを集めた資料ね。確かここにデビルディアの情報が載っていたはずよ」


マテラさんは、席に着いて本をパラパラと捲っていく。そして、あるページで捲るのを止めた。


「あったわ。これでしょ?」


見せられたのは、本に書かれた挿絵。確かに俺たちが見たデビルディアと同じに見える。そこには挿絵の他にも、有益な情報が色々載っていた。デビルディアは肉食の魔物……この辺りはアサギから聞いたのと同じ内容だ。えっと……デビルディアは単体ではDランク相当の魔物ですが、群れが10匹を超えるとCランクに、さらに50匹を超えるとBランクに相当します。滅多にお目にかかれませんが、100匹を超える群れと遭遇したら、何をおいても逃げる事をお勧めします。なぜなら、100匹を超えた場合、その脅威はAランク以上と推測されます。


「……俺達が出会ったのは、Aランク相当の脅威だったのか」


「ここにも滅多にお目にかかれないと会話あるわね。ホクトさん達は、そんな群れに出会って、その上で帰還できたのですね。無事に戻ってこれて良かったです」


ホッと胸を撫で下ろすマテラさん。確かに、Aランクなんて脅威に出会ったら死を覚悟するレベルだ。あの時、ちょっとでも判断が遅かったら、俺達は無事に戻ってこれなかったかもしれない。そう言う意味では、何も成果がなく戻って来たけど、無事に帰ってきた事自体が成果と言えば成果だな。


「あら、ここに面白い事が書かれていますよ」


マテラさんが、文章中の一点を指して言う。何か見つけたのか?


「えっと、デビルディアの群れの中には、テリトリー内に獲物、もしくは敵がいないかを監視する役目を負った個体が存在します。その個体の半径50メタが、彼らが認識するテリトリーとなります。このような個体は、群れの数が多くなればなるほど個体数が増えていきます。その場合、範囲同士が重ならないように、ある程度離れた位置に配置されるようです。ある冒険者は、その監視する個体を弓で射止めた事で、群れのテリトリーが狂った事があったと報告しました。これにより、デビルディアの群れの形は、必ずしも正円であるとは限らない事がわかりました……デビルディアの群れを攻略するには、監視する個体を先に潰した方が良いって事ですかね?」


「そうね。それに、逃げる時も監視する個体を判別できれば、逃げ切れる可能性が高くなるわね。それにほら、ここにも面白い事が書かれているわ」


別の場所をマテラさんが指さす。マテラさんって、綺麗な指をしてるな……って、いやいや。何を考えてるんだ俺は。マテラさんは人妻だぞ。それにアンナちゃんって可愛い娘までいる人だ。俺は、慌てて脳裏に過った不埒な思考を追い払った。そして、改めてマテラさんが指さす場所に視線を移す。


「ここですか?何々……デビルディアは大きな音に弱く、仮に突進の最中でも大きな音を聞くと驚いて立ち止まってしまいます。これも重要な情報ですね」


「さすがに100匹以上の群れを想定しているとは思えないけど、群れの規模が小さい時は有効な手段ではないかしら」


音か、それで群れが立ち止まってくれれば……アサギの広範囲殲滅魔法で、纏めて焼き払えるな。これなら、俺達でも対処できそうだ。後は、どうやって大きな音を出すか……だな。


「ありがとうございます。これで、次に出会った時に何とかなりそうです」


「それは良かったわ。でも気をつけてね、次も100匹以上の群れに出会ってしまったら、真っ先に逃げる事を考えてくださいね。あなた方が怪我を負うようなことがあれば、私だけではなくアンナも……それにノルンさんも悲しみますから」


「もちろんです。別に焦って攻略する必要は無いですから。自分たちのペースで、少しずつ確実に願いの塔を攻略しますよ」


その後も、いくつか動物系の魔物についての情報をメモした。ここには、どこに棲息しているかは書いてないけど、いつか役に立つ情報のはずだ。ここはしっかりとメモしておくようにしよう。


それからしばらく、紙にペンを走らせる音と、パラパラと紙が捲れる音だけが資料室の中に響いた。命に関わる事だ、俺も真剣に情報を精査していく。すると……。


「ようホクト、願いの塔から逃げ帰ったって?」


突然資料室のドアが開いて、そこからダッジさんが顔をのぞかせた。こっちは死にそうな思いをして逃げ帰ってきたのに、なんでこの人はこんなに楽しそうなんだろう。


「……そうですよ。手に入れたアイテムも全て擲って、命からがら帰ってきましたよ」


「そうかそうか。いや、良かったじゃないか」


「全然良くないです。なんでダッジさんは、そんなに嬉しそうなんですか!」


ニヤニヤした表情をしたままのダッジさん。その顔を見てると、だんだん腹が立ってきた。


「いや、お前らがアイテムに固執してミスをするような事がなかったのが嬉しいのさ。中にはいるんだよ、せっかく手に入れたアイテムだからって、命の危険を顧みずに、結果として大怪我を負って引退……とかな」


そうか、ダッジさんは純粋に俺の事を心配してくれたみたいだ。だったら、そのニヤニヤした表情を止めていただきたい。


「……ふっ、時間があったら少し俺に付き合わないか?」


「えっ?」


「まだ資料と睨めっこするって言うなら、別の時にするが……どうだ?」


これは、俺に稽古をつけてくれるって事かな?逃げ帰ってしょげてると思われたかな。でも、自分でも不思議なんだけど、思ったほどに気持ちが沈んでない。これは、自分の決断が間違ってなかったから嬉しいって事なのか?何にしろ、深く考えるのは俺の仕事じゃない。久々に、何も考えずにダッジさんと殴り合ってみるか。


「……お願いします」


「よし!なら、今から訓練場に来い」


そう言って、自分はさっさと資料室から出てしまう。そんなに慌てなくてもいいのに……。


「ふふ、ダッジさんって本が苦手なのよ。必要だからってたまに来るんだけど、それでも必要以上に時間をかけずに、目的の物を調べ終わったらすぐに出て行ってしまうわ。私としては、ダッジさんにも、もっとここの有用性を知ってほしいのだけど……」


「まあ、ダッジさんが知的に本を読んでる姿なんて、まったく想像できないですけどね」


「ふふふ、それは少しダッジさんに失礼よ」


仕方ない。だってダッジさんなんだから。とりあえず、一通りの情報はメモできたので、マテラさんにお暇を告げて外に出る。その足で、そのまま訓練場へ向かう。そこには、訓練場中央に仁王立ちするダッジさんの姿が……。


「遅かったな……」


「まだ情報集めが途中だったんですよ。それよりも、早速訓練を始めましょう」


「よし、じゃあ構えろ」


ダッジさんも腰を落として構える。ただその前に、この訓練の趣旨を知りたい。


「なんで突然、訓練を付けてやるなんて言ったんですか?」


「俺の気まぐれだ。良いから少し付き合え」


これは、どうあっても訓練に付き合わせるつもりだな。俺としても、最近鈍ってたからちょうどいい。ここで我武者羅に動いて、少しはストレスを発散させよう。


「じゃあ、行きますよ!」





30分後、そこには身動き一つできずに大の字で倒れ込む俺がいた。くそ、30分しかダッジさんと打ち合えなかった。完全に鈍ってるな……。


「お前、リーダーになって少し考え過ぎなんじゃないか?今までのお前は、我武者羅なバカだったが、今のお前は物事考え過ぎて先行きに不安を感じてるだけに見えるぞ。確かにリーダーが、パーティメンバーの命に責任を感じるのも解る。だが、その結果お前の良い所を殺してしまっているなら、それは全くの無意味だ。だから、今は何も考えずに打ち込んで来い!」


俺、色々上手くやろうとして空回ってたのかもしれない。確かにできない事までやろうとして、結局何もできないでいた。今までの俺だったら、すぐにでも願いの塔に再挑戦してたな。そう考えると、すこし……いや、かなり似合わない事をしていたように思える。


「……じゃあ、今日はとことん付き合ってもらいますよ!」


ダッジさんでは、デビルディアの仮想敵になりえないけど、その前のジャイアント・グリズリーを想定してなら訓練になる……いや、違うな。こう考えることが、余計な思考って事なんだろう。そう言う頭脳戦は、アサギに一任してある。俺は現れた魔物を何にも考えずに打ち倒していた方が、らしいって事だ。


「……行くぜ、おらぁ!」


速度でダッジさんを翻弄する。だけどさすがダッジさん。俺の速度にもキッチリ反応している。でもそんな事気にしない。とにかく手数を多く、何も勘げずに打つ・打つ・打つ!


「……ほう、だんだんらしくなってきたじゃないか。その調子で打ち込んでこい!」


その日は、日が暮れるまでダッジさんと訓練場で訓練をした。そのお蔭か、ギルドに来るまでの暗い気持ちはもうない。久しぶりに、思いっきりダッジさんとスパーをして吹っ切れたかもしれない。この調子で、明日は絶対に結果を残す!

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