20話 エピローグ
施設を出ると外は薄暗かった。地球と違って時計が無いから、今が宵の口なのか明け方なのか解らない。
「くっ、かぁぁぁ~……あぁ、疲れた……」
「お疲れさまだね」
「わんわん!」
あのゴーレムを倒した後、俺達はその場で野営準備を始めた。だって、あそこの空間は間違いなく安全だと思ったから。まさか、最後の試練をクリアした後に夜襲も無いだろうと、みんなで相談して決めた。そして何事もなく朝?を迎え、俺達は来た道を戻ろうとした。
「でも、まさかあんなショートカットがあるとはな。元来た道を戻らなくて良かったのはラッキーだった」
「そうだね。素直に戻ろうとすると、同じ5日くらいかかったんじゃない?そもそも、私たちトラップを全然解除してないから、行きと同じだけ時間がかかったろうしね」
そう、あの部屋の奥に入り口まで直通で繋がってる隠し通路があったのだ。その道を使って、わずか数時間で俺達は入り口まで戻ってこれた。行きに5日かかってたのが馬鹿らしくなるくらい簡単だった。
「ところで、誰も居ねえんだけど……これからどうすんだ?」
カメリアに言われて、当たりを見回した。来た時にいたギルドの人たちは見当たらない。ひょっとしたら、今は夜で誰もいないとか?
「あの人たち居ないと、この目の前の門って……」
「……開かないんじゃない?」
アサギと2人で顔を見合わせ、慌てて門に縋り付く。
ガシャ、ガシャ!
「くっ、やっぱり閉まってる!」
「そんな、私たちずっとここで朝を待たなきゃいけないの?」
俺達が中に入ってるのが解ってるんだから、せめて見張りくらい立たせとけよ。これ、無事に帰ってこれたから良かったけど、怪我して戻ってきてたら気付かれないで大変な事になってたんじゃないか?
「……そんな、ずっと見張ってるみたいなこと言ってたのに」
「けっ、所詮目の届かない所なんてこんなもんだよ」
さて困った。別に朝まで待っても良いんだけど、明らかにギルド側の落ち度に付き合わされるのは嫌だ。こうなったら……。
「……なあ、いい案があるんだけど」
自分では解らないけど、きっと今の俺は凄く邪悪な笑い方をしていると思う。これからやろうとしている事を、アサギとカメリアに説明する。
「……うふふ、そうね。悪いのは向うだもの、仕方ないわね」
「へへっ、アサギ……お前すげえ顔してるぞ」
「ふふふ、カメリアには言われたくないわ。今のあなたの顔、凄いことになってるわよ」
「……へへへ」
「……うふふふ」
自分で言っておいてなんだけど、なんでうちのパーティメンバーは悪い事をするとき、こんなに良い表情になるんだろう。
「……よし、いくぞ。せぇの~…………」
「「「しょくいんさ~ん!!!」」」
ガシャガシャガシャガシャガシャガシャ!!!
声を限りにギルド職員を呼び出す。ポロンは、自分の耳を前脚で抑えて蹲る。ごめんな、ポロン。悪いのは全部ギルド職員だから。
「「「………………」」」
しばらくすると、小屋の中に灯りがともる。そして、中から慌てて人が出てきた。
「お、おお……お前さん達か。無事に戻ったようだな。ただ……次からは、もう少し声を抑えてくれんか?ビックリして、ベッドから落ちてしまった」
「あらぁ、羨ましいですね。ベッドで寝てるなんて……私たちは、やっと外に出て来たのに締め出しを喰らっていたって言うのに……」
仄暗い表情で、アサギが職員を問い詰める。矛先を向けられた職員はタジタジだ。そりゃそうだ、本来は誰かがここにいないといけなかったのに、誰もいなかったんだ。これは完全に職務放棄だ。
「とにかく、早くここから出してください」
「あ、ああ……今すぐに」
慌ててズボンのポケットから鍵束を取り出す職員。震える手で、何度か失敗しながら何とか鍵を開ける。そして、俺達を迎え入れるように扉を開く。
「ど、どうぞ……」
「ありがとうございます」
一点の曇りもない笑顔で職員を見るアサギ。なんて綺麗な笑顔だ。だけど、どうしてだろう……震えが止まらない。俺でこうなんだから、直接向けられた職員の方は金縛りにあったように直立不動で動かない。
「では、これを……」
代表して、アサギがゴーレムが居た部屋の奥にあった証明書を職員に見せる。すると職員は、ブリキのような動作で証明書を受け取ると、慌てて小屋の中に入っていった。
「あんまり、脅かしてやるなよ」
「別に脅かしてなんかいないわ。それに、あれが彼らの仕事なんだから。私は、ただ真摯に行動してほしいと願っただけよ」
そう言うアサギだけど、未だに笑顔が張り付いたままだ。やめて、マジで怖いから。見ろ、ポロンが尻尾を股の間に挟んで震えてるじゃないか。俺はポロンを招き寄せて、優しく身体を撫でてやる。ポロンも、少しでも俺との接点が欲しいのか、いつも以上に身体に纏わりついてくる。よしよし、怖かったな。
「昔っから、怒ると一番怖かったからな」
遠くを見つめながら、カメリアが言う。普段大人しい奴ほど、怒ると怖いって言うけど……アサギに対しては見事に当て嵌まる。あの職員さん、これでトラウマになったりしないかな。しばらく待っていると、小屋から走って職員さんが戻って来た。いや、別に走ってこなくても……。
「はぁ……はぁ……お、お待たせ致しました。こちらをお持ちください」
そう言って、職員さんはアサギが渡した証明書を、俺達に再度渡してきた。見ると、一番下に職員の判が押してある。これは、間違いなく俺達が施設の中から証明書を取ってきたって証なんだろう。あとは、これをリーザスにある探索者ギルドに持っていくだけだ。
「ありがとうございます。では行きましょうか、ホクトくん。カメリア」
「あ、ああ……」
気圧されつつも、リーダーとして先頭を歩き出す。というよりも、一刻も早くアサギの視界から逃げ出したかった。ポロンは、俺の横にピッタリと張り付き、次いでカメリア。最後にアサギの順で、俺達は試験会場を後にした。
途中、休憩をとりつつゆっくり歩いていると、遠くにリーザスの外壁が見えてきた。やっと戻ってこれた。リーザスを出てから、約1週間。あの証明書を提出すれば、俺達は晴れて探索者の一員だ。
「はぁ、やっと帰ってこれたわね……」
後ろからアサギの声がする。今ではすっかり機嫌も戻って、いつものアサギだ。ポロンもアサギの横をゆっくりと歩いている。試験会場を出てしばらく歩いても、ポロンはアサギに近づかなかった。それに気づいたアサギが、ポロンに怖がらせたことを謝って何とか元の関係に戻っていた。それでも、アサギの横を歩くポロンの歩調がしばらくおかしかったのは仕方ないだろう。
西門を潜って、探索者ギルドに向かう。そして、俺を先頭にギルドの中に入って最初に相手をしてくれたカリンさんを見つける。向うもこっちに気付いて、軽く手を振ってくれた。今日もギルドの中は静かだ。本当に、この街に探索者が多くいるんだろうか?
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「はい、何とか証明書を手に入れることができました」
そう言って、カバンから証明書を取り出しカリンさんに渡す。それをカリンさんは、紐解いて中身を確認する。
「……はい、確かに。それではギルドカードを発行するので、皆様の冒険者ギルドカードをお渡し願えますか?」
「え、冒険者ギルドのカードも必要なんですか?」
「はい。2枚別々に持つ意味もありませんから。探索者ギルドのカードを持っていると言う事は、冒険者ギルドのカードも持っていると言う事。なので、探索者ギルドのカードを作成するときに統合するようになったのです」
そうだったのか。俺達は、各々自分の冒険者ギルドカードをカリンさんに渡す。
「確かに。では、少々お待ち下さい」
そう言ってカリンさんはカウンターの奥に消えていった。これから手続きをしてくれるみたいだ。
「これでアタイも探索者か……なんか、実感が湧かないな」
「俺もだ。だけど、これでやっと願いの塔に入る事ができるんだ。実際に中に入ったら、実感が湧くかもしれないな」
待ってる間、3人で雑談に興じる。ポロンは外で待っててもらっている。今回の殊勲賞は間違いなくポロンなんだけどな。動物でもギルドカードって発行してくれないかな?これからも、一緒に願いの塔に潜るんだし……ダメもとで聞いてみるか。そんな感じにしばらく待っていると、カリンさんが戻って来た。
「お待たせしました。猛炎の拳の皆さま、こちらが皆様の探索者ギルドカードになります」
カリンさんから手渡されたカードを受け取る。見ると、確かに探索者ギルドって書いてある。そして、その下に自分の名前『ホクト・ミシマ』の記述、更には探索者ランクを現すFのマーク。これが、俺の探索者ギルドカードか。ジワジワと感動がこみ上げてくる。やっと、やっとここまで来れた。皆静かに自分のカードを見ているから、ひとりだけ浮かれる訳にもいかない。俺は、心の中で小さくガッツポーズを決めた。
「あ、ここにあるマークはCになってる。これって、冒険者ランクですか?」
「はい、冒険者ギルドのカードも統合されたので、こちらに併記されます」
あ、ほんとだ。よく見れば、俺のカードにも探索者ランクの下にCのマークがある。これが冒険者の方のランクか。慣れないうちは間違えそうだけど、おいおい慣れていくだろう。
「そうだ。カリンさん、ちょっと聞きたいんですけど……」
「はい、何でしょう」
「実は、今回俺達と一緒にポロン……俺のペットが試験を受けたんですよ。で、あいつがトラップの位置を見破ったから俺たちは奥まで進めたんです。あいつにもカードを発行する事ってできませんか?」
「えっ?ペットにギルドカードをですか!?」
凄い驚かれた。まあ、普通はペットにギルドカードなんて作らないよな。ただ、あいつは白狼種。これからも、俺達と一緒に願いの塔に潜るんだ。中に入るのを止められる可能性を考えると、同じようにカードを作っておきたい。
「そうですね……前例がありませんが……。あの、本当にトラップを見抜いたんですか?」
「それは間違いなく。私は、ポロンからトラップの見分け方を教わりましたから」
「犬がトラップを……」
犬じゃなくて白狼種だけどね。ここで本当の事は言えないから、間違いを訂正できないのがもどかしい。
「一応、上司に相談してみます。ですがあまり期待はしないでくださいね」
「ありがとうございます。こちらとしては、願いの塔に入るのにポロンだけが止められるのさえ回避できればいいので」
「あぁ、そういう事ですか。では、ギルドの方から願いの塔へ報告しておきます。そのポロンちゃん……でしたか?何か特徴を教えてもらえれば、大丈夫だと思います」
「名前はポロン、一応狼です。体毛は白、シミひとつない真っ白な毛が特徴です」
多分、一度見たら間違えようがないよな。あと、犬ではなく狼って事にした。ああ見えて、ポロンは犬と間違えられると拗ねる。その拗ねてる様も可愛いんだけど、機嫌を戻すまでが大変だから、ちゃんと言っておこう。
「ポロンちゃん、真っ白な体毛っと。はい、承りました。同時に上司へも確認を取ります。こちらはしばらくかかると思います。現在、私の上司が出張中なので戻るまでは待っていただく事になります」
「わかりました。ポロンの事、よろしくお願いします」
「以上でよろしいですか?では改めまして、猛炎の拳の皆さま、探索者合格おめでとうございます。これからよろしくお願いいたします」
カリンさんに祝いの言葉をもらって、俺達はギルドの外に出た。ポロンと合流して、ギルドを離れる。
「さて、これから時間ができたけど……みんな予定とかあるか?」
「そりゃ、合格祝いだろ!」
「そうね。せっかくだし、みんなでパァーっといきましょう」
「なら、顔見知りに声かけるか。ハンナちゃんたちにノルンさん、ゴドーにダッジさん……他誰かいるか?」
「まずは場所を決めましょう。ノルンを呼ぶなら、どうせ夜にならないと身体が空かないでしょうから。その間に色々準備を進めましょう」
折角の祝い事だ。できれば、多くの人と分かち合いたい。俺達は、騒ぐ場所と呼ぶメンバーを相談しながら決めていく。早くみんなに探索者になった事を報告したい。そう思いつつ、各々準備に取り掛かった。
名前:ホクト・ミシマ
性別:男
年齢:17
レベル:45
職業:拳闘士(Lv8)
冒険者ランク:C
探索者ランク:F NEW
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体力 :359(+10) +4↑
精神力:219(+10)
攻撃力:228(+20)
防御力:227(+28)
敏捷 :458(+3) +8↑
知能 :2
魔力 :211
運 :42
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スキル:
ダーレン大陸共通言語(Lv4)
鷹の目(MAX)、集中(MAX)
気配感知(Lv6)、魔力制御(Lv6)
跳躍(Lv3)、拳術(Lv3)
隠密(Lv5)、集音(Lv4)
投擲(Lv1)NEW
ディスタンスゼロ(ユニークスキル)
・ディスタンスゼロ(ユニークスキル)
1分間、敵との距離が近ければ
近いほど攻撃力にボーナスがつく
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称号 :
初心者探索者(体力と精神力に小補正)
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装備 :
銀の籠手(攻撃力+20、防御力+8)
群青の鱗鎧(防御力+20)
グリーブ(敏捷+3)
名前:アサギ・ムラクモ
性別:女
年齢:24
レベル:46
職業:魔法使い(Lv9)
冒険者ランク:C
探索者ランク:F NEW
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体力 :144 +1↑
精神力:268 +2↑
攻撃力:108
防御力:166(+23)
敏捷 :177(+3)
知能 :281(+5)
魔力 :397(+99) +8↑
運 :94
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スキル:
ダーレン大陸共通言語(Lv5)
水魔法(Lv8)、精霊魔法(Lv5)
罠感知(Lv1)NEW
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称号 :
炎の精霊使い(魔力に中補正)
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装備 :
エルダートレントの杖(魔力+10、知能+5)
手甲(防御力+8)
魔道士のローブ(防御力+15)
天狐のピアス(魔力+50)
グリーブ(敏捷+3)
名前:カメリア・フレイム
性別:女
年齢:23
レベル:44
職業:槍士(Lv8)
冒険者ランク:C
探索者ランク:F NEW
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体力 :410(+10) +6↑
精神力:194(+25)
攻撃力:350(+30) +2↑
防御力:257(+11)
敏捷 :132(+3)
知能 :8
魔力 :91
運 :25
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スキル:
ダーレン大陸共通言語(Lv3)
槍術(Lv9)、剛力(Lv6)
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称号 :
初心者探索者(体力と精神力に小補正)
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装備 :
鬼神の朱槍(攻撃力+30、精神力+15)
手甲(防御力+8)
皮の胸当て(防御力+3)
グリーブ(敏捷+3)
これで8章も終わりとなります。
少し短いですが、スタンピード編が異常に長かったので、新章はこれくらいから始めます。
そして……やっと、やっとホクトが探索者になりました。
投稿を始めて、気付いたら半年が経っていましたが何とかここまで書くことができました。
次章からいよいよ願いの塔に挑戦します。
あ、その前に1話だけ間章を挟みます。
これからも、お付き合いいただければ幸いです。
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引き続きよろしくお願いいたします。




