14話 油断大敵
ポロンの意外な特技を発見してから、ダンジョンの攻略は思いのほか順調だった。トラップを見かけるとポロンがひと吠えするから、俺達もその場でトラップを探すようになった。ただ、ポロンが吠えことでトラップがあるってのは解るんだけど、これが巧みに隠されてて……ハッキリ言って、ポロンがいなければ見つけられる気がしない。
「あ、あそこの床。よく見ると他と色が違うわ」
アサギが何かを見つけたようで、トラップと思わしき場所を指さす。その指の先をよく見る……んだけど、違うか?
「……俺には違いが解らないぞ。本当にそこにトラップがあるのか?」
「絶対あれよ。ね、ポロン」
「わん!」
ポロンが嬉しそうな声で鳴く。どうやら正解みたいだ。ここまでで、すでに5つのトラップを見つけてきた。どれも触れないように避けて来たから、どんなトラップだったのかは不明だけど、その全てがアサギが見つけた物だ。ポロンというサポーターがいるとは言え、アサギもトラップを見つけるまでの時間が短くなってきた。明らかに慣れてきている。そして、俺はというと……。
「……ダメだ。言われても全然違いが解らない。カメリアは解るか?」
「……ん?何か言ったか?」
俺とカメリアは全敗。カメリアに至っては、すでに探すことを放棄している。まあ、俺も段々不毛に感じて来ていたところだ。これ絶対相性があるって……。俺もカメリアみたいに考えるのを止めるか。
「大丈夫だよホクトくん。諦めなければ、いつかきっと解るようになるって。私だって最初は全然解らなかったけど、今は何となく解るようになってきたよ」
「それは、アサギに才能があったって事だろ。実際、俺はここまでのトラップが全然見えない。アサギに指摘されても解らないんだ。これって、純粋にトラップ探しの才能が無いって事だろ」
「う~ん……そんな事無いと思うけど。きっと、何かの拍子に突然解るようになると思うよ。私の場合、3つ前のトラップで突然違いが解るようになったの。だからホクトくんも諦めないで……」
継続は力なり……か。まあ、できないから諦めるってのは俺らしくない。少なくとも、この施設を出るくらいまでは足掻いてみるか。その後、アサギがトラップの設置された床に少量の水をぶつけたことで、やっとトラップの位置が解った。
「……カメリアには、あの違いが解ったか?」
「いや、全然。まあ良いんじゃねえの?アタイが解らなくても、このパーティにはポロンとアサギがいるんだ。アタイは言われたところを迂回すればいいって事だけ解ってれば問題ない。さあ、とっとと先に進もうぜ」
相変わらず漢らしい思考の持ち主だな。ああやって、できる事とできない事をキッチリ分けて、できない事はスッパリ諦めるのもカメリアの長所と言えば長所か。
ポロンが迂回して先に進み、その後をアサギが追従する。そう、ポロンの次は俺じゃなくてアサギになった。これはアサギから言い出したことで、少しでもトラップ発見までの時間を短縮したいらしい。あくまでポロンが見つけてからって条件付きだけど、アサギは確実に上達していってると思う。そして、俺とカメリアは完全にお荷物状態だ。
臆することなく歩いていたポロンが立ち止まる。そして一声。
「わん!」
どうやら、またトラップを見つけたらしい。
「あ、解った!そこでしょ」
そう言って、アサギが水を地面に打つ。ポロンが嬉しそうにアサギに纏わりついているところを見ると、どうやら正解だったみたいだ。はぁ、本当に速くなったなアサギの奴。そして、今回も俺には違いが全く解らなかった……精進が足りないな。
「そこにトラップがあるんだな。なら、態々遠回りしなくても飛び越しちまえばいいじゃねえか」
そう言って、カメリアがアサギが水を打ち込んだ床を飛び越すため、助走をつけてジャンプした。
「わうわう!」
すると、突然ポロンが強烈に吠え始める。
「えっ?」
俺もアサギも、ポロンが何を言いたいのか解らなかった。だけど、カメリアの方を向いて吠え続けているところを見ると、カメリアに何かがあるみたいだ。
「カメリア止まれ!ポロンが警戒している」
「大丈夫だって……これくらい、アタイにかかればひとっ跳びだぜ」
数歩の助走を経て、カメリアが跳躍する。さすがに身体能力のポテンシャルが高いカメリア。本気で飛んでないのに、トラップのあると思われる場所を余裕で飛び越した。そして……着地と同時に足元の床が消えて、カメリアも一緒に姿を消した。
「……はっ?」
「カ、カメリア!?」
「わうわう!」
突然消えたカメリア。原因は、間違いなく足元に開いた穴だろう。俺達は、トラップを気持ち大きめに迂回して、カメリアが消えた穴まで走る。そして、穴の淵から中を覗くと……。
「………………」
穴の中で仁王立ちして、全身ゲル状の何かに塗れたカメリアの姿を見つけた。とりあえず怪我とかはしてなさそうだ。それについてはホッとしたけど、肝心のカメリアの反応がない。
「お、おいカメリア!大丈夫か?怪我とかしてないか?」
恐る恐るカメリアに確認を取る。
「…………」
だけど、カメリアからの反応は無い。見れば、身体が小刻みに震えている。これは、あのゲル状の何かのせいなのか?カメリアは、こっちに背中を向けてるから表情も読み取れない。
「お、おい……」
「カメリア、大丈夫?」
そしてついに、ゆっくりとこっちに向き直るカメリア。ギギギギ……ブリキ人形みたいに、ゆっくり振り返ったその顔は、茹ダコのように真っ赤になっていた。
「わ、笑いたければ笑え!」
あ、ただ醜態を晒して恥ずかしくなってただけか。ったく、ビックリさせやがって……。
「ほら、そんな所で意固地になってないで掴まれよ」
穴の淵から手を伸ばしてカメリアに促す。ゲル状の何かのせいで動き難いのか、こっちに近づいてくるカメリアの動作は、随分と緩慢だった。右足、左足、右、左……足を上げて、ゲルから足先を引き上げる。そして、一歩前に出る。カメかって言いたくなるくらい遅い。そして遂に、カメリアは俺の手を掴んだ。俺の方も、一気にカメリアを引っ張り上げる。
「ぐぐぐ……ファイト!いっぱあ~つ!!!」
全ての力を、カメリアを掴んだ腕に集約する。そして、カメリアの腰が少しだけ浮かび上がったのを確認して、一気にカメリアを引っ張り上げた。
「おっらぁぁぁ!」
ズボッ……
何とか穴の外まで引っ張り上げたカメリアだったけど、ゲル状の何かのせいで全身グチョグチョのヌチャヌチャだ。正直、近づきたくない……。
「だ、大丈夫?」
アサギが心配して声をかけるけど、カメリアに反応は無い。
「別に恥ずかしがる必要ないだろ。ここまで来て初めてトラップに引っ掛かったけど、別に俺たちは探索の初心者なんだ。最奥に行くまでに、これから何度もトラップに嵌ると思うぞ。その度に、そんなに恥ずかしがってちゃ身体が持たないぞ」
「……うるせえ。しばらくアタイに近づくな」
あ~あ、不貞腐れちゃった。アサギの方に視線を向けると、アサギも呆れたのか若干苦笑いになってる。それにしても、このトラップ……確かに殺傷能力は無いけど、命があってラッキーなんて思いたくもないくらい酷い。
「……で、結局今のは何だったんだ?」
「多分、私たちが見つけたトラップを飛び越す輩を罠に嵌めるために、二重にトラップが仕掛けられてたんだと思う」
「わう」
ポロンも肯定しているから、多分アサギの推測があってるんだろう。それにしても嫌らしい。罠を見つけて気を抜いた瞬間を狙った多重トラップ。これを考えた奴は、絶対性格がひん曲がってそうだ。
「多分、あのゲル状のものを浴びても害は無さそう。ただし、耐えられないくらいに気持ち悪そうね。私だったら、その場で蹲る自信があるわ」
「そんな事を自信満々に言うなよ……」
しばらく必死にゲル状の何かを取り除いていたカメリアの準備が終わったみたいだ。その頃には大分落ち着いたのか、いつものカメリアに戻っていた。
「ああ、思い出すのも恥ずかしい」
どうやら外傷は無いみたいだ。胸を撫で下ろしつつ、カメリアを観察する。カメリアの身体に張り付いていたゲル状の何かは、カメリアの足元にボトボトと落ちて乾いて行ってる。
「……これに懲りたら、気を緩めるな。この施設だからこの程度で済んでるけど、願いの塔で落とし穴なんかに落ちてたら、下手したら死ぬんだ。これからは、今まで以上に気を引き締めて行こう」
シュンとしてしまったカメリアには悪いけど、ちょうどいいタイミングでトラップに嵌った物だと思った。中に入ってから、ポロンのお蔭でここまで嵌ることなくこれた。だけど、その結果が心の慢心に繋がってしまった。ここだから良かったけど、本番の願いの塔では、やり直しが効かないかもしれない。油断、ダメ、絶対。
そして、しばらくトラップに注意しつつ進むと、この施設に入ったときにあったような扉が見えてきた。ようやく、次のステージが見えて来たみたいだ。




