13話 ポロンの特技
扉から中に入ると、そこは岩肌が剥き出しの空間だった。探索者ギルドが改装をしたみたいだけど、何もかもを人工に変えないで情緒だけは残してあるみたいだ。ここって確か、元坑道だったっけ?
「さて、いよいよ試験が始まったわけだけど……正直に言っていい?」
「なに?」
「トラップメインの試験なんて、完全に想定外なんですけど!?」
そう、俺はてっきり魔物大盛りトラップ少々を想定していた。俺達のパーティにとって、一番出会いたくないダンジョンの1つだ。アサギもカメリアも、もちろん俺もトラップに関しては素人だ。ポロンに至っては手が使えないから、そもそも勘定に入ってない。
「そうね、私たちの構成では簡単にはクリアできないでしょう。だけどホクトくん、この試験のクリア条件は覚えてる?」
「え、確か……一番奥にある証明書を取って来る事だよな」
流石に俺の頭でも覚えてられる。証明書さえ取ってくれば、俺達は晴れて探索者の仲間入りだ…………って、そうか!
「トラップを解除する必要は無いんだ」
「そのとおり!確かに私たちはトラップの解除ができないけど、何も無理に解除する必要はないわ。要はトラップに引っ掛からなければいいのよ」
こういうのをコロンブスの卵って言うのか?俺には、その発想が無かった。入り口で脅されたから、どうも思考が固まっていたみたいだ。ひょっとしたら、あそこで恐怖心を呷ってミスリードしてた……とか?
「アタイは難しい事はわかんねえけど、この中じゃ戦闘は無いんだろ。ハッキリ言って、今回は役立たずだぞ」
「そんな事は無いわよ。どんなトラップがあるか解らないけど、あなたのパワーで回避できる物もきっとあるわ」
「そうか……確かに、こっちになら自信あるな」
そう言って、力こぶを作るカメリア。明らかに俺よりも力がありそうだ。カメリアがパワーなら、俺はスピードで貢献できるかもな。
「よし、ならフォーメーションを決めよう」
そうして、3人であれこれと考えた結果。今回の並び順は俺、カメリアとポロン、アサギになった。なったと言うか、結局いつも通りだ。
「結局こうなるのか……」
「一番理に適ってるからね。素早さに索敵能力があるホクトくんが先頭、ホクトくんに何かあった時の為に後ろにカメリア。トラップに嵌って怪我した時の為に、私が最後尾ね。魔物が居ないって言う事で、後ろを気にしなくていいのは助かるわ」
「決まったんなら、とっとと行こうぜ。ひょっとしたら、アタイたちが最速記録を作れるかもしれねえぞ?」
カメリアは、入り口の職員から聞いたソウルの事が気になってるらしい。あいつらのパーティも、罠を解除するスキルを持ってる奴はいないはずだ。って事は、俺達と同じ行動をとった可能性が高い。あいつらにできたんだ、俺達ができない理由はないな。
「カメリア、焦る気持ちはわかるけど慎重に行きましょう。何より重視することは、トラップの発見と回避よ。無闇に進んで、取り返しのつかないトラップに引っ掛かる事だけは避けましょう」
「……わりい。ちょっと頭に血が上ってたみたいだ。そうだな、トラップに引っ掛かったら致命的なアタイたちのパーティじゃ、一番重要なのはトラップを回避する事だな。ってことで、頼んだぜホクト」
自己解決して、一気にお気楽になったカメリア。いや、お前も注意しろよ。俺1人に任せてると、本当に取り返しがつかなくなるぞ。一度後ろを振り返って、準備ができてる事を確認して前進を始める。
「いきなり致命的なトラップなんて……無いよな?」
「解らないわよ、そう思い込んでる受験者を狙ったトラップがあるかもしれない。何があるか解らない前提で進みましょう」
アサギに言われて、気を引き締める。そうだ、探索者ギルドが願いの塔に潜ることを許可するための試験だ。思い込みは止めた方が良い。しばらく一歩一歩を慎重に歩いていると、突然後ろから掴まれて進行が止まった。
「あ、なんだ?」
後ろを振り返るけど、カメリアもアサギもきょとんとして俺を見ている。あれ、2人じゃないのか?って事は……。
「ポロン?」
「ぅわふ」
俺の服の裾を咥えたまま返事をするポロン。珍しいな、ポロンが俺の邪魔をするなんて。
「いきなり咥えたら危ないだろ。構ってほしいなら、休憩の時に思いっきり構ってやるから今は我慢しろ……な?」
咥えてる裾を口から外そうとすると……。
「ぅわふ……ぼふぅ」
イヤイヤをして、抵抗するポロン。本当にどうしたんだ?こんな事をする子じゃ無かったのに。上げていた足を下ろして、ポロンに向き直る。しゃがんでポロンと視線を合わせるて、注意をしようとして気付いた。
「…………」
ポロンも、俺の方をじーっと見つめている。これは、何かを俺に伝えたいときの仕草だ。ひょっとして、裾を咥えたのも何かを俺に言いたかったのか?
「……どうしたポロン、俺に何か伝えたいのか?」
ポロンが俺達の言ってる事を理解しているのは、パーティメンバー全員の共通認識だ。やっぱり、伊達に白狼種の子供じゃない。知能も半端なく高い。そんなポロンが、俺に何かを伝えようとしている。でも、一体何を…………。
「わんっ!」
一声鳴いて、ポロンが突然走り出した。
「お、おいポロン!」
あまりに突然で、静止が間に合わなかった。矢のように加速して、ポロンが俺を追い抜いて走っていく。すると……。
ガキン!
「えっ!?」
「きゃっ!」
ポロンが通り抜けた直後に、ポロンの後ろ脚があった部分の床が窪んだ。そして、ちょうど人間の……というか、俺の肩くらいの高さを何かが通過して壁に当たった。それを確認して、何食わぬ顔で戻って来るポロン。
「「「…………」」」
全員声が出ない。そりゃそうだ、いきなり過ぎて何が起こったのか解らない。壁を見れば、何かがあったった部分から小石が壁を離れて地面に落ちる。見た目以上に威力があったみたいだ。あんなのが、肩に当たってたら……。
「い、今のは何だ?」
「……さあ。でも、あんなの喰らってたら、それだけで離脱してもおかしくないぞ」
思った以上に、危険な場所みたいだ。ひょっとしたら、全部のトラップを余裕で躱して最奥に最速で辿り着けるかも……なんて甘い考えをしていた。今ので、一気に現実を突きつけられた。やっぱり探索者ギルドは甘くない。
「それにしても……」
全員でポロンを見る。何食わぬ顔で戻ってきて、今は座った状態で耳の後ろを掻いている。この場にあって、あまりにも不釣り合いなほのぼのした空間。しまいには、欠伸までし始めるポロン。
「ポロン、お前……」
「わぅ?」
小首を傾げるポロン。近寄って、耳の後ろを掻いてやる。それだけで、トローンとした表情になる。我がパーティのマスコット。改めて、ポロンが何をしたのか思い出す。全力で走ってスイッチを一気に押した。そして、速度を落とさずに駆け抜ける。その後に、横の壁から何かが出て逆側の壁を抉るようにぶつかった。起きたことと言えば、これだけだ。そして、それが全てを物語っていた。
「トラップがあったのか……」
「そう……みたい」
「それを、ポロンが見破ったのか?」
全員ポカーンである。突然のポロンの奇行だと思ったら、まさかの罠回避。それも、恐らく俺の足を止めて自分で行ったことを考えると、ポロンは俺がトラップに嵌るのを食い止めてくれたって事だ。
「お前……どこにトラップがあるのか、分かるのか?」
「……わん!」
耳をピンと立てて、さも自慢げに一声鳴くポロン。そのポロンの余りの可愛さに、思わず頭を撫でていた。撫でられたポロンも、まるで勲章をもらったように誇らしげだ。
「お前は、凄い奴だな。まさか、設置されたトラップが分かるなんて……」
「……でも、注意した方がいいよホクトくん」
「どういう事だ?」
アサギは頭の中で整理しながら言葉を紡ぐ。
「多分、ポロンにはどこにトラップがあるのかが分かるんだと思う」
「それは俺もそう思う。だから、すげえって……」
「話は最後まで聞いて。今回のトラップは、多分床のスイッチを押すと横の壁から小石が飛び出して、スイッチを押した者を襲うものだと思う。だけどポロンは全力で駆け抜けて、それを回避しようとした」
それは、さっき俺も言っただろ。俺には、アサギが何を言いたいのか解らない。
「いい?ポロンが、トラップがどこにあるのか解っているなら、それこそ前脚でスイッチを押すだけで良かったの。だって……ポロンがスイッチを押したところで、四つん這いのポロンには壁から射出された何かが当たる訳じゃないんだから」
「あっ!?」
「それって、つまり……ポロンはトラップの場所は分かるけど、どんなトラップなのかまでは分からないって事か?」
カメリアが答えを口にする。そうか、そうだよな……余りの事に気が動転してたけど、ポロンがトラップを解除したわけじゃない。無理矢理発動させて、それを速度で無にしようとしただけだ。横からの射出だったから良かったけど、あれが足元からとか天井からの射出だったら、ひょっとしたらポロンが怪我をしていた可能性もある。
「なあポロン、お前にはトラップがどこにあるのか分かったんだろ?」
「わん!」
自信満々に答えるポロン。確かに凄いことをした。俺の自慢の相棒だ。だけど、これからの事を考えると、俺はポロンを叱らないといけない。
「今回は、お前に害のあるトラップじゃ無かったから良かったけど、もし万が一にお前の速度でも回避ができないトラップだった可能性もあるんだぞ」
「わ、わぅ……」
ポロンは、多分俺の事を思ってやったんだと思う。それは素直に嬉しい。だけど、それでポロンが怪我をしたら……俺は、自分が許せなくなると思う。そんな思いをするくらいなら、ここでしっかりポロンを躾けよう。
「だからポロン、次からトラップを見つけたら鳴いてくれ。さっきは突然の事でお前の意図が分からなかったけど、次からは大丈夫だ。お前が鳴いたら、近くにトラップがあるってみんなが気付く。なあ?」
「そうよポロン。あなただけが危ない目に合う必要は無いの」
「アタイたちはチームだ。誰か1人を犠牲にして安穏としてられるほど、薄情じゃねえぞ」
俺の他に、アサギにもカメリアにも言われて、寂しそうな顔をするポロン。きっと良かれと思ってやったんだ、それは俺達全員が解ってる。だけど、お前が俺達を大事に思うように、俺達だってお前の事が大事なんだ。
「……くぅ~ん」
「泣かなくてもいいんだぞ、ポロン。お前は別に悪い事をした訳じゃない。ただ、やり方が間違ってただけだ。だからさ……」
全員で、頭を優しく撫でながら1つ1つ思いを伝えていく。
「次にお前がトラップを見つけたら、全員で取り組もう。お前だけが無理をする必要は無い」
「……わん」
俺の足の間に入って、身体を擦り付けてくるポロン。最近はハンナちゃんのナイトになったり、エスカちゃんを護衛したりと色々と大人になった気がしたポロンだけど、こう言う所はやっぱりまだまだ子供だ。なんだか少しホッとしてしまった。




