7話 探索者と冒険者
「って感じにゴドーとは話してるんですよ。で、ゴドーからダッジさんにも相談した方が良いと言われて……」
「そうか……まず、大前提として願いの塔を探索する奴で、重装備の奴は滅多にいない。これはあくまで現時点の到達階層に関しての話だがな。願いの塔に出てくる魔物で、一撃が重い奴はそんなにいない。これは、階層が下な程傾向が顕著に出るな。だから、いきなり強い装備を揃えようとせずに、まずは願いの塔で安定して探索ができる程度の装備を揃えるのが良いだろう」
最初からハイクラスを揃える必要は無いって事か。まあ、そこまで資金がある訳でも無いから、いきなりハイクラスって言われても無理だけどな。
「これには色々理由があるんだが、一番解り易いのが塔で見つかる装備品の方がグレードが高いって事だ。お前はゴドーの店で揃えているが、あいつの店に置いてある装備品はまだ良い方だ。他の店だと、そもそも探索者としてやっていくには厳しいレベルの装備品しか置いてない場合もある。そう言う意味では、ゴドーと懇意にしているのは僥倖だ」
「まあ、狙って仲良くなった訳じゃないですけどね」
「あの男と狙って贔屓になれた奴なんかいないさ。一癖も二癖もある奴だからな。とまあ、店選びの段階でお前はかなり有利なわけだが……残念ながら、ゴドーでも限界はある。俺は実際に塔に入ったことが無いから、又聞きになるが……店で売っている程度の装備品では、10階層も上がれば使い物にならなくなるらしい」
「そんなに寿命が短くなるんですか?」
それでは、いくら稼いでも全部装備品の代金に消えそうだ。アサギなんかは、まだ貯蓄があるからいいけど、俺やカメリアは残高ゼロだ。願いの塔に挑めば、挑んだだけひもじい思いをするのは勘弁してほしい。
「言っておくが、壊れるって意味じゃないぞ。グレード的に太刀打ちできなくなるらしい。願いの塔は、10階層毎に中の様子が様変わりするらしくてな。その都度、装備品のグレードを上げて行かないと、必ずどこかで詰む事になる」
「それは……厳しいですね」
「ああ。ただ、それでも潜る奴が後を絶たないのには、ちゃんと理由がある。まず宝箱。運が良ければ、探索中に見つけることができるんだが、中にはかなり値打ちのあるものが入っているらしい」
宝箱か。俺の、この銀の籠手も宝箱から出た物だ。このレベルを期待できるなら、確かに美味しいかもしれない。
「ただ、宝箱に関しては完全に運任せだ。願いの塔には、多くの探索者が挑戦している。当然、同じ階層に複数の探索者が潜る事になる訳だが、宝箱を開けられるのは、その中の一組だけだ。誰かが解除している宝箱を、横取りすることはできない」
「できないんですか?ゴドーから聞いた話じゃ、盗賊紛いの奴とかもいるらしいじゃないですか」
「まあな、確かに手に入れた物を強奪するのはできなくはない。とは言え、探索者ギルドもバカじゃない。そんな事をしたと疑いがかかるだけでも、その探索者には色々とペナルティが付く。まずは店だな、盗んだものを売りに来る可能性があるから、そもそも取引を敬遠するようになる。それに、ギルドからも監視者がつく。これに拒否権は無いから、行動に制限が付く。だから、真っ当な探索者ってのは宝箱を開けている探索者には近づかないものだ」
真っ当な……ね。真っ当じゃないのが、探索者全体の何パーセントになるのかを知りたいな。全体の1パーセント程度なら、気にするだけ無駄だ。事故にあったと思うしかない。だけど、それが30パーセントだ50パーセントだとなると話が変わって来る。強盗や追い剥ぎに常に気を配らなければいけなくなる。それは、かなり精神をすり減らす行為だ。探索者ギルドがまともな組織なら、そんな事にはなってないと期待しよう。
「大丈夫よ。探索者ギルドもバカじゃないわ。探索者から齎される素材や、アイテムは常に高値で取引されるものばかり。それを、常に狙われているとなると探索者の数が減ってしまうから、かなり気を遣っているわ。だから、ホクトさんが気にするほどの脅威ではないわよ」
別々の組織とは言え、そこは同じ町のギルド同士。ノルンさんは色々と、探索者ギルドの事も知ってそうだ。見れば食事は終わったのか、今はお茶を飲んで寛いでいる。ちょうどいいや、ノルンさんに聞こうと思ってたことを聞いてしまおう。
「ノルンさんに聞きたかったんですよ。今リーザスの町にCランクの冒険者ってどれくらいいるんですか?そして、その中の何人くらいが探索者をやってるんですか?」
「ああ、それが聞きたくて私を食事に誘ったのね。もう……せっかく、ホクトさんから食事に誘われたと思ってウキウキしてたのに。浮かれてた自分が恥ずかしいわ……」
「あの、ごめんなさい。でも、これから探索者になろうと思った時に、色々教えてくれそうなのがノルンさんしか思いつかなかったんです。勘違いさせてしまった事は謝りますから、教えてもらえませんか?」
「……はぁ、そんな顔でお願いされたら、お姉さん断れないじゃない」
ノルンさんは、苦笑しながら俺に向かって笑いかけてくれた。何か知らないけど、許してくれたらしい。
「今リーザスの町に所在があるCランクの冒険者は、全部で237人。そのうち、探索者として登録しているのは100人程度ね。これにBランク以上も併せて、探索者の数は150人くらいよ」
「237人……結構多いんですね」
「願いの塔があるリーザスだからね。他の町、特に小さい町ではCランク冒険者が、一番ランクが高いなんて事もざらよ。しかも、町に1人か2人くらいでしょうね。この前のスタンピードでも、多くの町から冒険者が助っ人で来てくれたけど、そのほとんどはDランク以下の冒険者たちだったでしょ。全体として、Cランク以上の冒険者の数は多くないの」
てっきり50人くらいだと思ってた。でも、よくよく考えれば願いの塔はダーレン大陸にいる冒険者たちの憧れだ。その塔があるリーザスに、探索者が集まるのは自然な事か。逆に言うとCランク以上の冒険者で、探索者の資格を持たない冒険者の数が多いともいえる。意外と、みんな願いの塔に興味が無いのかな。
「お前が何を考えているのか、その顔を見れば一目瞭然だな。言っておくがな、探索者になろうなんて考える奴は、頭がどこかぶっ飛んだ奴だけだ。考えても見ろ、Cランク以上……特にBランク以上になれば、指名依頼が入る事も多くなる。指名依頼は報酬が高いからな。それだけでも、大金を手に入れる可能性は高い。Cランクでも、ある程度裕福な生活は十分にできる。Cランクで数年頑張って、引退後に第二の人生をスタートする奴だって、かなりの数に上る。だから探索者ってのは、そんな安定した未来を蹴ってまで一攫千金を夢見る馬鹿どもって事だ」
ダッジさんが、身も蓋もない事を言う。確かに、この世界の人からすると、願いの塔に挑戦するってのはギャンブルに近いのかもしれない。約束された成功よりも、更に上を目指す者。確かにギャンブルだな。でも、俺は他の冒険者たちと違う。ギャンブルではなく、未来を勝ち取るために挑戦するんだ。
「……ふぅ、これだけ言っても考えは変わらないか」
「ダッジさんは、俺が願いの塔に挑戦するのは反対ですか?」
「止めはしないがな。良い事だとも思ってない。お前なら、Bランク……いや、Aランクまで上り詰める事ができる人材だと俺は考える。それが、態々危険な願いの塔に挑戦するって言うんだ。説得したくもなる」
「私もダッジさんの意見に賛成ね。あなたが考えている以上に、願いの塔への挑戦は危険が多いわ。そんな無茶をしなくても、あなたたちなら成功できると私は確信している。でも……まあ、仕方ないわね。あなたは、最初からそのつもりだったようだし……」
「なんか、すいません。2人には、こうやって相談に乗ってもらっているのに」
本当に頭が上がらない。2人とも、俺達の願いの塔挑戦に反対と明言をしてまで俺に色々な情報をくれている。それは、いくら言葉で言っても、俺達が探索者になる事を諦めるとは思ってないからだろう。俺は、2人の気持ちを解っていながら裏切る様な行為をしているんだ。
「……話が逸れたな。装備品についてだが、俺が言えることは状況に合わせて新調しろと言う事だ。最初から最上を目指すんじゃ無く、塔の内部で見つけたアイテムや、素材を使って強くしていけばいい」
場がしんみりしたことを悟ったダッジさんが、切り替える意味も込めて話を装備品に戻した。いきなりぶった切るような話題転換だったけど、こっちとしても有り難かった。
「素材を持って来れば、例えばゴドーでも今よりも強い装備を作れるんですか?」
「まあ、ゴドー次第だができるだろう。装備品のグレードなんてのは、素材と鍛冶師の技術でほとんど決まる。この町にゴドー以上の鍛冶師がいるかと言われると、俺は聞いたことが無いな。そのゴドーですら作れないのであれば、それは特別難しい装備と言う事だ」
願いの塔に潜って、強い敵から素材を剥ぎ取る。その素材をゴドーに持っていって、装備品の強化をしてもらう。そして更に強い敵と戦い素材を得る、このサイクルか。確かに、それなら最初から強い装備は必要ない。最低限、死なない装備を最初に用意すればいいだけだ。
「こんな感じのアドバイスで、役に立ったか?」
「はい!朧気だったイメージがハッキリしました。ダッジさんに聞いてよかったです」
「あら、私には感謝の言葉は無いの?」
茶目っ気たっぷりにウインクしながらノルンさんが聞いてくる。この人の、こういうお茶目な部分は初めて見た。でも、美人がやるとウインクの破壊力はヤバイな。
「ノルンさんもありがとうございました。大事な休憩時間だったはずなのに……」
「そう言う気の遣い方は不要よ。ここは、素直なお礼だけで十分」
リーザスに来て、俺を支えてくれる多くの人に出会えた。これは、間違いなく俺の宝物だ。そんな人たちの反対を蹴ってまで、俺は願いの塔の踏破を目指すんだ。生半可な結果で満足なんてできないぞ。
「さて、私はそろそろ戻るわ。休憩時間も終わりだし、夕方までに片さないといけない資料が多いのよね」
「俺も戻ろう。午後からも、ヒヨッ子どもの訓練があるからな」
「2人とも、ありがとうございました」
席を立つ2人に頭を下げる。そのまま一緒に席を立って店を出た。2人とは、店を出たところで別れる。
「一度アサギやカメリアとも話し合おう。どっちにしろ、今のままの俺達の装備じゃ1階層すら攻略できないかもしれない。今日仕入れた情報を共有して、明日にでも探索者ギルドに登録に行ってしまおう。どうせ、実際に願いの塔に入るのはもっと先の話だ。登録だけは、さっさと済ませてしまった方が良い」
そう考えてふと気づく。俺って、よく考えれば間近で願いの塔を見たことが無かった。リーザスの町にいると、いつも目に入って来るから、すっかり忘れていた。東京に住んでいて、東京タワーに登ったことがないのと同じ感覚だな。
「この後暇だし、行ってみるか……」




