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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
7章 続・町を守ろう
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46話 安全地帯を求めて

「小僧、説明しな。この魔物の群れは何なんだい」


全ての魔物を()()したローザさん。もう一度言おう。全ての魔物を撲殺したローザさん。いや、おかしいでしょ。なんで空を飛ぶ魔物を撲殺できるんですか?


「私の話を聞いてるか?」


余りの事に現実逃避していた俺の目の前に、鬼のような形相の鬼がいた。


「え、あっはい。実は……」


今まであった事を掻い摘んで説明する。罠に嵌められたの段階で、天を仰ぐローザさん。まあ、気持ちはわかるけど……俺達だって、必死だったんですよ。


「……事情はわかった。ったく、ダッジの奴……次に会ったらヒィヒィ言わせてやる。あいつの失敗で、私の大事な宿があんな風になったのか」


ローザさんの視線の先、そこには瓦礫と化した羊の夢枕亭が。今はミリアムさんとハンナちゃん、手伝いのエスカちゃんで使えそうなものを掘り起こしている。これから避難しなきゃいけないんで、着替えとか身の回りの小物だけだけど、そこには思い出もつまっているはず。全部終わったら、掘り起こすのを手伝おう。


「わんわん!」


ポロンが、足元に纏わりついてくる。こいつも頑張ったな。ご褒美も込めて、念入りに撫で回す。


「わぅ~、はふぅ~ん♪」


「気持ち良さそうな声出して。まあ、でも助かったよ。こうしてみんな無事だったしな。お前は、ちゃんと俺との約束を守ってくれた。ありがとうな、ポロン」


「わん!」


後ろ足で立ち上がって、俺の肩に両前足を乗せる。そして、全力の顔舐めが始まった。ペロペロ……ペロペロ……ペロペロペロペロペロペロペロペロ……。


「わ、わかった!十分お前の思いは伝わったから、もういいだろ!」


まだ舐め足りないって顔をしながら解放してくれる。良かった、顔はベチョベチョになったけど、ポロンの思いは伝わった。


「お母さん、お待たせ……って、どうしたのお兄ちゃん。顔がビチョビチョだよ?そんなに暑かった?」


「いや、ポロンの洗礼……」


「ああ……」


それだけで伝わったのか、ハンナちゃんが苦笑している。でもよかった、見る限りはそこまで悲観している感じでも無い。自分の家が無くなった後だから、どんな風に接すればいいのか迷ってたんだ。


「エスカちゃんも手伝ったんだ。偉いな」


「ううん、私にできることってこれくらいだから」


「そんな事無いよ!手伝ってくれてありがとう、エスカちゃん!」


「……うん!」


良かった、エスカちゃんも少しずつ表情が明るくなってきた。俺達と話すときも、前はよそよそしかったのが、大分砕けてきた。


「さて……準備ができたんなら、さっさとここを離れるよ。こんな所にいたら、いつまた魔物の群れに襲われるか解らないわ」


「そうですね」


そう言って、歩き出そうとしたとき……。


「おい……」


ミリアムさんがローザさんを呼び留めた。


「何よ……」


「……ほら、これ。忘れもんだ」


そう言って、ミリアムさんがローザさんに手渡したのは……宿屋の看板の欠片だった。本体は瓦礫に埋もれて、掘り起こすことはできないけど、辛うじて羊の絵が描かれた部分だけは欠片として持ってこれたようだ。俺達も毎日のように目にしていた『羊の夢枕亭』のトレードマークになっている羊。


「な、なんで……なんで、こんなもの」


「お前の宝物だろう。何があっても、これだけは持ち出さないとな」


ミリアムさんに肩を抱かれ、小刻みに震えるローザさん。普段は鬼のように、俺を殴り倒す怖い人だけど、誰よりも羊の夢枕亭を愛していた人。その宝物を失って、悲しくないわけが無かった。俺達は、誰もそれに気づいてあげられなかったけど、さすがは旦那さんだ。


「行こう、お兄ちゃん」


俺の手を取って歩き出すハンナちゃん。その気の遣い方を見て、10歳でもやっぱり女の子なんだなと妙な関心をしてしまった。





ポロンを先頭に街中を進む。その後ろに俺、さらに後ろにハンナちゃんとエスカちゃん、そしてユーリとウナ。その左右をアレクとキール、子供たちを見守るようにカメリアが後ろに立つ。ローザさんとミリアムさんは、少し後ろを歩いている。普通に考えれば、いつ魔物に襲われるか解らない街中で2人だけで歩くのは自殺行為だけど……まあ、鬼の霍乱中とはいえローザさんだ。多分大丈夫だろう。


「お父さんとお母さんは、仲いいんだな」


「そうだよ、毎日ラブラブなの。娘の私が恥ずかしいくらいに……」


はぁ……と溜息をつくハンナちゃん。何だろう、その仕草はとても10歳には見えない。アレクとキールはポカンとした顔でハンナちゃんを見ている。


「とにかく、みんなが無事で良かった」


改めて、みんなの無事を喜ぶ。その一言で、みんなどこかホッとしたように笑顔になる。そうだ、俺達冒険者がこの笑顔を守らないと。


「ところで小僧、今はどこに向かってんだ?」


追いついて来たローザさんが聞いてくる。若干目元が赤いけど、そこばかりを見ていると、殺気の籠った視線を投げかけられるので見ないようにする。オレ、ガクシュウシタ。


「今はどこも安全とは言えないです。とりあえず、冒険者ギルドに向かってますけど、他にどこか隠れるのにいい場所ってありますか?」


「そうだね……小僧の話だと、魔物たちの狙いが願いの塔みたいだから、そこからは離れた場所が良いだろうね」


「やはり、一番頑丈にできているのは冒険者ギルドだろう。あそこなら、他の冒険者もいるかもしれん」


やはり冒険者ギルドしかないか。俺としては、ノルンさんの安否が心配で、とりあえず冒険者ギルドに行こうと思ってたけど。やっぱり、町の中でも堅牢と言えば冒険者ギルドなんだな。


「ホクト!」


小さく鋭い声で、アレクが俺の名前を呼ぶ。後ろを振り返って、アレクの顔を見ると指で前方の建物の上を指し示す。見れば、屋根の向う側に何かがいる。


「あれって……隠れて、待ち伏せしてるのか?」


「多分な……全然隠れてないけど」


視線の先には、対の翼が屋根の上から生えていた。多分、本人は隠れているつもりなんだろう。まさに、頭隠して尻隠さず。


「あれは……ハーピーだな。知能は、そこまで高く無いけど群れで狩りをする魔物だ。獲物を見つけると、足の鉤爪で捕まえて上空高くまで連れていかれる。その後、身動きできない獲物を少しずつ切り刻んで行くのが奴らの戦法だ」


カメリアがハーピーの特徴を教えてくれる。どうやら、カメリアはハーピーと戦った経験があるみたいだ。戦った経験がある仲間が1人いるだけで、大分楽になる。


「この人数だ、気付かれずにやり過ごすことは無理だね。で、どうすんだ小僧」


「え、俺が決めるんですか?」


「当たり前だろ。今のお前は、このグループのリーダーなんだ」


えぇ!?俺って、いつの間にかリーダーになってた。カメリアと俺だけなら、リーダーのつもりだったけど、今はローザさんもいるしアレクとキールもいる。この面子なら、ローザさんがリーダーだと思ってた。


「ん?……何だ、まさか私がリーダーだと思ってたのか?小僧、お前冒険者だろ?冒険者が、なに一般人にリーダーやらせようとしてるんだ」


「え、ローザさんが一般人って無理g……」


ゴイィン!


「いっ!?」


「何か言ったか?」


「……いいえ、なにも」


頭に拳骨を落とされた。ジョークだと思って、ツッコミを入れようと口が滑ってしまった。


「もう!お母さんもお兄ちゃんも、何をふざけてるの?今は、そんな場合じゃないでしょ」


腰に手を当てて、仁王立ちしたままハンナちゃんがメッてしてくる。10歳の少女に怒られるとは思わなかった。


「で、どうするんだ?」


ミリアムさんは、我関せずと普段通りに寡黙に聞いてくる。お宅の奥さん、もう少し手綱をしっかり握っててくださいよ。


さて、冗談はこれくらいにして……どうしたらいい?相手が何匹いるのかもわからない今の状態で、無闇に突っ込むのがダメな事は俺でも分かる。まずは、相手の人数を把握したい。


「……ポロン」


「わう?」


ボク?って感じに首を傾げる。そう、お前だ。


「いいか、ポロン。お前はこのまま、真っすぐ歩いて行くんだ。恐らく一定距離まで近づけば、あいつらは襲い掛かってくるはず。そうしたら、一気にこっちまで走って戻って来い」


「つまり、ポロンで釣り出しをやろうってのか?」


カメリアも、俺の意図に気づいたようだ。俺は、頷いてから改めてポロンを見る。しばらくワフワフ言って考えていたポロンが、俺の顔を見て……。


「わん!」


元気に吠えた。やってくれるみたいだ。俺は、ポロンの頭を一撫でして物陰に隠れる。残りの面々も、同じように物陰に隠れる。最後にハンナちゃんが……。


「ポロン、がんばって」


激励して、ローザさんの方に走っていった。さて、準備はできた。任せたぞ、ポロン。


「わふっ」


気合を入れて?ポロンがゆっくり歩いていく。屋根の上のハーピーに反応は無い。少しずつ前進するポロン。ちょうど、俺達とハーピーの中間を超えた辺りで屋根の上のハーピーに反応があった。索敵範囲は意外に広いな。


「わふぅ……クンクン」


そこからポロンは、道端の草の臭いを嗅いだり、とても犬らしい仕草でハーピー達に近づく。


「意外だ、ポロンにあんな演技ができるなんて……」


「私が仕込みました」


ドヤ顔で俺を見るハンナちゃん。確かに、俺に隠れて色々やってるのは知ってたけど……あんな事まで仕込むなんて。ハンナちゃん、恐ろしい子。


俺が、そんなくだらない事を考えている間に、ポロンはハーピー達がいる建物のすぐ傍まで移動していた。ハーピーとの距離は、もう20mもない。さっき、チラッと動いたハーピーだったけど、今は動きが無い。


「バレたか?」


「いや、もう少し様子を見よう」


失敗したかと冷や汗をかく俺と違って、カメリアはいつでも飛び出せるように静かに前を向いている。この辺りの度胸は、男よりも女の方が強いな。


「クンクン……わふわふ」


遂に、それ以上進めなくなったポロンは、その場で毛繕いを始めてしまった。あいつも、たいがい良い度胸をしている。緊張感ゼロで、寛ぎだすポロン。それでも動かないハーピー。いよいよダメか、そう思った瞬間。


「キィイィィィ!!!」


屋根の上から、ハーピーが一斉に飛び立った。その数5匹、いや5羽か?


「よし!ポロン、戻って来い」


小さくガッツポーズをして、ポロンを手招く。ポロンもハーピーの気配には気付いていたようで、一目散に俺たちが隠れている場所まで走ってくる。


「……ホクト、ハーピーを狙う時は羽の付け根を狙え。そこを痛めると、あいつらは飛べなくなる」


「……了解」


顔はハーピー達の方に向けたまま頷く。よし、これで戦い方も分かった。後は、奇襲で一気に叩き潰す。


ポロンが、俺達の横を駆け抜けていく。釣られてきたハーピー達も、俺達がここにいることに気づかずに低空で近づいてくる。まだ、まだ……まだ……。


「今だ!」


そう掛け声をかけて、俺は一気にハーピーの眼前に飛び出す。


「キィィ!?」


突然の奇襲に驚いたハーピーは、その場でホバリングに移る。だけど、それは俺たちに取って、格好の的だ。


「はあっ!」


「せいっ!」


「死ねやっ!」


一番後ろにいたハーピーに一気に近づく。そしてボディに一発。魔力を流して、次の獲物に接近する。後ろから、羽根の付け根に蹴りを見舞う。それだけで、バランスを崩したハーピーが地面に落ちる。すかさず、延髄に膝を落として魔力を流す。これで2羽。前を見ればカメリアとローザさん、アレクにキールも飛び出していた。……ちなみに、さっきの掛け声で一番物騒なのが自称一般人のローザさんだ。


「三段突き!」


カメリアの朱槍が、次々にハーピーに突き刺さる。あれは致命傷だろう。これで3羽。カメリアが倒したハーピーが地面に落ちるより先に、それを踏み台にして宙に舞うローザさん。


「宿屋、怒りの鉄拳!」


いや、それ……ただの右ストレートっす。


「グェエェェェ……」


空中にいるハーピーを一撃で葬り去ったローザさん。これで4羽。あと1羽は……あっ。


「ガウゥ!」


駆け抜けていったポロンが、戻り様に空中にジャンプしてハーピーの喉元に食いついた。ゴキン!っと、嫌な音をさせて首が変な方向に曲がるハーピー。あれ、即死だろ。


「こっちは片付いた」


「アタイもだ」


「私も1羽倒したぞ」


「わんわん!」


待ち伏せまでしてたハーピーだったけど、今の俺達にとっては瞬殺できるレベルの魔物だったようだ。無事ハーピーとの戦闘が終了した。

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