31話 地下にある町
え、願いの塔って……。
「なんで、願いの塔が地下にあるんだよ。地上に入り口があるんだろ?だったら、あれは別の何かじゃ……」
「ううん、あれは願いの塔で間違いないよ。私たちが入り口だと思ってた部分が、実は1階じゃないって事は結構有名な話だから」
「は?地上にある入り口を入ると、1階じゃないのか?」
混乱してきた。探索者になる事で入る事の出来る願いの塔。俺の最終目的である塔の踏破、そのために俺は今冒険者として頑張っている。だけど、俺が思っている以上に願いの塔ってのは色々あるのかもしれない。
「とにかく、これでこの場所がリーザスの町の地下にあるってことが分かったわ。それにあの場所に願いの塔があるって事で、ある程度地上とのリンクもできる。私たちが入って来た方角と願いの塔の場所を考えると、あっちが北門の方角ね」
アサギに言われた方を見てみる。特にこれと言って何があるようには見えない。
「あっちに何かあるのか?」
「……はぁ、もうホクトくんしっかりしてよ。いい?司令部のあった場所に穴を使って魔物たちが侵入した。その魔物たちはどこから来たの?」
「どこって……」
そりゃ、町の外だよな。今回のスタンピードで町に向かって来た魔物たち。こいつらは、どこからきた?北だ。だから、町の防衛で一番激戦になると予想した北門にグルドさん達竜神の鉾を置いた。って事は、魔物たちは……。
「北から来た……」
「そう、そして私が指さした方角が北。これは、私たちが入って来た場所と願いの塔の位置から割り出したから間違いないと思う。こんな広い場所を闇雲に歩き回るのは時間の無駄だから、とりあえずの目的地として北を目指して見ない?」
ふむ、司令塔であるアサギの判断だ。特に却下する理由は無い。そもそも、俺にしろカメリアにしろ頭を使うのは苦手だ。そもそも俺は、アサギが言った時間の無駄の虱潰しをしようと思ってたわけだしな……。
「よし、それで行こう。隊列は引き続き、俺が前衛でアサギが中衛、カメリアは後詰で頼む」
「あいよ」
「我はどうするかの?」
天狐が俺を見上げて言う。その顔から、視線を町の方に向ける。ここって、さっきまでと違って妙に明るい。日中の家の中って程度の明るさだけど、さっきまでの闇の中から比べれば天地ほどの差がある。
「そうだな、明るさは特に必要ないからアサギの側にいてくれるか?」
「うむ、そのようにしよう」
そう言って、天狐はアサギに近づいて行って、キュッと手を握った。ああいう仕草をしているときは、年相応の子供に見えるな。もっとも、この中だと間違いなく最年長だけど。
「……ホクト、余計な事を考えておらんで、とっとと出発したらどうだ?」
「お、おう」
やべ、考えがバレてた。気を取り直して出発しよう。今俺たちがいる場所は、町の全貌を見渡せるくらい高い丘のような場所だ。今いる場所から左右に道が続いていて、それぞれ緩やかに下りながら街中へと続いている。これはどっちに行っても同じっぽいな。なら、さっきアサギが指さした北へ向かうとして近いのは……。
「左から行くか……」
左の道を選んで進む。道は緩やかな下り坂、走り抜けても足がつっかえるほどの傾斜は無い。集音を発動しつつ、街中へ入っていく。
「建物の材質は、石でできてるわね。でも、風化もしないでこんな綺麗に残ってるなんて……そんなに古い物でもないのかしら?」
確かに家の素材として使われている石は、角が欠けることも無く綺麗に整えられている。それに足元、いくら地下とは言え年月が経てば色々埋積してても良さそうなんだけど、そういったものは落ちていない。ここ、本当に古い物なのか?
「俺の眼から見ても、上の町と遜色ないな。人がいないってだけで、ゴミや埃の類も無い。今まさに建造中の町と言われても信じそうなくらい綺麗だな」
「それが、逆に怖いわね。ここは、間違いなく忘れ去られた町。遺跡と言っても間違いじゃないわよ。なのに、歴史を感じる跡がまるでないなんて……」
不思議に思いつつ町の中を歩く。聞こえてくるのは、俺達の足音だけ。魔物の気配も音もしない。本当に魔物たちは、ここから侵入してきたのだろうか?
「なあ、さっきから気になってたんだけど……この地面にある跡ってなんだ?落書き……じゃないよな。道を横断するときだけ目につくんだけど」
カメリアが唐突に言って来た。なんだ?何がそんなに珍しいんだ?足元を見てみても、特に変なものはない。地面に横断歩道の線が描かれているだけだ。
「そう言えば、そうね。こんな模様見たことも無いわ。いったい、何を意味しているのかしら?」
アサギも不思議そうに足元を見ている。だから、何がそんなに不思議なんだよ。ただ横断歩道の線が引いて……。
「!?」
そこまで行って気付いた。俺だけが不思議に感じなかった理由。当然だ、俺は地球で毎日のように見ていて慣れているせいで何も感じなかった。なんで、こっちの世界に横断歩道があるんだ?
「アサギ、カメリア……ここ、おかしいぞ」
「え、どうしたのホクトくん。って、顔が真っ青よ!」
アサギが俺に近づいてきて、顔色を窺う。だけど、それに構っている余裕は俺には無かった。
「アサギ、ここおかしいんだ!なんで、なんでここにあるんだ……」
「良いから、落ち着いてホクトくん!ほら、深呼吸……」
言われて深呼吸を繰り返す。すぅー、はぁーすぅー、はぁー……はぁ、何とか落ち着いて来た。
「それで、何があったんだよ。ホクトがいきなり血相変えたけど、ホクトはこれが何だか知ってるのか?」
カメリアが足元を指さしながら、俺に聞いてくる。この2人は俺の素性を知っている。だから、ここで隠す理由もない。
「これは横断歩道って言って、俺の世界だと歩行者が道路を横断するときに、安全に歩行者が歩く為のエリアって言えばいいのかな。こっちの世界だと馬車が沢山通る道を歩行者が横断したいときに、そこは歩行者が優先だよって知らせるための模様なんだよ」
「つまり……これは、ホクトくんの世界のものってこと?」
「こっちの世界で、2人がこれを見たことが無いって言うなら……そうなんじゃないか?少なくとも、俺はこれが横断歩道以外には見えない」
一体何なんだ、この地下街は。そう思考して気付いた。
「そうか、地下街!ここは地下街なのかもしれない」
突然俺が声をあげたんで、アサギもカメリアもビックリしている。だけど、今の発見は声をあげても仕方ない。俺もすっかり忘れてたけど、地球にも……と言うか東京にも地下に町がある場所は結構多い。渋谷や新宿の地下街なんかもそうだ。
「って、なんだよいきなり!大声出すなよホクト、ビックリしたじゃねえか」
「ああ、ゴメン。なんか突然自分の中で色々繋がっちゃって、あれもこれもって考えてたら声が出てた」
「それで、何に気付いたの?」
アサギとカメリアが好奇心に満ちた目で、俺の方を見てくる。以前にも少しだけ、俺の世界の話を2人に聞かせたことがある。その時も目をキラキラさせながら、俺の話を聞いていた。そりゃそうだ、俺からすればファンタジーすげえって事の裏返しだもんな。
「俺のいた世界、というか俺が住んでた日本って国は国土が狭くてね。それで色々試行錯誤して、人が住む建物はより高くなっていったんだよ」
「決まった空間以上に広げられないから、上に伸ばしたのね」
「そう。で、当然だけど土地代とかもとんでもない金額になって、だけどお店をしたい人たちは一杯いるけど、それを全部許容するほどの土地がない。だから……」
「地下に町を作ったの?」
「町と言うか商店街?上の町と同じだけの規模があるわけじゃない。だけど、俺の住んでた近くにもあったよ。狭い空間だけど、それが逆にワクワクさせてくれて、見てるだけで楽しかった」
日本だけじゃなく、世界にも地下街ってのがあるんだから、土地の限界だけが理由じゃないんだと思うんだよね。まあ、説明できる範囲だとこんな感じか。
「で、それとこの町とどういう関係があるんだよ」
カメリアは、頭を一生懸命捻りながら聞いてくる。そろそろ、こいつのキャパをオーバーしそうだ。
「さっきから俺たち、この町と上のリーザスの町を別々に考えていたけど、これって元々1つの町として設計されてたんじゃないかって思ったんだ」
「元々1つ?」
「そう、俺の世界で言う地下街みたいなものを最初から想定した町作り。ひょっとしたら、俺達が入って来た場所とは違って、正規に上の町と連絡するための道があるのかも」
「そんな事が……」
地下街の存在を知っている俺としては、あり得る話ではないかと思う。そもそも、リーザスの町がいつ頃できた町かは知らないけど、今ほど人の生存圏が広くなかった頃があるんなら……十分可能性はありそうだ。
「色々言ったけど、あくまで仮説だ。これ以上は、リーザスの歴史なんかも考えないといけないから、いったん放っておこう。あくまで、俺の考えたリーザスの未来化構想って空想話だ。あんまり信じんなよ」
言い出しっぺではあるけど、これ以上突き詰めると仕事に支障をきたす。今は、魔物たちの行方を優先しよう。
「……そうね。それについては、全てが終わってからゆっくり調べましょう。きっとマテラさんも協力してくれるわ。あの人、こういう話し大好物だから」
やる事は確定なのか。まあ、自分が振った話だし付き合うか。そんな事を考えていると、集音に反応があった。右手で静止の合図を出して、自分も足を止める。俺の気配が変わったことをくみ取ったのか、アサギたちもさっきほど余裕のある表情は消えている。良かった、行動だけで察してくれる仲間たちで。
反応があったのは、ちょうどアサギが北といった方角からだ。足音は……2,5,10,20……結構多いな。音からすると人間じゃない。ビンゴか。
「北の方角に魔物の群れ。多分20匹以上いる。どうする?」
手に入れた情報を仲間たちに伝える。ここからは頭脳担当のアサギの仕事だ。俺よりも、よっぽどちゃんとした作戦を考えてくれる。期待しよう。
「私たちは戦力を分散する余裕はないわ。なら、奇襲しかないわね。ホクトくん、状況次第だけど囮役をやってもらうと思う」
「了解。大丈夫だ、シッカとの偵察でスキルも手に入れた。簡単にやられるようなヘマはしない」
若干心配そうなアサギだけど、ここは信じてもらうしかない。1つ頷くと、アサギもコクリと頷いてくれた。
「私とカメリアは、ある場所で待ち伏せて罠をはります。大丈夫?カメリア」
「え?……ああ、大丈夫。忘れたらアサギに聞くから」
「……もうそれでいいわ」
あ、アサギが諦めた。もう少しカメリアを信じてやろうぜ。
「落ち合う場所はあそこ、じゃあお願いね」
アサギに頷いて、跳躍スキルで屋根の上に登る。さて、ここからは偵察のお仕事だ。みんなの命が懸かった大事な仕事だ。そう意識して、俺は魔物たちの反応のあった方へ向かった。




