29話 消えた司令部
「状況を整理しましょう」
アイラさんの一言で、みんなの視線がアイラさんに向く。こういう時、委員長キャラが1人いるだけでグッと締まるから有り難い。
「目下の所、最優先は破られた北門と街中に入った魔物たちです。幸運なことに、私たちがいる東門は安定して魔物を狩れています。今のまま行くのであれば、破られることは無いでしょう」
俺達が北門に行っている間も、東門は3グループで上手く回せていたみたいだ。
「そして、恐らく他の南と西も見える範囲では問題ないと考えます。ここは、他の3つの門から救援を出して一刻も早く北門を鎮圧する必要があると思います」
「でも、それって私たちが勝手に判断して動いていいの?」
ディーネさんの言う事はもっともだ。北門が破られたのに、どうして司令部のあるダッジさん達から指示が来ないんだ?
「司令部に確認は取ってないんですか?」
アサギがアイラさんに質問する。俺もそれは知りたい。普通に考えれば、ダッジさんから破られた北門への救援指示なんかが来るはずだ。俺達は、それよりも先に動いてしまったけど。それにしても、今の今まで音沙汰がないのはおかしい。
「もちろん、確認に私たちのグループから遣いを出しました。ですが、未だ戻ってきていません……」
「……それって、司令部の方でも何か起きているんじゃ」
「「「……」」」
みんな考える事は同じか。
「そう言えば、ホクト達につけた冒険者はどうした?1人は伝令で戻って来たけど……まさか、魔物にやられたのか?」
「え、ああ……報告を忘れてました。ユーリ、鷹を連れた少年ですが、今は羊の夢枕亭の警護に置いてきました。周りにいる魔物たちは蹴散らしましたけど、また襲われるとも限らないので」
「それって、大丈夫なんですか?確かユーリって少年はEランクの冒険者ですよね?そんな彼ひとり残しても、戦力にはならないのではないですか?」
そうか、アイラさんはユーリの事を知ってたのか。確かにユーリ1人なら厳しいかもしれないけど、あそこにはポロンがいる。それに、荒ぶる羊がいるから大丈夫だろう。
「あそこの宿屋には、俺達の仲間のポロンがいます。実際、俺達が駆け付けるまではポロンだけで宿を守っていました」
「ポロン?そんな仲間が、ホクトくんにはまだいたんだ」
「ええ、真っ白の子狼です。最近は体格も大きくなって、弱い魔物程度なら苦も無く倒しますね」
普段は喰っちゃ寝の野性味ゼロだけどな。ハンナちゃんが危機に陥れば、あいつは誰よりも頼もしい存在になる。それに、なによりも……。
「今は女将さんが戻ってますから。あの人なら、どんな魔物が来ても大丈夫でしょう」
「はぁ?宿の女将がいるだけで、なんで大丈夫なんだよ」
「ローザさんって言うんですけど、元冒険者らしいです。俺じゃ、全く歯が立たないくらい強い人ですよ」
俺がローザさんの名前を出したら、アマンダさん……と言うか涼風の乙女のみんなの顔が真っ青になる。あれ、ひょっとしてローザさんの事を知ってるのか?
「皆さん、ローザさんの事を知ってるんですか?」
「知ってる……と思う。そのローザって、羊人族か?」
ミルさんが震えながら聞いてくる。この人が、こんな表情をするなんて。でも、ローザさんが羊人族か聞くくらいだから、やっぱり知り合いなのか。
「ええ、ローザさんは羊人族ですけど……ミルさん知り合いなんですか?」
「ばっ!?し、知り合いじゃねえし……」
なんか歯切れが悪い。他の人も同じような状態だし……いったいローザさんが何だって言うんだろう?
「宿屋の女将で、羊人族で、名前がローザって……間違いなく『羊紅姫』のことよね。確かに、あの人ならどんな魔物でも大丈夫でしょうけど……」
羊紅姫、何その物騒な名前。まさか、ローザさんの二つ名?アサギの方を見てみると、アサギがゆっくりと頷いた。え、マジでローザさんって羊紅姫って呼ばれてたの?
「皆さんが言っている方で間違いありません。私は、現役の時からローザさんとは懇意にしていたので、あの人が引退してからも羊の夢枕亭を定宿にしていました」
アサギが口に出して肯定した。うわぁ、マジなんだ。羊紅姫、羊と姫だけなら可愛げがあるのに、紅が入っただけで台無しだよ。絶対鮮血とか血の色から取ってるだろ、それ。
「と、とにかく!羊紅姫がいる宿なら、Eランクの冒険者がいても大丈夫そうですね」
アイラさんが強引にまとめた。あの大人しそうな委員長キャラのアイラさんの目が泳いでいる。そこまでなのか、ローザさん。あなたは、現役の時に一体何をしたんですか。
「とりあえず、宿の事は忘れましょう。私たちは、今3グループで30名強。これにはホクトさんたち、猛炎の拳は入っていません。この人数がいれば、大抵の事では崩壊しないと思うので、できればホクトさん達に司令部を見てきてほしいと思っています」
アイラさんから、俺達に要望がきた。俺達が伝令となって、ダッジさん達の安否を確認しに行くのか。俺としては願っても無いけど、アサギやカメリアはどうだろう?2人の顔を伺うと……。
「私は問題ないわよ。誰かが見に行かなければいけないのであれば、私たちが適任でしょう」
「アタイも問題ないぜ」
アサギもカメリアも問題なさそうだ。なら、リーダーとしての俺の意見は賛成だな。ダッジさんに何かあれば問題だし、そもそもダッジさんをそこまで追いつめるような何かが、街中にいるってだけでゾッとする。
「……解った。行こう」
俺は、短くそれだけを言って命令を受諾した。なら、善は急げだ。ここに来て、休憩は十分に取れた。さっさとダッジさん達の所に向おう。
「東門の事は、アマンダさん達に任せます」
「ええ、任せておいて。私たちが1匹たりとも、町の中に入れないわ」
その時、門が開いて戦っていたグループの1つが場内に戻って来た。人によってバラバラだけど、疲れて座り込む人も増えている。戦闘を開始してから随分時間が経った。これからは、もっと離脱者が出るかもしれない。そう考えると、俺達もゆっくりしている時間は無いな。
「よし、行動を開始しよう。私たちも外に出るぞ!」
アマンダさんの掛け声に呼応するように、涼風の乙女のみんなが場外に移動を開始した。
東門から司令部のある中央広場へ向かう。ここまでの道のりには、冒険者以外人っ子一人いない。その冒険者たちも、広場に近づくほど見なくなった。戒厳令が敷かれているから当然なんだけど、何かあったと思ってた俺達からすると、拍子抜けするくらいなにも無い。
「なんだよ、魔物が待ち構えていると思ってたのに……これじゃ、東門に残ってた方が面白そうだったじゃねえか」
1人だけ、筋違いなことに怒りを覚えてるのがいるが無視だ。それにしても人がいない……。
「確かに戒厳令は敷かれてるけど、冒険者がいないのはおかしいわ」
アサギが言うように、確かにおかしな状況が目の前にある。
「……静かね」
無人の荒野を行くが如く、俺達三人は司令部に向かって歩き続ける。これじゃ、誰かに司令部の事を聞くこともできない。やがて、司令部が仮設した大きなテントが見えてくる。にも拘らず、冒険者がいない……これって。
「なあ、なんかおかしくねえか?」
「さすがのカメリアでも、今の状況はおかしいと思うか」
「あ、どういう意味だよホクト。その言い方だと、アタイが何も考えてないバカみたいじゃないか!」
カメリアがなんか言ってるけど、それを無視して考える。カメリアが異常だと思う現状は、シャレにならないくらいヤバいんじゃないか?
「アサギ……」
「……ええ。ここからは更に慎重に進みましょう」
俺を先頭に広場を進む。そして、今俺の目の前には大きなテントだけがあった。当然いるはずのダッジさんや、司令部に詰めていたギルド職員、他の冒険者の姿もない。
「ここで、一体何があったんだ?」
余りの非現実的な光景に、思わず声が出る。静まり返った広場では、酷く大きく聞こえた。
「誰もいない広場、そこにある中の見えないテント……これって、完全にホラーじゃねえか」
「……どう考えても、そのテントが怪しいよね」
アサギと顔を見合わせて、2人同時に頷く。カメリアは、俺達の後ろで拗ねている。ホッペタを大きく膨らませて、怒ってますとアピールしてくる。
「カメリアは、この際放っておいて……俺が開けるぞ?」
「……お願い。私とカメリアは、いつ何が起こっても良いように戦闘準備をしておくわ」
アサギとカメリアから離れて、テントの入り口に近づく。うわぁ、これって絶対第一発見者だよな。そうすると、あのテントの中身は……。
「……いくぞ」
2人に確認を取る。2人とも既に戦闘態勢を取っていて、いつでも戦える準備は終わったみたいだ。
テントに取り付いて、一気に入り口の布を取っ払う。そして、そこで見たのはテントの中央に開いた大きな穴と、テント内にギュウギュウに詰め込まれた死体の山だった。




