23話 魔物侵入
北門、それは第四陣が布陣した場所から一番近い門であり、当然襲い掛かってくる魔物の数と質も最凶と思われていた門。当然人間側としては、そこを守りきれるだけの人員を配置していた。即ち、現状持てるカードの中で一番強い者を宛がった。
「……なのに、どうして北門が最初に破られるんだよ」
遠くに見える砂埃に愚痴をこぼしつつ、外壁に備わっている階段を二段飛ばしで駆け上がる。一気に視界が開け、外の様子が見えてくる。宵闇の仲、焚かれた篝火に照らされるように戦場をかける冒険者たち。その中にあってひと際目立つのが、今指揮を執っているアマンダさんだ。彼女は、最前線より引いた位置で周りの冒険者たちに指示を出している。良かった、とりあえず彼女たちは無事だ。
「上がってはきたけど、どうやってアマンダさんと連絡を取り合えばいいのか」
とりあえず、近くにいる冒険者に呼びかけてアマンダさんを呼んでもらうか。幸い、今の時間は魔物の群れの勢いも弱まっているみたいだ。
「すいません!第3グループ、猛炎の拳のホクトです。至急アマンダさんの指示を仰ぎたいので、アマンダさんに伝えてもらえますか?」
真下に待機している冒険者に声をかける。とは言っても、下までは結構距離があるのでそれなりに大声になってしまう。
「ん?……ああ、お前か。前衛で戦っていたのを見ていたから覚えているよ。それで、どうしたんだ?」
「北門の状況は分かっていますか?」
「北門?いや、ここからじゃ見えないからな。何かあったのか?」
「北門が破られました。それで、アマンダさんの指示を仰ぎたいので連絡を取ってもらえますか?」
こうしている間にも、北門を超えて魔物が町に襲い掛かるかもしれない。一刻も早くアマンダさんの指示を仰ぎたいけど、俺達だけ好き勝手に動くわけにはいかない。この東門の責任者はアマンダさんだ。
「なに!?そんな事になってるのか!わかった、すぐにアマンダさんに確認を取る」
「お願いします!」
よし、とりあえずこれで最悪の状況は脱することが出来る。目の前の戦況、北門の状況を交互に見て今後の事を模索する。北門に何があったのかは分からない。だけど、このままだと北門付近に魔物が溢れかえる事は容易に想像がつく。
「頼むぜ、アマンダさん……」
しばらく外壁の上で待っていると、アマンダさんが俺の真下まで来てくれた。遠くて、今いち見え難いけど、アマンダさんの表情には疲れが見えない。これなら、何とかなるかもしれない……。
「ホクト、何があったのかもう一度説明して」
アマンダさんが聞く態勢になったことを確認した俺は、これまでに起こったことを簡単に説明する。
「……そんなことが。分かったわ、これからそっちに行くから詳しくは会って直接話しましょう」
事の重大さは十分に理解したアマンダさんは、すぐさまビオラさんを呼んでいくつか話したのち、門を超えて場内に入って来た。俺も、アマンダさんに直接会うため、外壁の階段を下りてみんなが休憩している場所まで戻る。
「ホクト、まずは報告をしてくれてありがとう。戦場からは、北門が見えなかったから助かったわ」
もう何時間も戦い続けているとは思えないほど、アマンダさんはいつもと変わらないように見える。多少は服が汚れていたり、髪が乱れてはいるけどそれだけだ。さすがAランク冒険者。
「先ほど大きな揺れがあったのは気付きましたか?」
アサギも、俺とアマンダさんの所に来て一緒に話をしてくれるようだ。ハッキリ言って助かった。俺では、北門がヤバイかも?ってくらいの事は言えるけど、細かい部分で粗が出てしまう。アサギがいてくれるなら、気付いたことも含めてアマンダさんと詳細な打ち合わせができるだろう。
「戦場には、魔法も飛び交っているから……ホクトが報告してくれるまで気付かなかったわ。これからは、場内と外で迅速に連絡を取り合う方法も考えないといけないわね」
「戦場にいると、どうしても視野狭窄になりやすいですからね」
年上の女性2人が、キリッとした表情を見せつつ軽い冗談を言い合っている。その姿は、仕事のできるOLの打ち合わせに見えてカッコいい。もちろん、実際のOLさんたちの仕事風景なんて見たことないから、俺の想像の中って注釈はつく。
「何にしても、北門の状況は知っておきたいわね。あそこはグルドたち『竜神の鉾』が守っていた一番強固な門のはず。易々と魔物の侵入を許すとは思えないけど……こちらにも想定外に強力な魔物は現れた。あちらに現れても不思議じゃないか」
顎に手を当てて思案顔のアマンダさん。横では、アサギも眉根を寄せて考え込んでいる。何だろう、美人2人の表情が歪む姿はどこか嗜虐的だ。何かに目覚めてしまいそうなところを、グッと堪える。
「どうしたの、ホクトくん。私たちの話、ちゃんと聞いてた?」
俺の表情にいち早く気づいたアサギが、半眼で俺の事を睨み付ける。危なかった、頭の中で想像していたことがバレたのかと思った。アサギも、俺がそんな妄想をしていると確実に気付いている訳は無い……と思いたい。想像するのは自由だ。バレてる可能性はあるけど、証拠も何もない。ここは、しらを切って、別の方向に話を持っていって無かったことにしよう。
「もちろん、聞いてるよ。それでどうする?北門まで、誰か使いを出すか?」
できれば、この目で直接見たいとは思う。だけど、これは町を守るためのクエストだ。余計な事を考えずに、アマンダさんの指示を待とう。せっかく、そのために場内まで来てもらったんだ。
「もちろん使いは出す。私が直接見たいけど、ここはあなたたちにお願いしてもいいかしら?」
やっぱりアマンダさんも、直接その目で見てみたかったようだ。それを聞いて、俺とアサギはお互いの顔を見合ってアマンダさんに頷きを返す。ここは、俺達が行くのが妥当だろう。ひょっとしたら、既に北門は落ちていて、魔物たちと街中でエンカウントしてしまう可能性がある。Dランク、もしくはDランクに匹敵する力を持たないと行って、帰ってこれないかもしれない。
「すぐに出発します。アマンダさんは、これからどうするんですか?」
「私は、仲間たちの元に戻る。今は落ち着いているとは言え、いつまたアラクネのような奴が現れるか分かったものじゃないわ」
「わかりました。アマンダさんも気をつけて」
「ホクト達もね」
笑顔で応えてくれたあと、アマンダさんは再び門の外へと飛び出していった。あの門の外、それが今のアマンダさんの戦場だ。俺も、俺に宛がわれた戦場に行こう。
「カメリアを起こして、すぐに出発しよう」
「うん!」
「言いたいことはわかった。だけど、あんな起こし方をする事無いだろ!」
カメリアが、アサギに喰ってかかっている。理由は簡単。寝ているカメリアを起こそうとしたんだけど、どんなことをしても全く起きる気配が無かったカメリア。それを見たアサギが、口と鼻を抑えつけて塞いでしまった。人間って、酸素が無いと生きていけないのでカメリアはすぐに起きた。だけど、それ以来ずっとアサギへの口撃を止めない。今がどんな状況下は分かっているようで、北門に迎いながら延々アサギに不満をぶつけている。
「だから、悪かったって言ってるじゃない。あの時は、非常事態だったのよ。いくら起こしても起きないカメリアを残していっても良かったのよ?」
あまりにしつこく言い寄ってくるカメリアに、アサギがついに最終兵器を繰り出した。これをされると、俺と離れ離れになるのが嫌なカメリアは、即座に敗北を認め素直に謝ってきた。全く、あんまり疲れる事をしないでほしい。
「まずは、北門の状況の確認。そこで北門を守っているグルドさんを見つけられれば楽に終わりそうだな。その上で、町に被害が出ていないか調べるぞ」
走りながら、アサギとカメリアに今回の趣旨を話す。アサギは一緒に聞いていたので、カメリアに分かり易いように説明しているってわけだ。
「アタイが寝ている間に、そんな面白い事が起こってたなんて……ぜひ起きてその目で見てみたかった」
「悠長なことを言ってるけど、今どれだけ町が危険に晒されているかは、分かってるよな?」
後ろを走るカメリアを睨み付ける。それを見たカメリアが、バツの悪そうな雰囲気で謝ってきた。
「わ、悪かったって……ちょっとしたジョークのつもりだったんだ」
「ジョークを挟むときは、時と場所を弁えろよ?俺たち以外のやつに聞かれた、面倒に事になるぞ」
カメリアも反省している。これくらいでいいだろう。そう思って、壁が密集している街中を右に曲がったとき、一番いてほしくない相手がそこにはいた。
グオォォォーーー!!!
「魔物!?やっぱり、中に入り込んでいたか!」
一番起こってほしくない事が起こった。ここまで俺達が頑張ってこれたのは、リーザスの町を守る一身で戦って来たからだ。それが……ついにリーザスの町の中に魔物が侵入することを許してしまった。




