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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
7章 続・町を守ろう
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16話 第四陣襲来

ウォオオオォォンン!!!


ギィシャァアアァァ!!!


門の外から魔物たちの奇声が聞こえる。ついに第四陣がリーザスの町に到達した。今はアマンダさん達涼風の乙女率いる第1グループと、Cランク冒険者パーティ率いる第2グループが門の外で魔物を迎え撃っている。


「始まったね」


「ああ」


俺とアサギは、2つのグループと魔物たちの戦いを外壁の上から見守っている。前のグループが戦闘に入って、すでに1時間が経過した。戦況は悪くない。アマンダさん達涼風の乙女が、強い個体を上手く抑え込んでいる。その間にCランク冒険者パーティを中心に、Dランク以下の冒険者たちがゴブリンやコボルド、フォレストウルフのような弱い魔物たちを倒していっていた。


「今のところは順調……だな」


「そうね、まだ強いと言ってもCランク程度の個体しかいないから。アマンダさん達ならパーティで動かなくても倒せるから大丈夫。問題は……」


「それよりも強い個体が出てきたときに、対処しきれるかってことか?」


「うん。まあ、それは私たちにも言える事だけどね」


眼下に広がる光景は、あと数時間後の自分たちの光景だ。遠征の時もそうだったけど、自分たちの目につく範囲だけに気を取られていると気付いたら仲間が減っていたって事になる。離れたところから見る涼風の乙女は、さすがAランクパーティと呼べる指揮力を発揮していた。あのパーティはアマンダさんを司令塔に、個々が自分のできる事を最大限に発揮して効率よく魔物を狩っていく。そして、アマンダさんの指揮力は自分のパーティの枠を超えて、周りで戦う冒険者たちにも波及する。


「すごいよね、私もあんな風に立ち回れたらいいのに……」


アマンダさんを見るアサギの視線には、嫉妬と羨望の両方が混じっているように見える。俺にとっては、アサギの指揮力も十分に凄いと思えるんだけどな。


「俺には真似できないな。俺は、目の前の事に集中し過ぎて周りが見えなくなる傾向があるから……。アサギがパーティに入ってくれて助かってるよ」


「……あら?あらあら、ホクトくんから褒められちゃった。ホクトくんは、もっとお姉ちゃんを頼ってもいいのよ?」


ちょっと元気づけるつもりで言った言葉が、思いのほかアサギに刺さったみたいだ。瞳をキラキラさせながら、こっちの顔を覗き込んでくる。


「ほ、ほら……俺たちも下で休憩しよう。後少ししたら戦いが始まるんだから」


「ご休憩ですね?」


「な、なんでそんな言葉知ってんだよ!?」


「???」


「……天然って怖えぇ」


外壁から下りて、カメリアが休んでいる所まで戻る。今アサギに余計な事を言うと藪蛇になりそうだ。ここは、いったんリセットして仕切りなおそう。


「戻ったぞカメリア……って、何やんの?お前」


「ん?いや、暇だったから身体を動かそうかと」


俺の眼の前では、汗だくになって槍を振るうカメリアの姿があった。お前、それもうウォーミングアップの度合いを超えてるよ。


「もう止めて、ちょっと休め。ほらタオル!」


カメリアの素振りを止めて、タオルを頭に被せる。こいつは、なんでこんなにテンションが高いんだよ。普段から戦うことが好きだけど、今日のコイツは、いきなりレッドゾーンに入る位危なっかしい。


「はぁ……はぁ、ふぅ…………」


息を荒げて、呼吸も苦しそうだ。なにもこんなになるまで素振りを続けなくても。地面に腰を下ろし、未だに荒い息を整えるカメリア。顔はタオルに隠れて見えないけど、ちょっと普通じゃないことは、しばらく付き合って来た俺にはわかる。


「……なあ、カメリア。お前、なんでそんな必死なんだ?」


「!?」


「俺も今ようやく気付いたけど、お前朝からおかしいぞ?」


そう、朝も早くから槍を振ってテンション高く騒いでいたけど、いくら戦闘が好きなコイツとは言えおかし過ぎた。それに今まで気付かなかった俺も大概鈍感だけど……。


「…………」


「言えないような事か?」


「ちがっ!……違う、そう言うのじゃない。ただ……」


顔をあげてこちらを見上げたカメリアの表情は、ひどく憔悴しているように見えた。普段は何も考えていないような、あっけらかんとした奴がこんな表情をするなんて……。


「……不安なんだ」


「不安って、何が……いてっ!」


何が不安なんだと聞こうとしたら、隣のアサギに頭を叩かれた。


「何すんだよアサギ」


「今のは、ちょっとデリカシーが無さすぎよ」


「デリカシーって……あっ」


不安そうな表情で、こちらを見上げているカメリア。そうか、普段があんなカメリアだから何も感じていないのかと思ってたけど……カメリアはカメリアなりに、町の事を思って不安だったんだ。アサギに言われて初めて気付くなんて……。


「ゴメン、カメリア。俺、何も気づいてやれなくて……」


「……ホクトのせいじゃない。アタイだって、自分で自分の事がよく分からないんだ。今までだって、町が魔物に襲われた場面には何度も出会ったことがある。アタイは、今までそれに何も感じずに戦って来た。だから、今回もその時と同じだと思ってたんだ……それなのに、今日の朝から自分で自分を抑えられないんだ」


初めて感じる不安。今目の前にいるカメリアは、俺よりも年上の女性にはとても見えなかった。不安に押し潰されないように、槍を振って誤魔化す。でも、それでも心に抱えた不安は拭えない。だから、今こんなに苦しそうな表情をしているんだ。


「何もおかしなことじゃない。俺だって不安だ、もちろんアサギだって」


隣に視線を向けると、アサギも頷いて見せる。


「俺、バカだからこういう時なんて言葉をかければいいのか分からないけど、多分今カメリアが抱えてる不安って、この町の為なんじゃないかと思う」


「この町の為?」


「ハンナちゃんたち羊の夢枕亭の人たちや、ギルドのノルンさん。他にもカメリアが仲良くなった人たちがこの町には沢山暮らしている。自分がもし、ミスをして魔物が街中に入りでもしたら、そんな仲の良い人たちが危険な目にあうかもしれない。多分、カメリアはそう思って不安なんだよ」


「……そう、かも。アタイ、ハンナたちに死んでほしくない。でも、自分がヘマしたことが切っ掛けでみんなが死んだらって思うと……怖いんだ」


「そう思うのは当然の事よ。私だって、ホクトくんだって一緒」


「アサギでも不安になるのか?」


「当たり前でしょ。実際、私には前例があるわけだし……」


「あっ……」


前にアサギが言っていた。自分のミスで仲間に大怪我をさせたって。今目の前でカメリアに語り掛けるアサギからは想像もできないけど、彼女も人一倍苦しんだに違いない。だけど、今のアサギからは不安という感情を見てとる事はできない。


「私たちを信じて、カメリア。あなたがどんな失敗をしても、私やホクトくんが絶対にフォローしてあげる。だから、1人だけでそんなに抱え込まないの」


「……そうだな。カメリアがミスしたら俺が何とかしてやる。ミスを怖がって動けなくなるなんて、カメリアらしくないぜ?お前のミスくらい、俺がいくらでもカバーしてやるから、ミスなんて気にするな!」


「……ミスミス連呼するな。それに、良く考えたらアタイよりもホクトの方がミスする可能性は高い」


「えっ?」


「そうね。だから、カメリアもホクトくんがミスをしたらフォローしてあげて」


あれ、いつの間にかカメリアを元気づける話から、俺をディスる話に置き換わってない?俺もそんなにミスなんてしないぞ?


「任せろ!ホクトやアサギがミスっても、アタイが絶対何とかしてるぜ!」


まあ、カメリアが元気になったからいいか。


「時間だ、第3グループ出てくれ!」


カメリアが元気になったタイミングで、俺達第3グループに声がかかった。さあ、戦闘開始だ。





「お前たちは、俺達が打ち漏らした魔物を倒してくれ!」


すでに戦闘に入っている、第2グループのCランク冒険者から声がかかる。身体のあちこちに返り血を浴びて、それでも多少の疲れ以外を感じさせない精悍さで魔物を倒していく冒険者。あれが第2グループを引っ張っていた人か。いきなりで流れの分からない俺たちには、今も戦い続けているこの人たちが何よりも頼もしく感じる。


「俺、盾役もできます!」


「それはありがたい。今ソロの奴が1人で食い止めていたんだが、さすがに数が多い。悪いが、すぐにでも出てくれ」


「了解!アサギ、カメリア、お前たちも気を付けろよ」


「ホクトも気を抜くな!」


2人に声をかけて、俺は魔物の群れの中心で盾を構えている冒険者の元へ向かう。


「代わります!その間に回復を」


「すまん、助かった!」


戦士のような恰好をした冒険者の前に出て、魔物の攻撃を引き受ける。目の前にはワーウルフの群れ、その素早さと鋭い爪が厄介な奴らだ。遠征中にも何度か戦った事があるし、そのユニーク個体とも戦った。今の俺なら、倒そうと思わずに戦線を維持するだけなら対処できる相手だ。


集音のスキルを発動して、周りを囲む魔物たちの位置取りを確認。同時に集中で、濁流の如く押し寄せるワーウルフの群れの攻撃をいなし続ける。魔力の消費を抑えるため、浸透はなしだ。


「待たせたな!」


さっきの戦士が戻って来た。ポーションを使って回復したのか、まだ体のあちこちから血が滲んでいた。


「大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない。お前は後続のグループのやつか?」


「はい、第3グループ所属の猛炎の拳のホクトです」


前を向きながら簡単な自己紹介をする。この人とは、この後も同じ戦場に立つことがあるんだ。今のうちに仲良くなっておこう。


「俺はザーク、ソロのCランク冒険者だ。このグループには俺達しか盾役がいないからな、簡単にくたばるなよ!」


「ザークさんも!」


お互いに笑いながら、魔物に向かっていく。良かった、意外に良い人だ。見た目は粗野で荒々しいけど、冒険者としてはさすがCランク。立ち回りが俺よりも上手い。本音を言えば、色々と教えてほしいところだけど今は目の前の魔物に集中しよう。


「ホクトくん!」


アサギの声が聞こえた。魔法が飛んでくる、そう思った俺は隣にいるザークさんにも声をかけた。


「ザークさん、後衛から魔法が来ます!」


「りょうかい!」


目の前のワーウルフを剣で押し返して後ろに飛ぶ。その直後、俺達の頭上を魔法の塊が飛び越えていった。


ボワァ!シュバババ!!!


「ギャィイィン!」


先頭にいるワーウルフたちが炎に包まれる。肉の焼ける臭いが辺りに充満する。更に後続へ立て続けに魔法が着弾する。


「ふぅ、これでしばらくは休めそうだな」


「これを6時間ですか……前のグループの時もこんな感じでしたか?」


魔物たちが魔法に押し潰されるのを見ながら、ザークさんにこれまでの事を聞いてみた。序盤の方は外壁の上から見ていたけど、それ以降の事は知らない。どんな情報が役に立つか分からないんだ、聞けるうちに聞いておこう。


「最初のうちは、殆どが雑魚ばかりだったんだがな。中盤以降は、さっきのワーウルフみたいにそれなりに強い奴らが押し寄せてきやがった。多分、これからも強くなることはあっても、弱くなることはないだろうな」


後になればなるほどキツいのか、終盤で魔力体力不足で動けないって事にならないように気を付けよう。


「さて、おしゃべりはここまでだ。また来るぞ!」


「うっす!」


炎に包まれた魔物たちをものともせず、後続の魔物が雪崩のように押し寄せてきた。さて、戦闘は始まったばかり。俺も気合を入れ直して、少しでも多くの魔物をこの場に押し留めてやる。

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