14話 ルーキーたちの役割
翌日、再び俺たちはギルドに集まっていた。とは言え、主力はあくまでCランク以上の冒険者たち。Dランクである俺たちは若干暇を持て余していた。
「アサギは良かったのか?会議に参加する資格はあっただろ?」
「私だけ話を聞いてもね。私は、あくまで猛炎の拳の一員だよ。今回だって、パーティとして参加するんだから作戦の説明を受けても意味ないよ」
「アタイは何でもいい。早く魔物と戦いてえ」
アサギの言う事には一理ある。パーティ単位で行動する以上、不要な情報は無い方が動きやすいか。そしてカメリア、お前のテンションはおかしい。町を守らなきゃいけないのに、なんでそんなに楽しそうなの?
「ホクト!」
ギルドの入り口から烈火の牙の面々が入ってきた。見た感じ、疲れも残ってないみたいだな。
「アレク、そっちも準備は整ってるか?」
「ああ、俺達の町を守る仕事だ。ここで戦えなかったら、一生後悔するところだ」
「それにしても、思ったほど人が集まってないのな」
辺りを見渡してみる。確かにいつもよりは人が多いけど、町にいる冒険者全てとなればかなりの人数になるはずだ。ここにいるのは明らかに少ない。
「そりゃそうでしょ。今も門を守って戦ってる人達がいるんだから。ここにいるのは、前の遠征組が大半だよ。後は冒険者になりたてのルーキーとかね」
エミルに呆れた顔で言われてしまった。
「ああ、そりゃそうだな。そうか、ルーキーもいるんだ。今回の作戦に参加するのかな?」
「どうだろうね、冒険者になりたての子たちにはちょっと荷が重いんじゃないかな?」
アサギが周りを見ながら言う。俺だって、冒険者になりたての時に今回みたいな仕事があったら参加なんてしないだろうな。ハッキリ言って、死ぬ未来しか見えない。今だからこそ戦えてるけど、あの当時は完全に素人だったからな。
「やる気のある奴らはいるみたいだけどな」
アレクが指さす方を見れば、やたらと血気に逸る連中が騒いでいた。
「早く魔物どもが来ねえかな。俺が片っ端から叩き斬ってやるぜ!」
「お前にゃ無理だぜ。この町を守って英雄になるのは俺だ!」
「んだとぉ!」
「なんだ、やんのか!?」
あれもルーキーなのか?確かに歳は俺と同じくらいだけど、あれで本当に戦えるのかね。どうも今のギルドの雰囲気にのまれてハイになってるようにしか見えない。
「ありゃ、見掛け倒しだな。実際に魔物の前に立てば、真っ先に死ぬタイプだ」
カメリアも辛口の批評をしている。アサギは苦笑しているけど、諫めるつもりは無いんだな。まあ、冒険者なんて自己責任の部分が大きいからな。自分の実力を過大評価して、死んでいく奴は本当に多い。
その周りにいる奴らも、だいたい同じ程度のレベルだな。そんな感じで、暇な時間ギルド内にいる冒険者の人間観察をしていたら面白い奴を見つけた。
「なあ、あれって……ワシか?」
俺の眼にとまったのは、まだ子供と言っていいあどけない顔をした少年と、その肩に止まっている大きな鳥だった。
「えっ?……ああ、あれはオオタカって鷹の一種ね。随分人に慣れてるようだけど、あの子が飼っているのかしら?」
1人ポツンと佇んでいる少年。その肩にいるオオタカは、周りがどれだけ騒ごうとも羽ばたきひとつしない。こんな状況に慣れている証拠だ。
「あの子も冒険者なのか?随分幼く見えるけど……」
「あれくらいから冒険者をやる奴は珍しくないぞ。俺も冒険者を始めたのは、あの子くらいの歳だったしな」
アレクが、何か懐かしむように少年を見ている。そうか、アレクもあんなに小さなころから冒険者をしていたのか。
「実力は分からないけど、今回の作戦は荷が重いんじゃないかしら?」
アサギの心配はもっともだけど、やっぱり自己責任。俺達がとやかく言う資格はない。無事に生き残れるように祈るくらいしかできない。よく見れば、他にも同じような年恰好の子供がちらほらいる。何もこんな作戦に参加しなくてもとは思うけど、彼ら彼女らにも守りたい物があるんだろう。
「あ、終わったみたいだよ」
エミルの声に2階を見上げると、ゾロゾロと冒険者たちが下りてくるところだった。どうやら、作戦の説明会が終わったみたいだ。ソウルたちもパーティ全員で固まって下りてくる。あ、ソウルが手を振ってる。こっちに来るな……。
「ようホクト、調子はどうだ?」
「丸一日休めたからな、身体の疲れも取れて絶好調だ」
「さすがは俺のライバル、俺も負けてられねえぜ!」
相変わらずテンションが高い。そんなソウルを見て、カメリアも俄然やる気を漲らせている。
「それで、この後はどうなるの?みんなで一斉に移動?」
「そうみたいですよ。これから広場まで参加意思のある奴らで移動して、そこで班分けをして現地に行く流れみたいです」
ソウルがアサギに説明していると、カウンターの中にいたノルンさんが手を叩いて注目を集めた。
「Dランク以下の冒険者で、今回の作戦に参加の意思がある方たちは、これから広場で説明会がありますので移動を開始してください!繰り返します。Dランク以下の冒険者で、今回参加の意思がある方は…………」
ノルンさんが冒険者たちに向けて移動するように促している。さて、俺達も仕事の時間だ。
「じゃあ、行きますか」
「おう」
俺達猛炎の拳、アレク達烈火の牙、そしてソウルたちは徒然に移動を開始した。
「そう言えば、ソウルたちのパーティ名ってなんて言うんだ?よくよく考えれば、俺聞いたことなかった」
何とはなしに話を振ってみると、サラはあさっての方に視線を向け、ソウルはニヤニヤしている。そしてエリスは……。
「名前なんてどうでもいいのよ!私たちはそれぞれが個として強力な戦力よ、名前なんてただの飾りに過ぎないわ!」
あれ、なんか聞いちゃまずかったか?俺が頭の上に『?』を浮かべていると、ソウルが嬉しそうに口を開いた。
「よくぞ聞いてくれた!まったく、今まで聞かれなかったからちょっと寂しかったじゃねえか。いいかホクト、俺達のパーティ名は……」
なんか、とてつもなく嫌な予感がする。あ、エリスが耳を塞いで目を閉じた。そこまで酷い名前なのか!?
「『ソウルと魅惑のハーレム軍団』だ!」
「……は?」
「え?」
周りで聞いていた面々の目が点になる。あまりに自信満々に言い放ったソウルには悪いけど、幻聴であってくれと思うほど酷い単語が聞こえてきた。
「え、エリス?」
「あーあー、なにもきこえない……」
うわ、現実逃避し始めた。それにしても、ツッコミどころ満載のパーティ名だな。見ると、アレクとキールは唖然としている。エミルは耳まで真っ赤にして顔を手で覆っている。ミランダは腹を抱えて笑っている……そうか、お前はそう言う性格か。こっちでは、カメリアが首を傾げて唸っている。あまり深く考えるなよ。
「……マジか」
「マジだ。何度でも言おう、俺たちのパーティ名はソウルと、魅惑の、ハー……」
「連呼するな!私は認めてないからね!ソウルが、私たちに隠れて申請して通っちゃっただけでしょ!」
ああ、やっぱり勝手にやったのか……。
「ギルドもギルドよ、一度通ったパーティ名は余程の理由がないと変更できないって……。こんな屈辱的なパーティ名が余程の理由じゃ無かったら、何が余程なのよ!ムキィー!!!」
ああ、エリスが壊れた。隣でサラが俯いている。サラもエミル同様、顔が真っ赤だ。しかしギルドは恐ろしいところだ、こんな名前が普通に申請通っちゃうんだ。
大勢で移動していたからか、周りからも笑い声が聞こえてくる。やっぱり聞こえてるよね、ソウルの奴は自慢したかったのか声高に言い放ってたし。
「ホクト!あんたが余計な事を言わなければ……」
「悪かった、この件に関しては全面的に謝罪する。……だって、そんな酷いなんて夢にも思わなかった」
「ホクトくん、パーティ名なんて人それぞれよ。誇りを持つ者、興味ない者、色々な人がいるわ……でも、さすがに予想以上の酷さね」
アサギがしみじみと言うと、エリスが地面に崩れ落ちた。
「……私、もうパーティから抜けようかしら」
何やら不穏な事を言っている。原因を作った俺としては、こんなことでパーティを抜けてしまうのはあまりに不憫だと思う。エリスを立ち直らせなければ。
「大丈夫だエリス、金輪際お前たちのパーティ名は口にしない。お前たちのパーティ名は禁句とする。封印だ、封印しよう」
「……もうやだ」
「ホクトくん……それじゃフォローになってないよ」
道中ソウルのパーティ解散の危機があったものの、エリスはギリギリの所で踏み止まってくれた。俺が切っ掛けでパーティ解散なんて、後味が悪過ぎる。そして集められた大勢の冒険者たち。ここに集められたのはDランク以下、戦力としては数え難いが、とにかく数が多い集団だ。これだけの下位冒険者を、ギルドはどうやって運用するつもりなんだろう。
「ここに集まってくれた諸君、まずはオレの話を聞いてくれ。俺はダッジ、今回の作戦の総指揮を任されている。今回、お前たちに頼みたいのは戦闘以外の全てだ。これから第四陣の魔物の群れが、このリーザスの町を襲う。この群れと戦うのは、Cランク以上の冒険者と高位冒険者の推薦を受けた者だけだ。では、お前らが何をするのか?それは、魔物が町に入ってきたときに町の住人の避難誘導や、ギルドからの連絡の伝令など、戦闘にかかわらない全てを受け持ってもらいたい」
ダッジさんが説明すると、集まった冒険者たちが騒がしくなった。まあそうだよな、戦うためにここに集まったのに、自分には戦うなと総指揮をとるダッジさんに言われたんだ。
「ホクトやアレクは推薦枠だ。俺達と一緒に戦えるぜ」
さらっとソウルが告げる。まあ、推薦枠って聞いた時からそんな気はしてた。俺達は遠征組と一緒に三陣までの魔物たちと戦った実績がある。
「ちょっと待ってくれよ!俺達は戦うためにここに来たんだ。おっさんが何と言おうと、俺は戦うぜ!」
そうだそうだと周りが囃し立てる。あ、おっさんの額に青筋がたった。
「うるせえんだよ、餓鬼共が!お前たちは戦力外なんだ。それが勝手に戦って、勝手に死なれたら士気にかかわる。だから大人しくしてろ。いいか、もし俺の言う事を聞かずに勝手に魔物と戦ったら、その者のギルドカードは取り上げて永久凍結になる。冒険者を続けたかったら、言う事を聞け」
更に騒がしくなる広場。さて、ダッジさんはどうやって収拾つける気なんだ?
「とにかく話は最後まで聞け。戦うなと言ったのは、あくまで外に出て戦うなと言っているだけだ。街中に魔物が入ったとき、最優先は住民の避難補助だが、その避難に支障が出るようなら戦闘を許可する。ただし、その判断を下すのは随伴する高位の冒険者だ。お前たちが勝手に戦闘することは許さん」
これはあくまで能力のない冒険者を助けるためのギルドの措置だ。本来、人出は多いに越したことは無い。だけど、能力のない冒険者が勝手に戦えば少なくない人死にがでる。それを避けたいギルドとしては、それ以外の方法で冒険者に活躍の場を作りたかったんだろう。
「嫌な奴はここから去れ。その代わり、さっきも言った通り勝手に戦えば冒険者ギルドから除名処分とする。よく考えて行動するんだな」
そこでしばらくダッジさんが黙る。お互いに相談する時間を与えたって事か。まあ、俺達はやる事が決まってるから相談の必要もないけど。暇なんで周りを見ると、さっきギルド内でやたらテンションが高かった連中が、ギラついた視線をダッジさんに向けているところだった。あれは良くない事を考えている眼つきだな。
10分ほど黙っていたダッジさんが、再び声を張り上げた。
「よし、脱落者はいないようだな。では、これからの事を説明する」
そしてダッジさんに変わって数人のギルド職員が前へ出る。そして始まる班分け作業。名前を呼ばれ、指定の場所に移動していく冒険者たち。それを横目に見つめる俺達。これ、俺達別行動でも良かったんじゃね?
「それじゃ、俺たち行くわ」
ソウルが軽く挨拶して、北の門に向かって歩き出した。あいつらは北門か、俺達はどに配属されるんだろう……。
「烈火の牙の皆さん!」
ギルド職員にアレク達が呼ばれた。
「じゃあなホクト、生きてまた会おうぜ」
それだけを言うと、アレク達は西の門へ向かっていった。さっきまで騒がしかったのに、途端に静かになる。俺達の番はまだかよ。
「焦っても仕方ないよ。ここは、ドンっと構えてよう」
アサギに言われ、自分が焦っていたことに気づく。俺も人の事は言えないな、どうも少し熱くなっていたみたいだ。それからも呼ばれて立ち去っていく冒険者たち。広場に残る冒険者たちの数も大分少なくなってきた頃、俺達の名前が呼ばれた。
「猛炎の拳の皆さん!」
呼ばれたので、ギルド職員さんの前に移動する。知っている顔だったから、特に名前の確認なんかは行われなかった。
「では、担当は東門になります。どうかお気をつけて」
職員さんに挨拶して、東門へ移動する。ここまで来て焦っても仕方ないので、俺達はマイペースで東門まで移動した。そして、そこに待っていたのは……。
「やっと到着したようね、待ってたわよホクト」
俺達の前には、涼風の乙女の面々が立っていた。




