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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
7章 続・町を守ろう
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12話 お出掛け

明けて翌日、目を覚まして身支度を整えると食堂へおりる。


「おはよう」


「おはよう」


「おはようございます」


アサギとエスカちゃんは、すでに席についてご飯を食べていた。カメリアは……まだ寝てるな。あいつは、仕事の時はそれなりに早起きだけど、昨日みたいに酒を浴びるように飲んだ次の日は大抵昼まで起きてこない。


「あ、お兄ちゃんおはよう!」


元気に挨拶をしてきたハンナちゃん。俺がいつも座っている場所に朝食を置いて隣に座る。珍しいな、普段ならすぐに厨房に下がるのに。


「今日のお出かけ、楽しみだね」


「うん、この町の事色々教えて」


エスカちゃんと今日の行動について話しているみたいだ。大丈夫だろうかと厨房の方を見ると、ローザさんと目が合う。軽く笑った後に奥に引っ込んだところを見ると、すでに仕事の方は終わったみたいだな。


「さて、いつまでも2人を待たせるのも悪いから、さっさと食べて出発するか」


「うん!そう思って、食べやすい物にしておいたよ」


「え!?そんな気の遣い方は無いんじゃないかな?」


良く見れば、確かにいつもの朝食よりも軽い軽食のような感じだ。サラダも付いてないし……と言うか、これ全部パンに挟んであるよね。


「ひょっとして、この朝食を作ったのは……」


「わたし!どう、お兄ちゃん。美味しいでしょ?」


まだ一口も食べてないのに、既に感想の催促が来た。苦笑いしながら、パンパンに膨らんだパンを両手で持って齧り付く。うん、色んなものを詰め込み過ぎて何の味だか分からなくなってるな……。


「どう、どう?」


「お、美味しい……かな?」


「ホント!?じゃあ、明日からもホクトお兄ちゃんの朝食は私が作るね」


「えっ」


期待を裏切る訳にはいかないと、控えめに感想を言ってみたら……まさかの展開!?冷や汗が止まらない俺を見て、前の席にいたエスカちゃんが肩を震わせて笑いを堪えていた。


「エスカちゃん?」


「えっ……あ、ごめんなさい」


「いいのよ、今のはホクトくんの自業自得だから」


俺達のやり取りにアサギまで絡んできた。お前も見てたんなら、フォローしてくれてもいいんじゃないのか?


「いつもこんなに賑やかなんですか?」


「う~ん、だいたいこんな感じかな。いつもはハンナちゃんも仕事で忙しいから、あまり私たちにばかり構ってはいられないけどね。それでも、何かにつけて私たちの席に来ようとするよね……ね、ハンナちゃん?」


「そ、そんなことないよ!私はいつもお兄ちゃんに呼ばれたような気がするから来てるだけだもん!」


呼ばれたような気がするって……それ、完全に勘違いじゃん。とは、とても言えないくらい今のハンナちゃんはテンションが高い。この子も普段、あまり出歩けないから今日は楽しみで仕方ないんだろうな。


「ゴクッ、ふう……ご馳走さま」


両手を合わせて食事を終える。時間としては、まだ少し早いけどハンナちゃんの状況を見ると、早くて困る事は無いだろう。せっかくのお出かけだ、早め早めの行動で行こうか。


「さて、お待たせ2人とも。出かけようか」


「うん!」


「はい」


席を立って食器を厨房へ持っていく。普段ならハンナちゃんがかたしてくれるけど、今日はローザさんに用があったので自分で持っていく。


「じゃあ、私着替えてくるね!」


そう言ってハンナちゃんは、自分の部屋に着替えに行った。エスカちゃんは……そうか、この子は着替える服を持ってないんだった。しばらくアサギに相手を任せて、俺はローザさんに話しかける。


「大丈夫だったんですか?ハンナちゃんのこと」


「いいよ、あの子にしちゃ珍しく昨日の夜から浮かれてたからな。でも、いいか。もしハンナに何かあってみろ、握りつぶすからな?」


ゾクッとした。かなりの殺気を混ぜた視線を向けてくるローザさん。怖いって、しかも握りつぶすって……なにを握りつぶす気なんだよ。


「だ、大丈夫です。俺が付いてますから……彼女たちの安全は保障します!」


敬礼して答える。それを半睨みで見ていたローザさんは、しばらく俺を睨んだ後にいつもの表情に戻った。


「ま、あの子があそこまで楽しみにしてんだ。大人として、しっかり楽しませてやってくれ」


そう言いながら、ローザさんは奥に消えていった。まったく、色々やり取りはあったけど、結局ローザさんとしてはハンナちゃんに楽しんでもらいたかっただけのようだ。それだけのことに、殺気を撒き散らすのは止めていただきたい。


「お待たせお兄ちゃん!あれ、まだ準備できてないの?」


「できてるよ。ローザさんに挨拶してたところだ。ハンナちゃんも準備できたことだし、出発しようか」


「おー!」


「楽しみです」


こうして、エスカちゃんに町を見せると言う名目のお出かけが始まった。





「うわぁ、お店がいっぱい!」


商業区画に着いたところで、エスカちゃんが我慢できなくなったのか歓喜の声をあげた。見るものすべてが珍しいのか、色々な店の前に並んだ商品をキラキラした瞳で見つめている。


「わんわん!」


慌ててポロンがエスカちゃんを追う。今日のポロンは、エスカちゃんのナイト役だ。ポロンもエスカちゃんが気に入ったのか、ここまでも横を機嫌良さそうに歩いていた。


「すごいね、ポロン。私こんなの初めて見た」


「エスカちゃん待って!私も見たい」


遅れてハンナちゃんが、エスカちゃんとポロンの元に駆け出していく。今は雑貨屋の前に並べられた食器や小物を2人と1匹で見ている。


今日の主役はエスカちゃんだ。彼女が楽しんでくれるのが一番なわけで、当然そこに大人の俺がいるよりも子供同士でワイワイやっている方が楽しいと思っていた。だが……。


「ほら、お兄ちゃんも早く!」


「ホクトお兄ちゃん遅い!」


「わぅ!」


三人三様?な催促を受けて、俺も並べられた物の近くまで歩いて行く。


「俺の事なんか気にしないで、2人で楽しんでていいんだぞ?」


「もう、お兄ちゃんって女心がわかってないよね?」


「え?」


「本当にね、こういう時は何が私たちに似合うか、選んでくれないと……」


「え、え?」


「わぅわぅ……」


「ポロンまで!?」


気を利かせた結果、拗ねられてしまった。と言うかポロン、お前はオスだろ。なんで一緒になって俺を責めてるんだよ。


アサギたちである程度慣れたとはいえ、小さな女の子たちと町を歩くことなんて無かったから、今いち勝手が分からない。


「え~と……ほら、これなんて2人に似合うんじゃないか?」


苦肉の策に、適当に選んだ木製のマグカップを2人に見せる。


「わぁ、可愛いね」


「ほんと、このワンちゃんのマークが可愛い」


適当に選んでみたけど、そこは町でも噂の雑貨屋。普段も若い女の子たちが、商品を買い求めているだけあって、適当に選んでも意外に当たりを引いたらしい。それならばと、同じようなマグカップをもう1つ――こっちは子ネコのマークが付いている――選んで2人に見せる。


「まったく同じものよりも、こういうちょっと違うものの方が2人で使うには良いんじゃないか?」


「そうだね、私はこっちのワンちゃんのコップが気に入った。エスカちゃんは?」


「私は子ネコちゃんのマークのが気に入ったわ」


「綺麗に分かれたみたいだな、じゃあこれはオレからのプレゼントだ」


マグカップ2つ合わせてもたかが知れている。今はそれなりに懐も暑い、喜んでくれるなら買う価値はあるな。


「え、いいの?」


「いいよ。2人と出かけた記念にね」


「「やった~!」」


商品を持ってお店の中に入る。店員さんに商品を包んでもらっている間、ふと気づいた。そう言えば、エスカちゃんが俺と会話をしていても敬語を使っていない。


「……ちょっとは打ち解けてくれたかな?」


お金を渡して商品を受け取る。このままでもいいんだけど、さすがにこれを持ったままで歩き回りたくはないな。


「すいません、これが入る様な小さなカバンってありますか?」


「それでしたら……これなんてどうでしょう?」


見せてくれたのは、腰に巻くポシェットタイプのカバンだった。へぇ、こんなカバンもあるんだな。色も派手すぎずちょうどいい。ひとめで気に入った俺は、そのカバンも一緒に買う事にした。


「ありがとうございました」





その後も色々な店を見て回り、本日のメインイベント。古着屋に到着した。


「うわぁ、いっぱいあるね……」


「服に押し潰されそう……」


こっちの世界では、服と言えば古着だ。新品の服は高くて一般市民には手が出ない。だから服屋と言えば、自然と古着屋になるわけだ。だけど、古着屋と言ってもボロボロの服が置いてある訳じゃなくて、どっちかって言うとアウトレットみたいに小奇麗な服が多い。


「すいません、この子たちくらいの女の子が着る服はありますか?」


いきなり物色なんて俺にはできない。普段ならいざ知らず、小さな女の子の服なんか選んだことが無い。だったら、最初っから店員さんに任せてしまうのがいい。


「お兄ちゃんが選んでくれないの?」


どこか寂しそうな表情のハンナちゃん。隣で同じような表情をするエスカちゃん。いやいや、それはちょっとハードルが高いって。


「ここはプロに任せよう。出してきてくれた中で、俺が似合う服を選ぶって事でどうだ?」


「……確かにその方が無難かも」


「お兄ちゃんに女心が分からないのは、すでに十分解ってる事だしね」


2人の少女の評価が辛い。まあ、良いところはあまり見せられてないけど、他の同世代の男も同じじゃないか?


しばらくすると、店員さんが何着か見繕って持ってきてくれた。作りはしっかりしているみたいで、どれを選んでも損をすることは無さそうだ。


「私はいいから、今日はエスカちゃんの服を選んであげて」


「え、ハンナちゃんはいいの?」


エスカちゃんが驚いた顔でハンナちゃんに聞く。俺も2人の服を選ばされると思ってたから意外だった。


「私は今度でいいよ。エスカちゃんは、ここまで荷物を持ってくることもできなかったから、替えの服が無いでしょ?だったら、まずはエスカちゃんのを選ばないと」


さすが客商売をする家の娘。意外としっかりしている。エスカちゃんは、ハンナちゃんに言われてもまだ引け目を感じているようだ。ここは、俺が後押しをしてあげる番かな。


「エスカちゃん、また来ればいいんだよ。その時は2人でハンナちゃんに似合う服を選んであげよう」


「また……また一緒に来てくれるの?」


「もちろん。ね、ハンナちゃん」


「うん!」


次もある事が解って、やっとエスカちゃんの顔に笑顔が戻って来た。この子は村にいたときから、こうやって聞き分けが良かったのか?これくらいの歳の子だったら、もっと我儘を言っても良いと思うけど。やっぱり、現代日本で育った俺と、こっちの価値観は違うのかもしれないな。


「……じゃあ、ホクトお兄ちゃん。私に似合う服を選んで」


上目遣いで見上げてくるエスカちゃん。こんな風に期待されると、応えない訳にはいかないな。俺は意気揚々と、店員さんがもってきた服の物色に入った。その時……。


「あら、楽しそうな場面に出くわしたわね」


後ろからの声に振り返ると、そこには私服のノルンさんが立っていた。

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