11話 おかえりパーティー
「それでは、お兄ちゃんたち猛炎の拳のみんなが無事に帰って来たことをしゅくしまして……かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
ハンナちゃんの音頭の後、宿に宿泊している人や、近所の顔馴染みたちが集まってきてパーティと言う事になった。今まさに町の外では魔物と冒険者の戦闘がおきているというのに、パーティなんてやって良いのかと日本人的配慮をしてみたところ……。
「そんな事に気を遣ってちゃ、何時まで経ってもパーティなんてできん!この町にどれだけの人間が住んでると思ってるんだ。その一人一人に気を遣ってたら自分の番なんて一生回ってこないぞ」
こんなことを宣ったのは、ひょっこり顔を出したゴドーのおっさん。鎧の事を報告したかったんで丁度良かったんだけど、既にできあがってて呂律が怪しい。
「ゴドーは勢いが良いのは最初だけだ。ああ見えて、酒にはめっぽう弱い」
ローザさんが次々に料理を運び込んできながら言う。今日はハンナちゃんもお呼ばれしてるので、給仕をするのはローザさんだけだ。まあ、そんなローザさんも酒を片手に片手間で給仕をしている始末だけど……。
「ホクトくん食べてる?」
「おう、久しぶりにまともな食事だ。食い逃さないようにしないとな」
大皿から自分の皿に移して、さあ食べようとしたとき……。
「ぐえぇ!」
突然後ろから伸し掛かられた。今日の面子の中で、俺にこんな仕打ちをする奴は限られている。そして、頭や背中に感じる滑らかな毛触り……犯人は1人、いや1匹しかいない!
「ポロン重いって……」
「わぅ!」
肩の上に頭を乗せて、俺の顔に向かってグリグリの鼻先を押し付ける。
「今日のポロンは甘々だね。ずっとお兄ちゃんの事を心配してたんだよ」
「わうわぅ!」
ご飯そっちのけで、俺に構ってオーラを出し続ける。今日は無礼講って事で、ポロンも食堂に入る事をローザさんが許可してくれたんだ。こいつも随分大きくなったから、中に入れるか心配だったけど、何とか中に入る事ができた。
「うわぁ、フワッフワのモッコモコ♪」
初めてポロンを見るエスカちゃんが、大喜びでポロンに抱きついている。そのパワーも、下に敷かれている俺にダイレクトに来るので、ご飯を食べ終わるまでは止めてほしい。せっかく食べても全部押し出されそうだ。
「この子はポロン。お兄ちゃんの相棒であり、私の相棒なんだよ」
ハンナちゃんが嬉しそうに、エスカちゃんにポロンを紹介している。2人はすでに自己紹介を終えて、同じ歳の女の子同士ということもあって、あっという間に仲良くなってしまった。エスカちゃんが笑っている姿は初めて見たけど、やっぱりこっちの宿屋に移ってきて正解だったな。
遠くの席でマテラさんと一緒にお酒を飲んでいるノルンさんと目が合う。お互い思っていることは一緒のようだ。マテラさんの隣からアンナちゃんもこっちにやってきた。目的は……ああ、やっぱりポロンなのね。さらに荷重がかかって息をするのも大変になってきた。
「お、お嬢さん方……ちょっとポロンの上からどいてくれないかな?」
「なぁに、私たちが重いって言うの?」
「言うの?」
ハンナちゃんのマネをして、アンナちゃんまで俺に詰め寄ってくる。そして、それを見ていたエスカちゃんが、クスッと笑うと……。
「私も重くないです!」
2人に便乗して俺を揶揄ってくる。そんな小さなレディーたちに苦笑しながら、みんなの頭を撫でていく。
「さすがに3人一緒じゃポロンも可哀想だろ?ちゃんと順番を決めて抱きしめればいいんだよ。ね、ハンナちゃん?」
「う、うん!じゃあ最初はね……」
自分が一番に抱きつこうと思ってたハンナちゃんだったけど、2人からの期待する視線に負けてアンナちゃんを指名していた。
「ふぅ……やっと落ち着いた。これで飯が食える」
ずっとポロンに纏わりつかれてたから、俺はパーティが始まってから全然飯を食えていない。ここでやっと人心地ついて、皿の料理に手を付ける。
「美味い。ああ、やっと戻ってきた気分だ……」
死にそうな目にも合ったし、大事な仲間も失ったけど俺は帰ってこれた。この料理を食べて、しみじみそう思えてきた。
「なに黄昏てんだホクト、アタイにも少しは付き合え!」
大きなジョッキを片手に、カメリアが絡んできた。席は俺の左隣、ここまでは周りに気を遣って絡んでこなかったけど、俺が落ち着いたのを見計らって早速絡んできやがった。
「ほらホクトも飲めよ!」
並々とエールが注がれたジョッキを俺の前に置く。まあ、今日は良いかとそれを一気に煽る。
「ングッ……ゴクゴクッ……ンゴクッ……ぷはぁ!美味い!」
「おお、良い飲みっぷりだ!まだまだあるから、ジャンジャンやれよ」
「もうカメリア、あんまりホクトくんにお酒を飲ませちゃダメよ?あなたと違って、ホクトくんは普通のヒューマンなんだからね」
右隣に座っていたアサギが、すかさずお姉ちゃん風を吹かせ始めた。こうなると、この2人はいつも揉め始める。
「ああ、2人とも……ほどほどにな」
触らぬ神に祟りなし、俺は2人を無視して目の前の食べ物へ意識を集中することにした。
しばらく飯を食べつつ、アサギとカメリアのやり取りを眺めて時間が過ぎていった。気付いたら2人で飲み比べを始めてしまったので、俺は席を立ってハンナちゃんたちと一緒にいるエスカちゃんの元に向かった。食堂の隅っこで寝っ転がったポロンのお腹に顔を埋めていた。
「エスカちゃん、楽しんでるか?」
「うん!私こんなに笑ったの久しぶり」
「そうか、ポロンとも仲良くなってくれて嬉しいよ」
ポロンのお腹に顔を埋めて、グリグリしているエスカちゃんの頬は緩みっぱなしだ。ポロンも気持ちいいのか、なすが儘になっている。しばらく離れていたけど、こいつどんどん野生を失っていくな。
「この子が、ホクトお兄ちゃんが言ってた相棒なんだね?」
「ああ、ポロンが小さい時に森で拾ったんだ。それ以来の仲だよ」
「ホクトお兄ちゃんの言う通り、すっごく気に入りました!」
「それは良かった」
俺もしゃがみながら、ポロンの顎を優しく撫でる。それだけでポロンは、気持ち良さそうな鳴き声を上げる。ポロンの背中側では、アンナちゃんがポロンに抱きついて舟を漕いでいた。
「ありゃりゃ、アンナちゃんはおねむか」
「それでは、私たちはそろそろ帰りますね」
後ろから声をかけられて振り返れば、アンナちゃんのお母さんのマテラさんが立っていた。
「ご無沙汰してます、マテラさん」
「よくぞご無事で。ノルンさんから聞きました、色々辛かったでしょう」
そう言いながら、俺の頭を優しく撫でるマテラさん。この人にかかっちゃ、俺もアンナちゃんも等しく子供なんだな。
「積もる話は、またギルドで」
「ええ、資料室でいつでもお待ちしています」
アンナちゃんを抱き上げながら、マテラさんが笑顔でそう言う。ギルドの資料室は、いつ行っても人がいないから、さぞや退屈しているんだろう。楽しい話、悲しい話色々あるけど、今度聞かせに行こう。
「じゃあね、アンナちゃん」
「うみゅぅ……バイバイ」
眠そうな顔で挨拶するアンナちゃん。ハンナちゃんや、エスカちゃんもアンナちゃんにお休みを言っている。さて、子供たちはそろそろお開きにするか。
「ハンナちゃんたちも眠いだろ。もう遅いから、部屋に戻って休みな」
「もうお兄ちゃんは、すぐそうやって子ども扱いする!」
実際子供だろうに。そんな事は口が裂けても言えない。ハンナちゃんもエスカちゃんも小さくても女の子、この年頃の子は子ども扱いをされるのを嫌がることは、普段ハンナちゃんと接することで学んだ。
「でも寝るのが楽しみ!今日はね、エスカちゃんと一緒に寝るんだ」
「私も、誰かと一緒に寝るのなんて久しぶりだから、すごい楽しみです」
「それでねそれでね、お兄ちゃん。明日、エスカちゃんと一緒に買い物に行くんだ。エスカちゃん、せっかく可愛いのに服とか持ってきてないって言うから、町を案内しながらお店を見て回るの」
やっぱり、ハンナちゃんたちに任せて正解だったな。俺なんかじゃ気を遣わせるだけで、気苦労が絶えないだろうしな。
「そうか、明日はしっかり楽しんで来いよ!」
そう言って2人の頭を撫でる。すると、ハンナちゃんがブスッとした顔で抗議してくる。
「何言ってるの、明日はお兄ちゃんも一緒だよ」
「……え?俺も一緒に行くのか?」
「当たり前じゃない、だってエスカちゃんはお兄ちゃんが連れてきたんだから。ちゃんと面倒見ないとダメでしょ?私もフォローしてあげるから、がんばろうね」
あれれ、いつの間にやらハンナちゃんまでもダメな弟を躾けるようなポジションになっている。俺って、そんなに情けないかな?
「……一緒に来てくれないのですか?」
「うっ」
縋る様な上目遣いで、俺の顔を見上げてくるエスカちゃん。気持ち瞳もウルウルしている気がする。小さな女の子に、こんなお願いをされたら断れるわけがない。
「わかった、わかったよ。明日は一日付き合うから、そんな目で見ないで」
「「やったー!」」
するとハンナちゃんとアンナちゃんが、同時に飛び上がって喜んだ。くそ、完全に嘘泣きじゃないか……騙された。でも、まあいいか。こんな事くらいで、暗い表情だったエスカちゃんが元気になってくれるなら。
「それじゃ、私たちそろそろ寝るね。明日は早いから、お兄ちゃんも夜更かししないで寝るんだよ」
そう言って、手を繋ぎながら階段を上がっていく2人。もはや、完全に弟ポジションである。
「ふふ、あの子元気になってよかったね」
隣にアサギが来て、2人の消えた階段を見上げる。やっぱり、アサギも気になっていたようでエスカちゃんに対して気を遣ってくれていた。アサギのこういう気の遣い方は天性のものだ、俺には真似できない。でも、そんなアサギでもエスカちゃんの事は見誤るようだ。
「確かに、初めて会った時よりかは表情が柔らかくなった。だけど、まだまだだよ。あの子、未だに俺と話をするときは敬語なんだ。それが無くなれば、本当の意味で安心できるんだけどな」
「大丈夫、焦らなくてもホクトくんならできるよ」
「根拠は何だよ。言っておくけど、ハンナちゃん以外の女の子ってどう接していいか未だにわからないぞ俺は」
「根拠はね……私がホクトくんを信じているから」
なんのこっちゃ。それでどうにかなるなら、神様はいらないっての。でも、本当にそれができるなら早くあの子を楽にさせてあげたい。明日の買い物はタイミングが良かったのかもしれない。
「さて、ハンナちゃんに言われちゃったから俺はそろそろ寝るよ」
「わかったわ、他のみんなには私から言っておくからゆっくり休んで」
「ああ、お休み」
「お休みなさい、ホクトくん」
アサギに別れを告げて階段をあがる。階下からは、未だ賑やかな声が聞こえる。その喧騒に背中を押され、俺は自分の部屋に入った。さて、明日は良い日になるといいな。
もう少し日常が続きます。戦闘を期待している方もいると思いますが、
間章で辛い目にあったエスカがどう立ち直っていくのか。
もう少しお付き合いください。




