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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
7章 続・町を守ろう
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8話 和解

ビオラさんの説明を聞いている途中から、隣に座るアマンダさんが小刻みに震えていた。そちらに顔を向ければ、彼女は声を殺して泣いていた。周りにいる女性たちも、彼女の嗚咽に心揺さぶられたのか貰い泣きをしている人もいる。


「あなたにとっては、本当に迷惑な話でしょうね。でも、私もあの子を強く諫める事ができなかった。私は、アマンダの気持ちも解っていたから……だから、間違っていることは理解していたけど……無理にでも止めようとまでは、思わなかった。こんなことを今更言っても仕方ないけど、本当に申し訳ない事をしたわ。これは、アマンダだけの罪ではない、私も一緒にあなたにできるだけの償いをします」


ビオラさんは、泣きながら俺にそう懺悔する。もう文句を言う空気じゃなくなっていた。正直、この展開はずるいと思う。こんな場面を見せられたら、怒る事も出来ないじゃないか。俺だって鬼じゃないんだ……。


「わかりました、あなたからの謝罪は受け取ります。だけど……」


そう言って、俺はアマンダさんの方を向いてハッキリと口にする。


「アマンダさん、何があったのかは分かったし、それが俺にどう関係があるのかも理解……はできないけど、まあ納得はできました。だけど、それだけで全てを許せるほど俺も大人じゃないです」


「なんだ、金玉の小さい奴だな。いいじゃないか、ここですっぱり許すのも男の解消だぜ」


ミルさんがセクハラ紛いの事を平気で言ってくる。年上の女性に罵られるのは……悪くない。やばい、変な癖が着いたらどうしよう。


「ミル、そう言う差別的な言い方は良くないわ。これは、男だからとか女だからとかいう問題ではないの。お互いにちゃんと理解したうえで和解しないと禍根が残るわ。その点、ホクトさんは私たちへのチャンスを模索してくれている。それは、彼にやったことを思えばとてもありがたいことよ」


ビオラさんがミルさん相手に、そのように窘めている。どうしよう……ミルさんの言い様に新たな世界への扉を開きかけた俺としては、そこまで真剣には考えてなかったんだけど……。


「と、とにかく。アマンダさん」


「……なに?」


上目遣いで、すがるような視線を俺に向けるアマンダさんは、今まで見たことが無いほど弱々しく感じる。この人、本来はこんな感じの人なのかもしれない。みんなを引っ張るリーダーとか、オレに対して上から目線で詰問するような性格は、かなり無理をしていたんじゃないか?


「俺としては、簡単に無かったことにはできないし、してはいけない問題だと思います。あの時、みんな命懸けで魔物と戦っていたのに、そんな私情を挟んだ思惑で俺をあそこまで追い込んでたんですから」


「うぅ……」


言い方がキツかったか?だけど、俺が行っていることも事実だ。実際、彼女の言動でかなりの人が迷惑を被っていた。ダッジさんにしたって、本来の適材適所の振り分けから変えざる得なかった部分も多かっただろう。そんな人たちのことを思うと、俺1人簡単に許してしまっては示しがつかない。だから……。


周りの涼風の乙女の面々も、固唾を飲んで身構える。これから俺が何を言うかで、彼女たちチームの今後が決まるのだ。


「……まずは身体を治してください。あなたと、この施設ならそんなに時間をかけずに完治できますよね?その上で、この後くる魔物の群れから町を守って下さい。俺みたいなDランク冒険者なんかよりも、あなたたちAランクパーティの方が何倍も町防衛に貢献できるでしょ」


「……え、それは……うん。もちろんよ、私たちは全力で魔物の群れから町を守って見せるわ。だけど、それだとあなたへの罪滅ぼしにはならないんじゃ……」


アマンダさんが答えると、他の面々も同意するように頷く。だけど、俺はそれでいいと思ってる。


「それで充分です。だって、この町には俺にとっても大切な人たちが沢山生活しています。俺の力では守れないかもしれない、だけどあなたたちが全力で守ってくれるなら安心じゃないですか」


「う、うん……うん!守る、私たちが魔物なんて全部蹴散らしてやるわ!」


「おう、そういう事ならあたしたちに任せとけ!」


「うんうん!お姉さん、ちょ~っとグッときちゃったな。ホクトくんは、やっぱりいい子だねぇ」


アマンダさん、ミルさん、ディーネさんが思い思いに口を開く。アイラさんやビオラさんも、口元にわずかな笑みを湛えてそれを見つめている。どうやら、これで涼風の乙女との関係修復も無事に終わったかな。


「それじゃ、俺はそろそろ帰ります」


「え、もう帰るの!?もっとお姉さんたちとお話していこうよ」


帰る事を伝えると、甘えたような声でディーネさんが縋り付いて来た。この人、これが素の反応なんだろうけど、身体へのスキンシップが過剰だからドキドキが止まらなくなる。自然、顔も赤くなってくるわけで……。


「おうおう、小僧がいっちょ前に照れてるぞ」


「もうミルはそうやってホクトさんを揶揄う。ダメよ、若者を揶揄っちゃ」


そうは言いつつも、口元がニヨニヨしているビオラさん。今までは剣呑とした雰囲気だったから感じなかったけど、涼風の乙女は美女揃いだ。和解したことで、距離感が近くなってしまった。その結果……。


「ほらディーネも!あまりホクトさんに迷惑をかけてはいけませんよ」


「ええ、いいじゃん。ねえホクトくん、年上の女は嫌い?」


「だ、ダメよディーネ!ホクトにはアサギとカメリアがいるんだから……」


何と言うカオス。アマンダさんも、さっきまでのキツイ表情はなりを潜めて今ではその辺にいる一般人と変わらない穏やかな表情をしている。だからなのか、フォローするつもりで燃料を投下している。


「え、あの二人とホクトくんってそう言う関係だったの?」


「小僧は年上キラーだな、こんなにも年上の女をその気にさせておいて他にもいるのかよ」


女三人寄れば姦しいとはよく言ったもんだ。このノリは、休み時間のクラスの女子たちみたいだ。そしてツッコミ不在の集団には、止めるものがいないことからブレーキを踏む者が存在しない。これ、いつになったら帰れるんだろう。


「ただいま……って、みんなどうしたの?」


そこに新たな女性、女の子?が入ってきた。俺よりも年下に見えるその子は、その場にいる女性たちの醜態を見て目を白黒させている。


「あ、おかえりキリュウ。どうだった?」


「うん、バッチリ見つけてきた。で、この状況ってどういう事?」


キリュウと呼ばれた少女は、ビオラさんの元まで行くと他の面々を不思議そうな目で見ている。どうやら、彼女が涼風の乙女の最後のメンバーみたいだ。


「ホクトさん、紹介するわ。この子はキリュウ、私たち涼風の乙女のメンバーで偵察を得意とするシーフなの」


ビオラさんの紹介に合わせて、キリュウの呼ばれた少女は頭をペコリと下げる。釣られて俺も頭を下げる。


「は、初めまして。俺はDランクパーティ猛炎の拳リーダー、ホクトです」


「知ってるよ。アマンダが妙に気にしてた子だよね」


ボーイッシュで、溌剌とした表情のキリュウ。だけど年下の子から『子』扱いされるのは少し恥ずかしい。


「あぁ、小僧のあの表情は……勘違いされてるぞキリュウ」


「え?」


ミルさんがからかい口調でキリュウに声をかける。それを聞いたキリュウは、キョトンとした表情のあとに少しだけムッとした表情をして……。


「ボクはこのメンバーの中で、二番目にお姉さん。多分君よりもね」


「えっ……え!?」


いやいや、その姿や口調でお姉さんと言われても。ボクッ子なんて、リアルで初めて見たぞ。


「最初だから許すけど、次からボクを年下扱いしたら怒るからね?」


何だろう、精一杯背伸びをしてお姉さんぶってる年下の女の子にしか見えない。改めてキリュウの全体を見てみる。髪は柔らかそうな猫毛で、それを短くショートカットにしている。身体つきも華奢で、どちらかと言うと中性的な感じだ。草原を駆け回ってる姿を見かけたら、元気のいい男の子と思ってしまったかもしれない。それになにより、ハンナちゃんと同じくらいにしか思えない、その身長。これでお姉さんと言われても、俄かには信じられない。


「あらら、これは信じてないって顔ね。まあ、それはホクトくんが悪いってよりも……」


「キリュウがチビッ子過ぎるのが悪いな。説得力ゼロだし」


「……むぅ、どこからどう見てもボクの方が年上じゃないか」


そこで同意を求められても困る。実際ハンナちゃんと並んだら、同世代の友達に見えても、誰も責められないと思う。


「うっふ~ん……ほらどう?セクシーでしょ?」


シナを作ってセクシーアピールをしているみたいだけど、正直微笑ましさしか感じない。今後、俺の中でキリュウが年上として扱われることは無いだろう。


「それでキリュウ、何か見つけてきたんでしょ?」


会話の袋小路に陥りそうになっていたのを、アマンダさんが本来の用件を聞くことで見事脱することができた。


「うん……ホクト、後でキッチリけじめをつけるからね!」


アマンダさんに向き直りつつも、まだ俺への弁明を諦めていなかったみたいだ。これから先、どれくらい涼風の乙女と接する機会があるか分からないけど、キリュウとの関係が変わる事は金輪際無いと断言できる。


「町の北の方角に第四陣を見つけた。規模は約3000」


和気藹々とした雰囲気をぶち壊す、キリュウの報告を聞いて耳を疑った。


「え、3000?まだそんなに残っているっていうの……」


途端、涼風の乙女の面々の表情が険しくなる。それは、キリュウの話を聞いた俺も同じだ。


「第三陣までで、かなりの魔物を倒したはずだ。それなのに、まだ3000も残っているって言うのか?」


思わず愚痴が零れる。それは、その場にいた全員の心情を代弁していたようで


「ホクトの言う通りね。ここまでで、かなりの魔物を倒してきた。ここに来て3000の群れとなると、最初の予想よりも遥かに多い事になるわ」


「キリュウ、この情報はギルドには?」


「まだ。とりあえずみんなの判断を仰ぎたくて、帰ってくるのを優先したから……」


アマンダさんが考え込む。他の人たちは、アマンダさんが結論を出すまでは黙っているようだ。


「キリュウ、アイラと一緒にギルドへ言って見てきたものの報告をしてきて。アイラ、悪いけど涼風の乙女の代表としてギルドで話を詰めて来て」


「うん」


「わかりました」


すごい、さすがAランクパーティのリーダーだ。すぐさま必要な指示を出して場を動かし始めた。俺もリーダーとして、これくらいの事ができるようにならないとな。うちの場合、その役目はもっぱらアサギに丸投げだけど。


「私は、一刻も早く完治するように専念するわ。ビオラ、悪いけどしばらく一緒にいて」


「わかったわ」


「あたしたちはどうする?」


「いつでも動けるように準備をしておいて。私の回復を待たずにあなたたちだけ先行して町の防衛にあたる可能性が高いわ」


「りょうかい。今度は、みんな一緒だといいね。私たちって、結局みんな一緒じゃないと本気が出せないみたいだからね」


「涼風の乙女ここにあり!って、みんなに見せつけてやるよ」


これがAランクパーティ、涼風の乙女。今まではリーダーのアマンダさんと、アイラさんが別行動をしてたから纏まりを感じなかったけど、今ここにいる全員を見ると間違いなくAランクなんだと思い知らされる。


「俺もギルドに一緒に行っていいですか?」


「はい、ホクトさんも一緒に来てください。これからのリーザスの町にとって、重要な話し合いがされるでしょうから」


「はい!」


こうして俺と涼風の乙女は和解し、新たに齎された情報から第四陣の全容が明らかになった。いよいよスタンピードも大詰めだ。

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