11話 奇妙な行動
「よし、次が来るまでしばらく時間がある。お前ら、今のうちにしっかり休んでおけよ」
ダッジさんの一言で、周りの空気が弛緩したものに変わる。とりあえずスタンピードの第一陣は無事に倒すことができた。多少は逃がした魔物もいるだろうけど、それくらいなら町にいる冒険者たちだけでも十分に対応できるだろう。
「ホクト、シッカちょっと来てくれ」
俺とシッカがダッジさんに呼ばれる。この組み合わせって事は、また偵察か?
「その顔からすると、分かってるみたいだな。次の群れは他の奴らが情報を集めてる。お前たちは第三陣の偵察に行ってくれ」
「わかりました。第二陣は無視していいんですね?」
「ああ、そっちは大丈夫だ。ホクト、まだ慣れてねえだろうけど、しっかりシッカのサポートをするんだぞ」
「わかってますよ」
戦闘終了後の疲労もあるけど、それ以上に魔物の情報が重要なのは俺でもわかる。多少無理してでも行かざる得ないな。
「さっきの戦闘は見事だった。よくぞ半年であそこまで浸透を使えるようになった。俺としても鼻が高いぞ!」
肩をバシバシ叩きながらダッジさんが白いワーウルフとの戦闘を褒めてくれる。今まで褒められた記憶が無いから、ちょっと照れる。
「恐らく第二陣との戦闘には間に合わないだろうが、その次はまた期待しているぞ」
「任せてくださいよ、ダッジさんの弟子として恥ずかしくない戦いをします」
「へっ、あんまり調子づくなよ。戦場では気を抜いたやつから死んでいくんだ」
「はい!」
ダッジさんと別れてアサギたちの所まで戻る。一応偵察に行くことは言っておいた方が良いだろう。シッカも自分のパーティメンバーに伝えていくそうなので、俺たちは10分後に合流する約束をして別れた。
「お、今回の主役のご帰還だ」
アサギたちの所まで戻ったら、ソウルたちとアレクたちが揃って俺を待っていた。2人のパーティメンバーにもけが人はいないようだ。
「見ていたよホクト。前から思ってはいたけど、本当に強いんだな。ユニークな魔物をソロで倒すなんて……」
「まったくだ。しばらく見ない間に、随分強くなったなお前」
アレクはともかく、ソウルにまでそんなことを言われると背中が痒くなってくる。
「たまたまだよ。ソウルの前にあいつがいたら、お前だってソロで倒してたろ?」
「そりゃ倒せるさ。だけど、今回あいつが目を付けたのはお前で、倒したのもお前だ。もっと誇っていいんだぞ?」
「その通りだ。ホクトはそれだけのことしたんだ。周りのお前を見る目は、Dランク冒険者を見るそれではない」
久しぶりにあったサラは相変わらずのクソ真面目な奴だった。だけど、その言葉は俺が喉から手が出るほど望んだ言葉だ。誰かに認めてもらいたい、今回この作戦に参加してから俺の評価は思った以上に低いものだった。今までそれなりにやってこれたと思っていた俺にとっては、どこか周りの見る目の無さに憤りを感じていたのも確かだ。
「ありがとうなサラ。それにソウルにアレクも、わざわざ来てくれて嬉しかったよ」
「なに気持ち悪いこと言ってんだ、さっきの戦闘で頭でも打ったか?」
「うるせえよ!ち、ちょっと思った事が口から出ただけだ!」
「ホクトくん、それ全然フォローになってないよ」
ちくしょう、あまりにも嬉しいことを言われたから、ちょっと舞い上がってしまった。
「それよりも、あんたさっきの戦いで結構疲れたんじゃないの?少しでも休んだ方が良いわよ」
ソウルの後ろからエリスが現れた。こいつのツンデレも健在だな。突っかかってきてるように見えて、ちゃんと俺の心配をしてくれてるんだな。
「エリスも久しぶり。ありがとうな、心配してくれて。俺も休みたいんだけどな、さっきダッジさんから言われて、これから偵察に行かないといけないんだ」
「だ、だれもあんたの心配なんかしてにゃい!」
「にゃい?」
「にゃい?」
「にゃ~」
可愛く噛んだエリスをみんなで弄る。アサギ、お前のそれはただの猫だ。
「ば、バカァーーーー!!!」
エリスは走って行ってしまった。
「ああ、行っちゃった……」
「もう、仕方ないなぁ……私がエリスちゃんを宥めてくるよ」
アサギがエリスの走っていった方を見てニヤニヤしている。こいつ、さっきのだけじゃ弄り足りなかったのか?これは、エリスがアサギに捕まったら更に大変なことになりそうだ。
「それよりもホクト、偵察に行くのか?お前、今回の戦いの前も偵察に行ってたよな?なんで専門でも無いお前を、上の連中は偵察に連れて行くんだよ」
「そこは……まあ、ダッジさんの親心って奴かな。ほら、俺周りからあまりいい目で見られてないだろ?」
「ああ、アマンダな。あいつ目が腐ってるんじゃないか?ホクトを目の敵にしたように見下してさ」
ソウルやアレク達も、アマンダさんの俺の扱いは目に余るらしい。ソウル程じゃないけど、アレクたちも俺を貶すアマンダさんはどこか異常に見えたらしい。
「まあ、実際実績なんて無かったからな。だから、ダッジさんが俺を偵察に使って少しでも役に立てるように色々お膳立てしてくれてるんだ」
確かに戦闘の後で疲れてはいるけど、そんなダッジさんの心意気には応えたいと思う。俺が言った事でアレク達も納得したのか、幾分か表情が落ち着いた。
「でもホクトさん気をつけてね。ここなら周りに冒険者がいっぱいいるけど、偵察に行ったら周りには助けてくれる人がいないんだから。自分の身は自分で守らないとダメなんだよ」
「お前に言われると、納得いかないなエミル。大丈夫だよ、シッカもいるし無理はしないって」
「もう、なんで私だとダメなのよ!」
エミルを揶揄っている間に、アマンダさんの事も忘れ随分リラックスできた。
「よし、そろそろ行くよ。次の群れの討伐には参加できないけど、みんな気をつけてな」
「ホクトもな、無事に戻って来いよ」
みんなに別れを告げて、俺はシッカとの合流ポイントへ向かった。
シッカと合流して北上。しばらく周りを気にせず走っていたら、シッカが手を上げて静止してきた。その合図を確認して足を止める。
「どうした?」
「……多分第二陣の群れ。ここから北西の方角」
シッカの視線を追って、北西の方角を見る。確かに大きい砂煙が見える。あれが次の群れか。
「ここだと見つかるか?」
「多分大丈夫だと思うけど、もう少し迂回しよう。あまり遠回りになっても時間を無駄にするだけだから、その辺りは私に任せてほしいけど大丈夫?」
「ああ、俺は素人だからな。シッカに任せるよ」
「わかったわ」
話しを切り上げてシッカが再び走り始めた。今までよりは、若干東寄りに移動を再開。それにしてもシッカの策定範囲は広い。俺も気配感知を持ってるけど、射程はせいぜい100m。ダンジョンみたいな閉鎖的な空間なら有効だけど、広い空間では大した効果は発揮できない。だけど、シッカの反応を見る限り俺の数倍は感覚が鋭いように感じる。これがシーフの能力なんだろうか。
進む先はシッカに任せて、俺はシッカの背中を追う。第二陣の群れには気付かれることもなくやり過ごせた。更に北上していくと、風景も変化していった。
「この辺りは岩が多いな。こっちも身を隠せる場所があるのはいいけど、敵に隠れられても分からないんじゃないか?」
「普通ならね。でも私には、こういう時に便利なスキルもあるからね。敵よりも早く見つける自信はあるわ」
これは一朝一夕じゃ真似できないな。せめて気配に対する感覚だけは、この機会に上げておきたい。
ゴツゴツした岩肌が目立つようになって、さらに進んで行くと渓谷のようになっているところに辿り着いた。
「おかしいわ……」
「どうした?」
「この先に魔物の気配がするの、多分第三陣の群れだと思うんだけど……」
妙に歯切れの悪いシッカの言葉。なにか予想外の事でも起こったか?
「動いていないのよ、その群れ」
「……動いていない?だって、そいつらはスタンピードの群れなんだろ?なのに動いていないって……」
「ね、おかしいと思うでしょ?私もこんなことは初めてよ」
スタンピードの群れなのに、停滞している魔物の群れ。本来スタンピードに陥った魔物たちは、自我を失うほどの興奮状態になる。だから、基本前にしか進まない。諸々の要因で若干は左右にブレるけど、それはあくまで稀な話だ。
「……まさかとは思うけど、自我を失わずにスタンピードに紛れ込んでるのか?」
「ここからじゃ判断が付かないわね。一旦渓谷を迂回して上に登りましょう。そこから群れを見れば、何がおかしいか解るかも」
「分かった。俺はシッカに従うよ」
それからしばらくして、俺たちは渓谷を見下ろす位置に来ていた。そこから見る光景は、ある種異常な光景だった。
「……どうして、魔物たちの統率があんなに取れているの?」
口に手を当てて、シッカが唸る。顔色も若干青くなっているように見える。でも、それは俺も同じだ。俺の目から見ても、眼下の光景は異常と言わざるを得ない。渓谷の細い道を、魔物の群れが規則正しく歩いているのだ。いや、歩いているというよりも行進していると言った方がいい。
「こいつらが、本当にスタンピードの起こした魔物の群れなのか?これじゃ、まるで軍隊だ」
見る限り、色々な種族が混じっている。ゴブリン、オーク、オーガ。人の形をした魔物たち。コボルド、スキュラ、リザードマン、ケルピー。動物やそれに近しい形をした魔物たち。それらが一団となって行進している。
「いろんな魔物がいるな」
「そう、それもおかしいのよ。普通スタンピードのときは、足の速さや相性から纏まったグループになるわ。だいたいが同じ種族同士で固まるわね。それが、こんなに種族がバラバラな群れなんて……私は見た事がない」
息を殺して魔物の群れを睨み付ける。こんなところで見つかったら、まず間違いなく囲まれて殺される。俺にしろ、シッカにしろ、今の力じゃ太刀打ちできない。
「見つかる前に離れよう。一刻も早くダッジさんに、この異常な群れの事を伝えないと……」
「まって、もう少し……」
俺は見つかるんじゃないかと、気が気じゃない。それでもシッカは、少しでも相手の情報を得ようと崖から乗り出すようにして群れを見ている。こういうところでは、以外に男よりも女の方が肝が据わるみたいだな。
「……ホクト、あれ」
シッカが震える指で一点を指し示す。俺は、その指がさした方向を目を凝らして見てみる。シッカの指の先には、白いコボルド。
「もしかして、あれはユニークか?」
「多分ね。でもそれだけじゃないの、見てその奥を」
言われて、更に奥を見るけどさすがに見えない。俺はシッカと違って、人並みな視力しか持っていない。
「何かいるのか?遠くて、良く見えない」
「あそこに白いゴブリン、あっちには白いリザードマン。向うには白いオークが……」
「は?……いやいや、ユニークってそんなにポコポコ現れるものか?」
有り得ないだろう。さっき俺がなんとか倒したユニークが他にも。しかも、1つの群れの中に複数のユニーク。それで、なんで群れが成立しているんだ?
「そもそも、ユニークってみんな白いのか?俺が他で倒したユニークは、別に白くは無かったけど」
頭に浮かぶのは、赤い彗星……レッド・コメット先生。先生もユニークだけど、別に白かったりしない。それが、こんな近くの……同じ群れの中に複数いるってのは、あり得ないだろう。
余りのユニークの数に、俺たちは我を忘れて群れを見つめる。渓谷の崖から身を乗り出して観察する。そして、たまたま空を見上げていた魔物に見つかってしまった。その瞬間、その魔物の手のひらには凝縮された魔力の塊が現れる。
「ヤバイ!」
俺は咄嗟にシッカの腰を掴んで、崖とは反対側に身を隠した。
次の瞬間、大気が爆発した。




