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創地帝妃物語  作者: 宮月
46/46

46.乱入者登場

二話投稿の二話目です。

本編最終話になります。

「それでは、これにて、婚約の儀を。」

「ちょっと待った。」

 フランツの終了の言葉を遮る大きな声が、大きな扉から聞こえてきた。一斉に重臣の方々も振り返る。

「ウ、ウィル?」

 遠くて、よくわからないけど、この声はウィルよね?

「うへぇ?」

 ダダダッと擬音と砂埃が見える程の勢いで、こちらに向かってくる。迫力があり過ぎて、逃げ出したくなる。私、何かした?

「ウィル王子。」

 扉の前にウィルを追ってきたと思われるカスパーとリリアンナの姿も。一体、何?何が起こっているの?

「貸せ。」

 ステージまで辿り着いたウィルは、呆然と眺めていたフランツの手からマイクを奪い取った。そして、大きく息を吸い込む。

「アレクとスイの結婚をちゃんと認めてやって欲しい。」

はい?

「二人は、愛し合っている。確かに、あのアレクがと心配する気持ちもわかるが、スイの前では別だ。表情筋が皆無かと思われるあの(、、)男が、スイにだけはあり得ないほど、優しい微笑みを浮かべるんだ。それだけじゃない。周りからは、傍迷惑なほど甘い言葉を囁く。はっきり言って、鳥肌が立つ。あの(、、)アレクもスイの前では、ただの男だ。」

 な、何を言い出すんだ?ウィルは突然…、と焦る気持ちとは別に、本当なのかとアルを見上げれば、頬が、いや、耳まで赤くなっている。嬉しいかも。

「もちろん、スイもアレクに惚れている。この僕の誘惑には見向きもしない。女性の百人中百人が僕を選ぶはずなのに。」

「そんな事はどうでもいいのです。」

 おっ、カスパーが割り込んできた。

「スイは、本当にアレク王子を愛していらっしゃいますよ。それにとても素敵な女性です。聡明でいらっしゃいますし、愛嬌もあり、愛情深い。家庭的で気遣いも出来ます。皆様に愛される王妃になってくださいます。」

 あのぉ、褒め過ぎじゃないでしょうか?それか、別人の事を熱く語っております?とりあえず、穴を掘ってもらえますか?私、しばらく身を隠したいです。

「とにかく、二人の結婚を祝福してあげてください。」

 ウィルとカスパーの声が綺麗に重なった。

「あのぉ、ですね。」

 会場が静まり返り、どう収拾されるのだろうと息を飲んだ時、遠慮がちにフランツが口を開いた。

「皆様、お二人の仲睦ましいお姿をご覧になり、承認の拍手も歓迎の御言葉もいただきました。そして、婚約の儀が終わるところだったのですが。」

「へ?」

 ウィルとカスパーが間抜けな声を零し、呆然と会場を見回した。

「だから、言ったのに。」

 呆れた溜息交じりの声が小さく会場に響き渡った。もちろん、リリアンナだ。

「フランツ帝子仕、どうぞ、私達の事は気にせず、婚約の儀を終了させてください。」

 リリアンナは、ウィルとカスパーの手を握り、引き摺るようにステージの隅へ。

「コホン。では、改めまして。これにて、婚約の儀を終了させていただきます。アレクサンドル帝子、粋晶創地帝妃の退場です。皆様、温かい拍手でお送りください。」

 再び入場時と同じ生演奏が流れ出し、会場一杯の拍手が沸き起こった。

「粋晶、行こう。」

「はい。」

 アルの腕にそっと手を乗せて、ゆっくりした速度で歩き出す。まぁ、色々あったけど、婚約の儀は終わったのかな?あっ、でも、午後、映像中継なるモノがあるんだっけ?ううん、大丈夫だよね?


「お疲れ様です。」

 大きな扉を抜けると、カツキとルーイの笑顔が出迎えてくれる。

「ただいま。」

 二人の笑みを見たら、ほっとした。少し肩の力が抜けた。

「申し訳ありませんが、予定が変更になりました。」

「どうした?」

「先に昼食の予定でしたが、国民へのお披露目が先になりました。」

「二人をお祝いしたいと駆け付けた方が予想を大きく上回り、混乱が生じる前にお披露目をしてしまおうと。もちろん、映像中継等が早まる事は、国民に放送済みです。」

「なので、このまま、広場にお願いします。」

 うん、やっぱり、この二人、息がピッタリ。

「わかった。行こう、粋晶。」

「はい。」

 って、現実逃避している場合じゃない。どうしよう?心の準備が未だなんだけど。

「あの、アル。」

「うん?」

「お披露目って、何をすればいいの?」

「ただ、手を振るだけでいい。」

「進行や紹介等は、フランツ帝子仕がやってくださいます。時間にして、十分程度です。」

「わかりました。」

 手を振るだけなら、楽勝でしょう。と、思ったのも束の間。一気に心臓が踊り出し、掌に嫌な汗が滲んだ。何なの?この人だかり。地面が人の頭で見えませんが?

「まぁ、仕方ないですよ。」

「今回の婚約は、幻の創地帝妃とあの(、、)アレク王子ですからね。」

 あの(、、)アレク王子って、アルの女性アレルギーは、そんなに有名なの?

「うん?あれ?創地帝妃って、婚約の儀まで秘密なんじゃないの?」

「えぇ、そうですよ。」

「しかし、午前中にキヨ様が、ビラを撒いていましたし、少なくても王都にいた者は、知っておられますよ。」

「はい?キヨ様って、もしかして、いや、もしかしなくても、一色清人、通称、キヨちゃん?それにビラって何よ?」

「これですよ。」

 私の目の前に垂れ下がってきた紙切れを引っ手繰る。引っ手繰られたルーイのクスクス笑う声が嫌な予感を増大させる。

「なかなか似ているな。」

「そう?」

 よかった、薔薇背負ってなかった。じゃなく、これ、美化し過ぎでしょう。似顔絵、あんまり似ていないけど。『アレクサンドル帝子、婚約。御相手はなんと幻の創地帝妃』と大きな見出し。

「キヨちゃん、よっぽど暇なのね。」

「いえ、これも立派な仕事ですよ。少しでも王家を知ってもらい、政にも理解していただこうと、広報から新聞が張り出されるのです。で、これは特別号外です。」

「そうですか。」

 今一瞬、見世物パンダの気持ちがわかった気がした。

「皆様、お待たせしました。」

 広場に面したベランダに、マイクを持ったフランツが登場。

「アレクサンドル帝子と婚約者の御登場です。」

 フランツは、どう頑張っても一流アナウンサーにはなれないな。あの左手を斜め上に差し出す動き。何となくわざとらしい。

「行くぞ、粋晶。」

「あっ、うん。」

 ゆっくり歩み出すアルに遅れないよう、私も足を出す。

「うぉ。」

 人が、人の山が、どよめき立つ。こ、怖い。

「紹介いたします。アレクサンドル帝子の婚約者、創地帝妃一色粋晶様です。」

「おぉ。」

 先程、重臣さん達に紹介された時とは違う。もしかして、歓迎してくれているの?

「皆様、歓迎の拍手をお願いいたします。」

 フランツの言葉に大きな拍手が起きる。うわぁ、嬉しいな。どうしよう、凄く嬉しい。ちょっと感動が大き過ぎて、涙が浮かんでしまうよ。

「粋晶。」

 アルの呼び掛けに顔を上げると、優しい笑みが向けられ、同時に肩を抱き寄せられる。

「ありがとうございます。」

 何処まで聞こえるか、わからないけど、感謝を伝えたい。なんて思ったら、マイクが声を拾い、しっかり大きく響き渡りました。

「おめでとうございます。」

 たくさんのお祝いの声が返ってきました。

「ほら、粋晶。手を振って、応えよう。」

「うん。」

 自然に零れる笑みをそのままに大きく手を振った。会場からも振り返してくれる。それが嬉しくて、手を振り続けていると、アルとは反対の隣に人の気配。

「スイ、おめでとう。幸せになってね。」

 真横で声が聞こえたと思ったら、頬にチュッと短いリップ音とぬくもり。

「ウ、ウィル。」

「お祝いのキスだよ。頬なら許容範囲だよね。」

 頬を押さえ、呆然と振り返ると、満面の笑みのウィル。薔薇、薔薇が、見えました。

「ダメだ。」

 私が、慌てふためいている間に、アルの短い返答。そして、私の視界が急に高くなりました。キョロキョロと見回すと、アルにお姫様抱っこされています。

いつの間に?こんなに簡単に抱き上げられるって、どれだけ力持ちなのよ?

「アレクって、本当、スイの事だと小っちゃいよね。」

「煩い。」

「あの、アレク王子、ウィル王子。この声は両帝国に流れていますよ。」

 二人がピタリと口を閉じた。フランツ、最強です。

「ウィリバルト帝子もお祝いに駆け付けてくださいました。」

 フランツのフォローの言葉に、群衆が再び盛り上がる。

「やっぱり、誓いのキスは必要だよね。」

 はい?ウィル、何を言っているのですか?結婚式ではありませんよ。そんなモノは必要ありません。

「さぁ、皆さんもご一緒に。キス、キス。」

 ウィル、余分な扇動しないでください。あと、会場の方々もノらないでください。

「粋晶、国民に応えるのも我々の使命だ。」

 いや、これは関係ないでしょ?

「ちょっと。」

 言い掛けた言葉は、アルの口の中に飲み込まれました。

「顔、伏せて置け。」

「あ、りがとう。」

 少しの理不尽さも感じますが、アルの優しさに甘えます。だって、絶対、顔が真っ赤だもん。

「じゃあ。」

 アルがズンズン歩き出し、建物の中に入っていきます。

「おい、アレク。待て。」

「あっ、はい。では、これにて、終わりにしたいと思います。皆様、御集りいただき、ありがとうございました。」

 背後から慌てたウィルとフランツの声と、群衆が造る拍手と囃し立てる音が、どんどん遠ざかっていきます。

「あの、アル。どちらへ?」

「俺達の部屋だ。」

「あぁ、お昼御飯ですね。」

「いや、テーブルではなく、ベッドだ。」

「はいぃ?」

「これも婚約の儀だ。」

「そ、そうなの?」

「そうだ。」


 …婚約の儀は、あのお披露目で終わりだったそうです。翌日の御昼過ぎに、ベッドでヘバっているところをクォーツに聞かされたのですが…。声が涸れ、足腰が重く、起き上がるのが困難になっている私のために、アルが食事を取りに行って、席いやベッドから外している間に、神出鬼没なクォーツが、楽しそうに言い残し、消えました。

「粋晶、食事だ。」

「ありがとう。」


 私は、幸せです。


年明けから番外編を投稿したいと思いますので、これからもよろしくお願いします。

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