表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/25

ちゃぷたーご 『意地っ張り』

「……寒い」 

 ヤバイくらいに寒い。

 ……いや、部屋が寒いとかそういったレベルで無く、ベッドに入って布団にくるまっているのに、寒気が身体の中から止まらない。

「ししょお……大丈夫ですか…?」

 ノックをして、部屋に入ってくる弟子。

「師匠、やっぱり医者に行きましょうよ」

「うる……さい……」

 息も切れ切れにどうにかそれだけ口に出す。反論したくても、声を出すのも億劫だ。

「医者は……嫌い…だ……」

「そんなこと言ってる場合じゃないじゃないですか……」

 溜め息を吐いて、弟子は俺の額に手を当てた。小さな、ひんやりとした感覚が少しだけ俺を落ち着ける。

「うわ……凄く熱いですよ師匠。また上がってますよ」

「んなこたない……」

 ……だって、これだけ寒いんだし。

「だから風邪なんですよ……。意地張らないで下さい」

「意地なんて張ってねぇよー……。あと、用もないのに入ってくんなマジで。早く出てけ」

「……むぅ。師匠のバカ。心配してるんですよぅ…」

「されてたまっかバーカ。良いから出てけ。そして医者にはいかんっ」

「…………」

 弟子は、一瞬むっとした表情をすると、直ぐに顔を伏せた。

 ……やべ。流石に口が悪くなりすぎた。

「……わかりました」

 顔を伏せたまま、弟子は顔を曇らせ、踵を返す。

「あー……あの、な……ちょっと?」

 俺の制止も聞かず、弟子はずかずかと廊下に向かうと、最後に、一度振り返り、

「……ししょうのばかぁっ」

 大きな音を立てて、乱暴に閉められる扉。

 ……泣きおった。

 というか泣かせちまった……。

「う……この聖人君子足る俺をもってこの毒舌とは、風邪恐るべし……」

 ……ダメだ。脳が熱に侵されてる。

「ゴホッ……ゴホォッ」

 ため息を吐こうとしたら、代わりに咳が出た。

「……さて、どうしよう」

 拗ねると結構引っ張るからなアイツ……。

 ……心無し、熱が上がった気がする。




 状況は悪い。

 色々と悪い。

 まず俺の状態だが。熱が明らかに上がり、頭は痛い、咳は出る、身体ダルイ、寒気が止まらない。

 ……悪化してるよこれ。

「うあぁ……ごほっごほっ」

 おまけに変な声が出る……。ちくしょう、治療魔術を使用出来ない自分が恨めしい……。

 魔術的な観念から言えば、気をしっかり持てば病になんて侵されるわけないんだが……。

「……じゃあ、俺がひくの当たり前か……」

 何しろ、ヘタレだからな、俺……。

「…………」

 ……風邪引くとネガティブになるなぁ。

 まあ自分のことはとりあえず置いといて、それ以上に厄介なのが、難しい年頃のマイ弟子の扱いだった。

「……一時間置きに来ていたのにな」

 数時間前から開かれなくなった扉に目を向ける。

 ヘタに入り浸られるよりはましだが……。それが、俺の意図を理解してか、はたまた意地を張っているかと言えば……。

「言い過ぎたか……」

 あいつ、結構すぐに拗ねるもんなぁ……。

「うぅ……仕方ねえよなぁ」

 身体を無理やり起こす。それだけで熱が上がる気がするが、今はそんなこと気にしている場合ではない。

 俺の身体何かより、あいつの事が重要である。……いや、師匠としてな?

「……だっる」

 汗でベタつく服を不快に思いながらも、俺は部屋を出た。


「やっぱりここに居たか……」

 無駄に積まれた木箱の向かいに、小さな頭が見える。やっぱり弟子は、倉庫に閉じ籠っていた。

 いやなことがあるとここに来るのだこいつは。

 自慢じゃないが、俺だけが知っているこいつの癖である。

「おぉい……聞こえてるだろ」

 掠れた声で、どうにか声を掛けてみる。

「…………」

 無視。

「おぅい……」

「…………」

 ……俄然無視。これは長期戦になりそうな予感。

 ははっ、燃えてきたぜ。

 ……熱で、頭が。

「……っこいしょっと」

 木箱の壁を挟んで、背中合わせに座る。

 ……ここ、寒いな。

 長期戦は止めておこう。

 あいつに体調崩されるのは、本当に嫌だし。

 ついでに俺の身体も……うん?

 違う。俺の身体が大切で、あいつは、まぁ、ついでなんだって。うん。

 ……ダメだ。頭が。

 これは早いとこ終わらせないと……何か口走りそうでまずい。

「あー……弟子さんよ。聞いてる?」

「…………」

 背後から返事はない。……まぁ、聞こえては居るだろう。俺は気にせずに話を続ける。

「なぁ、そんなに拗ねるなよ……」

「…………」

「何も俺だって、お前が嫌で突き放してるわけじゃないんだぜ?」

「…………」

「…………」

「…………」

 断固無視。……面倒くさい。とか言ったら怒られるよな。

 つうか寒いんだよ、ここ。

「なぁ、良いからでて来ないかー。いい加減腹減ったろー。よし、今日は久々に俺がメシ作ってやる」

「………っ!」

 ガツンッという頭をぶつける音。

 ……怒らせた?

 あぁ、難しい年頃だなもう……。何に怒ってんのか分かんないんだよマジで……。

 ……寒。

「弟子よー……」

「…………」

「おーい……」

「…………」

「さ、寒いんだけど……」

「………………」

「てめぇ、ちゃん付けで呼ぶぞコラ」

「……………………」

 ……ダメだ、俺のわけの分からない逆ギレにも完全無視。ここまでシカトされると怒るどころか逆に悲しくなってくる。

 別に怒ってないけど。ただ、心配なだけで。

「あー……」

 ……いや、怒ってるよ。怒ってますよ、うん。

 いかん……理性っていうか仮面みたいなものが進行形で剥がれ落ちてる。そんな素直に言える人間じゃないだろ俺ー。

「……というか」

 これは別に本心なんかじゃなくて、ただ単に心の内がポロポロと出ているだけだ。

 ……それ本心じゃね? とかの反論は無視。

「なぁ、いい加減出てこいよ……寒いだろ。嫌だろ?」

「……だったら、師匠はさっさと戻れば良いじゃないですか」

 ……お、久々に口を開いた。

 それは良いことなのだが、俺の、そろそろオーバーヒート気味の脳は、その台詞に対して反射的に、

「バカか、俺が嫌なのはお前が寒そうだって事だよ」

「……師匠、風邪悪化してません?」

 弟子にまでこんなことを言われる始末。多分なと投げやりに答えながら、もう俺はやりを投げっぱなしにすることを決めた。

「あんまり心配をかけさせないでくれ……本当に心配するからさ。おろおろすんだよ俺は。お前が怒ると俺は困るし、お前が泣くと俺も悲しくなるんだよ。大切だからな。ほんっとうに大切に想ってるからな。お前のこと」

「…………」

 後ろから、息を飲む声が聞こえる。さすが、素面じゃ言えない恥ずかしい本音を暴露しただけはある。恐るべし、風邪。

「……そんなの」

「……ん?」

「そんなの、私だって一緒ですよ……」

 か細い声に、俺は振り向く。相変わらず見えるのは、小さな頭が少しだけ。

「私だって、師匠のこと心配してるんですよ……。私が心配しちゃいけないんですかぁ……っ。何で……私がいちゃいけないんですかぁ…」

「…………」

 泣いているらしい弟子の背後で、俺は小さく肩を落とした。……あぁ、何て言うか。

「……ばか。それでお前に移ったりしたら、本末転倒だろ」

 ……幸せだな、俺。

「……それだけですか?」

 嗚咽を含んだ声で、問い返してくる弟子に、俺は苦笑する。

「あったりまえだ。今度は俺が看病する羽目になる。そうでなけりゃ、危なっかしくて目を離せられない」

「――看病してくれるんですか?」

「……何だよ、しちゃ悪いかよ」

 そりゃお前、看病くらいしますとも。……しかしそれを聞いた弟子は、唐突に泣き止むと、立ち上がって俺の前までやってきた。

「師匠っ!こんな所に居たら風邪が悪化しますよっ。早く戻りましょう」

「お、おう……?」

 笑顔の弟子に、手を引っ張られて立ち上がる。

 と、唐突に何……? 少し怖いんだけど……!?


 ――で、

「はい、師匠ご飯ですよっ」

「……お前、俺の話聞いてたか?」

 俺の言葉にキョトンと、首を傾げる弟子。

「何でですか?」

「だから……」

 どうしてお前は、ずっと俺の部屋に居るんだよ……。

「はい、師匠あーん」

「やめて……マジで…」

 笑顔でスプーンを差し出してくる弟子に、俺は肩を落とした。

 ……何なんだよ本当に。


 ……で、三日後。

「……お前さ」

 弟子の手厚すぎる看病によってどうにか復活した俺とは対照的に、今度はこいつがベッドに横たわることになってしまった。

「だからうつるって言ったろうが……」

「こほ……えへへ」

 肩を落とす俺に対して、こいつは熱で顔を赤らめながらも妙に笑顔である。いや、なんでそんなに嬉しそうなのさ……。

「ししょう……」

「……何だよ」

「ちゃんと……看病してくれるんですよね?」

 潤んだ瞳で聞いてくる、弟子。

「……当たり前だろ。弟子の体調管理も師匠の役目ですよっ」

 半ばやけくそ気味に答えながら、飯を机に置いた。弟子は、机の上の飯と、俺の顔を交互に見てから、掛け布団に半分顔を隠して言う。

「ししょう……身体がダルいです」

「…………」

 ……何だよ、その顔は。甘えんなとも言えないだろうが。

「分かったよ……」

 眼鏡を押さえながらため息。俺は椅子に腰掛けて、スプーンで粥を掬うと、一応息で冷ます。

 んで、気だるげに上半身を起こした弟子に、


「ほら、あーん」



『意地っ張り』

おわり。


次回更新は9月16日、20時予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ