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ぷろろーぐ

ファンタジーだけど、戦闘も残酷なこともない。捻くれた師匠と泣き虫な弟子の、ちょっと切ないほのぼのコメディ。開幕です。


 ――魔術の基礎は、身体を動かすこと。

 魔力とはこの世における根源。世界を動かす源である。

 それは方向性であり、正体であり理由。

 太陽が回るのも、風が吹くのも。

 我等が動き思考することにも魔力は消費され、『事象』へと還元される。

 その魔力を持って、理の治外を繰るが魔術ならば、その基礎はつまり、身体を動かす。

 それこそが、魔力を自在に使用する為の、第一段階である。



「……ま、それはともかくとして、だ」

 俺は、片手に持った本を閉じると、木製の椅子にもたれながら、ゆっくりと紅茶を啜った。

 顔を上げれば、天窓から届く日光が、木製の部屋を明るく照らしている。

 空気の良い山の中の、三方を森に、一方をちょっとした崖で囲まれたコテージ。

 室内の掃除は、そこいらの貴族が別荘として使っていてもおかしく無い程度に行き届いて、とても世捨て人の魔術師が住んでいるとは思えない、程、広く開放的に出来ている。

 ……俺の自信作だ。

 だいたいあれだ、世捨て人が皆、陰気なところに住んでると思ったら大間違いだ。

 というか俺は住みたくない。

 そう思った俺は、何ヶ月も掛けて一人で木を切り釘を打ち……。いや、大体は魔術で行ったんだがな。

 とにかく、そんな苦労のおかげで、町への買出しが少々不便なことを除けば、不満なんて全く無い、立派なマイホームをゲットしたって話だ。

「ふ……全く、自分の天才ぶりが憎いぜ」

 やれやれと、悩ましげに首を振りながら、紅茶を啜る。悩みなんて一つも無い、静かで優雅なティータイムがそこにはあった。


「……んー……っ!」

「…………」

 ……やべっ。忘れてた……。

 俺は視線を下ろし、板張りの床にへばり付いている、少女を見つめた。

「なぁ、俺の弟子……。お前は腕立ての一回も出来んのか」

「む…無理ですよぅ……」

 十代前半といった様子の、未だ幼さを残す少女は、栗毛色の髪を揺らして、赤い右目と緑の左目を潤ませる。

「……はあ。そんな目で見られても困るっつうの。……全く、優雅なティータイムが台無しだ」

「……う、うぅううううううう……」

 う……遂に泣き始めましたよ、この子。

「うあ……。わかったっ、やめだやめっ。やめだから泣くなっ」

 両手を挙げて降参のポーズ。頬を濡らしながら体を起こす少女に、俺は頭を押さえながらため息を吐いた。……どうして修行をしていた筈なのに、俺が虐めてるみたいな気分になるんだ。

「……ったく」

 俺が苦手とするものの、一番がガキだったりする。とにかく対処に困るのだ。こういう時とか。

 ちなみに二番は人間。じゃなきゃ世捨てなんてやっちゃいない。

 そんな俺が、どうしてこんな少女の師匠なんかやっているかというと、それはほら、色々と理由があって……。

「あのなぁ……。武道家になれって言ってるわけじゃないんだ。でもな、少なくとも腕立てが出来るくらいの力が無いと魔術なんて出来やしないんだっつの」

 俺はずり落ちそうになる眼鏡を押さえて、くせっ毛な弟子の頭にポンと手を置いた。

「うぅうー……」

 顔を俯けて唸る弟子。いや、泣くなよ……。こっちだって、こんなとこで躓くとは思って無かったよ、マジで。

 成り行きとはいえ、色々理由はあるとはいえ……これからの生活に、少し不安が……。

「……前途多難、だなぁ……」


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