古王 レシカ。星々の異形を目覚めさせる乙女。
美しい?
ふふっ、「美しいです」でしょ?
いいわ、合格。
ちょっと採点が甘いかしら?私?
でもね、きっと今から始まる物語は、あなたには鮮烈で過激過ぎるかもしれないから、今あなたがドキッとしちゃった私の可愛さぐらいがないと、きっと読んで十分後にはゴミ箱にゲロってるよ?
口が悪いって?
ごめん、ごめん。ふふふ。
んー……じゃあ、お汚れボックスに、おゲロを吐かれますわよ?
これでいい?
ダメ?
んもぅ!ケチ!そんなんじゃモテないよ。
私にしかね。えへ!
私『古王 レシカ』(コオウ レシカ)は、とある街へ向かっている。今は電車の中。
向かう先は、兵庫県の西宮市と言う場所で、とても美しく穏やかな街と知られていて、それは、住みやすい街ランキングなどにもあげられる程らしい。
西日本の奥地から来た私からすれば、現在、車窓から見えるこの地の街並みは、均等に並ぶ建物と、遠くに連なる山並みのコントラストが中々にアンバランスな美的さを演出していて、既に胸が躍っている。
きっと私にお似合いの街だわ。
私は堪らず車窓に甘い吐息を漏らした。
自分がこの街でお洒落なお洋服を着て闊歩する様子を想像でもしてみましょうかしらね。うん、それがいいわ。
よく晴れた心地良い日、石畳の街路樹を歩くの。
スラっとした自慢の長身に気品ある鮮やかなワンピースを纏って、おへそまで伸びた暗幕みたいな髪を、革命の旗みたいにゴォゴォバタバタと揺らすわ。
アクアマリンみたいな透き通る薄水色の右眼を陽に輝かせながら、人生の喜びを鼻歌で奏でるの。きっと、小鳥すらその音色に聞き入る事間違い無し!流石にお姫様過ぎるわね、うふふ。
その時、黒い眼帯を付けてる、この王の左眼にはちょっとお留守番してもらっちゃおうかしらね……
それで、にょろっと伸びた長くて白磁の四肢をバレリーナみたく上品に弾ませながら、お花畑みたいな石鹸の香りを周囲に咲かせるの。
私に見惚れる群衆には、桃色の小さな唇で悪戯っぽく微笑んでウインクなんかしちゃおうかしら。
あーーー、妄想止まんないわ。
都会って最高ね。
アメージング都会。
私が今日の朝まで住んでいた場所は、山に囲まれた閉鎖区域で、極一部の存在しか知らないような場所だったの。ド田舎っていうか、最早、別世界ね。
いわゆる、施設みたいな所で、特異であり強大な能力を持った子供達が集められて、異界からやってきた存在、即ち『異形』と戦う為の能力を育成する場所だったの。
この日本にも世界にも、古くから異形が存在するのは常識的に当たり前だわよね。
人類と特に当たり障りなく、意思疎通もほぼせず、ただこの地球に共存している。
ごく普通であり、異常でもある、無関係な存在。
でも、稀にそういう摂理みたいな、お互い干渉しないというルールを無視した輩が現れたりもして、その時、今の人類の技術では敵わないから、私達のような存在が秘密裏に極秘機関で育成されている。
色んな異形がいるけれど、例えを言うと、魔を束ねる王より随分下の下級のデーモンですら街に現れると、その街と隣接する街の学校などが安全の為、学級閉鎖になるぐらいのレベルで扱われている。
丁度つい最近、私の施設のクラスメイトが下級デーモンの討伐に派遣されたの。
彼女は、軍隊ですら敵わないそんな異形を、一瞬で倒したというからクラスメイトとして鼻が高いわね。
しかし、彼女は結構な問題児で、その話を聞いた時、私的には最初から少々不安だった感じもあるの。
その不安は「デーモンにやられるから?」って?
いえ、彼女が暴走しないかって心配してたのよ。
そしてその予想はやはり的中したわね。
彼女は倒したデーモンを引きずって何処かへ連れ去り逃亡したらしいから。
施設の命令を無視し、この広い日本の何処かに雲隠れしちゃったんだ。
ここまでくれば、私が今何をしてるかって分かったでしょ?
……ふんふん。
「その子を捕まえに行ってるんだろ?」だって?
ぶっぶー。不正解です。
正解は……
私も逃げ出した。
でした。
わかるよ、言いたい事。
「なんで、そんな無茶な事をするんだ?」って言いたいんでしょ?
でもさ、痺れちゃうじゃん、そう言うの。羨ましいじゃん、自由とか。
人生は自由であるべきだ!いつか、可愛すぎて偉人になると思うから、これが私の名言だったって広めてね。
という事で、私も今は追われる身。
でも、私、この左眼の能力さえなければ、普通にお嬢様階級の人間だったから、結構逃亡は簡単だったんだよね。資金とか伝手とかの話で。
私が高校に入学し、訳の分からない機関が突如押しかけて来て、私が連行されそうになった時は、パパやママや執事ーズの面々はビックリするぐらい激怒して、普通じゃ想像出来ないお金を費やし、裏から手回ししたり、執事ーズ級のハイレベルな異能力者を集めて、機関を壊滅させようとしたぐらい。
でも、その時、施設の人、(私のクラスの先生)が、「お嬢様はこの星を守る存在になるかもしれません、どうか私共にお嬢様をお預け下さいませんか?その奇跡すら霞むような力を開花させる事をお許し下さい」とか、意味不明で大袈裟な事を言うから、パパもママも執事達も、なんか逆に超喜んじゃって、そのまま施設に入れられたわけなの。
は?……って感じだったわ。
まさにその瞬間は、お庭でマカロン食べて、アイドルのSNS見ながら、私の方が可愛いしって思ってた時だったわね、そういえば。
私汚れるのと汗をかくの嫌いなのに、みんなホントひどーい。って思ってはいたんだけれど、ぼーっとして適当に頷いてたら、気づいた時には山の中の異常な学校で生活していたわ。
それでいつの間にか三年経って、もう私もかなりお姉さんになっちゃって、美しくなっちゃって、すごく可愛くなっちゃって……
左眼使って、銀河に住まう怪物とか、超技術の武器とか召喚できるレベルになっちゃって……
なに……漫画???みたいな……あはは。
まっ、そんな感じよ。
でも、今からは自由、もうすぐ着く西宮という素敵な街で、私はシティライフをエンジョイするわ。
では、私のエンジョイライフ始まりまーす!乞うご期待!!
……
言い忘れてた。
私が施設にいれられたのは、もう一つ理由があって、先生曰く、この王の左眼は、異形の中でもトップクラスの奴等に狙われる程のシロモノらしく、魔を束ねる王や、魔女、悪魔、敵意のある異星人、其の他諸々が目をつけているらしい。
ゾディアック(黄道十二宮)の怪物達を呼び出すこの左眼が一体なんなのかは、施設の人達ですら分からないんだって。
先生はなんとなく凄いからって、王の左眼って言ってたけれど。(あの人オタクっぽい所あるし)
その類稀なる何にも似つかない異質な気配だけでそんな状況が巻き起こるみたい。
施設は、親和的な上位存在から授けられた魔術による結界で秘匿状態になっていたから、私は今まで無事だったらしいの。
でも、今この能力が開眼した状態で、あの区域から出た私は、きっと既に、あらゆる超越的な存在に察知されているはずっぽいのよね。
……
でも……
もう、着いちゃったわ!
そして、私は美しき街へと降り立った。
黒い髪を靡かせ、青い瞳を光らせ、蒼白の肌を大きな日傘で守り、美しき長い影を地面に描き、街すら震える魔圧を無邪気に放出しながら。
それは、空を漂う怪しげな異形達が虚空で跪いている程のモノだとは、この時の世間知らずの私にはまだ理解出来てはいなかった。




