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閑話:真珠の女王

 イクセス・ヴァン・アスタロトが引きずり出された後の『真珠の間』には、勝利の美酒を飲み干すような、残酷で甘美な静寂が満ちていた。

 第一王女マリアンヌは、琥珀色の魔力の残滓が床に散る様子を、扇子を広げて優雅に見つめていた。


「……ふふ、あんなに惨めな叫び声を上げるなんて。イクセスも案外、人間らしいところがあったのね」


 彼女は、自分が剥ぎ取ったばかりの黄金の紋章――イクセスの魂の欠片――を、汚らわしい塵を払うように一瞥し、傍らのカサンドラに声をかけた。


「カサンドラ。これであの不潔な『土の臭い』も、我が王宮から一掃されたわ。これからは、より純粋で、より『美しい』魔法の時代を築いていきましょう」


「……御意にございます、マリアンヌ様。あのような危険な思想を持つ錬金術師、生かしておくだけ慈悲というものです」


 カサンドラの言葉に、マリアンヌは満足げに瞳を細めた。

 彼女にとって、イクセスは自分を引き立てるための、あるいは自分の命令に従い「美」を作り出すための、ただの安価な道具に過ぎなかった。それを廃棄したことに、罪悪感など一欠片も覚えない。


 その夜、マリアンヌは極上の薔薇の香水を全身に纏い、贅を尽くした晩餐会へと臨んだ。

 参加した貴族たちは、イクセスを追い落とした彼女の決断を「王国の気高き決断」と称え、競うようにして彼女の美貌を称賛した。


「マリアンヌ様、あなたがアスタロトを浄化してくださったおかげで、ようやく空気が澄み渡ったようですわ!」

 エレンをはじめとする令嬢たちが、取り巻くようにして笑みを向ける。マリアンヌはその中心で、自分が世界の理を支配しているという、絶対的な全能感に酔いしれていた。


(そう、私はマリアンヌ。この大陸で最も美しく、最も正しい王女。……あのような男に、私の未来を汚させはしない)


 彼女は窓の外、イクセスが送られたはずの北の空を眺めた。

 そこには、王宮の輝きを拒絶するような、どす黒い雲が渦巻いていたが、彼女はそれを「死者の墓標」としてしか認識していなかった。


 一ヶ月後、自分がその男の魔力なしでは呼吸すらできず、自らの美しさが腐り落ちていくことに怯え、四つん這いでその足元へ這い寄ることになるなど、この時の彼女には、想像することさえ神への冒涜だと感じられただろう。


 真珠の女王は、その夜、王国の永遠の繁栄を疑うことなく、琥珀色のワインを飲み干し、残酷な微笑みを絶やさなかったのである。

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