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陰キャ非モテの契約結婚  作者: 舞波風季


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第4話 アンドロイドさん

「よろしくお願いします」


 菊菜から(くだん)のショートメールがきた二日後の今日、家事育児アンドロイドが我が家にやってきた。


「よ、よろしく、お、おお願いします」

 やってきたのはとてもきれいな女性、いや女性型アンドロイドだ。


 若い女性を前にするとしどろもどろになる俺は、アンドロイド相手でも同じだった。

 それも仕方ない。触れ込みどおり本当に人間と区別がつかないのだ。


 そんな俺に穏やかな笑みを向けて、勿論営業スマイルだろうが、その女性は続けた。

「家事育児アンドロイドのユウノと申します」

「は、はい、俺は、の、のの之々良(ののら)です」

「ノノラさんですね」

 こんな陰キャお約束の対応しかできない俺にも笑顔を崩さないアンドロイドさん。


(プロだないやアンドロイドはプロとは言わないかそしたらなんていえばスーパーアンドロイドか?)

 などと頭の中で思考が暴走する俺。



 二日前、俺は菊菜からきたショートメールを見て、すぐにURLリンクを見に行った。

 家事育児アンドロイドを提供しているのは、政府の子育て支援プロジェクトにも参加している企業だ。


『摩衣李を引き取る時に教えてくれたの、病院が』

 ともショートメールに書いてあった。


「だったら先に教えてくれよぉおおーーーー!」


 俺は頭をかきむしって叫んだ後、すぐにその会社に電話した。


 電話口で俺と菊菜の名を伝えると、すぐに担当部署に回してもらえた。


 どうやら会社の方でも、病院が菊菜に紹介した段階でいずれ連絡がくることを想定していたようだ。


 俺はまず一番大事なことを聞いた。

「いくら位になりますか?」

 サイトの料金プランを見る限りかなりの高額だ。

 マンションのローンも抱えている身としては極力安く抑えたいところだ。


「それなのですが……」

 と電話口の担当者が訳あり口調になった。

「……え」

 まさかとんでもない高額なのか?いくら摩衣李のためとはいえ限界がある。

(払えないものは払えないとちゃんと言うぞ!)

 俺はゴクリとツバを飲んで、担当者の次の言葉を待った。


「現在、未発表のプロトタイプを試験的に運用しておりまして」

「……プロトタイプ?」

 予想外の言葉に俺の頭はついていくのに苦労した。


 担当者の話によると、現在実用化しているアンドロイドに搭載しているAGIは、まだ進化の余地を残しているのだそうだ。

 つまり現在のAGIは学習分野を特化することにより、高い技術を持つ人間と同等の働きをするように作られているのだそうだ。

 たとえば料理タイプなら、料理の腕は優れているが他のことは幼い子供程度のレベルなので、漸次(ぜんじ)学習させていかなければならない、ということらしい。


 だが試験運用中のプロトタイプは、通常想定される家事育児全般について標準以上の能力を持つのだそうだ。

 そして、注目すべき点は、ディープラーニングを重ねたことにより人間の感情を理解する能力も高くなっていることなのだ。


「でも、そんなに高性能だと、その、値段が……」

 俺が最も心配していることを聞くと、

「それはご心配いりません。通常価格の一割で提供させていただきます」

「一割で!?」


 さすがにそれは安すぎないか?却って怪しいのだが。

「これには理由があります」

 と言って担当者が説明をしてくれた。


 プロトタイプは高性能だが新しい機能を搭載して間もないため、動作が安定しない可能性がある。

 なので月に一度、あるいはそれ以上、データ収集とフルメンテナンスを行うための休みが必要となる。

 メンテナンス費用は負担する必要はない。要はモニターのようなものだ。


「とりあえずは一週間くらいやってもらってから決めます」

 と運営会社に伝えて了承を得た。

 で、今日がそのお試し期間の一日目だ。


(何か気に入らないことがあったらすぐに連絡してやるぞ)


 などと身構えていた俺だったが、ユウノの優しい笑顔と声に一発でやられてしまった。

 何よりも摩衣李を抱いてあやす姿は、

(聖母かっ!)

 と、声が出てしまいそうになるくらい神々(こうごう)しかった。


 初日はそんなユウノを夢見心地で眺めて終わった。

 帰る時に、

「いかがでしたか?何かご不満な点がありましたらなんでもおっしゃってください」

 と、ユウノに言われたが、

「ふ、不満なんて、と、とととんでもない!」

 と俺お得意のオロオロ返しで答えた。 


 そんな俺に、

「よかった」

 と聖母笑顔でにっこり答えるユウノ。


(ちょちょっとこれやばくね?家事育児用を超えてるよね?)

 などと、頭をスパークさせる俺だった。


 当然、その日のうちに契約の連絡をしたのは言うまでもない。


 次の日から、ユウノは正式に我が家の家事育児アンドロイドとして働いてもらうことになった。


 勤務形態は通いだ。

 朝は俺が起きる時間に合わせて我が家に出勤し、朝食から摩衣李の世話までしてくれる。

 俺の出勤に合わせて摩衣李を保育園に送ってくれる。

 昼間は掃除、洗濯、買い物などをし、夕方に摩衣李を迎えに行ってくれる。

 俺が帰る頃には夕飯の準備もできていて、摩衣李を風呂に入れて寝かしつけたら帰る。


(結構大変だよなぁ)

 一日の作業工程を見ながら俺は思った。

 摩衣李の世話をしてもらえるのが何よりもありがたかった。

 だが、もう一つありがたいことがあった。

 それは、朝の出勤前と会社から帰った後の短い時間には俺とも話をしてくれることだ。


 話と言ってもなんということはない、すぐに忘れてしまうようなことばかりだ。

 でも、そんな俺の話にもユウノは笑顔で答えてくれるのだ。


(これが癒しっていうもんなんだろうなぁ)


 そして、ユウノがやってきて初めての休日がやってきた。

「あ、あの、休日も朝からきてもらえるのですか」

 前日に聞くと、

「はい、データ収集やメンテナンスが入らなければ参ります」

 と、いつもの聖女笑顔で答えてくれた。


「そ、そしたら、その、で、で……」

「で?」

(出かけませんかの一言が出ないーーーーこのヘタレ陰キャがぁーーーー!)

「で、出かけたりは、できますか?」

「はい、長時間はできませんが、二時間程度なら」

「で、ですよねええーー」

 やはりそこはプロトタイプということで、慎重にしなければいけないのだろう。


 ということで、最初の休日は近くの公園に摩衣李を連れて散歩に行った。

 その日は天気も良く、他にも子供連れ夫婦がちらほら見えた。


(なんか俺も一端いっぱしの男になった気分だぜぇ!)

 と鼻息が荒くなりそうだった。

 摩衣李もユウノに抱かれて嬉しそにしている。


 そんな心温まる情景を見ながら、

緋之原(あけのはら)さんとは来たこと無かったなぁ……) 

 なんていうことが頭に浮かんだ。

(まあ、誘っても来てくれないとは思うけど)

 と、苦笑いしながら思っていると、


「何かありましたか」

 ユウノが心配顔で聞いてくれる。

「い、いえ、な、なんでもないです、はい!」

 慌てて言い(つくろ)う俺。


(今度、緋之原さんを誘ってみよう、ダメ元で、うん……!)



 その後も、摩衣李を連れてのユウノとの散歩は俺にとっての大事な癒し時間になった。


 菊菜にも、ユウノが来てからのことをかいつまんでショートメールで送った。

 そして、出張から帰ったら摩衣李を連れて散歩に行きましょう、とも付け加えた。


 だが、既読にはなったものの、菊菜からの返信はなかった。


「やっぱだめか……」

 ある日の夜ぼそっと俺は呟いた。

 ちょうどユウノが摩衣李を寝かしつけたところだった。


「何かありましたか?」

 ユウノが心配そうに聞いてくれた。

「あ、いや……緋之原さん、つ、妻にショートメールを送ったんですが、返事がなくて……」

「そうですか……」

 ユウノはそれ以上何も言わなかった。


 この辺の対応はプロトタイプならではの、感情察知能力なのかもしれない。


(根掘り葉掘り聞かれても返答に困るしな……)


 もしかしたらデータ収集で運営会社に漏れてしまうかもしれない。

 別に悪いことをしているわけではないが、夫婦関係があまりうまくいっていないことは知られたくない。


(はっ!もしかしたら俺たちが一度もしていないことも……!)


「あ、あの、ユウノさん……?」

 帰り支度を始めたユウノに、俺は恐る恐る聞いた。

「はい」

 穏やかな笑顔で答えるユウノ。

「えっと、その、データ収集って、なんていうか……」

「?」

「ウチの、夫婦の感じとか、その、なんというか」


(うおーーうまく言えねえーー!)


「夫婦生活のことですか?」

 とユウノがズバリと聞いてきた。

「は、はい、夫婦のせ、生活とかのデータも収集されるのですか?」

「私は奥様とお会いしたことがないので、収集できる情報はないかと」

「で、ですよねーーははは……」

 心配のしすぎだったかもしれない。


「はい、夫婦生活はないという情報のみになると思います」

「うぐっ……」

「私が来る前のことはわかりませんけど」

「ですよねぇーーまだ一度もしていないなんてわからないですよねーー」

「あら、まだ一度も?」

「あ……」


(しまったぁああああーーーー!)


「お願いします!それだけは秘密にしてください!!」

 俺はカーペット敷きの居間で土下座した。

「やめてください、そんなこと!」

 ユウノが慌てて俺を起こそうとする。


「まだ一度もしたことないなんて知られたらぁーーーー!」

 半狂乱の俺。

「あら、もしかして之々良さんは……」

「うぐぅ……!」

 顔を上げてユウノを見ると、これ以上ないくらいの慈悲深い聖母笑顔で俺を見ている。

 今はその聖母笑顔がグサリと俺の胸に突き刺さる。


(二度も墓穴を掘るとはぁああーーーー!)


「ふぇ……ふぇええーー……ん」


 その時、寝付いていた摩衣李が泣き出した。

「や、ヤバい……」

 俺は呟いて立ち上がった。


「あらあら、摩衣李ちゃん、起きちゃったのねぇ、よしよし」

 ユウノが摩衣李を抱き上げて静かな声であやし始めた。


「ごめんなさいねぇ、摩衣李ちゃんのパパがとってもいい人だから、私も声が大きくなっちゃったわ」

「え……」

「摩衣李ちゃんは幸せねぇ、素敵なパパで。きっとパパも幸せになれるわよねぇ」

 摩衣李をゆっくりと揺らしながらユウノは俺を見た。


 そして彼女にしては珍しく、いたずらっぽい笑顔で俺にウインクをしてくれた。


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