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4-12『魔力の操作』

「まず、もう一回木に向かって拳を打ち込んでみてくれないか?」


「はい、師匠!」


「し、師匠?」


「え、だってお兄さんが私に魔法を教えてくれるんですよね? なら、私にとってお兄さんは師匠です!」


 師匠か……初めて呼ばれたけどちょっと悪くない響きだ。

 だが、ちょっと照れくさくてこれでずっと呼ばれ続けるとなるとちょっと厳しい。


「俺の名前はハルト・カインズだ。だから、どうにか師匠っての止めてくれないか?」


「はい、ハルト師匠!」


 この子、全然話聞いてないな。

 道を見つけたらその道を何も考えずに一直線に進んでしまうタイプと見た。別にマズイわけじゃないんだけど、気恥ずかしいんだよなぁ。

 ただ、ハクちゃんが嬉しそうだから、頭ごなしに否定するのも可哀想に思えてくる。


 仕方がない、師匠呼びを許すとするか。

 葛藤している間にも目をキラキラさせてこっちを見てきている。


「分かった。呼び方はそれでいいから、とにかく一回パンチを見せてくれ」


「分かりました! 『身体強化(ブースト)』」


 ハクちゃんはいい返事をすると、再び木に向き合い、拳を構えた。

 そして身体強化魔法を使って拳に力を全て一点集中させる。ここまでは良いんだが、この魔力を維持するのが魔法は非常に難しい。

 身体強化魔法はまだいい方で、身体から離れる射出系の魔法となるともっと難しくなる。


 そのため、初めの内はこうなってしまうのは必然のことで――


 ドスンと音がなる。ただし、さっきまでと変わらず木には大したダメージが入っていないようで、ちょっと揺れたくらいで収まってしまった。

 拳を打ち付ける前にほとんどの魔力が霧散してしまっているんだ。これじゃあ、魔力の消費も激しいことだろう。

 そしてハクちゃんが涙目を浮かべながら俺に顔を向けてきた。


「痛いです」


「そりゃそうだ」


 身体強化魔法が切れたということは生身で木を殴っているのと一緒。そんなことをしたら皮膚に木片が突き刺さって痛いに決まっている。

 それによって皮膚が傷つき、血が滲んで出来上がったのが木の染みというわけだ。

 これでよく今日まで続ける勇気があったなとちょっと感心してしまう。


「ハクちゃんの場合……そうだな。魔力が目標に当たる前にほとんど霧散しちゃってるから、魔力を意識して留めることが出来るようになるところがまず最初の目標かな。最終的にはこれを無意識にできるようにならなきゃだけど、まずは意識して留めるんだ」


 父さんに教えてもらったことをそのままハクちゃんに伝える。

 俺の場合、割と何となくで魔法を使っていることが多いから、俺の感覚では教えれない。だから、ここは父さんの力を借りることにする。


「意識して、ですか?」


「ハクちゃんは自分の中にある魔力を認識できる?」


「なんとなくですが」


「じゃあ、それを体内で自由に動かせるかな」


「じ、自由にですか!? や、やってみます」


 魔力を体内で自由に動かすことが出来るようになれば魔力操作もまるで自分の体を操るみたいに簡単にできるようになるはずだ。

 だが、これが結構難しい。

 そもそも、まず俺は自分の魔力を認知することすら最初は出来なかったんだから、それが出来ると言うだけでも覚えやすさが変わってくる。


「体内で魔力を動かすイメージ……体内で魔力を動かすイメージ……」


 胸に手を当てて、ぶつぶつと呟きながらどうにか動かそうとしているようだけど、俺が感じた魔力は微動だにしていない。

 ハクちゃんの丁度身体の中心、へその辺り。そこで魔力が渦を巻く形で留まっている。

 魔法が得意な人はあの魔力が満遍なく全身に広がっているものだが、魔法覚えたての子供なんかはへその位置で魔力が留まってしまっている。

 そこから魔法を唱えると自動的に引っ張り出されて使う事ができるわけだが、へそから自力で引っ張り出せないのに、魔法を使った後に魔法を維持することが出来る魔力を操作できるわけがない。


 魔法を使う時の魔力は自動的に引っ張り出されるんじゃなくて、自分で練ることが出来ないと、ちゃんと思うように魔法を使うことが出来るようにならないからな。

 俺はこの練る魔力量の調整をミスってよく『ファイアボール』を爆発させている。


「む、難しいです……」


「ま、最初は誰だってそんなもんだ。じゃあ、魔力操作をしやすくする裏技を教えてあげようか」


「う、裏技ですか?」


「そ、裏技。俺の指先に集中して?」


「わ、分かりました」


 俺がハクちゃんの魔力が集まっている中心、へその辺りに人差し指の指先を当てると、ハクちゃんは「ひゃあああ」という悲鳴に近い声を上げたのだが、俺は心を無にしてへそに指先を当て続ける。

 そしてその指先はゆっくり移動させ、ハクちゃんのお腹をぐるぐると円を書くようにして指先を動かし続ける。

 俺は何もやましいことをしているわけではない。ただ、魔力の使い方を教えているだけだし、なによりもこのやり方が魔力の動かし方を覚えるのには最適だ。


「は、ハルト師匠ぉ? く、くすぐったいです」


「わかるか? 俺の指先が当たってる場所」


「わ、わかりましゅっ」


「今俺が無理矢理魔力で君の魔力を動かしてるんだけど、この動きをちゃんと意識して」


「へ、わ、分かりました!」


 目を閉じて真面目に俺の指先の感覚に集中しようとしているのだろう。だが、くすぐったいのか時々声を漏らしている。

 これをなんとか乗り越えることが出来れば、ハクちゃんは一つランクアップすることが出来るはずだ。


 今俺は自分の魔力をハクちゃんのお腹に流し込み、ハクちゃんの魔力を無理矢理引っ張り出してお腹の中をぐるぐると動かし続けている状態だ。

 魔力を認知出来ていない状態でやったら魔力で酔って気持ち悪くなったり、体調を崩してしまうらしいが、魔力を認知できている状態だったらこれが一番早い。


 自分の魔力が動いているということを意識できるようになれば、その感覚を反復したらいつの間にか自由に魔力を動かせるようになっているというもの。

 特に、無属性魔法ならば結構魔力操作が簡単な部類だから、魔力操作を覚えれば比較的すぐに身体強化くらいなら普通に使えるようになるだろう。

 威力に関してはその後の魔力の鍛え方次第っていう感じだな。


「うぅ……なんかお腹の中でぐるぐるしてます……これが魔力が動いているっていう感覚なんですね?」


「そうだ。そして今から俺はこの指を離す。だから、その後は君が同じように動かし続けるんだ」


「や、やってみますっ!」


 俺はゆっくりと魔力の出力を止め、ハクちゃんのお腹から指先を離していく。

 俺が魔力を動かしたことによって今は動かす感覚を掴みやすいはずだ。だからこの状態で魔力を動かすことが出来れば、比較的早く動かすことが出来るようになりやすいはず。


 ハクちゃんは顔を力ませ、なんとか俺と同じように魔力をお腹の中で動かそうと試みる。

 すると、確かに俺が動かすよりはぎこちないものの、俺が離した後もお腹の中でゆっくりと魔力が動いているのが感じ取れた。

 結構筋が良いな。何回か繰り返すことも考慮していたけど、こうもあっさりと自分で動かせるとは、ハクちゃんには才能があるのかもしれない。


「っ、はぁ……はぁ……う、動かせましたぁ」


「凄いじゃん! なら、その動きを自然にできるようになるまで繰り返すんだ。そうしたらいつかは全身に思いのまま魔力を動かせるようになるはずだ」


「はい! 頑張ってみます!」


 明日には俺はもう帰ってしまう予定だ。だから、明日以降は見てあげられないけど、暫くはこの特訓をさせておくつもりだから、この森に一人で来るっていうことはないだろう。

 このくらいの特訓なら部屋の中でも簡単に出来るしな。


「いい? ハクちゃん」


「はい?」


「これからも教えて欲しい時には手紙をくれればスケジュール調整して来てあげるから。だからもう、一人でこんな場所に来ちゃダメだよ」


「はい! では、これからも教えてくださるんですか?」


「あぁ、ハクちゃんが嫌じゃなければ何度でも見てあげるよ」


「ありがとうございます!」


 俺の言葉に嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねるハクちゃん。

 その姿を見て、やっぱり俺のこの判断は間違っていなかったんだと認識してホッとする。

 ルリハに内緒でハクちゃんと会っていると言う状況に後ろめたさはあるものの、やましいことをしているわけではないんだから、問題ないだろう。

 ただ俺はハクちゃんに魔法の使い方を教えてるだけだしな。


「さて、じゃあ、帰ってその魔力操作の練習をしようか」


「はい!」


「おいおいおい……ならよぉ。オレにもその魔法の使い方ってぇやつを教えてくれよ」


 その瞬間、まるで皮膚を裂くかのような突風が吹き荒れ、そんな荒々しい言葉とともに帰ろうと踵を返した俺とハクちゃんの眼の前にそいつは降り立った。

 白髪で凶悪な目つき。身体の至る所に痛々しい切り傷が見えているどう見ても輩にしか見えない男。

 黒系の袴と着物を着用している。


「な、なんでお前がここに」


「なぁ、オレにも教えてくれよ。その魔力の使い方ってやつをよぉ。カルマ・エルドライトさんよぉ」


「ゼルドガル・バッドレイっ!」


 急に眼の前に現れたのは、この街に来る上で一番会いたくないと思っていた男。

 オルターンを含めたこの地域を管轄している賢者、ゼルドガル・バッドレイだった。

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