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4-13『賢者一の問題児』

「面白そうなことやってんじゃねぇか。なぁ、カル?」


「か、カル? 何のことだ? 俺はハルト・カインズなんだけど」


「ハルトもカインズもテメェの元チームメイトの名じゃねぇか! しらばっくれんのもいい加減にしやがれぇ」


 グイっと顔を近づけて凄んでくるものだから、思わず一歩後ずさってしまった。


 ゼルドガルは一応、賢者時代に一番かかわりが深かった奴だ。それゆえに、ゼルドガルは俺のことをカルという愛称で呼んでくる。

 だから俺はゼルドガルには一番会いたくなかったんだ。こいつがこの街に来る可能性も鑑みてこの街に来ることを渋っていたんだが、嫌な予感は的中してしまった。

 こいつはバルゼットのように相手の本質を見抜く目なんか持っているわけじゃない。だけど、こいつの観察眼と記憶力は凄まじく、一度見た相手は二年経っても覚えている上、俺の様にしっかりと関わった相手だったらどんなに姿を、見た目を変えたとしても見破ってくる可能性が高い。

 その上、こいつは俺の素性をしっかりと知っている。俺が賢者になる前にちょっとの間だけパーティーを組んでいたということを知っている数少ない人物。そしてそのパーティーメンバーのことも全員知られている。


 俺が素性を隠して活動する上で一番の弊害となりえる男が、今目の前にいる。

 やりにくい!


 だが、ここで肯定するわけにもいかない。

 ゼルドガルと二人きりだったならばうまく丸め込んで二人だけの秘密にしたら問題ないだろうけど、ここにはハクちゃんも居る。ハクちゃんの前で俺がカルマだということを認めるわけにはいかない。


「てめぇ、勝手に賢者辞めてどこほっつき歩いていやがった。よくもまぁ、のこのことオレの管轄に入ってこれたもんだなぁ?」


 落ち着け、圧されるな。

 ここで引いたら負けだ。もうユイたちとは一緒に居られなくなってしまう。

 やっと見つけた今の楽しみなんだ。そう簡単にこの楽しみを奪われてたまるかっていうものだ。


「賢者? 何の話か分からないな。今さっきも言った通り、俺は現Dランクで勇者パーティーサポーターのハルト・カインズだ」


 どんなに言われても絶対に認める気はない。

 第一、俺がカルマだという証拠なんてどこにもないんだ。すべてはゼルドガルの主観。

 ゼルドガルが変装した俺の姿と過去のカルマの姿を照合して勝手に俺のことをカルマ・エルドライトだと主張しているだけだ。実際にその主張はあってはいるのだが、それはあくまでもゼルドガルの主観であって証拠はどこにもない。

 つまり、俺が否定してしまえばそこまでだ。


 魔力を調べてもらっても今の俺は魔力の質も変えてるし、魔力量もカルマと比べたら大幅に少ない。カルマの一番の特徴であるギラギラと輝く銀髪も今の俺にはない。

 どれだけ調べてもらっても俺の頭にあるのは黒髪だ。

 言い逃れようと思えばいくらでも言い逃れられる。俺を(カルマ)だと証明するものは何一つないんだからな。


「そうかよ……あくまでも白を切る気か……」


 しかし、ゼルドガル相手だと言い逃れるのもこれくらいが限界か。というよりも、言い逃れということを許してくれるような奴じゃない。

 ゼルドガルは賢者一の問題児と昔から言われ続けていた。その理由は彼の粗暴さにある。

 賢者とは思えないほどに粗暴な態度、指示を碌に聞かず勝手に行動する、集まりには絶対に来ない。なんとか管轄を守っているから賢者として成立しているものの、除名されてもおかしくないほどの問題児だ。

 そんな問題児を話し合いでどうにかしようという方が無理なもので――


 瞬間、暴風が吹き荒れ、気が付いた俺は咄嗟に背後へ飛んでその場から離れると、なんと俺が元居た場所には小さい竜巻のようなものが発生した。

 だが、小さい竜巻と思って侮ることなかれ。風によって巻き上げられた草花は竜巻に巻き込まれると、すぐさま粉みじんに切り刻まれてしまった。


「避けたなぁ? 今のに反応できる奴ア、カルマ以外だとほんの一握りのはずだが、Dのテメェになんで避けれた?」


「ちっ、Dランクの俺が避けちゃ悪いのかよ」


「あぁ、悪いな。オレの攻撃は一般冒険者の攻撃じゃあねぇ。賢者の攻撃だ。魔法の発動速度も何もかもが次元がちげぇ。そんな簡単に避けれるような冒険者がそこら辺に蔓延っているんならよぉ、賢者なんて必要ねぇんだわ」


 悔しいが、これはゼルドガルの言う通りだ。

 思わず身の危険を感じて攻撃を回避してしまったが、あれを完全に回避できる人がこの世界に何人いるかというレベル。俺だってちょっと遅れていたら簡単にあの竜巻の餌食になっていたはずだ。


「オレァ、テメェとはそれなりに仲良くやらせてもらっていたからなぁ。オレを欺こうってんなら、覚悟決めろよ」


 俺に向けられた賢者ゼルドガル・バッドレイの『喝』。

 それは俺の背筋を一瞬で凍らせるのには十分すぎるほどのもので、足の震えが止まらなくなってしまった。

 ゼルドガルの強さ、それは魔人とはまるで比べ物にならないほどの物。正直、人知を超越していると言われている賢者の中でも異質、一線を画している存在。それが賢者ゼルドガル・バッドレイ。

 近くでゼルドガルのことを見てきた俺はゼルドガルの強さをよく知っている。


 こいつ、戦いの中で俺の戦闘力を見極め、カルマだと断定しようとしていやがる。

 かなりせこいやり方だと思うが、あいつの肌感覚はおおむね正確だ。戦えばバルゼットの目同様に相手の本質を見抜くことだってできるはず。

 まともに戦っちゃだめだ。隙を見せたら確実に俺をカルマだと断定してくるに違いない。


 やっぱり、来るんじゃなかったなぁ。

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