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DIVE / DIVA  作者: 葉六
17/33

14話 グレーラフ

 短槍もといスコルピアーロンズが首領室の宙を舞う。

 グレイブが放り投げたスコルピアーロンズは、誰にも掴み取られることなく宙を舞い──そのまま彼のデスクに突き刺さった。


「……ちなみにそのデスクは……」

「安物!」

「さいですかー」


 面白くもない寸劇を始めようとするシャックをひと睨みするグレイブだが、どこ吹く風でシャックは自身の成果を指折り数える。


「捕虜1人に特専ユニークのサンプルが1つ、大漁ですね」

「ロクに内情を知らない下っ端の、替えがないから下手にさわれない、が抜けてるぞ。にこにこ笑うほどの釣果か……」

「ですよね」


 特段、肩を落とすこともなくシャックがまた笑った。

 保有するダンジョンの占拠という状況の打開につながるようなものが何も得られなかったという事実。

 それに対して他人事のような反応をする側近にグレイブは頭を抱える。


(自分で考えなくてもいいと思うとすぐこれだ……流石に今回は違う、よな? 演技だよな?)


 犬並みのどんぶり勘定で行われるシャックの信頼感。

 もちろん敵味方の判別はするし場面にもよるが、自分は動かなくてもいい、考えなくてもいいと思えるだけの人物に対してシャックは全幅の信頼を置き、そして何もしなくなる。


「ところで、他のギルド首領さん達は……あーギンジさんのとこ以外は帰っちゃった感じですか」

「そうだ、足早に帰りやがった。今頃はもう高速艇の中だろ。まぁ、転移魔導あんなもんを見せられるとなぁ……同時多発的に自分たちの本丸にも仕掛けてくるかもしれないと考えるだろうさ」


 本当にそんなことが出来るとすれば急いで帰ることの意味など、どれほどのものか。もはやアフターフォローぐらいにしかならない。

 グレイブは部屋の隅の椅子に座り込んで大人しくしている氷河の社(ヒムロ)の首領、ギンジ・ギアーズに視線を移した。

 自分グレイブと同じことを考えているのかは知らないが唯一帰らなかったのだ。


「……」

「えっと……あはは」


 目元に濃いクマを蓄えた眼光だけは剣呑な七三分けの青年が苦笑いでもってそれに応えた。

 血の気のない不健康に白い肌も相まって傍目には、社長に睨まれて震える社畜にも見える。

 だが実態は違う。

 グレイブが後ずさりしながら威嚇し、ギンジは悠然と構えている。


「クはっははははっは!」

「シャック、お前なぁ……まだなんもしてねーよ!どこも可笑しくねーよ!!」

「いや、だって!!あはは! ダメだ、おなか痛い!」


 ”だって”の先はシャックがわざわざ言うことではない、分かりきっていることだから。

 最強、この場にいる誰よりも強いといって過言ではない男がグレイブの無言の圧力に怯み、目を泳がせている。

 そのギャップがシャックのツボに入ってしまっていた。


 とにかくガラの悪い相手や年上の者、ないしは女性にギンジは滅法弱い。紳士的、あるいは腰が低い。

 生来の温厚で気弱な人柄がそうさせるのだろう。

 だがそれでも最強である。そしてなにより無責任な人間ではない。

 首領という立場に付随する責務、絶対強者たる所以である力、ともに自覚あることだろう。過剰な謙遜もしていないはず。

 そう、間違いなく自分シャックよりも強い。

 笑うシャックの目が糸のように細くなった。

 笑みからではない。


「それはそれとして、どうして襲撃の時、他の方と一緒に部屋から出たんですか?」

「(こいつ見るところは見てるから怖えよ……)そうだぞギンジ、お前なら軽く捻ることぐらいできただろ、こうキュッと」


 首を絞めるのではなく獲った魚を絞めるように首筋に指先を当ててから、かきまわすようなジェスチャーをするグレイブ。

 あっけらかんと生け締めの生々しさを会話に混ぜていく。


「いや……えぇ……特専ユニークを装備したダイバーに魔導士ウィザード2人のサポートを相手するのは流石に厳しいですよ……」


 無理とは言わないところが謙遜ではない証拠。しかも言葉足らずである。

 アビスフレームなし、ロクな武装なし、という前提が足りていない。そんな状態だろうと無理ではないのだ。

 ちなみに今のギンジの状態と変わらない。

「嘘つけよ……てめぇ」と愚痴るグレイブの横でシャックの思考が冷えていく。


 転移魔導を見た時からシャックはその成立条件を推察していた。

 おそらく、というか十中八九だが転移する先の詳細な情報が必要になる。

 例えば転移には必要な広さがあるのは確実。

 今回のような屋内への転移をする場合は事前に間取りや設置物を把握していなければならない。

 それらを知らずに転移すれば床や壁に危険がある。


「ギンジさんはウチの会議場に入るのは今回が初めてでしたっけ」

「多分だけど今回で3回目になるかな? いつ来ても広さに驚かされるよ」

「それはどうも……」


 このことは逆説的に考えるとますます信憑性が高まる。

 仮に、これらの事前情報が必要ないとなると魔力量に物を言わせれば見たことすらない場所であろうとも”安定して”転移できるということだ。

 それはない、シャック自身が保有するものと全く性質の異なる魔導とはいえ断言できる。

 それはもう魔導ではなく”御業”の領域にある。

 つまりシャックの中での結論、今回の襲撃を”手引きした者”がいる。


 容疑者は多い。

 会議の参加者だけでなく会議場の間取りの把握ということで対象を広げれば職員、入ったことがあるだけの部外者も枠に加わってくる。


(タイミング的にこちらのタイムスケジュールを把握していた……となると部外者ってことはほぼ無いか?)


 職員と参加者、その中で明らかにおかしな挙動を見せた者、迅速に問題を処理できたのにも関わらずその場を離れた者。


「そんな腹芸、僕には出来ないよ。君もかなり不得意みたいだけど」


 濃厚な、取れることのない疲労を宿す紫眼がシャックを捉えていた。

 事前の資料でシャックが見たギンジ・ギアーズの年齢は26才、首領としては断トツの最年少となる。

 だが、その若年で得た強さと権力に胡座をかいていない。

 抱えられるもの全てを背負って疲れきりながら尚も、その眼には相手への優しさと慈しみがある。


「……」

「……まぁ落ち着いて話そうよ。陸ならともかく海で君を相手取るような誤解も禍根も残したくない」


 シャックは自身も知らず殺気を放っていた。

 だがそれは少しでも場を和ませようとギンジが無理やり口角を上げて作った不器用な笑顔で肩透かしとなった。

 何故その場を離れたのかという質問への答えは未だ不明瞭だが、ギンジの持つ穏やかな雰囲気は言葉にも誠実さを持たせていた。

 ただそんなギンジのもつ独特の空気を何とも思わない者もいる。


 張りつめていた精神の糸を緩めていくシャックと軽く肩の力を抜いたグレイブを見比べるギンジ。


「(……流石というかなんと言うか)ハア……」


 くぐってきた場数が違うとはいえグレイブの老獪さにギンジは溜め息をついた。

 あくまで、これは感心の溜め息。


「そういう腹芸に関してはシャック君よりグレイブさんの方が数段上手ですね」


 現状、部屋の隅つまり壁の近くにギンジは座っている。

 言い終わると同時に壁一枚隔てた向こうから硬質な金属音が鳴った。まるでギンジの言葉に慌てるように。


「……何のことだ?」

「別に何とも思いませんよ、僕がグレイブさんでもそうしますから。例えば薄い壁越しに銃火器を向けるぐらいやります。当然の措置です」

「おいおい……頭の後ろに目がついててしかも透視できるなんざ聞いてねぇよ。……まぁバレてんならこっちのが話しやすいか」


 殺せる体制をしいていたことを隠していた悪気、それを通り越して呆れるグレイブ。

 グレイブが軽く手を叩くと続々と武装した職員が部屋の中へ入り、そのままギンジを取り囲み拳銃を向けた。


「存分に腹わって話そうぜ」

「あはは……ぜひそうして頂けると嬉しいです」

「いやぁ胸がすくぜ、裏で手を打っておくのは得意だが性に合わなくてよ」


 これでグレイブの胸中のつっかえ棒は外れた。

 隠していたことに息苦しさを感じていたのであって銃口を向けること自体に湧き上がるような嫌悪感情は皆無である。


「……ボス」

「なんだよ、シャック。失望でもしたか? 正直これでも足りないぐらいだ」

「まさか、失望じゃないです。むしろ好ましく思ってますよ? ボスのそういう豪快なくせに腹黒いところは」

「素面で肝が冷えること言うなよ」


 一極集中の権力体制を敷くにふさわしい倫理観と言動、たとえ判断を違えても権力と財力と武力で有無は言わせぬ。

 躊躇わない胆力こそグレイブの首領として最も抜き出た資質であった。


「仲が良いですね、羨ましい。ウチはみんな誠実ですけど堅苦しいから」

「お前も仲良くするか? ちょうどいま手伝って欲しいことがあるんだけどな?」


 ギンジのこめかみに銃口が押し付けられる。

 通常なら言葉を選ぶ場面だが、これでも室内における武力差は”タイ”ではない。

 まだ天秤はギンジ側に傾いている。


「……少し考えてもいいですか?」

「なんだよ、手伝う気があるから帰らなかったんじゃないのか」

「違います。流石に、この状況だと僕も気軽には動けません」

「この状況? 俺を納得させる必要はないが、とりあえず話せよ」

「実を言うとここに来る道中で海賊の襲撃を受けて負傷者が出てるんですよ。重傷者も出ました」

「海賊の襲撃ねぇ……」


 水清ければ魚棲まず、炎熱の支柱(フレイムピラー)の海域では海賊の取り締まりを意図的に緩めている。

 話を聞いただけではグレイブにも正確なところは分からないが、各ギルドの支配海域の境目付近だとすると最も海賊が活発に活動している。

 炎熱の支柱(フレイムピラー)との境目ともなれば襲撃など珍しくもない。珍しくもないが……


「……襲撃か」

「手伝えないし帰らなかった理由は3つ、そもそもここから僕たちの支配海域は遠い。急いで帰ろうがあんな転移を使える相手に意味があるとは思えない」

「その辺は俺も思ってたんだが……アイツら文句と捨て台詞吐いてそそくさ帰りやがった」


 良くも悪くも会合という名の仲良しごっこである。

 パワーゲームではないと思っているのはグレイブだけなのかもしれないが。


「後の2つは今言った通り重傷の者がいます。出来れば容態が安定してから出発したい。それまで襲撃に備えて僕はこの場を動きたくない」

「それほどかよ、後でこっちの医療班を……」


 グレイブの中で違和感の正体が徐々に輪郭を帯びていく。


「……なぁ、その海賊、ソイツらお前の船を狙ったのか?」

「?? それは、そうですね。」


 今までの話に、それ以外の解釈はない。

 ギンジは当事者だからこそ分からないのかもしれないが第三者であるグレイブは違う。


「馬鹿なのかソイツら? 集団自殺じゃあるまいに」


 北のサムライ達は精強な武芸者揃い、一部の特専ユニーク持ちはヒトの域を超えている。

 海賊如きではギンジが出る幕すらない。

 すべからく撫で斬りだろう。


 愚連隊の海賊が相手が誰かも考えずに襲い掛かることはあるかもしれない。

 そうして迎え撃たれた海賊が皆殺しにされたというなら話も分かる。

 しかし今回は、そんな海賊如きから身動きに支障がでる程度の損害を受けている。


「顛末から言うと取り逃がしたんですよ」

「はぁ? お前がか??」

「向こうとしても勝算はあったようで特A級と同等かそれ以上のダイバーが1人いました」

「特Aってお前……シャック、どう思う?」

「あっ、せっかく考える必要がなくなってきたところだったのに……」

「だろうな、サボリに入りかけてた、で?」


 欠伸をかみ殺していたところに話を振られてシャックは遠慮もなく大きく伸びをした。

 どう思うと言われても、どう思ったところで何か変わるわけではない。

 たとえ意図的なものを感じていたとしてもだ。


「タイミングが噛み合ってる、そこに特A級なんて激レアまでくると流石に。ただあり得なくはないでしょうし。色々考えたところで、どのみちギンジさんは動きたくない」

「確かにそうだが……どうにも誘導されてる気がするなぁ、まぁ打てる手を打つしかないか……いやお前は出さねぇよ」


 自分自身に指差すシャック、グレイブもこのワイルドカードを切って早いところ事態の収拾を図りたいが、それは出来ない。

 グレイブの脳裏にもまた転移が焼き付けられていた。確実に返せる札が現状シャックしかない。

 だからこそギンジを動かしたかった。


(ダンジョンか、これは籠城戦になるか? いや……普通なら補給路と退路を断って骨と皮になるまで擦り潰してやりたいとこだが転移のせいで無意味か。盗るものとられてトンズラされるのがオチだな)


 海胤リヴァイアサンの眠るダンジョンの占拠、そして先の会議場への襲撃は源詩の魔導(オリジン)であるシャックの捕縛が狙い。

 相手の目的もグレイブと同じく7つ目の海を開く『鍵』の入手、違うのは報酬である権能を振りかざすか否かという点。


「……シャック、後でダイバーの名簿を渡すからそいつらをダンジョンにけしかけろ、攻撃は”一方向”からな、死角を作れ。とにかく時間をかけても何の得もねぇ……今回は陽動でいく」

「けしかけろって誰も協力しないと思いますよ?」

「全員俺の閻魔帳ブラックリストに載ってるような連中だ。お前が出向けば最後通告だと思って首を横には振らないはずだ」

「その恫喝かんゆうの間の警護は?」

「ギンジについて回っとく「やめてくださいよ……」」

「じゃあそれはいいとして陽動ってことは本命は誰です?」


 承知の上でギンジを見るシャック。

 これ見よがしになってしまうのが気まずいのか、ギンジはぎこちなく首を横に振った。

 仲間だけでなく古狸の世話までやるとなるとギンジの手は完全に塞がってしまう。


「例の紡ぎ手(リンカー)魔導士ウィザードにやらせてみる。今回の件はもっと以前から全部繋がってる気がするんだよ。あえて欲しがってるもんを切ってみるさ、出方が見てえな」


 グレイブからすればこの2人、特にフィオナは死んだところで相手の望むピースが消えるだけで痛くない。

 敵の手に渡ったとてシャックを押さえている限り、いくらでも手番は回ってくる。


「……なに考えてるんですか?」

「いや、どういうわけか知らんが同じ源詩の魔導(オリジン)もいたし尚更だなと思ってよ」


 射貫くようなシャックの視線を真っ向から事も無げに受け止める古狸グレイブ


「ああ? 心配しなくともお前のお気に入りのことじゃない、片割れの魔女の方に関しても大それたことは考えてねぇよ」


 グレイブはハンコを押すフリをしてみせ、笑った。

 ”簡単な処理なのさ”と。


 ◆◆◆◆


 総司令室に呼び出されたケイン、プレイルームにて2人ほど殺しかけたことが理由だろうと誰しも思った。

 彼らがケインの目の前で艶かしい笑みを浮かべる陸奥国を見ることはないのだから、その予想も頷ける。

 実態は新しい仕事の依頼というだけであった。


「いいねー、出撃できるなら、そうしてもらおう」

「正式な依頼ってことか、あのトチ狂った鍛冶師の憂さ晴らしをしてやるつもりじゃねェだろうな」

「まさかぁ、君をシャック・ロックスクリームを当てる気は無いよ、今回の標的は別。ただ、思わぬ一挙両得があってさ、それが嬉しくて」


 何と何を得られるのか、陸奥国が具体的な形で言葉にすることはない。

 自分だけが分かっていればよいという言動を一貫している陸奥国。

 ケインへの信頼も何もない、ケインも陸奥国を信頼していない。まさに理想的な雇用関係と言える。

 2人を繋ぐ金以外の全てを疑っていい。依頼内容も全てだ。


「今回の依頼内容は」

「ま、内心どうあれ一応聞くよね。試金石……じゃないや、ダンジョン内外の鎮圧と中にある海胤リヴァイアサンの回収を手伝ってほしい。回収が最優先で。回収出来次第引き上げるから切った張ったを積極的にやる必要はないかな」


 今もそうだ、内容を聞いたにも拘らず目的は言うが達成までの過程を省いている。

 こんな手に騙されるほうがアホだが、なんてボロい商売だと引っかかることは少なくない。

 ケインとて直近いっぱい食わされている。

 何としてもアレの二の舞は避けたかった。


「……ギンジ・ギアーズは?」

「君でも彼はトラウマかい」

「ファイトマネー次第だな」

「いい答えだ。ただまぁ、彼はまず出てこないと思っていいよ、事前の襲撃が効いてる」


 ギンジ・ギアーズ、2日前にケインが戦った北のサムライたちを束ねる氷河の社(ヒムロ)の首領。当代最強の呼び声高いダイバー。間違っても何の用意もなく戦っていい相手ではない。

 いくらケインが特効となる武器を持っていてもだ。


「君のおかげで目立った損害は無い。とはいえ【アガタ】の強奪は出来なかった。あ、もちろん失敗しても報酬は全額払わせてもらうよ」

「嫌みか」

「今のが? 嫌みっていうのはね、意趣返しの時に言うものだよ」

「どうせこれも海胤リヴァイアサン以外の目的があるんだろ? 襲撃から嗅ぎ付けられたらどうする」

「あくまで”海賊による”略奪襲撃だからね。ウチと線は繋がらない。なにより襲撃でダメージを受けた仲間がいる限り彼は慎重だから中々動かない。この辺はシャック・ロックスクリーム封じと同じかな」

「やっぱり捨て石使ったパフォーマンスだったか」

「仮に見抜いていても尚、だよ。薄々気づいてはいると思うんだよね、あのレベルの転位をするには見合った状況と対価が必要だって」


 華美な装飾をさせただけの安い駒で飛車角落ちまでもっていく。

 脅しという毒には銀の匙すら役に立たない。

 9割方の安全が1割の不安をより際立たせるのだから。


「いつでも、どこにでも打ち込めると見せつけられたんだ相応に身構えるさ。加えて配下のサムライたちも法規というか、しきたりを何より重んじている。他所フレイムピラーのゴタツキとなると腰は一層重いはずだ」


 最初から、【アガタ】の強奪が目的ではなかった。ギンジ・ギアーズを縛るための布石。どこまで見据えているのかケインには分からないが1つだけ引っかかった。


「……えらくギンジ・ギアーズの人となりについて詳しいじゃねェか」

「昔ちょっとね、三つ子の魂百までって諺を知っているかい? 若い時の彼に会えていたのは大きいよ。……ギンジ・ギアーズは誰よりも強い、周りなんて必要ない、むしろ邪魔なほどに強い、それなのに弱い弱い周りの中に自分を落とし込もうとしている」

「孤独を克服できないまま最強になった男か、なるほどな」

「正直な話、いちばん絡めとりやすいタイプだね……」

「で? 出てきたら?」

「……まぁ保険くらいは掛けとこうか」


 ここまでやったのだから何を切ってくるかは分かっている。

 切り札を封じつつ、こちらが狙っている”役”もあえて見せたのだから。

 失敗したところで役を潰すこともでき、戦力も図れる、成功すればすれで美味しいという損のない手をわざわざ鼻先に吊るしてやった。


「相変わらず鼻の利く奴でよかった……うん、やっぱり来るんだ」

「あ?なんのことだ」

「いやこっちの話」


 直前まで”目”としての機能を切るのを保留していたことが幸いした。

 ようやく、ようやく期待でしかなかったものが確信に変わるかもしれない。

 陸奥国はデスクに肘をつき、手の平で上がろうとする口角を隠した。


「……せっかくの美人の笑顔だろ、そんな隠さず拝ませてくれよ」

「あーうん、でも多分ね、そんな安くない女なんだよ、この人」

「へぇ」

「えっと、こんな感じかな?」


 陸奥国は淡く微笑む。

 夜鳥ナイトクロウの首領であるオリヴィア・ハサウェイの顔で、声で、彼女の仕草からだで。

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