表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DIVE / DIVA  作者: 葉六
13/35

11話 アナライズ

 係の案内を受け、深也とテツマはアクアリウム直上に設置された選手待機室へと移動していた。

観客達の喧噪を遮るには十分すぎる仰々しい扉が開けると、選手待機室とは名ばかりの豪華なVIPルームが広がっている。

 入室して真っ先に目に飛び込んでくるのは、壁一面を埋める巨大なガラス窓。

曇りも継ぎ目もないそれは額縁のようで、眼下のアクアリウムを一枚の絵画のように切り取っていた。


「気の抜ける部屋だ……」


 深也は思わずボヤいた。

室内は落とし気味に設定された柔らかな照明に包まれ、毛足の長いワインレッドのカーペットなど踏みしめているだけでも居心地の良さが心中に染み渡っていく。

戦闘意欲が削がれる空間で深也は、革張りのソファに思い切り倒れ込んだ。

1人なら、このまま試合開始直前まで目を瞑ってしまっていただろう。

 だが、部屋の奥のバーカウンターからテツマが琥珀色のボトルとクリスタルグラスで両手を塞ぎ、足でキャスター付きのホワイトボードを蹴り出してきた。


「……ひとつ気になってる」


 非常に不可解な表情をする深也にテツマまで引っ張られ怪訝な表情になる。


「なんだ?」


 その表情しせんが自身に向けられている自覚がないので、テツマは後ろに誰かいるのかと振り向いて確認までする。

別に誰もいない、深也が顎先でテツマを指す。


「いや、お前だよ」

「俺かよ」

「そうだよ、何で挑戦者でもない奴が付いてきてる」

「知らなかったのか? セコンドは入室が許されているんだ」


 深也と向かい合うようにテツマもソファに腰かけた。

艶のある飴色のテーブルに置かれたグラスにドボドボと品性の無い音を立てながら酒が注がれていく。

ゲーム内での飲酒は過度なものであっても健康への被害がないため人気だが、少なくともセコンドを申し出ている人間には見えない。


「知ってるよ、ラウンド制じゃないことは……特等席で酒片手に観戦したいってことか……」

「そういうこと」


 先ほどまで深也達が座っていた観客席より水槽アクアリウムとの距離が近く、見下ろす形で全体を展望できる。

そしてこの内装と飲食の品揃え、こちらで観戦できるなら誰もがそうするだろう。


「まぁ、好きにしろよ。情報貰った義理もあるしな」

「言われんでもそうする。ただ……」

「ただ?」

「改まって情報と言われてもな……知ってると知らないじゃ、そりゃ大差あるだろうが……そんな意味ある情報渡したか?俺」


 報酬系の釣り合いが取れてないと気持ち悪いんだよとテツマ言う。


「……そうだな。せっかくホワイトボード出してきたわけだし、軽く整理してみるか」


 試合開始前の約20分間の小休止インターバル、ヘンリックの戦力について深也がホワイトボードへまとめていく。


「ヘンリックの武器は高周波ブレード2本、これはバッテリー駆動だから空振りさせてリソース勝負に持ち込むのは論外。 つか電源どこだよ。後はアビスフレームの動力源は特専ユニークのデュアルコア、俺の”蒼炎”じゃ出力負けするが……」


 深也の駆るアビスフレーム、【蒼炎】に搭載された大気の魔導炉(エーテルコア)も並ではないが、デュアルコア相手では分が悪い。

だが、開示された情報によってヘンリックのアビスフレームに搭載されているデュアルコアの出力は、通常駆動と”常時”展開された特専ユニークのダスクジェミニに分割されていると判明している。


「ダスクジェミニが常時展開されてる”おかげで”エアのリソースは通常駆動との50-50。これなら、ちぎられねぇ、押し負けねぇ、斬り合える」

「……は? あのな、まず斬り合えないだろうが」


 テツマが能天気に進んでいく深也の皮算用に待ったをかけるように、ペンをひったくった。

念のため、ボトルに残った酒と、まだ口を付けていないグラスに注いだ分で釣り合いが取れていることも確認する。


「お前な、 ヘンリックと戦う上での課題は出力で競い合えるか、じゃないぞ? ダスクジェミニが出しっぱなしにしてくる択をホントに分かって言ってるのか?」


 ①目の前のヘンリックが虚像で、別に現れたヘンリックが透明化していた本体


「目の前の偽物に気を取られていると痛い目を見る。そんでだ、この①と思わせておいて」


 ②目の前のヘンリックが本体で別に現れたヘンリックが虚像、空振りや空撃ちを誘発させてくる。


「遠距離武器なら外すわ、間合いを詰められるわで良いとこなし。近接戦闘中ならもっとひどい。ヘンリック相手に空振りなんかした日にはあっという間に膾切りだ。まだある」


 ③目の前のヘンリックが消え、別に現れたヘンリックも虚像の再投影、本体は透明化している。


「虚像に見せかけ消えて見せ、消えていた本体のように虚像を出現させる。そもそもが二択じゃないなんてのは挑む奴ら全員分かってんのに、反応速度の良さが裏目に出て、つい見えてる別の択に飛びついて③の餌食になっちまう。」


 深也とヘンリック、互いに装備構成は近中距離がメインとなっている

この間合いでの勝負において技術、パワー、スピード、などあって当たり前。

時には経験ノウハウすら敗因になりかねない程に、センスがモノを言う。

 闇雲に振るう運否天賦の剣では斬り合いには決して至らない。

ヘンリック戦では、その目が役割を失う前提の戦いになる。


「……試しにさっきの試合の答え合わせやっとくか?」


 テツマは深也の言動に、とある可能性を見出していた。

しかし、横から見ていてもヘンリックの手品が分からないような節穴では話にならない。

その節穴の試合が始まるのだとしたら、とんだ期待外れで時間の無駄もいいところだろう。


「別にいいけど……水中じゃない上に距離離れてたからな……まぁ今から話す2パターンのどっちかだろ」


 じゃどうぞ、とテツマは深也に回答を促す。


「最初見えていたのが本体、虚像のように透明化して壁を越えて密かに接近する。途中から現れたのが虚像で透明化していた本体のように出現させて攻撃の空振りを誘った。空振りを誘発させた後もすぐには透明化を解除せず透明化していた本体が現れたように再び虚像を作り出して今度こそリカバリー出来ないレベルの空振りを誘発させた」

「もう一つは?」

「最初に見えていたのは虚像、すでに本体は壁の内側にいた。虚像を解除しつつ本体も透明化を解除。攻撃を食らう直前に透明化と回避をして虚像だったと見せかける。そこから虚像を透明化していた本体のように出現させて攻撃の空振りを誘発させた……透明化がミソというかクソなんだよなこれ」


 予想を超えてスラスラと構築されていく解答にテツマは半ば呆れていた。

だが、そこまで理解しているとは思えない気軽さが深也にはある。


「2つ目のパターンの後半、攻撃を回避しながらの透明化っていうの難易度が高くないか?」


 深也の回答は満点の出来だったが、粗もある。

見込みは十分なのでここからはテツマのからかいなのだが。


「そこなんだよ……装備構成もシステムスペックも開示されてるから、後はもうヘンリック自身の技術介入で説明づけるしかないんだが……リプレイ……映像じゃ意味ないんだよなぁ、ソナーは?」

「ないだろ」

「言ってみただけ、こっちの海と違って視界良好だもんな。”普通に”見分ける方法とかないのか」

「……強いて言うなら動作の連続性の有無だろうな。ダスクジェミニの虚像ミラーイメージは要するにマネキンだ。ポーズは取れてもモーションがない。けど意味ないぞ、この判別法。近接戦闘なんざ0.01秒で状況が変わる。次の挙動があるかないか指くわえて見てるバカが生きていける程、眠たい間合い(スペース)じゃない」


 思考する”間”を作らせた時点でヘンリック側に十分なアドバンテージが入っている。

極論、反応を引き出せればいい。

ほんの些細な、だが戦闘では悠長な、そんな無駄な浪費を横目にヘンリックは、より先へ進む。


「ダスクジェミニが虚像を投影できる射程って7メートルあるかないかくらいだよな?」


 消えた虚像の位置と出現位置との距離計算での真偽判定が出来ないかという深也の疑問にテツマが手の平を顔の横で振る。


「本来はそれぐらいらしいが、デュアルコアの出力で目算15、6メートル近くになってる」

「あー……んー……デフォは③での運用だろうな」

「今の聞いてそれだけかよ……まぁ③になるのか。けどお前の場合なにをトチ狂ってんのか知らんが近接戦メインで行くんだろ? そうなると積極的に①と②も織り交ぜてくると思うぞ」


 深也のアビスフレームに装備された大曲刀と双剣銃テンペストを若干引いた様子で見るテツマ。

ここで深也もようやくテツマの焦点がズレていることに気づいた。

どうりで少し噛み合わないはずだと。


「テツマさ、そもそも何がどう問題なのか分かってるか?」

「あぁ?」

「どの択か分からないとか、考えている間がないとか、それは問題が成立してしまった後、対処時点での話だろ」

「それが……」


 どうした、とまで言葉は出てこなかった。

何が問題を問題たらしめているのか。

重要なのは成立条件にある。

それをどうにもならないと切って捨ててきた結果が現状であり、より術中にはまってしまっている原因だろう。


「対ヘンリックにおける課題は本体の位置情報が不明であること、それに尽きる。つーかそれだけだろ」


 本体の位置情報、と大きくホワイトボード書いた文字に深也が何重にも丸を付けた。


「これさえ割れてれりゃ、ただの近接戦としゃれこめるわけだ」

「その”さえ”に対して誰も何も出来なかったんだが」

「主語がでけーよ、少なくとも俺はそこに入ってない」

「じゃあお前、俺から貰った情報って何になるんだよ」


 ここで開始30秒前の通知音が入った。

アビスフレームの起動へ向けて深也がフードを目深に被った。


「貰った情報? ダスクジェミニ以外になんかあるのかと思ってさ。特に何もないんだろ」


 それが分かった時点で上々なんだよと深也は投下扉の上に飛び乗った。


展開デプロイ


 蒼と黒のカラーリングの装甲が着装される。

開始のブザーと共に扉が開きリングとなる水槽アクアリウムへと深也とヘンリックが投下された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ