9章-(14)魔法の正体
振り上げたマオの手甲の先で、緑色の魔方陣が輝き展開。
これは――何かまずい!
俺は即座に地面へ斧を突き立て、斧を中心にぐるりと反転。突進の慣性を回転に転化しつつ、一瞬でほぼ直角に曲がる。
同時に奴の手甲が空を切り無人の地面を叩く。が……
ボゴオオォッ!!
まるで爆撃のような轟音と衝撃! 土煙が柱状に噴き上がっている……!
奴の魔法か?
殴った場所を破裂させる魔法……?
いや待て。そう判断するのは早い。
奴が魔法を放った瞬間、一瞬だけ聞こえた“音”。
キイン、と耳鳴りのようなあの音……なにか気になる。
爆発が起きたからといって、それがそいつの使う魔法の本質とは限らない。現に俺の使う“時減爆弾”も、元々は爆発とは縁の遠い時間魔法を応用させたもの。
落ち着いて、冷静に敵の魔法を見極めなければ……!
「魔法。できた。ピリピリする……」
再び手甲の拳の前で魔方陣が展開。俺に向けて正面からストレートを放つ!
たまらず回避する……だが、その時。
ぐらり。
なぜか躱した瞬間、強烈な立ちくらみのような感覚を味わった。
――くっ!
立っていられず、片膝をつく。
先ほどの攻撃の瞬間、キイン、という耳鳴りを聞いた。
これも奴の魔法の効果か? 立ちくらみ……ということは、三半規管に影響を与える術?
魔法を覚えたてのあいつが、固有抵抗値を無視して肉体内部へダメージを与えるほどの術を使えるとは思えない。
であれば……三半規管。内耳。音……音波……!?
まさか――奴の能力は……!!
その時。
マオが機械手甲を俺の頭上高くまで振り上げた。
このまま叩きつける気か?
立ちくらみのダメージから完全には回復していない状態だが、構っていられない。
俺は強引に回避を試みようとして――動きを止める。
マオの手甲の動きが止まっていたからだ。
頭上に手甲を掲げたまま、五指を大きく広げている。
なんだ……? 一体何をしている……?
すると。
手甲の手のひら前方に、緑色の魔方陣。
瞬間。
『避けろ!!』
突然頭の中で斧の声が轟いた!
――時間加速!!
とっさに己の時間を加速させ、素早くその場を離れる。
時間を実時間に戻した刹那――異変が起きる。
俺が立っていた場所の、すぐ後ろ。
ゾンビの死骸が突如炎を上げて燃え上がった!
炎を操る魔法……ではない。あの時の魔方陣の色は変わらず緑。同一系統の魔法を応用させたのだろう。
物体の破砕。内耳への影響。燃焼、つまり加熱。そしてあの耳鳴り……!
わかった。奴の使う能力が、完全に……!
「……またワープした」
興味津々といった表情で、瞳を大きく見開くマオ。
「どんな魔法? どうして爆発する魔法とワープする魔法が同じなの……? 教えてよ……」
――俺の魔法がわからないか? 残念だったな。だが俺はお前の魔法の正体がわかる。
ぴくり、とマオが肩を震わせた。
――お前の魔法、能力は“振動”。および空気を震わせての超音波だ。
唖然とするマオの目の前で、俺は奴の能力についてご丁寧に説明してやる。
最初に地面を破砕した魔法は、手甲を高周波で振動させる魔法。触れる物を振動で粉々に破砕する技だ。
次に俺に食らわせた立ちくらみ。あれは空気を振動させる“超音波”を使い、俺の内耳にダメージを与える技。
最後に使ったゾンビを燃やす技……あれは種類の違う複数の超音波を一点に集める技だな? 複合収束超音波……HIFU。実際に美容業界で脂肪燃焼のために使われている技術だ。
奴の場合脂肪どころか体を内部から燃やし尽くすほどの出力だったが……音波を介して体の内部へ直接攻撃か。固有抵抗値を貫通する魔法。マーリカ以外にもそんなえげつない技を使える奴がいるとはな……
俺がそんな風に解説している間、マオは身じろぎひとつせず、じっと俺を正面から見つめていた。
奴の能力の正体は、どうやら俺の推察で当たっていたようだ。
あとはここから、奴の心をへし折ることができれば、勝てる。
……したり顔で奴の能力の解説をしたのは、漫画やアニメの悪役がよくやる自己顕示欲を満たすための陳腐なマウント取りのためではない。
マーリカから教わった。最強といわれるチート転生者を倒すための戦術のため。
この世界の魔法は精神の状態で威力・精度が変わる。
例えば自信を失い、自分の能力を疑えば、以前倒したケイジの最強のチート能力すら形無しとなるほどに……
ゆえに敵の能力を封じるには――敵の自信を打ち砕く“ハッタリ”が必要なのだ。
俺は奴の心を追い詰めるため、最後の一手を打つ。
――どんな優れた技だろうが、タネさえ分かれば対策はできる……振動? くだらねえな。俺はお前以上の能力者を何人も倒してきた。チート級の連中に比べればお前の能力はおままごと以下だ。言っておく。その技、二度も効くと思うな……!
……とまあこんな調子で大見得切ったわけだが。正直に言えば魔法抜きでもこいつには敵わないし、さっきみたいな魔法は2度でも3度でも食らうと思うしぶっちゃけ俺の方がガチめにピンチなんだよなあ。
だがまあそんな事は言わないし表情にも出さない。“お前の能力はお見通しだ”という感じで、悪役然と上から目線でネチネチとマウントを取り続ける。
自分でも少し嫌になるが……これで奴の能力が減退すれば僥倖。
少しでも俺の言葉に心を揺さぶられたなら……勝機はある。
だが。
マオの表情を見た時……俺のそんな目論見はあっけなく砕け散った。
奴は――笑っていた。
“そうこなくては面白くない”。そんな、狂戦士の如き笑み……!
おい、マーリカ。
お前の言ってた対転生者用の戦術、早速効かねえ転生者が現れたぞ……!
「……楽しい。あなたと戦えば戦うほど、あなたからいろんなのが見えてくる……もっと、もっと、もっと……」
――忠告する。次の一手で俺はお前を殺す。もしお前が――
「……もっともっともっともっともっとッッ!!」
バーサーカーが! 聞く耳すら持たねえか!!
マオは反転し、遠心力を活かした右フックを放つ。
だがこれはただの物理攻撃ではない! あの時と同じ耳鳴りだ!
おそらく己の体で魔方陣を隠し、あの超音波で立ちくらみを起こす技を使っている!
ならば――
『策を弄する輩には、あえて乗ってやるのが定石。ならば策士はノコノコこちらへ近づく』
ダンウォードのジイさんから教わった言葉が蘇る。
この言葉に従うならば――俺の行うべき行動は一つ。
“時間停止”……!!
俺はマオの放った超音波に時間魔法を与え、こちらへ届くまでの“時間”を止める!
あとは奴の攻撃を回避。わざと距離を取り、まるで先ほどの超音波を食らってしまったかのように、再び膝をつく。
「ははははっ!!」
勝機と思ったか、まんまとマオの奴がこちらへ疾駆する。
俺は先ほどの超音波を止めていた魔法を解除。
そして奴がある場所へ近づく瞬間を待つ。
あと3メートル……あと2メートル……あと1メートル。
冷静に見据える。斧が見て、覚え、俺に伝えたあの場所。
奴があの技を……複合収束超音波を使った場所だ。
そして奴自身がそのポイントに入った時――俺は親指を真下に向け、魔法を発動!
“時間再生“の魔法だ!
マオの背後で俺の魔法による魔方陣が展開。
驚愕に目を開くマオ。
このタイミング。もはや避けることはできない。
――手前の魔法で灼けて死ね!!




