9章-(13)恐るべき潜在能力
言うや否や、マオは凄まじい速度で機械手甲による鉤爪を放つ!
俺はとっさの判断で手甲に斧を叩きつけ、鉤爪の方向を反らし、マオの攻撃を捌いた。
――ヒューリックさんを殺した俺がそんなに許せないか……!?
マオは口を閉ざし、再び回転。速さを伴う機械手甲の一撃が放たれる。
――お前もこの村に来たばかりなんだろ!? いやに肩入れするじゃねえか……!
攻撃を捌く。しかしマオは躊躇なく3度目の攻撃を仕掛けた。
――だったら聞け! あの人は――
「黙って」
機械手甲の拳が振り上げられ、俺の頭上から一気に叩き下ろされた!
とっさに後方へ跳んで距離を取る、と……
マオはなぜか攻撃を止め、手甲のない左手で自分の左の髪をかき上げる。
そして……左耳につけていた、イヤホンを指でつまんで見せた。
「……聞こえない」
――は?
「大きな声でしゃべらないで。今いいとこだから。曲」
――は??
俺の疑問は耳に入れず、イヤホンを再び装着。
曲に合わせてなのか、マオは一瞬小さく体を揺らし……曲のリズムに合わせるように再び攻撃を仕掛けてきた。
……そうか。
こいつが俺に執着するのは、敵討ちなんかのためじゃない……
音楽を楽しむように……戦いそのものを、愉しんでやがる……!
反時計回りに回転し、激烈な連擊を放つマオ。
俺は時計回りに回転し、奴の攻撃を全て見切り、捌く。捌く。捌く!
だが。
少しずつ。
少しずつ……確実に、奴の攻撃に押されている。
俺がへばったわけじゃない。
奴が成長しているのだ。今戦っているこの瞬間も! 恐ろしいスピードで……!
26度目の攻撃で、奴の一手が俺の反応速度を凌駕した。
死の予感。体は動かず、視界だけはゆっくりと……俺の頭部へ迫る鉤爪を見せる。
元の世界であれば、俺はこの瞬間に何も出来ず、死ぬだけだっただろう。
だがこの世界なら、一瞬でも十分な“時間”だ!
俺は服の下の時計を握り、己の時間を加速。
一瞬で2メートル近く距離を取り、奴の攻撃を緊急回避した!
「……それ、魔法? ワープする魔法?」
不思議そうに尋ねるマオ。
もちろん自分の能力を答えるつもりはない。
というより……今はまともに話せない。時間の加速による副作用、急激な体力の消耗により呼吸が乱れ、話すことすらままならない……
「……でも、爆発する魔法も使ってた。爆発する魔法とワープする魔法の二つを使える……? でも、魔方陣の色はみんな同じ。青。同系統の魔法……なんで?」
表情こそぼんやりとしているが、彼女は油断できない。
放っておけば俺の魔法の正体も解明してみせるだろう。
ならば……ここで決める。
俺は肩に斧を掛けた構えを解き……新たな構えを取った。
斧を水平に持ち、刃を上にし切っ先を敵に向ける――霞の構え。
……イルフォンスから教わった構えだ。
『ダンウォードの爺さんの剣術は、大型の武器の扱いを軸に置いている。自分より小さい武器を持つ、素早い相手と戦うための剣だ……だがこの先、おそらくお前の斧以上に巨大な武器を扱う敵も現れるだろう。
……不本意だがナイト“1”の指示だ。教えてやる……俺の剣を。己より巨大な相手を想定した剣をな……』
「…………!」
俺が構えを変えると、マオは驚いたように目を見開く。
だが次の瞬間、興奮するように、うっすらと口元に笑みを浮かべた。
まさに戦闘狂。こんな奴とこれ以上付き合うのはごめんだ。
「フゥッ!」
鋭い呼気と同時に仕掛けるマオ。
俺は動かない。
動かず、自分の左側面に寝かせる斧をちらりと見る。
イルフォンスの剣は……実は“後の先”を基本とする剣だ。
霞の構えは元来、敵の目を狙って切っ先を向ける、牽制のための構え。
だが奴の剣は違う。剣を寝かせ、自らの側面に固定するのは……敵の射程距離を測るため。
使い慣れている武器だからこそ長さも把握できる。それこそ自分の腕のように。
剣を寝かせ、敵の放った一撃から敵のリーチを正確無比に測り、まさしく紙一重で躱す。
最短の回避は、すなわち最短の距離から最速のカウンターを放つ一手となる。
後の先。敵が先に動いた時、この戦法は最大の力を発揮する。
そう――今がその時だ!
反時計回りに振り抜かれる、機械手甲の右腕。
紙一重で躱し、一歩。
空を切るマオの攻撃の隙を突き、もう一歩――奴の懐へ近づく。
またもスローモーションとなる景色。
俺は斧の刃を地面に向け、斧の腹の部分をマオへ叩きつけようとした。
殺さず――気絶してもらう――!!
だが。
その時、機械手甲の内部で駆動音。
手首上部が開き――徹甲杭が射出された!
杭は鎖で繋がれており、マオは手甲内部の巻き取り装置の力に従い跳躍。
こちらの一撃を紙一重で回避し――空中で猫のように一回転。難なく着地して見せた。
俺は間髪入れずに攻撃を加えようとした。
しかし――その瞬間、驚愕する。
マオは、巨大な機械手甲をこちらへ突き出す構えを取っていた。
そう。それは。
俺が先ほど見せた――霞の構えと同じ……!
こいつ……もう既に会得したってのか……!?
化物。
恐るべき、潜在能力を秘めた……化物だ……!
「……次は?」
興奮するように、マオが言う。
「次は? 次は? 次は? 次は?」
笑っている。戦いを心の底から楽しんでいる。
奴の気持ちは理解できる。血の滾り……昂ぶる感情のままに破壊する抗いがたい愉悦。
俺の実力が奴より上であれば。
あるいは拮抗していれば、奴の誘いに乗っていたかもしれない。
だが奴は、奴の潜在能力は俺の遙か上を行く。
手合わせをする度に追い越され、追い詰められ――いずれ奴の手甲に仕留められるだろう。
……俺は死ぬわけにはいかない……
生きる目的がある。生きて果たさねばならない約束をしている。
このまま奴と戦えば殺される。
ならば……
「……?」
マオが、俺の動きに不審げな目を向ける。
斧を逆手に持ち、石突きの先端である図形を描く。
菱形に。
横線一本をえぐるように地面へ引く――残視の眼。
このままでは殺される。
ならば殺す。ここでこいつに殺されるぐらいなら……ここで、殺す!
「っ!!」
俺の殺しへの決意を感じ取ったか、マオが素早く距離をとった。
俺を恐れた……?
ならば……攻めるチャンスだ!
俺が攻撃を仕掛けようとした時――突然、マオが機械手甲の手を広げ、俺に“待った”のサイン。
出鼻を想定外の場所から挫かれ、俺は一瞬動きを止めた。
視線の先で……マオの奴が、デジタルオーディオを操作し、何やら曲を探している様子。
この緊迫した状況に合う曲が欲しいらしい。
「……!」
目的の曲が見つかったようで、奴は2、3度体を揺らし、俺へ向き直った。
頬を上気させ、俺の挑戦を受けるかのような、好戦的な笑み。
戦うことがよっぽど楽しいのだろう。
……付き合ってられねえ。
こういう輩は大好きな戦いでこの世からさっさと退場してもらう……!
怒りを誘う斧へ素直に従い、膨大な怒りと殺意を胸に俺はマオへと突進する。
だがその瞬間……マオの呟いた一言から、俺は窮地に立たされる事となる。
「……魔法。こういう感じで使えば……いいの?」
※刀を水平に寝かせて相手に切っ先を向ける構え、霞の構えというらしいです。
大昔にGAROの鋼牙の構えの名前を検索した時「たぶん破れ八相とかいう構えなんじゃね?」みたいな投稿真に受けて“破れ八相”と表記してましたが、私がイメージしてた奴は“霞の構え”みたいです。
なので“霞の構え”に書き直してますチックショウ。




