8話 中編
「ぜえ、ぜえ……」
俺らは、木の中に隠れながら、追っ手を確実に倒していく。
……体力が続く限り。
「勇者さま、すいません……。僕が不甲斐ないばっかりに」
「気にすんな。つうか、お前がかばってくれなかったら、やられてたのはこっちだしな」
俺ならおそらく、致命傷になっていただろう。
クリフがアイーシャの傷口に手をあて、何やら魔法をとなえている。……怪我した部分に白い光があたり、徐々に傷がふさがっているようにみえる、が。
「毒ですな」
クリフは眉をしかめた。
「傷じたいは治せます。だが、即効性の痺れ薬のようです。
こちらはちと苦手でして」
「アイーシャを背負って逃げるか?」
「それが賢明ですな」
俺とクリフは、徐々に短くなっていくアイーシャの様子を見て、意見を一致させた。
と、そこまではよかったが。
「勇者さまあああああ」
帰り道に、俺らは一人の男とでくわした。
……住んでる村の、となりの家の男だ。
「俺んちの娘があああ、居ないんだああ!
誘拐された! あいつらに!」
「そんなわけないだろ。……いい年なんだから、男ぐらい……」
「そいつの目の前でかっさわれたんだ!」
「……」
「……」
「勇者、さま……」
アイーシャは弱々しい笑みを、俺に向けてくる。
「行ってください」
そして力尽きたのか、がくりと崩れ落ちる。
「行くのですか? 無茶ですぞ」
「できないからやらないってのは、勇者の理屈に合うのか?」
俺は腰につけた、短剣の感触を確かめる。
「……勝算があるのですな?」
「作戦はある。耳を貸せ」
○
どおおおおおおおおおおおおん。
遠くの方で爆発音が聞こえる。
といっても、盗賊のアジトを焼き討ちしたわけではない。そりゃそうだ。アジトの中に、さらわれた人たちがいるかもしれないのだ。その作戦は使えなくなった。
おそらく、俺とクリフの顔は相手方に知られているだろう。だから申し訳ないが、クリフは陽動役として、派手に暴れまわってもらうことにした。
……俺は木の茂みに隠れ、アジトの入口から次々と男たちが出て行くのを見守る。そして人が途切れたのを見計らって、アジトの内部へと侵入する。
……俺のたてた作戦はこうだった。
アジトの殲滅は諦めて、人質だけ助けて逃げよう、というもの。
クリフたちは逃げ回りながら、できるだけアジトの中から人を減らすように動いてくれている。
俺は内部へと侵入し、必要最低限のことだけこなして、脱出する。
先ほどの戦闘から、俺はたぶん、盗賊二人ぐらいまでなら相手にできるはずだった。
アジトのーー狭い洞窟の内部では、同時に多人数に囲まれることはない。……という、賭けである。
暗く、細く。折れ曲がった通路を走り抜ける。
途中一人の男とすれ違うが、俺は問題なくその男の腹を切りつける。
そして。
広間、と呼べる部屋にたどり着いた。
ご丁寧にもテーブルが置いてあり、片方には金色の短髪の男、反対側には手足を拘束された女が座らせられている。男はマントを羽織り、どことなくきざっぽいが……底知れぬ実力を感じさせる。
「こねずみが一匹。そうか、お前が噂の勇者さまか」
こちらの実力を見抜いたかのように、男は嘲りの笑みをこちらに向ける。
「うるせー。その娘を離せ。要件はそれだけだ。
お前と争う気はない」
「ふ。ずいぶん、冗談が上手だな」
男は立ち上がり、剣を抜き放つとーー無造作にそれを振り下ろすーー。
これは、見たことがある!
俺はとっさに剣の腹で「見えない斬撃」を防いだ。
「……ほう。魔技を知っているとは。すこしはできるようだな」
「知り合いに似たことができるやつが居るもんでな」
「知り合い?」
俺は持っていた松明を、男のほうへと投げつける。
男は驚愕し、その火が燃え移らないように、その松明を切り刻んだ。
その一瞬の隙を見計らい、俺は女の元へとたどりつきーー手足の縄を切ってやる。
「大丈夫か! 動けるか! 逃げろ!」
俺の問いかけに、女はただこくこくと頭を上下に動かすだけ。
「ふん、ずいぶん立派なな騎士道だな。
『英雄らしく』、倒してやるぐらいの威勢がいいセリフが出てこないものか」
「まだ勇者になり立てでな。かっこいい決め台詞もまだないんだ」
俺は剣を正眼に構えるがーー。
勝てねえ。
全力を尽くしてもーー否、全力を尽くすことさえ不可能だろう、まるで子兎が抗うようなもの、俺の刃はやつの身体にふれることなく、俺は地面に伏せることになる。
……アイーシャが居れば。
あいつがいれば、話は違ったかもしれない。
剣を受け、同じく「魔技」でもって、接戦を制し、勝利を手にしただろう。
ったく、なんで本当にあいつじゃなく、俺が勇者になったもんだか。
なあ神様?
……神様?
「すまん!」
俺は女に向かって両手をあわせ、頭をさげーーその勢いで土下座もしてみせる。
「胸を揉ませてくれ! 理由はあとで話すから!」
「!?!?!?!?!」
そりゃそうだろう。俺だって何を言っているかわからない。わからない。
わかんねーよ!
その先はまさに、神のみぞ知る世界。
「ははっは、どうした、死の際になって母でも恋しくなったか?
まあいい。無様に命乞いなど、醜いだけだからな」
俺は背後からのプレッシャーを感じながら。
右手を女の胸にふれる。
ぷに。
瞬間だった。
俺の頭の中に「」(かぎかっこ)で示されたキーワード? スキル? タグ? 能力名? あるいはただのキーワードの羅列。つまり世界、が無限に展開される。
『マホト。マホトよ。あとはスキルを選ぶのじゃ。どんな能力も望むだけで手に入る。それが主の「おっぱい無双」のチートスキルじゃ』
耳元で神様(クソ野郎)がささやく声が聞こえた。
「剣だっ! 剣で戦う技を俺にくれ!!!」
インストール。
空に描かれた騎士の文様が、俺の身体に降り注ぎーー。




