7話 盗賊退治してみるぜ編
「てええええええええええあああああああ」
俺の勇ましい掛け声とともに、俺は剣を大上段から振り下ろす。
スライムは俺の攻撃をうけ、中央を大きく凹ませ……霧散する。
「ぜええぜええ、どうだ」
俺はうしろにいるアイーシャに向かってピースを作ってみせる。
そう、毎日地道な努力を続けた俺はスライムごときなら一撃でほふれるようになったのだ。これで村人5人分くらいの戦力らしい。
「ではそろそろ向かいましょうか」
「どこに?」
アイーシャはため息をつき、
「盗賊退治です。忘れたんですか? そのためにレベル上げしてたんですよ」
すっかり忘れてたぜ。
○
俺とアイーシャとクリフは三人連れ立って山道を歩き……、洞窟らしきアジトにたどりつく。
「……なんでアジトの場所がわかるのに、誰も狙わないんだ?」
「さあ。みんな怖いんじゃないですか」
意外とドライなアイーシャ。
「盗賊団の首領はなかなか厄介な相手なのです。
かつては王国の騎士団長をつとめていたとか。とても素人ではかないませぬ」
「燃やせば、アジトごと。
楽チンだし、負けないじゃん」
俺の発言に二人はドン引きして、
「卑怯な!」
「……とても勇者のやることとは思えませんな」
とかぬかしやがった。
「……わかったよ、正々堂々行けばいいんだろ」
というわけで、正面突破です。
○
入口には二人の見張りがいてーー本来ならこんなやつら相手にしてる場合じゃない(と俺は思うのだが)、姑二人が後ろで目を光らせているから面倒くさい。
片方がこちらに気づき、持っていた剣の切っ先をこちらへ向ける。
……ごくり、と唾を飲み込む。
アイーシャ相手に模擬戦を何度かやったとはいえ。やはり生身で刃物と対峙するのは、怖い。
「なんのようだ兄ちゃん。あああん????」
「いえ、お疲れ様です」
「そうよ、俺らは疲れてるわけ。んで、そんなお疲れな俺らに何か用なわけ?」
「がんばってください。さような」
言いかけた俺の肩を、アイーシャがつかんでいた。
(バカ野郎、めっちゃ怖いんだぞ!)
(戦いにきたんでしょ! 逃げてどうするんですか!)
(ひ、火を放つ! 孫家の兵法でもそう言ってたぞ!)
俺らがひそひそ声で話してると、一人が訝しげにこちらをのぞきこんでくる。
……そこに立っていたのが、暗闇に紛れていた巨漢の神父、クリフだったのだから、その男は悲鳴をあげた。
「ぎゃあああ」
「人の顔を見て悲鳴をあげるとは失礼な」
「さ、勇者様! 堂々と名乗りをあげてください!」
アイーシャは「勇者」の部分の語調を強めた。
……こいつ、わざと俺が逃げられないように、相手方に聞こえるように言いやがったな。
「何、こいつが勇者だと!」
「最近村で召喚されたとかいう……。見たところ姿勢も悪いし、表情も暗いし、一応武器も持っているがどことなく童貞っぽいが、一応お頭に知らせろ!」
「童貞(勇者)が来たぞ!」
おいおい、さんざんな言われようじゃねーか。
「我が名はマホト。最近売り出し中の勇者だ!
だが童貞じゃねえぞ! 村に迷惑をかける不届きものは切り捨てる!」
「へっ、楽しませてもらおうか!」
男が剣をもう1つ抜き放つ。
……。
……うう。
やりづらい。
剣が1つだけでも怖いのに、2本もあるとどちらから身を守ればよいのかわからない。
「勇者様、落ち着いて! 両刀遣いですが、基本的に攻撃は片方からしかきません」
アイーシャが両刀遣いっていうと違った意味に聞こえるな……。
とか余計なことを思っていると、男の太刀が振り下ろされる。
俺は剣を横にしてそれを受け止める。しかし、それを読んでいたのだろう、男は反対の手で俺のがらきになった腹へと切りつけーー。
切りつけようとしたところを、アイーシャが投石で腕を狙い、防いでくれた。
「とにかく、落ち着いて。これも大事な経験です。
ファイトです!」
アイーシャは両手で握りこぶしをつくって、ガッツポーズ作ってみせる。
……そうだよな。
ここまできたんだ。アイーシャにも申し訳が立たないし。
改めて、相手と対峙する。
「へええ、二度目はねえぜ」
男はアイーシャにぶつけられたほうの手をさすりながら、笑みを深くした。
男がこちらへと再び剣を振り下ろす。……おそらく得意なコンビネーションなのだろう。一撃目で相手の武器を封じ、二度目の剣筋で相手を捉える。
動きの基本は、止まらないこと。
俺はアイーシャに教わった体さばきを頭の中で繰り返す。
男の初撃を、俺は今度は刀の腹で滑らせるようにして受け、それを横にはじく。続けざまに襲いかかる二擊目。
冷静に、冷静にーー。
俺は何度も繰り返す。相手の動きがスローモーションになっていく。
二擊目の刀身に、それはそのまま持っていた剣の柄を落として、それをさばく。
その反動を利用して、相手のがらあきになった首筋に、俺は剣を突き出した。
「お見事!」
後ろでアイーシャが飛び跳ねていた。
「悪くないはずだ。レベルも上がった気がする!」
「上がりまくりですよ!」
「だろ?」
俺たちは笑顔でハイタッチする。
俺の頭の中でレベルが上がる効果音が鳴った。
……ような気がした。
しかし、その時。
暗闇から一筋、糸のような銀の煌きが見えた。
「危ない!」
アイーシャにつきとばされ、俺はうしろによろめく。
「ど、どうした」
俺は砂埃を払いながら立ち上がると。
アイーシャの右腕には手のひらサイズの短剣が突き刺さっている。
「……手練がいるみたいです」
「だ、大丈夫か!」
「怪我に関しては、ご心配なく。クリフがいますから。
けれど問題なのは、その時間を」
たたたた、と背後から足音。
「相手が与えてくれるかどうかです」
ざっと数えても10人程度の強面の集団が、俺らの前に立ちふさがる。
……おいおい、誰だ正面突破なんていいだしたの?




