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5話 依頼をこなしてみるぜ

「ふ、楽勝だぜ……」


 俺の攻撃でスライムが消えていく。……と同時に、地面に残された「スライムの欠片」を小銭稼ぎに集める。……こうして地道な活動をせねば、俺の毎日の食費さえ賄えないのだ。





「ふむぅ……ざっと見て、100ギリーってとこだな」

「おっさん、もっとつかない?」

 ギルドマスターの親父はヒゲだらけの顔で苦笑した。

「スライムの欠片だけ持ってこられてもなあ。

 値崩れしちまうぜ。もし『加工』スキルでも持ってるなら、自分で何かしらにして売ったほうが得だぜ? ピアスとか、アクセサリーみたいにな」

「……うう、俺は不器用だから」


 この世界では魔物を倒してもお金は手に入らない。……代わりに、何らかの「結晶」を残す。スライムであれば今日俺が集めていたスライムの欠片。もっと強いゴブリンではこん棒そのものが残ったり、ドラゴンであれば心臓とかになるらしい。

 それをこのギルドで売りさばく。それが俺たちのような冒険者の生業であり、主な収入源なのだった。

「だいたいさ、そのスキルってのはどこで手に入るものなんだ?

 みんな軽々しく言うけどさ」

「そうさなあ、若くして弟子入りしたり、独学で修行したり……。

 世の中には金さえだせばスキルレベルを上げてくれる施設があるらしいが。

 ま、こんな田舎村にはそんな便利な施設、ない!」

「あったとしても払う金のほうがないぜ……」

「がははははは!」


 笑いごとじゃないっての。


 俺は少しだけ重みの増した革袋を受け取り、ギルドを後にした。




「勇者さま、依頼を受けてみませんか?」


 アイーシャが話しかけてきたのは、俺が食堂で昼飯を食べてる時だった。


「依頼……ってなんだ」

「ギルドで受けられる仕事のことです。

 勇者さまは冒険者登録はされてますけど、ランクがまだEだから、簡単な雑用しかこなせませんけど……、それでも毎日のスライム狩りの気分転換にはなるんじゃないですか?」

「やる」

「そういうと思ってました。

 だから、引き受けてきましたよ!」

 アイーシャは苦笑しながら、一枚の紙をテーブルの上に広げた。



「……ポチを探して欲しい?」

「です」

「……」

「……」

「……」

「あの、僕の顔に何かついてます?」

「ちげえよ!」


 何かを勘違いして、頬を染めるアイーシャ。



「なんで俺がそんなことせにゃならんのじゃ。

 ペット探しなんて誰でもできるだろ」

「そ、そうですけど、地道な依頼をこなさないと、もっと難しいのはこないんです!」

「こんなカッコ悪いのやだ!

 俺だってお姫様を救いに行くとか、そんなのがやりたい!」

「わがまま言わないでくださいよ……」


 そんな俺らの会話に、横から入ってくる人影。

 ふわりとした、柔らかい花の香が鼻をくすぐる。


「私のペットなのです! 外でお茶会をしたときに、目を離したら逃げてしまいました。

 お願いいたします!」


 その女――は、白いフリルのついたゴリゴリのドレスを着ていた。そして金髪の髪をくるくるとロールさせており、腹部をがっつりと搾り上げ、


「ちょっと、どこ見てるんですか」


 俺の視線が一部で釘付けになっているのを目ざとく見つけ、アイーシャの声が低くなる。


「い、いや大変だなと思ってさ。

 わかりました。引き受けよう!」

「ありがとうございます!」


 女が喜びのあまり俺に抱き着いて――はこなかった。俺の手のひらが中空で止まる。ああ惜しい。


 痛っ。


「おい、今何かに攻撃されたぞ」

「知りません。ゴブリンでも居たんじゃないですかぁああああ???」



 アイーシャはずっと拗ねたままだ。




「おーい、ポチー、わんころ、居るかー、居るなら返事しろーーー」


 俺はペットの名前を叫びながら、草むらの中に分け入る。


「うーん、犬ころなら呼ばれたら出てくるし、猫なら鳴き声がしてもよさそうなものだし。

 まあ、動物には帰巣本能があるから、ほっといても帰るとは思うんだけど……」

「ま、親心ってやつでしょうね」

 と、苦笑しながらアイーシャ。

「僕もその通りだと思いますけど。下手に外に出してて、モンスターに襲われたらとか、そんな心配をしちゃうんだと思います」

「……」


 ま、その心配はわからんでもないが。

 過保護じゃないか?



「よし、分かった。名案がある」

 俺は手を叩いて、一つ提案をする。

「なんです? ほっといて帰る、とかはなしですよ」

「火をかけよう。この辺一帯に。

 そうすればいぶされて逃げてくるんじゃないか?」

「非人道的すぎます!」


 ……却下されてしまった。

 自分の中でも最高のアイディアのはずだったんだけどな。



「そんな拗ねたって駄目ですよ。

 ほんとに、もっと勇者として……いや、それ以前に人としてもモラルを持ってくださいよ!」


 そんな風に女装少年に怒られてる俺の威厳とは、いったい。




「まったく、いいですか? 一人の勇者として、無暗に自然を害してはなりません。

 それに、命あるものに危害を加えても駄目です。力を持ったからといって、おぼれてはいけません」


 アイーシャは滔々と、俺に「勇者としての生き方」を諭してくる。


「めんどくさいから火をかけてあぶりだそうなんて、もってのほかです。

 ……ん? なんか焦げ臭くないですか」

「あっち」

 俺が3メートルぐらい先を指さすと。


 ……そこから黒い煙が立ち上っていた。



「ダメって言ったでしょ!」

「いやいやいや、俺じゃねえよ!

 ずっとアイーシャの目の前に居たし!」

「勇者さま以外に、誰が火なんてつけるんですか!」

「知らねえよ!」


 しかも多大なる偏見である。


 いっとくが、俺のは未遂なだけで実行したことはないからな?


 なんてやり取りをしていると。


 その犯人(?)は意外にも身近なとこから現れた。



「ぐるるるるるるるるううううううううううううううううううううrrrrrrrr」



 聞いたことのない、低い威嚇の声。その音に振り返ってみれば、俺と同じくらいの背丈のばかでかい蜥蜴が立っている。


「ドラゴンだ!

 珍しい! それもこどもですよ!」


 アイーシャの無邪気な感嘆をよそに。


 その子ドラゴンは「クシュン」と、息を吐きだすと。


 真っ赤な業火を口から吐き出したのだった。




 メラめらめら




「おい、こいつが犯人だろ。そして実は、すげーやばい状態なんじゃないか」

 俺は逃げる準備をして、アイーシャに問いかける。


「このまま逃げたら、村にも被害が広がります!

 なんとかここで食い止めないと!」

「食い止める? どうやって」


 俺の制止を振り切って、アイーシャがドラゴンの首筋に切りかかる。



 ……が。



 あの岩をも切り裂くアイーシャの「マギ」が。

 傷一つもつけられない!



「……逃げようぜ」

「……む、でも、」

「勇者と書いて「無謀」と読む、そんな話は聞いてないぜ」


 俺らはそそくさとその場を脱出――。




「かあああああああああああああああああつ!!!!!!!!!!!!」




 誰かの打撃を受けて。

 目の前のドラゴンが、地面に横たわる。


 巨大な鈍器(ハンマーのように見えるが、トゲが四方八方に打ち込まれており、より凶悪さを増している)を、背中に携えた我らが変態(神父)は、目を見開き、俺らの前に仁王立ちしていた。

「敵に背を向けるなど、何事ですか! それでも勇者ですか!

 そして何故私を呼ばない! 仲間ではないのですか!」

「……いや、お前が居るとなんかうるさいし、めんどいかなって。

 アイーシャはかわいいから許せるけどさ」

「何事も、正直に話せば許されるというものでは、絶対にない!」


 クリフの武器がこちらへと向けられる。


 ひやっ。


 と、背中を冷や汗がつたう感覚がした。


「待ってください二人とも!」



 アイーシャが崩れ落ちたドラゴンの身体を調べていた。



「こいつ、気絶してるだけで、死んでない! 結晶化が始まらないんです。

 このままだといつか目を覚ましてしまうかも……」

「勇者どの、であればしばらくお預けのようですな」


 ふん、と神父がハンマーを構えた、その時。



「ぽちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」



 遠くから、女性の悲鳴が聞こえた。



 全身で息を切らせながら、走ってきたのは。

 ……俺にペット探しの依頼をしてきた女だった。


 女は俺らに何を言うでもなく、一目散にドラゴンに近づき……その横たわった身体を撫でた。


「ぽちいいいいいいいいいいいいい。会いたかったわ!

 ごめんなさいね!」


「ん?」


 俺とアイーシャは顔を合わせる。


「ポチって犬だったんじゃ?」

「うちのポチはドラゴンです! 犬なんかといっしょにしないで!」

「……」

「……」


「……」

「……」


「帰るか」

「ですね」

「疲れた」


 そのひとことにアイーシャが頷いて……。

 俺らは報酬を受け取りに、ギルドを目指すのだった……。




「ほれ、今回の報酬だ」

「5000ギリー! こんなに貰っていいのか!」

「今回はアイーシャ名義で受けた以来だからな。

 ただのペット探しなのに、……ずいぶん依頼人も酔狂なもんだ。

 犬っころ探しに相場の100倍の額を払うなんて」


 俺は袋を受け取りながら、その重さとともに喜びをかみしめる。



 ん? 待てよ?


「……アイーシャ、お前最初から知ってたろ。

 あやしいってわかってたな?」

「いえ、まったく。ぜんぜん。これっぽっちも」

「死ぬとこだったじゃないか!」

「まあまあ、生きてたんだからいいじゃないですか」

「そういう問題じゃないだろ!」

「そうですぞ! 今回は私が居たからなんとかなったものの!」


 横からクリフが割って入ってくる。


「もし私が「竜殺し」を持っていなかったらどうするつもりだったのです!」


 あ、あの武器そんな名前なんだ。確かに竜でもぶん殴って殺せそうだよな。

 ……ま、その武器も変だが、それを軽々と振り回すあんたも相当異常だぜ。



「ねえ勇者さま、このお金でおいしいものでも食べに行きましょうよ。

 ぱーっと、いきましょう! ね?」

 俺にしなだれかかり、甘えてくるアイーシャ。

 く、この野郎(小悪魔)は……!

 自分がかわいいと自覚しているだと……!?


「次からは私も連れていくことですな!

 それが今回の敗因です!」


「いや、それはきつい。

 お前が居るとうるさいし、なんかめんどいし、ビジュアル的にちょっと」

「ビジュアルがどうしたというのです!」

「俺はかっこいい勇者とお姫様が魔王を倒すってのを目指すんだ。

 そこにおっさんが入るのは、ちょっとNGです。俺の士気を著しくさげるし」

「勇者どの!」

「やったああ、今日は肉だぁー!」



 そんな風にして。

 3者3様のわがままを言いつつ、俺らの夜は暮れていくのである。



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