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1話。俺にかけられた呪い、それからいわれのない汚名編

100人のおっぱい揉むまで帰れません。



 朝目が覚めて。

 うん、変だと思ったんだ。

 何が? やけに眩しいし、目の前に太陽みたいな、でっかい光源があるし。

 なんていうの、後光? そんな後光的なやつがあったわけさ。んでそいつが、「すまん」って俺に謝るわけ。


「すまんマホト、すまん。間違えたんじゃ」

「何がよ」

「愛と勇気の戦士にするつもりだったのよ。

 間違えて乳とスケベな紳士になっちゃった。てへ」

「何を言っているか、要領がつかめないが」

「うむ! わかる必要はない!

 時期がくればわかるだろう!

 それではいけい、マホトよ!

 世界を救うのだ!

 そのために100人のおっぱいを揉みなさい!

 揉めば揉むほど強くなるし、なによりおっぱいは素晴らしい!」

「俺は足フェチなんだけど」

「じゃあな!」


 そして再び俺は光に包まれて。



 ……目を覚ますと異世界に居たってわけさ。









「勇者よ、勇者よぉぉぉぉぉぉ」


 まず、……現状把握。



 俺は六芒星? の中心に立っている。周囲を見回すと、ボロボロの服をまとった人たちが、俺を見て各々驚愕の顔をーーあるいは、感動して涙を流したりーーしていた。


「あの」


 俺が一声を発すると。



「しゃべった!」

「勇者さまよ!」

「今度こそ本物だ!」

「これで村が救われる!」



 ……などなど。

 ざわつきが広がった。


 ま、そういうのは別に興味なくて。

 ……俺がどういう立ち位置なのか、だけを教えて欲しいんだけどな。


「勇者よ!」


 そんな俺に近づいてきたのは、一人の神父。顔面毛むくじゃらだけど、まあそれはいいけど、なんていうの、目がいっちゃってるよ。


「我らの呼びかけに応じたあなたはまさしく勇者。

 お願いがありまする。我らの村に暴虐を尽くす、盗賊どもを懲らしめて欲しいのです!」

「いや、それよりさ……。帰る方法をおっぱい」


 帰る方法を教えて欲しい。


 そう言おうとしたはずだったのだが。


「お、おっぱい!」

「なんて卑猥なの!」

「あれが本当に勇者なのかしら」

「ほら、よく見て。……あの顔は、むっつりスケベの顔だわ」

「目が合ったら妊娠するわよ!」



 村人の中に、ハレーションが広がった。


「ち、違うんだ。そんなことを言いたいんじゃなくて」

「承知しております、勇者どの!」

 神父は目をむいて、

「いけにえは準備しております!

 この建物の中には老若男女、美醜問わず様々な女がおります!

 勇者どのの赴くままに堪能し、その力の糧としてください!」


 おいおい、何やら誤解だぜ。


 俺がその誤解を解こうと周囲を見回すと。




 ……ざわっ、と群衆が一歩後ずさる。




 ……。

 ナニコレ。

 俺がすごい変態だと思われてるわけ?



「あの……」


 そんな中、おずおずと手をあげたのは、一人の美少女。

 柔らかそうな金髪に、丈の短いスカート。ヘソを出した露出の高い服装で、腰には短剣などをつりさげている。

 少女は、伏し目がちに前に歩み出ると、

「あの、いいです、僕。

 その……もし、勇者様が望むなら……」



『アイーシャちゃあああああん』

『駄目だよ、そんなケダモノに!』

『俺だってさわってことないのに!』



 などなど。


 俺に向けられる罵声。

 けれどその当人、アイーシャを遮ったのは、俺ではなかった。

 いかれた神父野郎だった。



「ふむ。貴様では駄目だ!」

 白い目をぎょろつかせて、神父は言う。

「どうして! 勇者様が居ないと魔王が倒せない。そしたら村は滅びてしまう。

 誰かが犠牲にならなきゃならないんです! 誰も名乗り出ないなら、僕がこの身を捧げます!」

「その心がけは立派だがな……」


 神父は非常に言いにくそうに。



「お前は男じゃないか」

「そんなこと、関係ありますか!

 世界を救うのに、性別なんて!

 それにおっぱいだなんて、ただの脂肪の塊に過ぎない。

 僕には鍛えた筋肉が詰まってるんです!」

「どこまでも強情なやつだ。しかし、それを決めるのは私じゃない」


 2人の目が、こちらを向いた。


「勇者様だ」





「え、ちょっとまって、なにこれ、俺が揉むの?

 男の? いや、そもそも、何も理解してないわけだし」

「勇者様!」

 アイーシャはばっ、と上半身の服をはだけて、こちらを見上げてくる。

 ……鍛え上げたとは本人段だが、白く細やかな肌はとても戦士には見れない。小柄な体躯と、うるんだ瞳。その小動物的なかわいさは、たしかに俺の中の「何か」をくすぐるものがある。

「僕じゃダメですか? 僕のこと、嫌いですか?」

「嫌いとかじゃなくて……。まず服をだな、きてくれ」


 俺は来ていたコートをアイーシャの肩にかけてやる。……するとその手を、アイーシャが握り……じっとこちらの目をのぞきこんでくる。


 ちょ。



 ちょっとだけならいいんじゃないか?


 同性なわけだし。


 本人も同意の上なら。


 ね?



 と揺らぎかけた俺の心を。



「勇者どのおおおおおおおお!!」



 馬鹿うるさい神父が遮った。


 何故か半裸だった。


 俺は胃からこみ上げるものを感じて、両手で口を押える。


「見てください私をぉぉぉぉx!

 こやつも男。私も男。

 こやつにも同じ「もの」がついているのですぞ!!!」


 さっ、と。

 残り少ない着衣を脱ごうとするから、俺は目線を逸らしてうずくまり……口に広がるものを吐しゃする。


「そうです勇者どの! それが正常な反応です!

 ならばもむべきは、やはり女体でなければならないのです!」

「そんなことないもん! 勇者様が吐き気を催したのは、クソ神父のゲロ気持ち悪い裸を見たからだ! 僕だって吐き気がするよ! まるで肥溜めみたいな身体して!」

「何を! 貴様は本当の美というものが分かっていない!」




 グラグラとする頭で、2人を仲裁せねばと。

 考えていた俺の頭上から、白い雲のようなものが舞い降りてきた。


 雲は「カッ!」 と一瞬すさまじい稲光を発する。



 周囲の注目を集めると、にんまりと満足そうに横に細長く伸びた。


「儂が神じゃ」



 その言葉を聞いて、観衆が少しだけざわついた




「この男を勇者として呼び出したのはわしじゃ。父を揉まねば本来の勇者の力を発揮できないのは本当である。アイーシャの乳でも確かに可能であろう。しかし、お願いがある。

 この男はずばり童貞で、せめて最初ぐらいは本物の女体を触らせてやって欲しいのじゃ。 これは、わしの仏心……いや、むしろ親心と言った方がいいかもしれん。そんな感情で、最初は生乳を触らせてやって欲しい。それがわしにできるせめてもの償いじゃ……」

「ど、ど、ど、童貞じゃねえし!

 彼女くらい居るし!

 つ、つうかそんなことより元の世界に帰る方法を教えろって。

 なあ?」



 俺が強がって2人のほうを振り向くと。


 アイーシャは身なりを整えて。


「勇者様……ごめんなさい。勇者様の気持ちも考えずに……。

 そうですよね、やっぱり、初めは好きな人のがいいですよね」

「いや、そうじゃなくて。俺童貞じゃねえし」

 俺の言葉、本当に届いてる?


 神父は何やら目に手を当てていた。

 泣いてるのか? 小刻みに肩が震えている。

「おお、神よ。……なんと罪深い。あなたはかくも過酷な試練を与えなさるのか。

 モテず彼女もできず、童貞である男を呼び出し、満足に女性とも会話できない童貞に、「おっぱいを揉む」という罪深き行為を強いるとは……。願わくば勇者どのがイケメンであれば、話は違ったろうが……」



 ちらっ、と俺の顔を見て。



「おお、神よ!」


 俺はうしろから二人の頭をどついてやる。



「俺の話を聞け。まず童貞じゃねーし」

「で、でも。神様が童貞だって」

「童貞っていっても、本当の意味での童貞じゃねーし。

 彼女だって居たことあるし。嘘じゃねーし」

「アイーシャよ、弱者をいたぶるような真似をしてはいけない。

 勇者どのは今、大変傷ついておられるのだ」

「うるせえ」


 俺は深呼吸をして。



「俺はさっさと帰りたいんだ!

 お前らの困ってること、盗賊でもなんでも倒せばいいんだろ?

 そうすりゃ俺は解放されるし、またあの厄介な神が出てくるかもしれない。

 それしかないんだろ? さっさとやろうぜ」

「そう、ですね……」


 アイーシャは何かを決意したようだった。


「それなら、僕もついて行きます。

 これでも剣の腕には自信があります。勇者さまが一人前になるまで、剣となり、盾となり露払いをしましょう」

「ならば私も行こう。名前はクリフ。こう見えても、回復魔法が使える。

 死んでも問題ない。私の宗派に厳密な意味での「死」は存在しないからな」


 神父の目に、異様な光がともる。



 ……。



 こうして俺は。


 童貞の汚名を着せられたまま、一見美少女の剣士アイーシャと、どこか頭のおかしい神父とともに旅に出ることになったのであった。




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