2話
アイーシャといっしょにデート(レベリング)である。
「はい、どうぞ。これを使ってみてください」
アイーシャに渡されたのは、小ぶりな剣。とくに装飾とかもない。
「……これが伝説の?」
「いえ、違います」
アイーシャは苦笑して、
「ただのショートソードです。
これから勇者さまにはスライム退治をして、戦いになれてもらいます。
まだこの世界に不慣れなようだから」
「なるほど。
んで、そのスライムってのはどこにいるんだ」
「どこにでも居ますよ。草むらをごそごそやれば」
いってアイーシャは、そのへんの茂みを木の棒でつついてみせた。
すると大型犬位の大きさのぶよぶよとした蒼い塊が現れた!
「いいですか、剣の握り方はこう」
アイーシャが横から俺の手を支えてくれる。
……おっと。
すこしいい匂いが。
「聞いてます?」
「香水つけてる?」
「聞いてください!」
なんてやりとりをしてるあいだに。
スライムがぶわ、と広がりこちらに攻撃をしかけてくる。
俺はおもわず後ろに飛びずさり、回避。
とりあえず俺はもらった剣でポコポコとスライムと戦い。
ってか攻撃されると地味に痛いし。
それでも何度か叩いているうちに、ボシュ、という音がしてスライムが霧散する。
「やりましたね!」
アイーシャが笑顔で、俺の手をにぎってくれる。
「さすがです! 見込みがあります!」
明らかにお世辞とわかるがーーそれでも美少女(?)に褒めらられるのは気持ちがいい。
俺は鼻で大きく息をしつつ、
「こんなもん、朝飯前だぜ」
「今のはレベル1スライムですから。
今の勇者さまなら、10匹ぐらい倒せばレベルが上がりますよ。
大変ですけど、少しずつがんばりましょうね!」
「おう!」
その時。
ごそごそと。
茂みから、大量の……恥から数えると、ちょうど10匹のスライムが現れてしまった。
「おいおい、嘘だろ。さすがにいっぺんには……」
「そうですよね、今の勇者様には荷が重いかも。
代わりますね」
そういってアイーシャは、腰から剣を抜き放つ。
……俺に渡したものと違って、それは刀身が赤くほのかに輝いているようにみえる。
「えい」
というかわいらしい掛け声とともに、アイーシャはその短剣を横に振り抜いた。
すぱぱぱぱぱぱぱぱ。
軽快な音とともに、見えない斬撃が、スライムを真っ二つに絶っていく。
おいおい。
「……どういうことだよ」
「今のですか? 魔技っていうんです。この世界にいれば、誰でもできますよ」
「じゃなくて、お前、めちゃくちゃ強いじゃねえか」
必要か? 俺。
「お前なら倒せるだろ、盗賊も、魔王も。
なんで俺を呼んだんだ」
「僕は戦いなんて嫌いなんです!
だって臭いし汚れるし……。仮に魔王討伐なんてしようものなら、きっと筋肉ダルマになっちゃいます!」
そんな理由で嫌なのかよ。
「……だって、盗賊倒さないと、村がやばいんだろ」
「滅びればいい。こんな村など。
僕の美意識(女装癖)を理解しない村。さよなら、故郷」
アイーシャはどこか遠くを見つめながら。
なおかつ、陰りのある表情でそんなことをつぶやいた。
┗(;´Д`)┛超おもてぇ
ま、とりあえず鬱モードに突入したアイーシャはほっといて、俺はコツコツとレベル上げますか、と。
ふう。
日が暮れるまで敵と戦ったところで、アイーシャからストップがかかる。
「今日はこのくらいにしておきましょう。
夜になると動きが見えづらいし……、でてくるモンスターも手ごわくなります」
「そうだな。俺の感覚で言えば10レベルぐらいあがったな」
「うーん、まだ5くらいですかね」
「……」
「……」
「よし、行くか」
俺は剣を腰からさげーー関係ないが、結構な重量があるから、俺は何度かズボンが脱げそうになったーー村へと戻ることにした。
○
「そんなことは聞いてない」
クリフは顔をぐいいい、と俺に近づけてくる。
「ご存知なくとも、やってもらわねば困るのです」
「俺は大変つかれている。外で修業をして、中でおっさんの顔を眺めなきゃならん。
これは一種の拷問だぜ?」
「これは失礼」
クリフは近づけた顔を戻す。
……いや、距離の問題じゃなくてさ。
「これから夜は、魔法の勉強もしてもらわねば困ります」
「嫌だ」
「なりません」
「寝たい」
「許しません」
「……ちょっと誤解が出るよな、今の言い方」
「勇者殿! 真面目に聞いてください」
またもやクリフは顔をぐいぐい近づけてくる。
「わかった! わかったから!」
「……ふむ。
魔法の素養を高めるということは、即ち魔法耐性も高めることに繋がるのです。
勇者殿がいかに優れた能力を持とうとも、災厄級の魔法に巻き込まれれば即死確実。
それでなくとも、この世界には干渉魔法、属性魔法、境界魔法、精霊術など……」
おやすみなさい。
「聞いてますか!」
クリフの怒鳴り声で、俺は目を覚ます。
「聞いてたよ」
「今目を閉じてたでしょう!」
「あれ、気づかれたか。
得意なのにな、睡眠学習。今まで誰にもばれたことなかったぜ」
俺は指をパチンと鳴らしてみせる。
「この世界にはいくつかの種類の魔法がある。
似て非なるもの、非なるけど似てるもの。特に属性魔法と精霊魔法の関係がそれにあたる。
自身の魔力を生かして火を生み出す属性魔法、それに反して周囲の魔力を利用した精霊魔法。「燃焼」という結果は同じでも、そこに至るまでの過程が違う。その他、自分自身の魔力は扱いやすくてなじみやすいから割とハードルが低いのにたいし、精霊魔法はその逆。その分、威力は莫大で、エネルギーが底をつきることもない。
俺はそんな面倒なことはしたくないから、文字継承を覚えれれば十分なんだけど」
「……恐れ入りました」
クリフは頭をさげた。
……寝てたのも、睡眠学習が得意なのも本当だぜ。
寝てる間に聞いた話は、わりかし覚えている自身がある。
これで俺が世界を盗れる……か? いや、とれないだろうな、冷静に考えて。アイーシャみたいな強さはないわけだし。知識を肥大させてもしかたない。
「そうですな、魔法はのちのちついてくるもの。
もし勇者どのがそれをおのぞみなら、希望の魔法からお教えしましょう」
そういって、クリフは後ろにある書庫から、一冊の分厚い本を取り出した。
その中にはわけのわからないーー渦がぐるぐるまわり、混じらずに、一筆書きでかいたような幾何学模様がたくさん書いてある。
「これが基本のスペルとなります。複雑なのは相手に解読され、利用されるのを防ぐためです」
「……これ、覚えなきゃなんないの?」
「まずは書き取りからですな。その後、自身の希望する魔法のスペルを考案する。
そして実践。その繰り返しとなります」
……失敗した! これじゃ寝れないじゃないか!
というわけで、俺は泣きながらスペルを書き写したとさ。
そんなことしたの、小学校以来だぜ。




