運命かもしれない
宿屋前につくとルカは立ち止まりギルドを指差した。
「僕は少しギルドに寄ってきます、リンは先に宿に帰っていてください」
「あ、分かりました!」
(コアのこと聞きに行ったのかな)
一足先に部屋へつくとリンはさっそくキッチンに立っていた。
「まだ時間も早いし、この後お腹空いちゃうだろうから今日のご飯作っておこうかな…」
そう言いサンドイッチとスープを手際よく作りだした。
ついでにルカの分も、とパンを切りながらリンは先程の出来事を思い出していた。
(…それにしてもルカが優しい人で本当に良かった)
まさかあんな温かい言葉をかけられるとは思っていなかったリン。自分が思っていたよりも異世界に来た事は身体にも精神的にも負担になっていた事を思い知らされた。
ルカとはこの宿屋にいるまでの短い付き合いだが、一期一会、残されたその時間を大切にしようと思う。
彼は何の気無しに言った言葉かもしれないが、その言葉に救われたのは事実。何か恩返しが出来ればと思ったリンだが、自分には何もできることがないなと苦笑いした。
(ご飯だけでもお礼出来たらいいな)
作り終わりソファに座れば目の前に置かれた物に目がいく。
「…あ、コア」
置きっぱなしにしてたんだ。と何気なくそれを手にした。
すると突然コアが淡く光だす。
「?!ぇ…」
驚きで思わず立ち上がる。
目の前のコアは中身がだんだんと、まるで水を注いでいるかのように満タンになった。
「え………え?」
コンコン…ガチャリ、唖然としているリンの部屋に響くノックと扉の音。
「リン、お待たせしまし____どうしました?」
「ル、ルカ……」
何故か突っ立ったままのリンに不思議そうに声をかければ驚いた顔を向けられたルカは更に首を傾げた。
そしてリンの手の中にある物を見た。
「!え……コア!?…こ、これどうしたんですか?!」
「えっ、あ…わ、私もよくわからな…?え?」
中身が満タンのコアを渡されたルカはまじまじとそれを見た。
「これを持った瞬間に光って…そ、そしたら中身が急に…」
「……、リンこれを少し持ってみて頂いていいですか?」
ルカは少し考える素振りをした後、ポシェットから空になっている新たなコアを取り出した。
それを戸惑うリンに持たせれば淡く優しい光がコアを包み中身が満タンになっていく。
「!これは…まさか聖なる光…!?」
「ル、ルカ…これは一体…?」
「リンは聖なる光を使えるんですか…!?」
「え?!いや、聖なる光って!?こ、これはただスープを…」
そんなことを言っていれば輝きが終わり手元にあったコアは満タンになっていた。それを受け取ればルカはまた難しい顔をして考えこんだ。
それをリンは冷や汗を流し見ていた。
ただでさえ異世界人の異端、魔術が使えないのに変な力まで備わっているなんて事になったら完全に怪しまれてしまう。スープを温めるだけじゃなかったのか。
(ど、どうしよう…!ルカも黙ったまま何か考え込んでいるし…今度こそ変に思われたかもっ…)
「……リン」
「は、はいっ!」
ビクリっと肩を震わせればそんなリンの手はルカによってガシリっと掴まれた。
「…これは凄い事ですよ!!」
「………へ?」
「このコアが使えるかどうか試してみましょう…!」
そう何故かキラキラさせた瞳をしたルカに手を引かれ(と言うか引っ張られ)クラウンが止まっている宿屋の外へと向かった。
「…エンジン、かけてみますね」
満タンになった例のコアをクラウンに嵌めればルカはカチリ、と鍵を回した。
足元にあるキックペダルを踏み込めばブォンと音がなりエンジンが着く。
「!ついた…!」
「ほ、本当についた…!?」
「なんてことだ……本来この力は、この世界における精霊の力、生命の源を元に作られます…それを人間が作り出せるなんて…もはや神の領域ですよ」
初めて聞く話にリンは心の中で驚いた。
(え、これってそんなに凄い力だったの…?)
アルベールにはスープを温める力だと言われていたが…もしかしてあの時の反応が少しおかしかったのはこの力に気付いてたのかもしれない…とあの適当な人を思いだしたながらリンは思った。
(それなら何故言ってくれなかったのか…)
「一体何故…?」
「…わ、私にもさっぱり…」
思い当たるとすれば異世界からきたのが原因じゃないか…なんて事は流石に言えず苦笑いした。
「よ、よくわからないですが…この力がお役に立てた…ってことですよね?」
「……ええ、それはもう」
この世界にきて、何も出来ないことが多かったリンは純粋に嬉しかった。魔術がなくてもこうして役に立てることがある。
「初めて誰かの、……ルカのお役に立てて今凄く嬉しい…です…!」
まるで自分が必要とされているようなそんな気持ちになった。
_____まるでこの世界に認められたような
そう思い嬉しそうに笑う。
「……」
「?ルカ……?」
そんなリンを他所に俯き黙り込むルカ。顔は陰り表情が見えない。
(……え、っっも、もしかして引かれちゃった!?ルカの話を聞く限りこれって人間が使えちゃまずい力みたいだし…やっぱりまずかったかな…)
冷や汗をかきながらオロオロしていれば突然ルカに両手をガシリッと掴まれる。
「へっ?」
「……リン、あなた…」
「ひ、ひゃい!」
思わず変な声が出てしまったがそれどころではないリンは何を言われるのだろうとギュッと目を瞑った。
「……素晴らしいですよ……!!!」
「……………………へ?」
ポカンとするリンを他所にルカは掴んだ手をブンブンと上下に振り目を輝かせていた。
(あ、あれ……?)
「聖なる光と言うものは元々魔術よりも高純度な力が圧縮されたもの、精霊の力はこの世界の生命エネルギーそのものなんです!そんな莫大な力を生身の人間が扱えるだなんて凄いことです!!」
「…ル、ルカ?」
なんで彼はこんなにも嬉しそうなのだろう?リンは心底不思議だと言うように首を傾げつつ驚く。
「色々なとこを旅してきましたがこんなこと出来る人がいるなんて……!」
「……」
「リン?」
興奮冷めやまぬルカの様子にキョトンとしているも名前を呼ばれハッとした。
「あ、いや……」
言いずらそうに淀むリンにルカは首を傾げる
「……その、人間が使えない力を使えるなんて普通なら奇異な目で見られることですし…魔術も使えないので尚更、こんな風に言って貰えて驚いてて…、」
あはは、と乾いた笑いを出すリンにルカは目をゆっくりと細めた。
「……確かに、魔術が使えないことには驚きました。この聖なる光が使えることも…でも僕は時代遅れと言われてもこのクラウンに乗っています」
「…、」
「僕は魔術が使えますが、それでもクラウンに乗ります。この温かい光が好きだからーーだから貴方の力を羨ましく思います」
リンは目を見開いた。
ルカは愛おしそうに車体を優しく撫でる。
その視線の先は確かにクラウンを見ている。…はずだが、その目にはクラウンではない何かが写っているような気がした。
「…だから、僕は貴方の力が凄く素敵だと思いますよ。」
「__、ありがとう、ございます……」
''人を殺めちまうような魔術よりも、お前のスープあっためる力のが断然いいじゃねぇか''
(そう言えば、アルベールさんも似たようなことを言ってくれたっけ)
この世界に来て右も左も分からない中…しかも魔術が使えないリンを適当ながらも甲斐甲斐しく面倒みてくれたアルベール。彼がいなければ今ここにいないであろうリンの命の恩人だ。そして魔術を使わない暮らしを一緒にしてくれた…リンにとってこの世界の唯一の家族であるとても大事な人。
そんな人に言われたこととまさか同じようなことを聞けるなんてと、リンは優しく微笑む。
そんなリンから視線を逸らすとルカは少し控えめに言葉を発した。
「僕は、魔術が好きではないので…」
「____え、」
ルカを見れば顔が陰り表情は読み取れない。
「…魔術なんてなければ、戦争なんて悲劇がおこることもありませんから……」
「ルカ?」
「いえ…すみません、なんでもないです。」
(最後なんて言ってたか聞こえなかったけど、なんだかルカ難しい顔してる…)
魔術が好きじゃない、リンからしたら魔術を使えるなんて凄く便利で有り難いことだと思っていたが…隣の芝は青い、まさにそれなのかもしれない。
そもそもそんなこんな不思議な力はリンの元いた世界にはない。そう考えたらどちらとも素敵な力だと思う、1人納得すれば難しい顔をしているルカに笑顔で笑いかけた。
「私は、ルカのお役に立てたこの聖なる光も…便利な魔術も凄く素敵な力だと思いますし…両方好きですよ!」
「!」
目を見張ったルカは少しの間の後ゆっくり口を開き何かを言いかけようとした時だった。
ピクリ、と何かの気配を感じ取ったのかそちらに目線をやる。
「…ちっ、追い付かれたか」
「えっ?」
次の瞬間、ザザザっと地を蹴る多数の音。
釣られるように後ろを振り向けばいつの間にか黒いローブを身にまとった人達に囲まれていた。明らかな殺気、ピリピリと今にも放たれそうな漂う魔術にリンが驚いた様に目を見開く。
(なっ、何……?!)
すると急に腕を引っ張られリンはクラウンの荷台に乗せられた。
「ル、ルカ!?」
「しっかり捕まっていてください!」
「えっ、あのちょっ……!」
「舌を噛む!口を閉じて!」
「ひぇっ__」
何が何だか分からずにいるリンの言葉を可憐にスルーしルカはエンジンを急発進させた。
(~~~~~~!?)
振り落とされないようにルカの腰にぎゅっと抱きつくとルカは目線は前に顔だけこちらに向ける。
「奴らを巻きます!そのまましっかり捕まっていてください!!」
リンは涙目になりながら必死にしがみついた
(な、なんでこんなことにっ…………?!!)
誤字脱字マスターなので発見しだいお教えいただけると嬉しいです…