君にこそふさわしい言葉
「…コア、ありませんね…」
あれから、2人は街を散策しながらもお目当ての物を探し回ったが結果は見ての通りだった。
ちなみにルカはフードとキャスケットを被り直してしっかり素顔を隠していた。やはりあまり素顔を見られたくないらしい。
「1つはあるかなって思ったんですが…すみません…」
「何故リンが謝るんですか。ない物は仕方ないですよ」
やはり手に入りずらい物らしく特にこんな田舎町、入手は絶望的のようだ。
何故かリンの方がひどく落ち込んでいる様子にルカはクスリと笑うと、とある店の前で立ち止まった。難しい顔をしながら何やら考えている。
「?ルカ、どうしました?」
「…リン、お腹空きませんか?」
「え?」
「お礼にご飯、ご馳走します」
「え?あ、いやルカ…!」
そう言って手を引かれ入ったお店は、この街に着いた時に羨ましいと横目で通り過ぎたお店だった。入りたかった料理屋に嬉しいと思うも次の瞬間にはだらだらと冷や汗をかく。
(こ、ここのお店って…魔術使うお店だよね…?!)
ど、どうしよう…!と内心動揺しまくるリンを他所にルカは席へ着くと何も知らない彼は「なんでもご馳走しますので好きなのを選んでください」と笑った。
ルカが机に刻印された魔術陣を触ると2人の間にメニューが浮き出てくる。
どうやらこの浮き出されたメニューに刻印されている魔術陣に自身の魔術を送りながら触れると料理が出てくる仕組みのようだ。
(魔術が使えないなんて言ったら…引かれちゃうよね?)
以前、旅の途中で寄った街でひょんなことから魔術が使えないことがバレてしまった事があった。その時の奇異を見る視線がよみがえって言葉が詰まる。あの時の目を、またされてしまうだろうか
「……リン?」
「あ、っ…えっと、」
(今はお腹いっぱいだと嘘をつく…?いやでもここまで来てそんな失礼なこと出来ないし…)
まだ知り合って間もないが、ルカは優しくて良い人だ。魔術が使えない私も受け入れてくれるかもしれない。
それに出会いはリンが助けたことから始まってはいるが、あまり見られたくないであろう素顔を見せてくれて食事まで連れてきてくれた、誠実な彼に自分だけ不誠実なのは如何だろう。
「…大丈夫ですか?」
「……っ」
黙り込むリンの顔を心配そうに覗き込む。
(ルカ、凄く心配してくれてる…)
やっぱりこんな優しい人に嘘はつきたくない、そう決心すると膝の上で両手をギュッと握った。
「…っ、私、魔術が使えないんです」
俯いていたためルカがどんな反応をしていたかはわからない。リンは思ったよりも震えてしまった自分の声に更に俯いてしまった。
(怖くて、顔が見れない…)
するとルカが動いた気配がしてビクリっと肩が跳ねた。何を言われるだろうと覚悟して目を強く瞑る。
「…やはり、」
「…へ?」
「…リンは何が食べたいですか?」
「…え、あのルカ…?」
「僕が注文しますから、何でも言ってください」
今までと変わらない喋り口調、びっくりしてルカを見れば出会った時と変わらない優しい微笑みでこちらを見ていた。
「あの、私っ…」
「……大丈夫です、リン。」
「…え」
「お勧めはこの魔術が使われてるパフェでしょうか」
フッと笑うルカに、バクバクだった心臓は落ち着きを取り戻した。リンは無意識に上がっていた肩の力を抜くと何も聞かないでいてくれる彼の気遣いにホッと微笑んだ。
そしてメニューを指差す。
「……ルカ、私この氷魔術のパフェが食べたいです」
「ええ、沢山食べてくださいね」
「あのパフェ凄かったです…!雪の結晶がたくさん散りばめられていてそれがパチパチ弾けてました…!」
「ふふ、そうですね。」
喜んでもらえて良かったですと興奮冷め止まぬリンの様子をルカは歩きながら何処か楽しそうに聞いていた。
(魔術って本当に凄い…!あんな美味しいパフェを作れるなんて)
リンにとって魔術料理は未知の領域だ、ルカがいなければ一生食べられなかったかもしれない。
(……ルカは、本当に優しい人だ。何も聞かないでいてくれる)
この世界で魔術が使えないと言う事は異端だ。異世界人と言う点では異端だしリン自身もそれは理解しているがやはり人から言われるのではまた違ってくる。
みんなと違うこと、誰も自分を知らないことも、住んでいた場所も物も生き物も違うと言うことを突きつけられるようで。それがこんなにも怖いだなんて。
何より魔術が使えない理由を説明もできないため、聞かないでいてくれることは本当にありがたかった。
「___リン?」
歩いていた足を止めれば、ルカは不思議そうに振り返る。彼を真っ直ぐ見つめた後、最大限の感謝をこめてフワリと笑った。
「…ありがとうございます。ルカ」
リンの突然のお礼に驚いたように目を見開いた後、ルカは優しく目を細めた。
「いえ、僕の方こそ…すみませんでした」
「ルカが謝ることじゃないです…!」
「いえ…魔術が使えない旅は大変だったでしょう。貴方は強い人ですね」
その言葉にリンは目を見開いた。
異世界に急に飛ばされて幸いにもアルベールに拾われたのは良かったが慣れない環境に大変だったのは言うまでもない。旅を楽しんでいた事も事実だったが、そうでも思わないと寂しい気持ちが出てきそうだったから。誰にも言えなかった、拒絶されたら怖かったから、異端だと…再確認するのが怖かった。だからこそ誰にも分かってもらえないと思っていた…だけど、目の前の優しい青年は労るようにリンの頑張りを褒めてくれた。まるで、この世界にいることを認めて貰えたような。
「……えっ!?リ、リン!?」
「…え?」
「な、何故泣いているんですか…!?」
ルカに指摘されて自身の頬を触ればポロポロと流れ出る涙。
「僕何か気に触ることを言ってしまいましたか…!?」
慌てたようにリンに駆け寄れば心配そうに顔を覗き込む。流れる涙を止めようと拭うも次から次に流れでるそれにリン自身も戸惑っていた。
「す、すみません…!ルカのせいじゃないですっ…ただ、そんなこと言ってもらえると…っ思ってなっ…くて、」
目を張ったルカ。困らせてしまって申し訳ない気持ちが湧き上がる。同時に凄く嬉しかったのだ、旅にでてこんなにも温かい気持ちになれたのは彼のおかげだ。
「ルカは優しい人ですね…!」
「……その言葉、倍にして貴方に返しますよ」
困った様に笑うとルカは必死で涙を拭っていたリンの手を優しく取る、そして「あまり摩ってはダメですよ」と口にした。
「今日はもう帰りましょう、夜になれば砂嵐も来ますから」
「…はい」




