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初めて言われた言葉

「そう言えば自己紹介がまだでしたね、すみません。」


あの後青年を連れ2階の部屋へと着くとリンは荷物を下ろした。部屋は至ってシンプル、ベッドが1つにソファと机。木造作りのそれは日本ではあまり見ない作りだったリンは内心(わぁ…!)と喜んでいた。

まさかただの良くありそうな宿屋に感動していると思っていないだろう青年はタイミングを見計らい自己紹介しつつ手を差し出した。


「僕はルカと言います」

「あ、すみません!私はリンと言います、宜しくお願いします」


慌てて差し出された手を握り返せば、一瞬ルカと名乗った青年は驚いたように目を見開いた。


「あ、あのルカさん…?」

「あ、いや…。…さん付けはくすぐったいですね、ルカで良いです」

「?…なら私の事もリンと呼んでください」


さっきの反応は何だったのか、普通の顔に戻った彼に首を傾げる。不思議に思いながらもそれ以上何も言わないルカにまぁ、いいかと結論付けた。


「リンは1人で旅を?」

「はい、まだ始めたばかりで何も勝手が分かっていないんですが…今はとりあえず首都であるベルクへ行こうと旅をしてました。でも思ったより遠くて…」

「首都…なるほど、ここの田舎町からでも転移魔術で移動したら3.4箇所は経由しないといけませんからね。」

「あ…その、転移魔術は使わずに旅をしていて…」


(と言うか使えないと言うか…)と心で思っていればルカはキョトンとしてから「…それはかなり時間がかかりますね……」と苦笑いをした。それはそうだ、転移魔術を使わずに移動すれば首都までは2か月以上かかる。しかしながらリンは旅を楽しんでいる節もあるので何とか心折れずに旅を続けられていた。

まぁモンスターに会った時は本当に死ぬかと思ったが…


(魔術が使えるならぜひそれで移動したいけど…)


なんて考えながらリンはキッチンへと向かった。


「ルカ、お茶飲みますか?」

「ありがとうございます。ぜひ」


ここの宿屋は田舎と言う事もあり、備え付けられたキッチンには魔術陣が施されていない、前に泊まった宿屋はオール魔術陣キッチンだったため苦労した。

そんな苦い思いをしていたからか、リンは安堵しながら手際よくお茶の準備をする。


「どうぞ」


そう言ってソファ側の机にお茶をおけばお礼を言いながらソファに座ったルカ。

それと同時にルカは関心したように嘆いた。


「…リンは普段から魔術を使わないんですね。」

「えっ」

「手際がいいので…移動手段も転移魔術を使わないようですし」


ギクリと身体を動かすリンに気が付かず、ルカはお茶に口を付ければ美味しい…!と感動しているようだった。


「こんな美味しいお茶は初めて飲みました」

「あ、あはは…お口にあったようで良かったです…」


無意識にいつも通りやっていたが、普通の人からしたら魔術を使わない方が珍しいのを忘れていた。リンは背中にだらだらと冷や汗を流しながらベッド側に座り誤魔化すようにお茶に口を付ける。


「ルカも1人で旅をしてたんですか?」

「ええ、ダンジョンを周りながら旅をしています。…ただ、今はちょっと困ったことと言いますか…トラブルがあって急遽この街に」

「…困ったこと……?」


ルカは困ったように笑いながら肩をすくめると、立ち上がり部屋の窓をゆっくりと開ける。そして下へと目線をやった。

リンは釣られるようにルカの横へ行くと窓を覗き込んだ。


そこには1台の古いバイクが置いてある。


(わっ…これってバイク…?この世界に来てから初めてみたかも)


「クラウンと言う乗り物です。今はあまり見掛けないものですが…」

「…クラウン…」


クラウンをまじまじと見る。リンはふと、アルベールと旅に出る前にした会話を思い出した。

リンの世界では車やバイクが当たり前の世界、それがないためこの世界の移動手段を聞いた時の話だ。


__確か、転移魔術が支流になる前はこう行った乗り物を乗ってたって…


(今は転移魔術でワープが出来るから誰も乗らないって言ってた)


「……時代遅れ、なんて言われますがね」

「えっ、そんなことないです…!」

「!」


思ったよりも大きな声が出たことに慌てて前のめりになっていたリンは姿勢を正す。

元の世界では支流で乗られていた乗り物。久しぶりに元の世界と共通する物を見れて懐かしい気持ちになれたと嬉しくなった。


「クラウン、素敵な乗り物ですね!」


フワリとリンが笑えばルカは少し目を見張った。その嬉しそうな顔に釣られて頬を緩める。


「_このクラウンは、僕の1番大切な物なんです。相棒と言うやつですね」

「…そうなんですね」

「だから、ありがとうございます」


目が愛おしそうにクラウンを見つめている。本当に大切な物なのだとルカの優しい顔を見て思った。


「そう言えば困ったことって…?」

「……実は…」


ルカの話によれば。

このクラウンと言うものにはコアという現代でいうガソリンが必要らしいのだ。

魔術が中心になった今、そのコアを扱っている店は限られるため中々入手出来ず困っていたようだ。


「…ちょっと色々あって買い溜めしていたコアがなくなってしまって…ギルドにもお願いしているんですが多分ダメそうで…途方に暮れていたんです」


ルカは徐にポシェットからコアを取り出した。

アーモンド型のガラスで作られたそれはガラス部分が綺麗にエメラルド色に光っている。


「…綺麗…」

「クラウンのようなコアで走る乗り物はこの特別な容器に聖なる光と言うものを注いで使うんです。今は頻繁に流通しなくなった特別な物なので…この辺での入手は無理そうですね」


困ったように「仕方ありませんね」と言ったルカは机の上にコアをコトリと置いた。仕方ないとは言っているがその顔には悔しさのような…やりきれない気持ちが見て取れる。


(よっぽど大事なんだ…)


クラウンを置いて旅をする選択だってある中、それをしない彼にとって、もしかしたら自分自身よりもこのクラウンの方が大事なのかもしれない。

この異世界に来てリンは大事だった物や人は全てなくなってしまった、だからこそルカには大切だと思う物があるなら大事にして欲しいなと心から思う。


窓の外を見れば少し風が吹いてはいるが未だ天気は良好。リンはよしっと頷くと笑顔でルカの手を引いた。


「ルカ、まだ外の天気も良いですし今から街に出て色々見て回りませんか?私旅に出たばかりなので全部が物珍しくて」

「え?」

「それから、街の人にコアがないか聞いて周りましょう!」

「!」


最初こそ驚いていたルカも、リンの言いたい事がわかったのか申し訳なさそうな…しかし嬉しそうに頷くのだった。


お読みいただいて本当にありがとうございます…!

ど初心者なので温かい目で見守って頂けると嬉しいです。

そして良ければご感想なんかも頂いてしまったりしたら更新頑張れますので何卒……

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