イン・シント 8 夢界の中へ
急ぎ戦艦ディエンドの一時的封鎖を解く。
それからみんながやってきて、大騒ぎになってしまった。
特にミコちゃんとミリアちゃんはそうとうに怒られたみたいで、胸が痛い。
で、俺は椅子に座っているんだけど、取り囲むように腕組みをしたウチのメンバーたちがとてつもない怒りの形相をしていた。
ミューズさんもカサンドラもアリステラもガディスさんも、怖い。怖すぎる。
俺の隣にはアテナが。彼女もまた座らされているのだった。
「ミコちゃんとミリアちゃんは?」
「……尻を叩いて叱った」
ガディスさんの眼光が俺を貫く。
「あまり怒らないであげてください。彼女たちはただ弱った生き物を助けようとしただけです」
「おまえの頼みでも聞けん。それに、怒ったのはそこではない。なぜすぐに言わなかったのかを叱った」
そのとおりではある。なにも反論できない。
「マスターに責はありません。緊急事態でしたので、ああするしかなかったと言っておきます……」
あのアテナの語尾が弱い。
「で、結局なんなのさ。あんた、あたしらを追い出して秘密の作戦かい?」
「最初はミコちゃんとミリアちゃんがなにをしているのか、追っただけだなんだよ。だけど機関部でヤツの抜け殻の一部を見つけた」
「『一桁』ですか。まさか入り込まれているなんて」
完全なるミスだ。魔力を失ったことで探知ができなくなるとは思いもしない。
「そこで緊急事態だと気づき、封鎖。ミコちゃんとミリアちゃんを助けにいって、ヤツと出くわした」
フォオは物置に放り込んでおいた。シールドで閉じたままだから、出られない。
「それで戦いに……?」
首を何度も縦に振ってうなずく。
「ふむ……」
「うーん……」
「謎の男の子のことはわかったけどー」
「シント~ ちょっと変よ~」
「そうだ。艦はずいぶんと長く封鎖していたが、『一桁』とやらは力をなくしていたんだろう」
「その割には静かっていうか、戦ったんじゃないの?」
みんなの視線が集まる。
「なにがあったのか、話せ。シント」
たいした話ではないんだけど、話そう。
俺はフォオから取引を持ちかけられた。
【神格】がほしいと言われ、それを断ったのだ。ただヤツはどうにも様子がおかしい。嘘をついているとは思えないが、どこかのタガが外れているような気がする。
しかし、ヤツからの情報により謎に包まれた饗団の一端がわかった。
そしてもっとも重要なことも。
「悪神はまだ復活していない、ということか」
「でもどういうこと? 反乱を起こさないと行けないって……」
「考えられることは、限られた人間にしか入れない、あるいは開けられない、などですね」
「なにそれー」
どんなものかはわからないが、饗団にとって最重要な事柄だとわかる。それこそ、反乱を起こしてまで必要ななにかだ。
しかしそれはアレスティアスさんしか知らないことらしい。まったく、すさまじいまでの秘密主義だと思う。
「それで、その蛇の男の子はどうするつもりなの?」
「駆除したいところですが、ミコちゃんとミリアちゃんとの約束もありますしね」
フォオはほとんどの力を失っている。いまのところは人を害することなど無理だろう。ただし、これから先はわからない。力を取り戻す可能性もある。
「ヤツは饗団に対して忠誠心がないようでした。逃亡して、元の人間に戻りたいのだと」
「信用するんですか?」
アミールの言葉に首を振る。
「信用なんて、まったくできない」
だけど必死に生きようとしているのはわかった。元の姿に戻りたいのも。
「油断ならない相手だ。とはいえ、力のない者を始末することはできないよ。俺たちは饗団とは違う」
「……シント、あいつ、ラグナに連れてく気?」
そんなつもりはない。
どこかのタイミングで外に放り出すつもりだ。
「ヤツからはまだ情報を引き出せる。また話してみるよ」
「憲兵に引き渡すのはだめなの?」
ミューズさんの言葉に従いたいところだけど。
「用が済んだら、考えます」
俺だって……必死なんだ。
ディジアさんとイリアさんを取り戻し、外導神を倒したいと願っている。
フォオはこれ以上ない貴重な情報源。饗団のことのみならず【神格】についてもいろいろと知っている。
「シント……どうした?」
「ハイマスター、なにか思いついたのですか?」
【神格】は不思議だ。人間には解明できない神秘さを持っている。ヤツは【神格】と同化しようとしたと語っていた。神の力に触れ、全能の一端に連なろうとしたのだ。
そんなこと、本来ならできるはずもない。
でも俺は、一度成功している。
ダイアナと【神格】疑剣サナトゥスの力を借り、神剣ハルペリアの、人間で言う精神に入り込むことができたのだ。
となればフォオに力を借りる必要なんてない。
集まったメンバーたちの中にいるダイアナに目を向けた。
「?」
自分だけでは難しい。また力を借りることになる。
いいかげん、腹をくくる時かもしれない。
フォオは気味が悪いけど、言っていることが全て間違っているわけではないのだ。
「吐かせたいなら、私に任せればいい」
ウルスラがなぜか前に出てきた。
「わたしのほうが~ 得意~」
今度はアイシアだ。
「なんだったらわたしがやるよ?」
デューテも出てきた。
なんのつもりだ。
「神剣インドラの雷をくらえば、たいていの者は屈する」
「みーちゃんの水を~ 口から入れるの~」
「シャル乗っけて、重くするとみんなしゃべるけど」
神剣を拷問に使う気か?
しかもけっこうえぐい。
「そういうのはやらないよ。だめだめ」
三人はしゅんとなった。
「ヤツのことは俺に任せてほしい」
みんなの顔は、渋い。
「一人で無茶をするな、と言いたいのだがな」
「そうですよ、ハイマスター。ただでさえあなたは天至の相手や、位の高い人物との交渉など、たいへんな仕事をしているんです。だから僕らをもっと使えばいいんです」
「クロードに言いたいこと言われたけどさ、そのとおりなんだよねえ」
「……でもわたしたちを追い出したのは怒る」
「それも言われちゃったさ」
それから結局、全員から怒られてしまった。
巻き添えをくっただけのアテナもいっしょだ。彼女にはあとでちゃんと謝っておこう。
★★★★★★
夜も更けてきた。
みんなはもう寝ている時間だ。
一人部屋を出て、ダイアナのところに向かう。
まだ起きていればいいが。
わずかに開いたドアのすき間から光が漏れているの見えた。
かなり緊張する。
こんな風に訪ねるのは初めてだ。
深呼吸を一度して、ノックをする。
ダイアナは驚くほど早くドアを開けた。
「シント、来るって、思ってた」
「こんな時間に、ごめん」
「ううん、サナトゥス、必要、でしょ?」
「ああ、どうしても君の力が要るんだ。いつも頼んでばかりでほんと――」
彼女は俺の口に人差し指を当てた。
「遠慮、しなくて、いいから」
余計に申し訳なくなってきた。どうやら来るのを見抜かれていたらしい。
「入って」
「うん」
中は普通だ。ぬいぐるみが置いてあるのは、ダイアナっぽい。
だけど変だな。ちゃんと片付いてる。どういうことだ……?
「シント?」
「あ、いや、なんでもない。それで、おねがいがあるんだけど」
「ディジア、と、イリア、起こす、の?」
「うん、そうしたい」
間が空く。やはり無茶だろうか。
「最近、変なんだ。眠れないっていうか、起きれもしないっていうか」
「……つらい?」
「前はそう思わなかったんだけどね」
ディジアさんとイリアさんのいない時間が多くなればなるほど、ひどくなっている気がする。きっともう、俺は限界なんだろう。
「無理そう?」
「たぶん、入れる。けど、女神さま、なんて、未知数、だから」
「危険は承知だ」
「なら、そこに」
彼女は俺をベッドに寝そべるよう促した。
さっそく始めるのか。
いまさら躊躇はしない。指示に従い、仰向けに寝る。カバンからディジアさんとイリアさんを出して、胸に抱いた。
「目を閉じて、ゆっくり、息を」
「ああ、わかった」
目をつむる。
「じゃあ、やる、ね?」
声を出さずにうなずいた。
ダイアナの動く音だけが聞こえる。
これからどうなってしまうのか、予想ができない。
ディジアさんとイリアさんがどんな状況にいるのかも、とても不安だ。
会えないかもしれないし、成功しないかもしれない。だとしても、起きない原因だけでも掴んでみせる。
「シント、集中、して?」
「ごめん」
神剣ハルペリアの中へ入り込んだ時を思い出す。どこまでも落ちていくようなイメージだ。
……
…………
………………
まだかな。
なんだか焦る。
でも催促はできない。
……
…………
………………
やはり無理なのだろうか。
もう耐えられなくなって、目を開ける。
「起きた?」
「……ダイアナ」
ダイアナがすぐそこにいて、俺の顔を覗きこんでいる。
「成功はしなかったのか」
「違うよ。周りを見て」
辺りを見回して、驚く。
ここは、戦艦ディエンドの中じゃない。
「これって」
とても見覚えのある場所だ。
「フォールン?」
俺たちの住む大都市フォールンの一区画。我がギルドの始まりの場所。古街への入り口があるのだった――




