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アーティフィシャル・ディヴァイン 2 親子!?

 ミュラーさんが奥さんの写真を見ながら、悲しそうに笑みを浮かべる。

 なんとも哀愁の漂う表情だ。


「世にはまだ解明されていない不思議な現象がいくつもある。その中に『次元断裂』というものがあってな」


 『次元断裂』とはまた、物騒な響きだと思う。


「ある時……人生で初めての夫婦喧嘩をした。頭を冷やそうと外で散歩をしたのだが、うかつにも『次元断裂』に呑み込まれてしまった」


 いつもであれば気づけた、とつぶやく彼はとても悔しそうだ。


「裂け目を通り、気がつけばこちら側に来ていたわけだ。しかも、無理に世界の狭間を通った影響で、魔力が練られなくなった。おそらく、精神体に異常をきたしているのだろう」

「そんなことがあったのですね」


 ミュラーさんはこちらへ来てからすぐに帰る方法を求めたが見つからなかった。時間がかかると判断し、自身が持つ技術を活かして、魔導具店を始める。

 いま現在までの間、魔空ウラヌスの噂を聞いては出かけていたのだそう。


「別の世界がほんとうにあるなんて」

「説自体はこちらの世界にも昔からあるだろう」

「そうですね。『悪魔扉デモンズドア』なんかがそうです」


 『悪魔扉デモンズドア』はちょっと目を離した隙に人が消えてしまうという伝説だ。悪魔デモンにさらわれ、別世界に連れて行かれると信じられていた。


「フォールンもなんとか落ち着いた。ここを離れても問題はない」


 ミュラーさんは奥さんに会いたいんだな。

 気持ちは痛いほどわかる。

 協力しない選択はない。だがそれでも疑問は残るのだった。


「しかし、魔空ウラヌスを手に入れることができたとして、それだけで世界を渡れるのでしょうか」

「君の懸念は理解している。俺としては魔空ウラヌスに加え、空を断つと言われる神剣ハルペリアもあれば可能だと考えている」

「え」


 おっと、思わず声が出てしまった。

 これはなんの偶然だ?


「神剣ハルペリアについては、詳しい資料が残されている。物自体は現在行方不明だが、以前それを読む機会があってな。性質を確認したかぎりでは、おおいなる助けになるはずだ。ただ……こちらについてはまったくと言っていいほど所在の情報がない。捜索は困難を極めるだろう」


 ……両方とも、あるんだよなー。

 しかし好機だ。そもそも俺のほうから持ちかけようとした話でもある。


「ミュラーさん、折り入って話があります」

「もしも依頼を請けられないというのであれば、それもしかたのないことだ。構わないさ」


 彼は話を聞いた俺が断ると思っている。


「いえ、依頼は請けます。というか、だいたい解決しました」

「まさかとは思うが……すでに持っているとでも?」

「はい、これが魔空ウラヌスです」


 右腕を上げて、腕輪を見せる。


「にわかには信じがたい。その腕輪からは魔力を感じなかった」

「だいたい眠っていますからね。【ディルジアルエンドカデス】」


 真の名を口にすると、魔空ウラヌスが目覚め、魔力を解き放つ。

 それを見たミュラーさんは見事に固まった。

 彼はなにも言わない。いや、言えないのかもしれない。


「ミュラーさん?」

「……すまない。よもやこんな近くにあったとは」

「神剣ハルペリアもありますよ」

「なんということだ」


 今度は大きく目を見開き、びっくりしている。こんなミュラーさんを見るのも初めてだった。


「それで、俺からの注文というのが神剣ハルペリアについてなんです」


 大きく息を吸い、吐く。いまから無茶なおねがいをしなくてはならない。


「神剣ハルペリアはおそらく饗団の手によって破壊されました。なので、ミュラーさんに修復をおねがいしたいのです」

「【神格】を修復……だと?」

「無理ですかね」

「不可能に近いだろう」


 できない、とは言わないのがすごい。


「できなくはないんですね?」

「……【神格】が手元にあるのなら、解析が可能だ。ただし、何年、いや、何十年かかるかわからない」

「ミュラーさんなら、それほど時間はかからないのでは?」

「……」


 彼は考えこんでいる。もう一押しだな。


「かのアルレエスさんは、【神格】のことを幾千もの術式の集合体というようなことを言っていました。つまり、魔導具に近いと考えられます」

「待て。アルレエス、だと? それはあの偉人か? それとも同名なだけか?」

「偉人の方です」

「どういうことだ」


 ミュラーさんには剣魔大戦のことを話したけど、アルレエスさんのくだりは省いた。いい機会だし、説明しよう。

 というわけで、アルレエスさんにまつわることを言ってみた。彼はそれを黙って聞き、ときおり考えこむ。


「神剣ハルペリアは死んでいないのだな?」

「それは確認しました」

「……となると、術式を分離できれば、あるいは」


 なにか掴んだみたいだ。


「可能性は低いが、やってみる価値は十分にある」

「では、やってくれるのですね?」

「俺の望みでもある。こんな好機は二度とないだろう。やらないという選択は存在しない」

「ありがとうございます!」


 そうとうに困難な仕事となるだろう。

 だが、引き受けてくれた。彼は俺は知る中で最高の魔導具技師だ。断られたらどうしようかと思った。


「神剣ハルペリアはいまあるのか?」

「いえ、タタラズさんのところに預けてあります。あの人にも修復を頼んでいますので」

「なるほど」

「剣でもあり、魔導具でもあると俺は考えています。お二人の力が必要だ」

「オヤジさんには鍛造。俺には魔法か。いいだろう」


 問題はないようだ。


「少し準備をして、オヤジさんの工房に出向こう。君のギルドの敷地にあるのだったな」

「はい。お待ちしてます」


 約束をして、店を出る。

 さっそくタタラズさんに報告しようと、本部に戻った。


 空間移動で庭に到着。

 しかし、なにやら様子がおかしい。

 ウチのメンバーが何人かそこにいて、そろって神妙な顔をしていた。


「ただいま。みんなしてどうしたの?」

「あ、シントー! よかったー!」


 なにごと?


「いま、繁華街に誰か行ってもらおうとしたのよ」


 ミューズさんも焦っている。


「まずは落ち着いて。なにがあったか教えてください」

「それがね、『影使い』さんが来て、倒れちゃったんだよ」


 トールさんが?

 いったいぜんたい、どういうことなんだ。


「それと、奥さん? も来てて」

「リンカさんも?」

「ああ、そっちはだいぶ具合が悪そうさ」


 マジで状況がわからない。


「シントを呼んでくれって言った途端、倒れちゃったのよ」

「説明をする前に、ってことですね。すぐに行きます」

 

 抜き差しならない状態かもしれない。

 地を蹴って、本部内に入る。仮眠室にいるという話だから、二階へ上がった。


「トールさん!」

「あ、ああ……おひさ、だな」


 彼はかなり疲労しているようで、顔色が悪い。

 すぐそばのベッドに寝かされているリンカさんは、もっと具合が悪そうだ。

 額に汗をかき、うなされている。額から伸びる立派な角も、いまは欠けているように見えた。


「急に来て悪い」

「いえ、そんなことよりもなにがあったか、言ってください」

「あんたに依頼がしたい」


 依頼?


「依頼の前にリンカさんを医者に見せたほうがいい」

「……医者に診てもらっても無駄さ。病気じゃねーのよ」


 トールさんは寝ているリンカさんの手を握った。


「精神体がおかしくなっちまってる。俺はずっと……治す方法を探してたんだ」


 だいぶ追い詰められていると思う。

 しかし、このままにはしておけない。


「まずは医者を連れてきます」

「だからそれは無駄なんだ」

「古街に腕の良い人がいますので、往診をおねがいしてきますから」

「いや、意味がない」

「リンカさんだけじゃない。あなたもです。かなり無理をしたのでは?」

「……」


 トールさんはしぶしぶ折れた。

 小さくうなずいたのを確認し、すぐに飛ぶ。

 目的地はドクターハデスの医院だ。

 

 彼女はちょうどそこにいて、休んでいるようだった。

 患者は誰もいないのが不思議だったが、軽く事情を話し、すぐに来てもらう。

 まったくためらう様子はない。饗団に支配されている間も多くの患者を診ていたというし、すごい人だと思う。


 彼女を連れて本部へと引き返す。

 再び二階へと上がり、ドアを開けた。


「ドクターハデス、二人をおねがいします」

「……」


 返事がない。

 彼女はトールさん夫妻を見つめて、大きくため息をした。


「そ、そんな……お義母かあさん……?」


 トールさんの口からとんでもない言葉が出る。

 どーなってんの!?

 

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