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ドーン・イン・フォールン 7 戦は変わった

 戦場を見渡し、タッくんに声をかける。


「タッくん!」

「おお! どした?」

「俺たちは先に行ってる。侯爵を守り、港湾地区へ来てくれ」

「任せろよ!」

「ああ、行けって、ハイマス!」

「うちらだって、やれるとこ見せないと」

「がんばって! ハイマスター!」


 良い返事が来た。タッくんたちなら任せられる。

 かたわらにいるマクシミリアン君に顔を向けた。


「マクシミリアン君、お父さんの言うことをよく聞いて、戦うんだ。いいね?」

「わかりました。父上は僕が守ります!」

「武運を祈るよ」

「シント殿も!」


 彼は成長した。立派に戦っていると思う。

 七ヶ月も眠っていたことは、たしかに取り返しのつかない、俺にとっては最悪のミスだっただろう。しかし、その最悪の中にマクシミリアン君のような劇的な成長を見せる者がいた。

 救われる思いだ。彼はもう子供ではない。頼りにできる。


「ヴィクトリア、王子、俺たちはみんなと合流だ」

「ここはいいのか?」

「もういい。終わりだ」

「飛んでく?」


 と、王子がヴィクトリアをにやけながら見る。


「……なんかムカつく目なんだぞ」

「だってほら、君は飛翔の魔法なんて使えないだろ? 走ってきたらいいじゃん」

「ふーん、わたしだって飛べるんだぞ。≪ドラゴンフラーイ≫」

「げっ!?」


 浮上するヴィクトリアを見て、変な声を出す王子。


「うそだーーーーー! なんでこんな! シントぉ~!」

「泣いてないで、行くよ」

「うう……釈然としないよぉ」


 三人で飛びかけた時。


「待ちたまえ! アーナズ君!」


 侯爵が呼び止めてきた。


「先に行かないでくれないか」

「いえ、このまま港湾地区を攻略します。あなたは集まってくる人たちを糾合し、制圧をしつつ、こちらへ」

「なんという忙しなさか」

「頼りにしてるんですから」

「……そう言われればやるしかないだろうが。しかたないな、君は」


 侯爵はちょっとやる気を出したようだ。

 この場を離れ、港へと行く。


「シント、なんかすごいことになってるんだぞ」

「あれって、アテナのシールドか?」

「すごい障壁だなー……どんな魔法? 範囲でかすぎなーい?」


 アテナのシールドがすごいのは間違いないんだけど、それに対して爆発が起こっている。

 苦戦しているっぽい。


 すぐさま行って、≪領域障壁エリアシールド≫を展開。

 アテナの元にはウチのメンバーが何人か集まっていた。


「アテナ、少し休んでくれ。俺が守る」

「マスター、申し訳ないと謝罪を」

「これはなにが」


 アテナの代わりに、グイネヴィアさんたちが話す。


「とんでもないモンを撃たれてるじゃん」

「まさかの大砲よ」


 信じられない。大河に浮かぶ船からの爆撃か。

 あの大砲ってなんかどこかで見たな。

 

 数隻の船が横に並び、艦砲射撃をしてくる。

 俺のシールドに鉄球がぶち当たり、爆発。びっくりだ。魔法の効果が付与されていると考えられる。

 なによりもふざけているのが、港ごと俺たちをやろうとしていることだ。

 敵味方お構いなし。これが戦争なのか?


「まったくもってひどい話だ」


 すでにここらは建物が破壊され、めちゃくちゃ。

 アテナがいなかったらと思うと、ぞっとしてきた。


 やはりそううまくはいかないか。

 でも、嘆いてはいられない。


「他のみんなは?」

「カサンドラたちは予定通りのはずじゃん。ドラグリア勢はあっちで暴れてる」

「わかった。グイネヴィアさんたちは艦砲の射程から外れて、襲撃を続行。船は俺たちがやる」


 俺のシールド内を彼女たちは走っていく。


「ヴィクトリア、アルクルス君、応戦だ」


 船に向かい、魔法を発射。しかし距離が遠いため、さほどのダメージを与えられていない。


「さすがに遠くない?」

「いや、このまま撃ち続けよう」


 ややあって、船が方向を変え、移動。岸からの魔法を嫌がったと思われる。

 

「さすがはエーギル家と言っておくか」


 船はまた距離をとり、艦砲射撃をしてくるだろう。

 いいさ、こっちから出向いてやる。


「二人とも、行くよ。やられっぱなしなんて好きじゃない」

「どうする気なんだぞ」

「こっちも爆撃してやろう」


 飛翔の魔法により大河の上空へ。

 矢が届かない高さから、下を見る。


「かなりの数だ。こんなに船があったのか」

 

 水に浮かぶ船の数は、少なくとも百隻を超えるだろう。

 ここだけでその数ってことは、周辺地域から集まればもっと増える。


 いまのうちに数を減らすのがいい。

 大砲を装備していない小型の船は重要じゃない。

 狙いは大型船だ。


 一気に高度を下げて、魔法を放つ。

 空からの攻撃など想定していまい。さっきのお返しだ。


「≪ファイアメガシュート≫だぞ!」

「≪ウインドカッター≫!」

「≪巨人之土岩(タイタン・ジ・アース)≫」


 火球、風刃、そして巨岩。

 炎は木造の船を派手に燃やし、風の刃がマストを断ち折る。そして岩が押し潰す。

 

「なんだこれはァァァァァァァァァ!」

「どこからだ!」

「そ、空だ! 空から――」


 水兵たちが沈みゆく船から川へとダイブする。

 

「シントって土属性も使えるの!?」

「うん、使える」

「うーん……さっきは水も使ってたし……じゃあ僕もとっておきだ」


 アルクルス君は両手を合わせ、魔力を高める。


「≪ウインファイアクラッシュ≫」


 聞いたことのない魔法だ。炎と風が混じり合い、その後、何層もの色に分かれ、包み込まれる。

 発射された球状の魔法は、大型船に着弾。直後、爆風と炎が広がり、弾けて散る。

 たったの一撃でこれか。なんて恐ろしい魔法だ。


 ぱっと見たところ、風の球に炎を封じ込めたように思えた。

 最低でも三層。風、炎、風の順で重ね、拡散力を強めている。


 今日は月がでているから、船より立ち昇る炎がよく目立つ。

 月を背に浮遊する俺とヴィクトリアと王子の姿は相手もはっきりと目にできるだろう。


「なんなんだ、これは……」

「あいつら……ばけもんだ」

「隊長……に、逃げたほうが……」


 兵士たちの声が耳に届く。

 逃げるだって? それは難しい。だってこっちは、逃がすつもりなどないんだから。


「≪渦波之災(タイダルウェイブ)≫」

「≪ウインファイアクラッシュ≫」

「≪ファイア……ギガ・シューーートーーー≫!!」


 水の渦が五隻を巻き込み、破壊。

 爆発弾がまたしても大型船を爆破し、近くの船に炎を飛び火させる。

 そして大炎が中型船の二隻、燃やした。

 

 敵船からの砲撃は止み、港への攻撃はもうない。

 ウチのメンバーもこれで自由に動ける。


「まだまだ……≪天之招雷(ヘブンズサンダー)≫!」

「今度は雷!? しかもその熟練度! ならば! ≪ウインドボム・ダブルインパクト≫!」

「≪ファイアギガボーーーーール≫!」


 雷に風の二重衝撃が合わさり、範囲を拡大。そこへ炎の球がまるで隕石みたいに降りそそぐ。


「くそっ! これは天災かなにかか!」

「おまえたち! 退避だ退避ーーーーー!!」

「しかし隊長! どこに逃げれば――」

「どこでもいい! 飛び込めえええええ!」


 兵士たちが我先にと逃げる。

 これでだいたいの船は沈めた。

 おかわりが来るまでは降りよう。


 三人で高度を落とし、港へ着地。

 多くの敵兵が倒れており、動いている者はほとんどいない。

 破壊の跡が生々しい港を眺め、息をついた。


「シント! 君は何属性使えるんだ!」


 王子はもう俺の胸倉をつかむ勢いだ。


「空間! 飛翔! 無属性に水に土に雷!」

「急にどうしたんですか」

「だって見なよ!」


 彼は炎に包まれる大河を腕で振って指し示す。


「二属性の僕でさえこれだ! 【神格】なしでこんなことができる僕らは戦を変えたんだよ!」


 怒っているのか、興奮しているのか、それとも両方か。


「上空から人間が直接奇襲なんて誰も想定できない。魔法系【神格】だけが恐怖されている時代はいま終わったんだ」


 彼自身もこの戦果に驚いているのか?

 

「空を飛べるのは僕だけじゃなかった。三人もいる。もし、もしも飛翔の魔法を使える者が増えれば……」


 戦争は変わる、と言いたいらしい。


「どんな魔法の【才能】でも工夫と修練で疑似飛行はできる! あるいは魔導具で補助してもいい! 空を制圧できれば、地上の兵など相手にならない。それがいま、証明された!」

「アルクルス君、落ち着いたほうがいい」

「こんなの落ち着けないよ! 君は……すごい! どれだけの手札を持っているんだ! 教えてほしい! 君の全てを――」


 ヴィクトリアのゲンコツが、王子の頭頂部を襲う。

 かなり痛そうな音がして、思わず目をつむってしまった。


「~~~~~~!!」


 王子は頭を抱えてしゃがみ込む。


「さっきからわけのわからないこと言ってるんだぞ」

「い……痛いじゃないか! なにするんだよぉ~!」

「それに仕事中なんだぞ」


 たしかに言うとおりだ。やはりヴィクトリアは成長したのだろうか。

 ガディスさんに教えを受けていたというし、その賜物か?


「アルクルス君の言いたいことはわかるよ。だけど、いまはそれを話す時じゃない」

「……わかったよ。僕が悪かった」


 ともあれヴィクトリアのおかげで正気を取り戻したみたいだ。

 王子はやはりずいぶんと変わったものを持っているらしい。

 

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