ドーン・イン・フォールン 6 攻略開始
ダメオン侯爵を中心に、大通りを歩く。
先頭の侯爵家兵が大旗をかかげ、堂々たる姿だ。
なにごとかと街の人々が集まってくる。
彼らは道の端に並び、不思議そうな顔をしていた。
「おい、あれって」
「ダメオン侯爵? 何する気だ……?」
かなりのざわめきだ。
騒ぎを聞きつけ、前方から誰かがやってくる。
武装した男たちが五人程。もちろん帝国兵ではない。
「待たれよ! 貴様ら、なんのつもりか!」
「……その旗。侯爵閣下とお見受けするが?」
彼らは腰の剣に手をかける。
「ヴィクトリア、やれ」
「≪ファイアメガシュート≫!」
凝縮された火線が伸び、兵士たちを燃やした。そこへ≪水之砲≫で消火とともに、ぶっ飛ばす。
「さあ、行きますか」
「……アーナズ君、いささか過激では」
「さすがはシント殿だ! 容赦がない!」
「マクシミリアン! 絶対に参考にしてはいかんぞ!」
などと言いながら、進む。
で、兵士たちがまた来る。
「そこでなにをしている!」
「堂々と闊歩だと……? しかもその旗!」
「≪ウインドボム≫」
王子の放つ風爆弾で、兵士たちは飛んだ。威力も精度もすさまじいものだ。発動までが異様に速く、兵士たちはなす術がなかった。
「シント、これでいいんだよね?」
「うん、最高」
「でしょ?」
爽やかな笑みだ。このまま調子に乗らせよう。
そうして何度か同じことを繰り返し、進む。いつしか街の人々が後ろにつき、大行列となった。
「これがパパの……いえ、父上の力」
マクシミリアン君が驚く。
後ろについた人々は、期待している。饗団の兵を倒したことで、侯爵がなにかをやらかそうとしていると気づいたはずだ。
物資を制限し、高値で売る卑劣なやつらにうんざりしているのだと思う。
空を見上げてみた。
日がおちかけている。
そろそろ来てくれるとありがたいのだが。
ここで俺の隣へすっと近づく者がいた。
いかにも普通のカジュアルなかっこうをした若者だ。
(お久しぶりです、アーナズ殿)
小声でそう言ったのは、アークスの憲兵の一人。顔なじみだった。
(ええ、おひさしぶりです)
(これは蜂起を?)
(大河を解放します)
(……!?)
ジェラルド卿は元気かな。彼が憲兵長官に就任したあとは会ってないから、心配だ。
(すぐ長官にお伝えします)
(港湾地区で戦ってますので、来れたら来てください)
(……承知)
彼はすっと離れ、列から出て行った。
思いがけず憲兵隊とは連絡が取れたので、少し楽になったと思う。
港湾地区への道が見えてくる。
案の定そこは封鎖され、千人はいるだろう兵士たちが俺たちを待っていた。
さきほどまでの者達とは違う。
何人かの鎧には、青の下地に矛とカモメの紋章。かのガラル公国御三家『エーギル家』の家紋だ。
中心にはひときわ立派ないでたちをした男性が立つ。
中年とは言えず、青年でもない歳ごろの人物だ。
他の人間とは雰囲気が違う。司令官とみて間違いない。
すでに情報は掴んでいる。
この人がおそらくダヴィド・エーギル。当主の弟だそうだ。大河を封鎖する軍のトップのはず。
「止まれい!」
ダヴィド・エーギルの隣に立つ巨漢が、とてつもない大声を出す。
示し合わせたかのように、ダヴィド・エーギルと数人が前に進んだ。
「アーナズ君、これは……ほんとうに予定通りなのか?」
「ええ、そうです」
「しかしだな。この人数差では」
「だいじょうぶです。それよりも、言いたいことを言ってやりましょうよ。半年も軟禁されていたんだ」
「う、うむ」
俺たちも前に進む。
「侯爵、なんのつもりだ?」
「なんのつもりと言われてもな……」
「アークスは我が家の街だ。占拠は不法です!」
マクシミリアン君が食ってかかる。
「小僧、貴様に聞いていない。分をわきまえろ」
「ぐっ……」
さすがの迫力だ。ガラルの武を司る御三家に人間ならとうぜんか。
「いまさらことを起こそうと? 戦える者などいまい。それとも、街の人間に武器を持たせようとでもしているのか?」
「うーむ、別にそういうわけでは」
「ではなんだ」
侯爵の態度がダヴィド・エーギルをイラつかせている。
「その、つまりは戦? このまま軟禁されるのも不愉快であるし」
「戦だと……?」
ダヴィド・エーギルが右手を挙げる。
兵士たちが武器を抜いた。
よし、そろそろか。
≪照明之灯≫を使い、上空へ打ち上げる。
「貴様、いまなにをした」
「話し合いですし、いったん落ち着いてもらおうかと」
「話し合い? 戦だろうが」
「交渉ですよ。交渉。さっき侯爵が言ったのは言葉の綾です」
「……貴様は?」
「シント・アーナズ」
辺りを見回す。
いまのところは増援なし。兵の配置はだいたいわかっている。大河と港湾地区に集中しているはずだ。
アミールに手伝ってもらい、わかっている隊の位置から、各隊の移動距離を計算。増援が来ると仮定した時間も算出ずみだ。
「エーギル家はほんとうにガラルを裏切ったのですか?」
「貴様に話すことはない」
「ただの雑談じゃないですか」
「ふざけるなよ」
たしかに。じゃあ言い返そう。
「ふざけているのは、おまえたちだ」
「……なに?」
「アーナズ君!?」
「物資を徴収して三倍の値で売るなど、どんだけせこいんだよ。それがエーギル家のやり方か? まるで三下だな」
無言の殺気。ダヴィド・エーギルが部下から矛を奪う。
「殺されたいのか?」
「図星を突かれたら暴力。三下どころじゃない。四下だ」
「シントぉ? さすがに言いすぎな気も」
「シント殿は……やばい!」
王子とマクシミリアン君が小声でなんか言ってる。
「さあ、侯爵。言ってください。あなたの想いを」
「なにを!? アーナズ君! これではもう話など!」
武器を構える兵士たちが、じりじりと迫って来る。
ダヴィド・エーギルは俺を標的に定め、矛を突きつけてきた。
後ろについてきた街人たちが下がっていく。
戦いは今にも始まりそうだ。
その時――
「なんだ?」
いっせいに目が向く。
港湾地区の奥の方で爆発音。火の手が上がった。
「なにが起きた!」
続けてさらに爆音。夜になりかけた空を赤くする。
「まさか……貴様」
「どうしましたか?」
「これは……陽動! やってくれたなあ!」
もう遅い。
「ヴィクトリア! 王子! ぶっ放せ!」
「ブッ……飛ばすんだぞ!」
「うそぉ! マジ! うひーーーーーーーー!」
俺の≪魔衝撃≫、ヴィクトリアの≪ファイアメガシュート≫、王子の≪ウインドボム≫が同時に炸裂。
それが契機となり、一気にボルテージが上がる。
「マクシミリアン君! 俺の隣に! 兵士たちを近づけさせないでくれ!」
「はいっ!」
剣を抜き、振る。意外と鋭い。俺に近づこうとしていた兵が下がった。
ダメオン侯爵には私兵の方々が守りにつき、そしてダヴィド・エーギルは撤退を叫ぶ。
「逃がさない」
魔法を撃つ構え。だが、俺の前に巨漢の戦士が立ちはだかる。
さすがの練度だな。撤退にも隙が少ない。
敵兵は二つに分かれ、半分はここにとどまった。
五百人くらいか。さっさと倒したいところだが。
「死ねい!」
巨漢が長い矛をぐるぐる回して、叩きつけてくる。避けるも地面がえぐれ、石がばらまかれた。かなりの腕力。油断はできない。
「≪魔衝拳≫!」
魔法をともなう拳と、巨漢の持つ矛がぶつかる。
どうやらすさまじい手練れらしい。計算が狂った。
「通してもらえませんかね」
「通さぬ。貴様は主とエーギルを侮辱した。八つ裂きだ」
「悪いのはそちらでしょうに」
「善悪など知ったことではないな」
この気配。闘気。かなりの猛者だ。
あまり時間をかけたくない。全力でやる。
「マクシミリアン君、下がって。侯爵を守れ」
「し、しかし」
「俺はだいじょうぶだ」
笑いかける。
「≪魔錬体・鎧魔導≫」
「なにをするつもりかは知らんが――くたばれい!」
魔力を全身にまとい、強化。テンション上がってきた。
矛を紙一重で避け、懐に潜り込む。
身を低くして力を溜め、下方から突き刺す膝蹴り。
巨漢の鎧がぼこりとへこみ、衝撃が弾けた。
「ぐおはっ!」
血を吐きながらも、倒れない。だが、もう終わりだ。
「き、貴様は……いったい」
「≪魔衝撃≫」
「ずおおおおおおおおおおお!」
巨漢は吹き飛び、何人もの味方を巻き込んで、倒れた。
指揮官が倒れたことで、士気が下がっただろう。
ここでさらに追い打ちをかける出来事が起きる。
後方から飛び込んで来た一団が、兵士たちを薙ぎ倒した。
やって来たのは、日に焼けた肌をした恐ろしい肉体を持つ男性。
「シントちゃん」
「ビダルさん!」
アークスで美容室と宿を経営する元軍人。『魔鋼拳』の異名を持つ凄腕の戦士にして紳士だ。
「シント!」
「うちらも……やるって!」
タッくんたち四人が良い連携を見せる。タッくんは拳、エランさんは槍、ルーリナさんは長剣、ユーリエさんは短剣二刀。みんなバラバラだが、陣形を組み、一人ずつ片付けている。だいぶ腕を上げたみたいだ。
彼らには『侯爵がなにかをしようとしている』という話をアークス中で吹聴してもらい、そのあとビダルさんに伝言を頼んだ。おかげでこの援軍だ。
「昔の仲間も何人か来てもらったのよ」
ばすん、とウインクをかましてくる。
「あなたが死んだなんて、絶対にないと思ってたわ。また会えて、嬉しい」
「俺もです。ただ、すみません。あなたは美容師なのに、またしても戦いへ」
「遠慮なんていらないわ。さあ! 再開を喜ぶのはあとね!」
「ええ!」
ビダルさんの拳がうなりを上げ、兵士たちをすっ飛ばした。
ヴィクトリアと王子もかなりはっちゃけてる。
俺たちの戦いに勇気づけられた街の人も続々と参加。武力はともかく、勢いは完全にこちらが上だ。
一方で指揮官を失った饗団兵たちは混乱の中でたいした抵抗ができていない。みるみる数を減らしていく。
ここはもう、だいじょうぶ。次行ってみよう。




