希望と絶望と、絶望と希望 28 仲間を求めて『三又槍』
アテナと合流後、すぐさまガラル砦に向かった俺たちはいま、実に手荒な歓迎を受けている。
十人を超える屈強な兵士が俺たちに槍を突きつけ、動きがとれない状況だ。
「侯爵閣下に会いたいなどと……我らをたばかるつもりか? 饗団のスパイめ」
「騙せると思ったら、大間違いだぞ」
たくましい胸筋を上下させて、興奮している。だいぶ息が荒い。
「ではクロードさんを呼んできてください。彼はウチのスタッフですし」
「今度はクロード様だと? あの方はいまは、外には出られん」
いったいなんの話だ。監禁でもされたか?
「ガディスさん、クロードさんはいつここへ?」
「最後に顔を見せたのは、先週……ちょうど一週間前だったか。その時はモンスター退治に行くと言っていたが」
ここまで来て、帰るわけにはいかない。
「マスター、強行突破を提言します」
「それもいいけどなー。でも不法侵入になってしまうし」
砦内はガラルの領地と同じ。無許可で入れば無用な疑うを招くだけ。
「いまの責任者は誰なのですか?」
ティール侯爵がいるのであれば話は早いが、それは考えにくかった。彼がいればアークスの半占領など許さなかったろう。
それともクロードさんが再び貴族に舞い戻り、ここを指揮している?
「それを言う必要があるか? おまえたちがスパイでないという保証がどこにある」
「ではどうすれば信じてもらえるのですか」
兵士たちは顔を見合わせた。
「おまえは……魔法士だろう。武器を持っていないしな」
「そうです」
「我らは魔法士など信用せん!」
出た。ガラルとラグナの対抗意識。これじゃなにを言っても無駄な気がしてきた。
「では勝負をしましょう」
「なにぃ?」
「腕相撲です」
「……なにを言ってる」
この人たちはいわゆる『脳筋』だ。普通に話の通じる相手じゃない。肉体を言語に変えて、やるしかないだろう。
「こちらは三人。あなた方も強い人を三人出してください」
「……なにを狙っている」
「なにも。ただこちらが勝てばクロードさんを連れてきてください。あなたがたが勝ったら、好きなだけ酒をおごりますよ」
「ほう?」
俺と話している兵士はにやりとして、力こぶを見せつけてきた。
やっと話が通じたか。
「二人とも、いいですか?」
「おれはこのほうがわかりやすくいい」
「わたしも異存ありません、マスター」
俺たちのやりとりに笑いが起きる。
「おいおい、娘っ子まで混ぜていいのかよ」
「これはいい見世物になりそうだな」
他の兵士もノリノリだ。
テーブルを持って来てもらい、城門の前で腕相撲が始まる。
何事かと人が集まってきてしまった。
で、開始。
あっという間に俺たち三人が圧勝。
ガディスさんと腕相撲した相手なんかは、迫力に押されたか、やる前から滝のように汗を流していた。
「な、なんて強さだ……」
「あの娘っ子、一秒で勝ってたぞ」
アテナはウチのギルド内でも腕力は上のほうだ。
俺だってけっこう鍛えてるから、そうそう負けはしない。
ガディスさんは言うまでもなかった。
「こちらの勝ちです。クロードさんを連れてきてください」
「しかたねえ。約束は約束だ」
雰囲気はだいぶ和らいだと思う。
ガラルには筋肉を。単純でいいな。
十五分くらい待つと、誰かがやってきた。
クロードさんかと思えば、そうではない。
どことなくティール侯爵に似た、横幅のある人物だ。
背には大剣。たくましいアゴに胸板。首もとてつもなく太い。
「おれを呼んだのはおまえか?」
いや、俺が呼んだのはクロードさんだ。こんな戦士戦士した人じゃない。
「いえ、俺は――」
「ガラルでも屈指の美男子、『三又槍』のクロードとはおれのことよ! なーんつって!」
なんか一人で笑ってる。
「まっ、冗談はさておき、おれはパスカル。従兄弟に何の用だ」
この人がパスカル卿か。
以前、ティール侯爵はクロードさんのほかにもう一人従兄弟がいると言っていた。
「俺はシント・アーナズといいます。パスカル卿、クロードさんはウチのスタッフなので迎えにきました」
「おお! おまえがシント・アーナズか。従兄にもクロードにも話は聞いているぞ」
「では」
「ああ、では尋常に! 勝負!」
大剣を抜き、器用に振り回す。
思わずため息が出そうになった。
これだもの。ガラルでまともなのはクロードさんだけか? いや、彼は彼で少々アレだしな。
「シント、おれが出るか?」
「マスター、ここはわたしが」
「おっ、いいぞいいぞ! 何人でも相手になろう!」
なんで嬉しそうなんだ?
もういい。さっさと終わらせよう。
「俺がやります」
「よし! では行くぞぉ!」
いきなりの強撃。真横から来る烈風をともなった大剣。
小さくジャンプしてやりすごし、着後、即座に間を詰める。
「≪魔衝拳≫!」
魔法で強化された拳を叩きこむ。
しかし間に大剣が挟まり、ダメージは与えられなかった。
なんて反射神経。ティール侯爵の従兄弟というだけはある。
「やばいな。ありえない衝撃だったぞ」
にやりとするパスカル卿。
「だが……これで終わるのはもったいない!」
なにがもったいないのか、まったく理解できない。
「これを凌げるか? 『大烈衝破』!!」
振り下ろされる大剣は、かわす隙がなかった。
≪魔衝拳≫で覆った両腕を交差させ、受け止める。
馬鹿みたいな衝撃。
俺の足が地面にめり込む。
「お?」
バギィン、と音がして大剣が折れた。
「折れたか! なんという硬さよ!」
「こっちも腕が痺れまくりです」
パスカル卿は笑った。楽しそうに。
「聞いていた以上の強さだ! シント・アーナズよ!」
「勝負はもういいでしょう」
「だな! よし、次はそちらの御仁に手合わせ願う!」
「次はおれか。まあいいだろう」
標的がガディスさんに移る。
彼は軽く目配せして、行け、と無言のフォローをしてくれた。
「パスカル卿、クロードさんはどこに?」
「あいつは執務室にいるぞ。勝手に行くがいい!」
ああ、はい。勝手に行きます。
狂戦士みたいなパスカル卿はガディスさんに任せ、アテナとともに砦へ入る。
執務室は城内の奥。一度行ったことがあるので、迷いはしない。
すれ違う兵士たちに怪しまれつつも、なんとか到着。
ドアをノックすると、聞き覚えのある声が返ってきた。
「失礼しまーす」
クロードさんがいる。彼は書類とにらめっこしていた。
「すみませんが、あとにしてください。忙しいので」
「クロードさん?」
「ですから、いそ――」
顔を上げたクロードさんは一瞬固まり――
「ハイマスター!?」
いきおいよく立ち上がりすぎて、机が倒れる。すごい音出た。
「まさか! ほんとうに……ハイマスターなのですか!?」
「ええ、戻りました」
「し、信じられない!」
彼は膝をがくがくさせながらやってきて、俺を抱きしめてきた。
細いようでぶ厚い筋肉。熱が伝わってくる。
震えているのは、泣いているからだろうか。
「ああ……あなたがいない物語なんて、あなたが存在しない歴史なんて、ありえないと、僕は」
「クロードさん、落ち着いてください」
「す、すみません……」
ようやく落ち着いたのか、クロードさんは離れた。
「じー」
「アテナさん、そのような目で僕を見ないでほしい。感激のあまり、つい」
とにかくも再開を祝おう。
「いま、散り散りになった全員を集めています。クロードさんを迎えに来ましたよ」
「はあ……助かりました。これで解放されそうです」
「解放? 閉じ込められていたのですか?」
「ある意味ではそうですね」
話を聞くと、クロードさんはパスカル卿のところへ顔を出したところ、あまりにも事務仕事が滞っていたため、手伝いを命じられたのだという。
断ろうとしたが、これでは砦にいる兵士たちがかわいそうすぎて、しかたなく手伝うことにしたとのこと。
「従兄上は細かいことが苦手なので、こうして仕事が溜まるのですよ。まったく」
だろうな。さっきのことでよくわかる。
「では行きましょう」
「ええ、ハイマスター」
彼はすごい笑顔だ。よっぽど嫌だったんだろう。
「ところで、僕が最後ですか?」
「いえ、アリステラとシスター・セレーネ、あとヴィクトリアです」
「なるほど。ヴィクトリアさんなら、居場所がわかりますので、ご案内します」
「?」
「彼女はいま、このガラル砦に雇われていますので」
そうなんだ。
「まあ、僕がこうして執務室にこもる羽目となったのはヴィクトリアさんのせいでもあるんですけどね、ははは……」
おお、クロードさんが遠い目をしている。
なにか事情がありそうだ。
さっそく向かうとしようか。




