希望と絶望と、絶望と希望 29 仲間を求めて『竜之化身』
クロードさんを連れて城門まで行く。
なにやら騒がしい。さっきいた時よりも人が増えてる。
通してもらい、見る。
長剣を構えるガディスさんの前で、パスカル卿が片膝をつき、大きく呼吸を繰り返していた。
「……変幻自在にして剛柔相備わる。なんという剣だ」
勝敗は決まっているみたいだ。
「ガディスさん、用は済みましたよ」
「こっちも終わったぞ」
彼はさして興味もなさそうに、剣をしまった。貫禄がありすぎる。
「従兄上が圧倒されましたか」
クロードさんもそうは言うが、あまり興味がなさそうだ。
「司令官、僕はもう行きます。書類仕事はもういいかげんご自分でおねがいしますね」
「待て、クロード。その御仁は何者だ?」
「『万士』の異名を持つお方ですよ」
「なにぃ!? 道理で……」
ずいぶんと驚いている。
「ここに雇われないか? ダーレスト殿」
「おれは冒険者だ。傭兵ではない」
「いっしょだろう」
「傭兵からは足を洗った」
伝説の傭兵は、いまはもう傭兵ではない。ウチの冒険者だ。
パスカル卿は悔しそうだったが、これ以上は引き留めようとしなかった。
★★★★★★
「それで、ヴィクトリアはどこに?」
「アークス近郊の村へ行っています」
傭兵をしている、との話だったが、いったいなにがあったんだろう。
「彼女はなぜ、傭兵を」
「おれが少し戦い方を教えたら、傭兵をやりたいなどと言った」
「ガディスさんが?」
「あいつは力を持て余していたからな」
それは前からそうだった。たまに気晴らしをさせてやらないと、けっこうえらいことになる。
「ヴィクトリアの素質は底が見えなかった。それでついおれも熱が入った」
その気持ちはわかる。
「ヴィクトリアは楽しい人と感想を言っておきます」
アテナがそんなことを言う。前はあまり一緒のところを見なかったけど。
「楽しい?」
「はい。マスターとディジア、イリアがいなくなったあと、遊び相手がいなくなったので、わたしがたまに」
あー、なるほど。
「ヴィクトリアがアテナと、か。ちなみにどんな遊びを?」
「かくれんぼや鬼ごっこだと、報告します」
子どもか!?
なにしてんだよ!?
「いや……あれは遊びではなく……むしろ」
クロードさんが青ざめている。
「かくれんぼ、とは言うものの……見つけたら全力で攻撃していましたし、鬼ごっこは目に見えない速さで……」
「ミコとミリアが真似をするものでな。止めるのが大変だった」
それは全力で止めよう。危険すぎる。
「ハイマスター、見えてきましたよ」
小さな村と田畑が目に映る。
だけど、その間に妙なものがあるな。
「なんだ、あの小山」
「モンスターの死体が積み重なったもの、と推察されます」
「なんか人も倒れてない?」
「饗団の上級戦士――マスターの話にあった『二桁』と見受けられます」
どうなっているんだ。
駆け寄って、確認。アテナが言う通りだった。
周囲の爆発跡もすごい。
とりあえず物的被害はなさそうだが……
「ヴィクトリアさんの仕業でしょう。しかし姿が見えませんね」
たしかにそうだ。どこにいるんだろう。
大量のモンスターに、饗団の戦士が十人ほど。これを一人でやったのなら、だいぶ腕を上げたか。
「うん?」
魔力の高まりを感じる。どこかに敵と思わしき気配。
「……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「奇妙な音声を確認。敵襲と判断します」
アテナの報告にある声は俺にも聞こえている。
どこだ?
「……まさか、上!」
天至が来た――
そう思い、上方に向けて障壁を展開。
「あああああああああああああああああああ!!」
続けて来る衝撃。
攻撃の正体は拳だ。
「ああああああああああああ……シント?」
「ヴィクトリア?」
攻撃の真の正体は≪ドラゴーンパンチ≫だったようだ。
「≪ファイアメガシュート≫!」
「なんで!?」
彼女は攻撃を続行。
「俺がわからないのか!」
「≪ファイアメガシュート≫! ≪ファイアメガシュート≫!」
熾烈な火球での苛烈極まりない魔法攻撃。
その全てを避ける。
横に跳び、前転し、体勢を整えたところで≪魔弾≫を放つ。
「ぎゃっ!」
魔力弾が額にヒット。
「痛いんだぞ~!」
「ヴィクトリア、俺だよ、シントだ」
彼女は、しゃがみこんで頭を抱えている。
近づいてみた。
とたん、体がばね仕掛けみたいな速さで、伸びる。
掴みかかっている彼女の手をがっちりと手で組んだ。
力比べか。握力にそこまで自信はないが――
「ぐぎぎ……」
「ぬうう」
強い。予想以上だ。
顔がどんどん近づいて、額と額ががつんとぶつかる。
お互いに魔力が高まって、衝撃を放った。
「ふう……ふうっ、ふう……」
ヴィクトリアの力が抜けていく。
「シントだぞ……やっぱり、シントなんだぞ……」
手を離し、そのまま膝をついてしまう。
地面には大量の水が落ちていた。大号泣している。
「あうう……なんで、いなくなったんだ……ずっと、ずっと、探そうとしてた」
「ごめん、遅くなった」
ここでみんなが駆け寄ってくる。
「テストは終わったか」
「止めてくださいよ」
「なに、おまえとヴィクトリアがやり合ったらどうなるかと思ってな」
「ヴィクトリアさんは饗団が相手では物足りなくなっていたようで。ハイマスターが相手ならあるいは、と」
クロードさんの話だと、ストレス発散のために砦の備蓄をアホ程食いまくったり、訓練中に勢い余っていろいろ壊したりと、そのせいで書類仕事が死ぬほど増えたのだそう。
パスカル卿はそれが気にいったらしく、止めるどころか、楽しんでいたという。
うん。
いやアホか。
「とはいえ、誰よりも戦果を挙げていますし、あけすけな性格もあって、兵士には人気で。子どもみたいに可愛がられていたんです」
ガラルどーなってんのよ。ほんともうどうしようもない。
まあ……可愛がりたくなるのは、わかるけどね。
「ヴィクトリア、帰ろう」
「……」
下から見上げてくる。
「もう、どこにも行かない?」
「うん、行かない」
約束すると、笑った。
前よりも子どもになってないか? 頭を打って幼児退行……?
とにかくもアークスでのメンバーはそろった。
あとはアリステラとシスター・セレーネだ。
「戻るころにはちょうど夕食時。今日はここまでだ、シント」
ガディスさんは言外に、話を聞かせろ、と示している。
「ええ、そうしましょう」
明日もまた忙しい。早く休んで、またすぐに行動だ。
★★★★★★
ギルドへ戻ると、楽しそうな声が耳に入る。
「逃げるなー!」
「むし!」
ミコちゃんとミリアちゃんが、マスクバロンを追いかけている。
「私はそう簡単には捕まらないぞ! はあっ!」
そういえばいま気づいたんだけど、彼はいつの間にかいなくなっていた。
ギルドに戻っていたのか。
「メリアムさん、戻りました」
「おかえりなさい、ハイマスター。それと小父さま、アテナさん、クロードさん、ヴィクトリアさんも」
笑顔で迎えてくれる。
彼女はエプロン姿で、夕食の用意をしているところだった。
「ミリア、ミコちゃんもそろそろ座りなさい? 夕食よ」
良い匂いが鼻をくすぐる。
「申し訳ありません、ハイマスター。あまり余裕がありませんので、これくらいしか」
「なにを言うんですか。食べられるだけでも感謝しないと」
フォールンとは別の理由で、アークスでも食糧が自由に入手できない。
「マスクバロン、フォールンへ通信をおねがいします。おおかた予定通り、と」
「いいだろう」
俺やガディスさん、子どもたちが席に着く。
だが、アテナ、クロードさん、ヴィクトリアは妖精風元フォールン総監代行に目が釘付けだった。
「モンスターでもなく、人間でもない。不明のエナジーを検知しました。マスター、これは」
「小人……ですか? そのような種族はいないと思いますが」
クロードさんはいつもの手帳を取り出してはいるものの、ペンが止まってる。
「しゃべるむしなんだぞ。でもなんとなく見覚えがあるんだぞ」
ヴィクトリアは一度、会っている。ただその時のマスクバロンは生首姿だった。
「気持ち悪いから叩き潰したほうがいいと思うんだぞ」
「まあまあ、彼は仲間だよ。カサンドラたちのことも助けてくれたから、叩き潰すのはあとだ」
「じゃああとで潰す」
「こらこら、それではどのみち潰されるということじゃないか。それともそんなに私が潰れ、内臓が飛び散ったところを見たいのかね」
「うう」
食事時だったこともあり、痛烈な反撃にヴィクトリアは黙った。
「ではさっそく、いただ――」
がし、とガディスさんに右腕を掴まれる。それだけではない。左腕はクロードさんによって、封じ込められてしまった。
「シント、まずはなにがあったか、話せ」
「食べながらでいいじゃないですか」
「いいえ、僕も聞きたくてしかたがありません」
二人とも、積極的だな。
でもいまは食事のほうが大事だ。
「≪物体ノ移動≫」
魔法を使い、肉を口に運ぶ。
肉汁とさっぱりしたソースが絶妙にからまり、味覚へおおいなる満足感を与えるのであった――




