希望と絶望と、絶望と希望 21 状況確認
翌朝を迎える。
みんなが起き出す前に、確認できるものはできうるかぎり見ておく。
古街へ通ずる主な道――二十三か所は瓦礫などによって封鎖してあった。
加えて小さな路地――三十八か所もバリケードで塞がれている。
よくもまあ、ここまでやったものだ。
ほんとうに、素晴らしい仲間たちだと思う。
土魔法≪土之石陣≫で全部の壁を強化。
これを上回る魔法以外では破壊が不可能。
ここにいる人々のほとんどは、ずっと古街に住んでいる高齢者や、その家族たち。
彼らは家からの避難が難しいため、残ったのだという。
それから別の区域からの避難者が少しいる。生き残った憲兵や一部の冒険者たちがこれに当たる。
その中に、俺がよく知る人物が一人いた。
何度か一緒に仕事をしたミッド少尉だ。
「特別捜査官殿ぉ! やはり……やはり生きていらしたのですね!」
「ミッド少尉こそ、よくぞ。でもなんかお痩せになりましたね」
彼はぽっちゃりしていたのだが、いまはシュッとしている。
「あなたが死んだかもしれないと聞いた時、もうほんとうに終わりかと……」
「大げさですよ。それよりも憲兵隊の状況は?」
「え、ええ、我らは反乱軍が押し寄せてきたため、副長官の指揮のもと、応戦しました。ですが数の差は圧倒的で」
その後、一時撤退。奇襲による各個撃破に切り替える。
だが敵は恐ろしい兵器を投入してきた。
「剣神機? それはほんとうですか?」
「そうです。饗団の者達がそう呼称していました」
それはちょっとびっくりだ。
あの剣神機がいるだなんて、思わなかった。
……『剣神』機って呼ぶのは抵抗がある。心がやすりでなぞられる感じだ。他の呼び方、ないかな。
「待った。一機だけですか?」
「いいえ、確認できただけでも五機。ですが、あなたのところの方々が二機破壊しています」
「なんですって!」
昨日のうちに聞いておけばよかった。
アレを二機破壊しただなんて、信じられない。
「しかしまさかアレが出てくるとは。憲兵隊がやられるのも納得だ」
「いえ。我らをやったのは、剣神機ではありません」
嫌な予感がする。そしてまたしても『剣神』機と聞いて心がざらつく。あんなのはもうただの機械。ガラクタだ。『剣神』機なんて呼ばれると、気持ちが悪くなってくる。
「天に至る者を自称する存在……思い出しただけでも、恐ろしい」
「天至がいたのですね」
いないほうがおかしいんだけど、聞くとショックだ。
いったい何体いるのだろう。できれば全て片付けたい。
「アレの一撃で、数千人が……やられました。副長官はすぐに散開を命じ、そして私に指示を」
「どんな指示でしょうか」
「あなたのギルドをはじめとした冒険者に助力を、と。憲兵との連絡役になれとお命じに」
「副長官は?」
「わかりません。いずこかに潜伏していると思いたいのですが」
無事である可能性は高くないのかもしれない。
ミッド少尉と別れ、ギルドに戻る。
すでに全員が集まり、俺を待っていたようだ。
「ごめん、待たせたみたいだ」
「いいけど、一人で行くのはよしておくれ」
「気が気じゃないわよ」
なんだ?
「もう、置いて、いかないで」
「そうですぅ」
「僕を連れて行ってください。必ず」
反応が激しいな。
「だいじょうぶだよ。もう二度と死んだりしない」
「……」
「……」
よっぽど心配なのか。
「わかった。無理はしない」
「ならいいけどさ。で、ハイマス、これからのことを話すんでしょ?」
リーアの言葉にうなずく。
一気に緊張感が増してきた。だが、いまはまだ本格的な段階ではない。
「まずは全員を集める。これは絶対。誰か一人でも欠けるのはだめだ」
「どうやって集めるのさ」
「たしかにアークスまで行くのは難しい。実はいまうまく魔法を使えなくて、空間の移動ができなくなってる」
メンバーたちは驚いている。
「そんなことって……」
「はっきりした理由は、自分でもよくわからない。だけど、考えがある」
そう言って、戸棚の方へ行く。
これが壊されていなくてよかった。
引き出しを開けると、そこにちゃんとある。
「腕輪? あ、それってたしか」
「レプリカなんだっけ?」
「いや、本物って言ってた気が」
そう思うのも無理はない。本物の【神格】だと言われても、力をほとんど引き出せず、戸棚にしまっておいた。
「【神格】神機クロノス、【神格】魔空ウラヌスだ」
腕輪を嵌める。そして、其の名を口にする。
「目覚めろ、イ・リィズ・アル・スフォリア・カデス。そして、ディル・ジ・アル・エンド・カデス」
「あっ」
「光って――」
まばゆい光。
成功だ。
だが――
「……魔力がない。いや……違うな。魔力を発しようとしない」
【神格】から意志めいたものが伝わってきた。以前よりもずっと明確にわかる。
「なんだろう、この感情は」
「シント」
ダイアナが近くに来た。
「たぶん、嫌がっていると、思うの」
疑剣サナトゥスもまた淡く光っている。
そうか。そういうことか。
言葉として聞き、さらに理解した。
「よくわかったよ。ありがとう、ダイアナ」
自分の中でなにかが変わろうとしている。
これまで疑問形だったものが、確信に変わる瞬間だ。
これでまた一つ、前に進める。
「ええと、なにがどうなっているんですか?」
「ダイアナちゃん……どうしたんですぅ」
みんなして頭に??だ。
「やはり【神格】は欠片。しかし、それぞれが独立したもの」
「さっきからどうしたのさ」
「ごめんごめん。それよりも、ダイアナ、ちょっといいかな」
「?」
テーブルの上にいるディジアさんとイリアさんに、疑剣サナトゥスを近づけてもらう。
「うん? なにか、吸収しているの?」
「アニャ、こいつは……」
テイラー夫妻が息を呑んだ。
予想通り。
疑剣サナトゥスから力が流れ込んでいく。
だが、元の姿に戻ることはない。
少し吸い取って、それで終わりだ。
「次は俺の番だね」
【神格】神機クロノス、【神格】魔空ウラヌスも近づけてみる。
こちらも同様に、魔力が流出して、ディジアさんとイリアさんへと還っていく。
とうぜんのことだ。だって元々は――
「あ、ちょっと大きくなったニャ」
「ほんとうだねえ……なにがどうなっているのさ」
彼女たちのサイズが大きくなったような。
「ディジアさん、イリアさん、起きてください」
返事はなかった。
まだ足りないのかもしれない。いいさ、神器はあと二十もある。
「しかたない。でも、これで魔力の供給方法はわかった」
「ディジアとイリアはまだ元気にならないの?」
「おそらく、まだ足りないんでしょう」
「シントさん、これって」
「ああ、見たとおり吸収したんだ」
ディジアさんはダレンガルト、フォールンの地下遺跡、ホーライ、ドラグリアでも。そしてイリアさんはアークスでの戦闘後に、力を吸い取っていたのだ。
「二人はまだ眠ってる。だがいずれは目覚めるはず。俺は、いつまでだって待つよ」
「あたしも信じてるさ」
「そんなの、わたしたち、だって」
ディジアさんとイリアさんだってウチの家族だ。こんな姿になってみんな心を痛めてる。
「さて、ここからがこれからの話だ」
居住まいを正す。
「カサンドラ、それにミューズさん、ここはいつまでもつ?」
「……! そう……さね。なんとも言えないさ」
「クロエ、食糧はどう?」
「もう四日分くらいかニャ。だいぶ配ったしニャ」
蓄えはもうほとんどないわけか。
「切り詰めて……六日か、七日かニャー」
「防備のほうは?」
「油断ができない状態だよ。なにせ――」
「天至ですね」
さきほど聞いた話だ。
グレイメンさんは渋い顔でうなずいた。
「アレらが出てきたら、まずいことになる」
「ああ、そうさ。天至が来るかもって、おかげで毎日空を見てさ」
「う、うん、ほんとに、大変だった、の」
天至って空飛べるの?
この前の戦闘では地上戦ばかりだった。
飛んでも不思議ではないが、だとしたらかなりきついだろう。
「それでずっとぴりぴりして、寝れないし。肌荒れるし」
「そうなんですぅ……お風呂に入る暇もあんまりなくてぇ」
だんだん話が生々しくなってきた。
「天至って何体?」
「見たのは、一体。けど他にもいるかもしれないわ」
「もしかして、君たちも戦ったのか?」
「いや、おれたちは見ただけだ。試しに矢で射ようと思ったんだけどな」
ダグマさんは戦おうとしたらしい。
「天至は駆けつけてきた帝国軍と憲兵隊を蹴散らしたあと、去ったんだよ。それ以来、出てきてない」
「で、代わりに出てきたのが剣神機ってわけ」
空からは天至が。地上は例のアレが。想像以上にとんでもないことだ。
「さっき外で二体も破壊したって聞いた」
「ああ、なんとかね。アイリーンが斬ったのさ」
マジかよ。
「すごいな。あれだけ強かったのに、どうやって」
「前に戦ったものよりも弱かったんですぅ」
「弱い?」
「たぶん、劣化版、って思う」
「量産型といっていいだろう。君たちから聞いた話と倒したモノの情報を合わせると、数々の機能をオミットされた機体と推察される」
いつの間にかマスクバロンがいて、浮遊している。
「天至と剣神機は饗団の最大戦力といっていいだろうね。アレらを抜かなければ、勝利はない」
「そうですか」
倒せたというのは、朗報だ。つまり俺は天至に集中できるわけで。
「……ね、ねえ、ハイマス」
リーアがゆっくりと手を挙げる。
「ぜんぜん驚いてないみたいだけど。ていうか、天至のこともさっき『君たちも』って言ったわよね」
「ああ、すでに一体は倒した」
「うっそ!」
「えーーーーーーーーー!」
「シント君!? どういうことなんだい!?」
みんな跳び上がった。
そんなに驚くことか?




