ファミリアバース 27 不気味な伯爵
話をつける前に少し情報をもらう。
「ジュールズさん、彼らはどんな人なんですか?」
「街の若者たちだ。いつも夜遅くまで騒いだりして、近隣の方々が迷惑していてね。ここら辺は高齢者が多くて、みなさん、不安がっている」
それはいけない。
「ただ、けっこう強いわ、逃げ足は速いわで、憲兵隊も面倒くさがっているんだよ」
「わかりました」
ジュールズさんには後ろに下がってもらい、土地を占拠している者たちに目を向ける。
数は10人ほどか。
俺と同い年か少し上くらいの男女が、喋ったり遊んだりしていた。
「勝手に居座ってるみたいだけど、なんでだろう」
理由が気になるものの、あまり待たせるわけにはいかないな。
近づいて話を聞いてみよう。
「すみません」
と、一番体格の大きな男に声をかけた。
ずいぶんと鍛えているみたいで、筋肉が厚い。
「あー? なにこいつ、誰かの友達?」
他の者たちは首を横に振った。
「なんか用?」
「うん、ここって、君たちの家じゃないよね?」
「……憲兵じゃねーよな。だったら関係ないだろ」
答えになっていない。
さらに聞いてみよう。
「なんでここに?」
「別にいいじゃねーか。迷惑かけてないぜ」
「夜遅くまで騒いでいるというのは?」
指摘すると、空気が緊張してきた。
「さっきからなに? なんなの、おまえ」
「冒険者。依頼を受けて君たちと話しにきた」
「冒険者ぁ? 等級は?」
「ブロンズ級トリプル」
「……ぶっ! ははははははは!」
等級を告げると、急に笑い出した。目の前の男だけではなく、他の人もだ。
「おまえそれ、なりたてじゃん! そんなんでおれらに意見するわけ?」
「もうやっちゃいなよー」
「黙らせろよ! アッちゃん!」
体格の良い彼は『アッちゃん』というのか。
俺もそう呼ぼう。
「アッちゃんさん、ここから退去してほしい。みんな迷惑がってる」
「あ、ああ? なんだその呼び方……まあいいけど」
いいのか。
「嫌だね。ここは涼しいんだ。うるせえこともあまり言われねーし、おれらの聖地なんだよ」
「ではどうすれば?」
アッちゃんはその場で拳を握り、シュッシュッとパンチして見せた。
「どうしてもって言うんなら、おれに勝ってみせろよ」
「ヒュー! 出た! 地獄のショーだ!」
「やっちゃえやっちゃえ!」
「アッちゃんはなー! アイアン級冒険者も倒してんだぜ!」
わかりやすくてありがたいのだけれど、手荒な真似はしたくないな。
「ビビったか? 安心しな。殺しはしねー。ただの遊びだよ、遊び」
遊びか。いいね。いとこたちや親戚の娘たち以外と遊ぶのは初めてだ。
ではさっそく。
「≪衝破≫」
「ぬわーーーーーっ!?」
アッちゃんがまともに衝撃をくらって真上に吹き飛ぶ。
しまった。力を込めすぎた。
アッちゃんの大きな肉体が真横に回転しつつ、地面に落ちた。
沈黙が訪れる。
「……え?」
「アッちゃん……?」
彼は白目をむいて倒れている。
まずい。助けないと。
そばに寄って抱え上げ、膝で喝を入れてみた。
「ぐほっ……うう……気持ち悪ぃ……オエエ……」」
「起きた?」
「……ハッ!? て、てめえ……」
見上げる彼の目は驚愕と恐怖に満ちている。
「ごめん、ちょっと力を入れすぎたみたいだ。次はうまくやるから、もっと遊ぼうよ」
「……なっ!?」
アッちゃんさんがわなわなと震えている。
「お、覚えてろよ! このブロンズ級トリプル野郎!」
「アッちゃん! 待ってよ!」
彼らは素早い動きで、この場を去る。
ジュールズさんが言っていた通り、逃げ足は速い。逃げ慣れているのだろうな。
それにしてもブロンズ級トリプル野郎というのは悪口なのか?
別にけなされていないと思うが。
とにかくもみんないなくなった。解決だ。
「うーむ、見事なものだね、アーナズ君」
「これでいいでしょうか」
「私の目に狂いはなかったな! ははは!」
なーんか調子がいいぞ、この人。
「君は魔法士だったか。ありがとう、いいものを見せてもらった」
ジュールズさんは満足したようで、ほんとうによかったと思う。
「彼らはまた戻ってきてしまうのではありませんか?」
「そうかもしれないが、ここに誰かがいればいい。例えば君とか」
それは値段次第かも。
たむろしていた人たちが言うように、周りは静かで、風が涼しい。敷地もそれなりに広いから、いい場所に思える。
「総計でおいくらでしょうか?」
「そうだな……ウチでつけた値段は土地を含めて450万アーサルだ」
450万アーサル。ざっと計算して生活費おおよそ四年分。
安いのか、高いのか、俺では判断できない。
「だが、見事に追い出してくれた。300万アーサルでどうかな」
「そんなにおまけを?」
「ただし」
む? また依頼かな?
「こんな小さな家だ。事務所にするなら建て増しが必要だろう? その分をウチに頼んでくれ。建築も請け負ってるからね」
なるほど。追加オプションってことか。
話はまとまった。
もちろん買う。
「50万アーサルを手付にして、毎月5万アーサルをいただきましょう。手続きはこっちで全部やるからね。保証人っているかい?」
保証人?
いないぞ。さすがにおじい様や叔父上に頼むわけにはいかないし、どうする?
「その顔じゃいないようだ。わかった、そっちはなんとかしよう」
「いいのですか?」
「さっきも言っただろう? 私の目に狂いはない。君は信用できる」
嬉しいのだが、こんなによくしてもらっていいのだろうか。
「今日から住んでも?」
「構わないけど、家具もなにもないよ?」
「それは後々。前に住んでたところよりいいかも」
「君はいったいどんな場所に住んでたんだい?」
ジュールズさんは呆れた様子だったが、それ以上はなにも聞かないでくれた。ありがたいことだ。
これで家が手に入った。
古いし、小さい。けど、すごくいい。俺が自分で手に入れた家というだけで愛着が出てくる。
これで第一歩だ。
「ところでジュールズさん」
「なにかな」
「もしも、その建て増しをする際に家の材料をこっちで用意した場合は?」
「やっぱり面白いな、君は」
ダメかな。
お金が浮くと思った。
「可能ではないだろうけど、まあ、用意できるならその分の費用は浮くね」
「わかりました。ありがとうございます」
よし。
街の外に行って、確保しよう。
★★★★★★
気が早いと思ったけど、街の外に出かけた。
フォールンは世界一の都市になっても拡大を続けているそうだが、やはり離れると自然がたくさんある。
ミューズさんの『冒険者ガイドライン』によると、近年ではモンスターの目撃、遭遇事件が増加しているせいで、冒険者たちへの依頼が多くなっているそうだ。現れたら倒そう。
「≪真空之刃≫」
強めの風魔法で、木を断ち切る。
カットした木材は≪次元ノ断裂≫で作った次元の穴に入れた。
どのくらい必要かはわからないので、多めに回収する。
「こっちは竹林だな」
たけのこを掘ろうか。焼いて食べるのがいい。ラグナ家の小屋ではたまにそうしていた。
竹を切ってこちらも多めに回収した。順調だ。
森の奥まで進む。ついでに≪探視≫を使用し、高い魔力を含んでいる植物も採取。これは後で鑑定し、売る。
「真っ赤な草? 不気味な見た目だけどすごい魔力だ」
途中、見たことのない赤草を摘んでみた。血の色みたいで禍々しい。
「だいぶ奥に来ちゃったな。帰るか」
そろそろお昼を過ぎようとしている。食事処を探して、腹を満たしたい。
と、その時だ。
「……すまないが、そこの君」
悪寒が走った。
気配もなく、魔力も感じないところからの声だ。
素早く下がり、身構える。
声の主を見て、愕然とした。
「ええと?」
どうしたらそんな状況になるのか。
木の穴に挟まっている、というか、潜り込んでいる。
青白い顔をした中年の男性。線の細い、かなりの美形だと思うが、頬はこけていてひどく痩せていた。
何者だろうか。すごく元気がない。
「ここで会ったのもなにかの縁……ごほ。そこにある水筒を取ってはくれまいか」
確かに、俺と彼の間に水筒が落ちている。
だけど、穴から出て手を伸ばせば取れるだろう。
「ああ……私はロレーヌという。帝国より伯爵位を授かっている者だ。そう警戒しなくともいい」
それは無理でしょう。
怪しすぎます。
「喉が……そう、カラカラなんだ。このままでは干からびてしまう」
気配や魔力の感じないロレーヌ伯爵を見て、俺は動けないでいた。
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