二千四百五十九夜、ばあばの社会人生活 89 ばあば就職する 89 印刷会社 62
今日は、ばあばの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「…………。」
そうだねえ、じゃあ、ばあばがまだ若かった頃のお話をしようかねえ。
ばあばが就職をした頃のことだけれど……。
「──じゃあ、あーさんの思うとおりに、現像までの手順を振り返りながら、印画紙の現像をしてみてください……。
できるだけ私は、あーさんがするよりも先に、うるさいことを言わないようにしていますので、あーさんの好きなように、現像までの手順をたどってみてくださいね……。」
ばあばは、なんだかワクワクドキドキが治まらないような気分で、ドラムケースを抱きかかえるようにしながら、暗室の前まで歩いて行った。
……コンコン……
ばあばは当然のように暗室のドアをノックして、中から返事がないことを確かめた。
それからばあばは、チラッとIさんの顔を見てから、おもむろにドアのノブに手を掛けた……。
けれど、ばあばはふと不安になって、もう一度だけ今度は声を掛けておこうと考えた。
「……誰か暗室を使っていますか……。
写植の現像がしたいので中に入りますよ……。」
……すると暗室の中から男性の声が聞こえてきた……。
「……ああ……悪い悪い……ちょっと集中していたので気が付かなかったよ……。
いま、折込みチラシ用に使うための、売り出し商品の写真を引き伸ばしているのでなあ……。
……もうちょっとで終わるから、すこし待っていてくれるかなあ……。」
──うわー……危なかったなあ……。
暗室の共用というのは、こんなことがあるので油断ができないのかなあ……。
ばあばは、しみじみとそんなことを思いながら、自分の機械のところまで帰ってきた……。
「……Ⅰさん、誰かが商品写真を現像しているから……ということで、いま暗室を使うのは少し待ってくださいということでした。
これは、どうしておいたほうがいいですか……。」
ばあばは、機械から取り外したばかりのドラムケースを見せながら、Ⅰさんに聞いてみた……。
「……よかったわねえ……。
ドラムケースはそこの机の上に置いておいていいわよ……。
この部屋にいる誰も気が付かないままに、知らないうちに暗室を使っている……というようなことがたまにあるのよねえ……。
私たちでも……本当に驚かされることがあるのよ……。
今回は、あーさんが気が付いたからよかったのだけれどねえ……。
今度は逆に、私たちが現像をしているところへ、誰かが不用意にドアを開けてしまうことがあるかもしれないので……。
こればかりは……私たちが少し言ったくらいでは、無くなりそうもないのよねえ……。
……本当に困ったものだわよねえ……。
でもね、こういうことをしてしまうのは、いつも決まった人なのよね……。
……たぶん今回も……いま暗室の中で写真の引き伸ばし作業をしているのは、営業のBさんだと思うわよ……。
……あまりしゃべらない人でね……マイペースなのが璧に瑕……なのかなあ……。
……悪い人じゃないのだろうとは思うのだけれどねえ……。」
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。
良い夢に恵まれますように、おやすみなさい。また次の夜に……。




