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異世界魔法の描き方  作者: ろじぃ
8/20

7:力の源

「まったく、笑えない冗談だ……」

 絵筆を相手に向けてベッドから立ち上がり、態勢を整える。

 相手の動きはわからない。つまりは、ドアが破られた瞬間が勝負。

「――安心して」

 僕の後ろで震えるコハクに伝える。

 軋むドアが、ついに破られた。飛び散る木片の中、腐った顔に向かって線を描く。

 現れた斬影は相手の頭部を横に一閃し、行動を不能とさせた。

 部屋に飛び散った体液はすぐに蒸発し、腐った死体は溶ける様に消えていく。

「コハクは僕が必ず守る。だから離れないでね」

 僕の背で、彼女が頷く。

 何としてでも、ここから脱出する決意を新たにした。


 ドアの先には見た事のない空間が広がっていた。

 昼間に通った覚えのない、おどろおどろしい廊下が続き、その先には血痕で赤黒くなったドアが見える。

 幻覚ではない、具現化された空間。夜は抜け出せない迷路になっているのだろうか。

 壁に絵筆で線を引きながら、ドアを開ける。

「ここは……リビング?」

 すっかり荒れた部屋は、昼間に見たリビングの間取りと似ている。

 誰もいない事を確認してから、中に入る。

 バラバラになった木製の椅子や机が散乱し、どれも血で汚れていた。

 ただ一つだけを残して。

「……ウロボロス」

 壁に貼り付けられた紙に描かれていたのは、蛇で円を描いた模様。

 間違いない。ここは、蛇教徒の住処だ。

 なぜこんなところにコハクがいるのは、脱出してからでも彼女から聞く事ができる。

 他に目ぼしい物がない事を確認してから部屋の壁に線を描き、ボロボロになったドアを蹴破る。

 廊下の奥に見える人影は、おそらくコハクの部屋に入ってきた者と同じく、動く死体だろう。

 絵筆を向けたまま廊下を歩けば、案の定こちらに駆け出してくる。

 仕留めてから死体を調べ、背中に描かれていた模様を見つけた。

「ここにも描かれているのか」

 リビングで見た模様が、かろうじて見て取れる。

 この蛇教徒の死体を動かしている者も、同じく蛇教徒なのだろうか。

 そもそも死体を動かす技術など、使える者は限られてくる。

 つまり――

「死霊魔術師でもいるのか」

 廊下に線を描き、奥にあるドアを開ける。

 見覚えのある光景。それどころか、ここはコハクの部屋だ。

 破られたはずのドアはすっかり直っている。そして、ベッドに誰かいる。

 絵筆を向けたままベッドに近づき、毛布をはがす。

「……趣味の悪い人形だ」

 そこに寝ていたのは、僕とコハクの人形だった。

 身体はボロボロで、触れればすぐに壊れてしまうだろう。

 動かない事を確認してから、人形をベッドから引きずりおろした。

 ベッドに描かれていたのは、またしてもウロボロスの模様。

 これでは、どこまで信仰していたのかもわからないレベルだ。

「テツヤ、あれ……」

 コハクが指差した先には、さっきまでなかったドアがあった。

 何者かに、奥に誘われているのだろうか。

 部屋に線を引き、ドアを開ける。その先には長い廊下が見えた。

 壁を見れば、僕の描いた線が残っている。

「同じ場所を歩かされている……」

 廊下の様子はまったく同じ、奥には血で汚れたドアが見えた。

 先に進み、ドアを開け、通ったはずのリビングであると確認してから、ドアを閉める。

 まずはこの家の内装を元に戻さなければ、先に進めない。

 あらかじめ引いていた線が繋がっている事を確認し。下に文字を書いていく。

「Destruction」、『破壊』を意味する魔法陣を完成させ、コハクを抱き寄せ背を低くした。

 歪んでいく空間と共に、目の前にあったドアが消えていく。

 やがて開けた道の先には、下へ続く階段があった。

 これでまともに進めるはずだ。後は、目の前にいる死体達を何とかすれば。

「先に進ませてもらおうか」

 横に線を描き、死体の相手をしていった。


 描いたカンテラを手に、下へ続く長い階段を下りていく。

 木造だった階段は石造りに変わり、暗闇が辺りを包み込んでいく。

 やがて、先に見えたのは明るい部屋だった。

 夜にだけ見つける事ができる地下室。そんな部屋がコハクの家にあったとは、思いもしなかった。

 部屋の中には、何かの液体を入れたビーカーが散乱している。

 薬だろうか。近くに行こうとすると、コハクに止められた。

「そこ、行きたくない……」

 コハクと関連性のある物だと判断し、彼女を安全そうな所で待機させて、散乱しているビーカーに近づいた。

 離れていては気付かなかった刺激臭。そんな液体が辺り一面に広がっていた。

 他に見つけたのは、液体の入った注射器だった。すでに使われて、捨てられただろう物もある。

 まさかコハクは――

「テツヤ!」

 彼女の声に振り向けば、目の前に白いローブ姿が見えた。

 手には、液体の入った注射器。

 相手に向かって絵筆を向けた時には、もう手遅れだった。

 ローブから伸びる細い手が僕を捕まえる。

 首元に突き刺さる注射器。流れ込んでくる液体。

「……っ!」

 意識が遠のく中、ローブの手を振り払い、押し飛ばす。

 フードの隙間から見えたのは、青いペンダントと、女性の顔。

 膝から崩れ落ち、最後に見えたのは、その場から消えていく白いローブの影だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

次回はまた1週間前後に投稿しようと思っています。

では、また次回まで。

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