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18話 マイ・ストゥーピッド・ハート 愛があれば空だって飛べる

 サンボーンの部下たちはフロアの入り口に目覚めてドアにライフルを構えて狙いを定める。鎖で施錠した両開きのドアがいつ、動くかいつ動くかと緊張しながら引き金に指をかける。


 三十人近くいる。大丈夫だ。大丈夫だ。

 キーンという音が頭に響く。体の中からの音だ。耳鳴りと心臓の音がクレッシェンドしていく。太鼓を思い切り叩いているような音。

 

足の力が抜けて冷や汗が全身を伝う。


 床が抜けてエイリアンたちは狼狽する。


 砂埃で視界がままならないうちにライフルを構え直すが引き金を引くことができない。武器は次々に火花を上げて宙に踊っていく。火花の衝撃でエイリアンたちは吹き飛ばされる。


 倒れる寸前見えた、懐中電灯ほどの大きさの筒に入った泡を立てる赤い液体が原因だろうことは分かった。


 液体の影響を受けなかったエイリアンたちはやたらめったらに撃ちまくるが足にかぎ爪が刺さり、ワイヤーで天井に吊るされてしまった。


 コバヤシもうどうが降りてきた。上に潜んでいたのだ。ライフルを拾い上げるとエイリアンたちの頭に打ちつけ、足をくじき、背中に当てて台座代わりにすると残った者たちに撃ち当てていく。弾が切れると投げて一人の意識を奪い、そのまま四、五人の群に突っ込んでいく。


 エイリアンたちはナイフを持ち出して応戦したがどういうわけだが皮膚や服には傷一つつかない。逆にナイフを奪われて刺され殴られ蹴られ踏み台にされ火をつけられ。


 その時鎖が切られドアが開いて援軍がかけつけたがコバヤシもうどうが、吊るされている三人に向けて空気砲のようなものを放つと三人は援軍に倒れかかり挙句に爆発した。


 一人がコバヤシもうどうを押し倒すことに成功したが命を奪うには至らずコバヤシもうどうは尚殴る蹴るを繰り出して応戦する。ものの数秒もせずに立ち上がると両手で二人の腕を掴み、あらぬ方向へ捻る。


 ポキッという音と共に悲鳴が響き渡るとあっというまに十数人がやられ、残りの者がパイプやナイフ、銃を持ち出すとコバヤシもうどうはかぎ爪を発射して一人の肩を貫き、ワイヤーで引き寄せて頭から生えている腕を引きちぎり、肘で頭蓋骨を砕いてしまった。


 鉄パイプは何がなんでもコバヤシもうどうを殺しにかかる。


 背中に攻撃を受けたコバヤシは上腕三頭筋でパイプの攻撃を受けながらエイリアンたちの膝をくじき、武装解除。


 すぐにナイフとパイプを逆手に取り投げ飛ばし、壁にめり込ませ吊るし、火薬のようなもので数人を燃やした。


 今気づいたことだがコバヤシもうどうの腕と足には黒い金属の装置がついている。


 見たことがあった。握力を何倍にも増強できるデバイスだ。


 倒れていた一人がコバヤシの足を引っ張るとバランスを崩し、前傾した。チャンスを逃すわけにはいかない。


 二人がコバヤシの顔面と腹を強打する。一人が肩にナイフを刺す。


 コバヤシは悶えると次々にエイリアンの骨格をバラバラにして足を引っ張ったエイリアンの首を折って、肩からナイフを抜くと一人の肩に刺して壁に固定した。


 残りの者を気絶させて窓に放り投げる。


 ガラスの割れる音と悲鳴が重なり、フロアの真ん中に取り残された一人は後退りしながら震え出す。コバヤシはそいつを引っ掴むと顔面を連打し、足をくじき肘を捻じ曲げて頭から床板にめり込ませた。息が止まったのを確認するとゆっくりと振り返り、肩で息をしながら壁へ歩き出す。


 壁に固定されたエイリアンは過呼吸になりながら右手を左右される。


 コバヤシは途中でナイフを拾い上げてゆっくりと近づいていく。

 


    国又利恵菜の章


 

 隣の部屋がどうなっているか、想像しなくても分かることだった。自分に銃を突きつけていたエイリアンたちは後退りし、ゆっくりと銃を下げて次々に隣の部屋へ走っていって二度と戻ってこなかった。


 利恵菜は喜びの涙と希望の打ち潮で唇を震わせた。


 部屋に残ったエイリアンたちは扉の方向に銃をかまえている。


 大きな耳鳴りがしたかと思うと目の前の壁が抜けていた。エイリアンたちは全員倒れて、砂埃と血飛沫の中からもうどうが現れた。利恵菜は飛びつきたい衝動を抑えるのに必死だった。


 もうどうは利恵菜の後ろのエイリアンにライフルを向けている。


「すてろ」


 エイリアンは利恵菜に銃を突きつけながら言った。


「女を殺す」強がっていても声は震えていた。


 利恵菜の口角はもはや急上昇していた。


「本当に殺すぞ」


 声を荒げる。もうどうはエイリアンから視線を外さない。


 もうどうは利恵菜の方を見た。涙でかすんでもうどうの表情はよく分からなかった。


「そうだろうな」


 もうどうは一言放つと引き金を引いた。また大きな耳鳴りがする。建物が衝撃波で崩れていくのが分かった。利恵菜は咄嗟に目を閉じて頭を低くしたがその必要はなかった。もうどうが体を包んで外へ飛び出してくれた。衝撃波で手を縛っていた縄は消し炭になっていた。

 もうどうに抱かれながら利恵菜は真っ逆さまに落ちていく。冷たい風と街並みに落ちる赤やオレンジの光を尻目に確実に地面に近づいていく。


 もうどうが左腕を上げると鈍い音がして落下が止まった。


 ぶらぶらと揺れる。もうどうに抱かれたままあっちに、こっちに。もうどうは左手に持っている銃のようなものをベルトに固定すると再び左腕で利恵菜の頭を抑えた。


 利恵菜の心臓は、先ほどとは別の意味で高鳴っていた。


 いつだったか雨の夜に暖かな布団の中で考えたことを思い出した。誰かに抱きしめられたことはまだなくて、誰と抱き合いたいのか想像したらもうどうの顔が浮かぶ。

 利恵菜は安心して体の力を抜いてもうどうに身を預けることができた。


 脱力すると、感覚が戻ってきた。脇腹の辺りの鈍痛。目を向けてみると、木片が刺さっている。


「もうどう」


 弱々しく言葉を吐くともうどうはそれだけで脇腹の木片に気付いてくれた。


 その優しさを、昔のもうどうの名残を感じれただけでも死ぬ価値はあった。


 死ぬな。必ず助けるから。


 その声が聞こえた頃にはもう視界は真っ暗だった。





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